09 藤袴・真木柱・梅枝・藤裏葉

2020-02-29

藤袴

第一章 玉鬘の物語 玉鬘と夕霧との新関係
 [第一段 玉鬘、内侍出仕前の不安]
 尚侍の御宮仕へのことを、誰れも誰れもそそのかしたまふも、
 「いかならむ。親と思ひきこゆる人の御心だに、うちとくまじき世なりければ、ましてさやうの交じらひにつけて、心よりほかに便なきこともあらば、中宮も女御も、方がたにつけて心おきたまはば、はしたなからむに、わが身はかくはかなきさまにて、いづ方にも深く思ひとどめられたてまつれるほどもなく、浅きおぼえにて、ただならず思ひ言ひ、いかで人笑へなるさまに見聞きなさむと、うけひたまふ人びとも多く、とかくにつけて、やすからぬことのみありぬべき」を、もの思し知るまじきほどにしあらねば、さまざまに思ほし乱れ、人知れずもの嘆かし。

 「さりとて、かかるありさまも悪しきことはなけれど、この大臣の御心ばへの、むつかしく心づきなきも、いかなるついでにかは、もて離れて、人の推し量るべかめる筋を、心きよくもあり果つべき。
 まことの父大臣も、この殿の思さむところ、憚りたまひて、うけばりてとり放ち、けざやぎたまふべきことにもあらねば、なほとてもかくても、見苦しう、かけかけしきありさまにて、心を悩まし、人にもて騒がるべき身なめり」

 と、なかなかこの親尋ねきこえたまひて後は、ことに憚りたまふけしきもなき大臣の君の御もてなしを取り加へつつ、人知れずなむ嘆かしかりける。

 思ふことを、まほならずとも、片端にてもうちかすめつべき女親もおはせず、いづ方もいづ方も、いと恥づかしげに、いとうるはしき御さまどもには、何ごとをかは、さなむ、かくなむとも聞こえ分きたまはむ。世の人に似ぬ身のありさまを、うち眺めつつ、夕暮の空のあはれげなるけしきを、端近うて見出だしたまへるさま、いとをかし。

 [第二段 夕霧、源氏の使者として玉鬘を訪問]

 薄き鈍色の御衣、なつかしきほどにやつれて、例に変はりたる色あひにしも、容貌はいとはなやかにもてはやされておはするを、御前なる人びとは、うち笑みて見たてまつるに、宰相中将、同じ色の、今すこしこまやかなる直衣姿にて、纓巻きたまへる姿しも、またいとなまめかしくきよらにておはしたり。

 初めより、ものまめやかに心寄せきこえたまへば、もて離れて疎々しきさまには、もてなしたまはざりしならひに、今、あらざりけりとて、こよなく変はらむもうたてあれば、なほ御簾に几帳添へたる御対面は、人伝てならでありけり。殿の御消息にて、内裏より仰せ言あるさま、やがてこの君のうけたまはりたまへるなりけり。

 御返り、おほどかなるものから、いとめやすく聞こえなしたまふけはひの、らうらうじくなつかしきにつけても、かの野分の朝の御朝顔は、心にかかりて恋しきを、うたてある筋に思ひし、聞き明らめて後は、なほもあらぬ心地添ひて、

 「この宮仕ひを、おほかたにしも思し放たじかし。さばかり見所ある御あはひどもにて、をかしきさまなることのわづらはしき、はた、かならず出で来なむかし」

 と思ふに、ただならず、胸ふたがる心地すれど、つれなくすくよかにて、

 「人に聞かすまじとはべりつることを聞こえさせむに、いかがはべるべき」

 とけしき立てば、近くさぶらふ人も、すこし退きつつ、御几帳のうしろなどにそばみあへり。

 [第三段 夕霧、玉鬘に言い寄る]

 そら消息をつきづきしくとり続けて、こまやかに聞こえたまふ。主上の御けしきのただならぬ筋を、さる御心したまへ、などやうの筋なり。いらへたまはむ言もなくて、ただうち嘆きたまへるほど、忍びやかに、うつくしくいとなつかしきに、なほえ忍ぶまじく、

 「御服も、この月には脱がせたまふべきを、日ついでなむ吉ろしからざりける。十三日に、河原へ出でさせたまふべきよしのたまはせつ。なにがしも御供にさぶらふべくなむ思ひたまふる」

 と聞こえたまへば、

 「たぐひたまはむもことことしきやうにやはべらむ。忍びやかにてこそよくはべらめ」

 とのたまふ。この御服なんどの詳しきさまを、人にあまねく知らせじとおもむけたまへるけしき、いと労あり。中将も、

 「漏らさじと、つつませたまふらむこそ、心憂けれ。忍びがたく思ひたまへらるる形見なれば、脱ぎ捨てはべらむことも、いともの憂くはべるものを。さても、あやしうもて離れぬことの、また心得がたきにこそはべれ。この御あらはし衣の色なくは、えこそ思ひたまへ分くまじかりけれ」

 とのたまへば、

 「何ごとも思ひ分かぬ心には、ましてともかくも思ひたまへたどられはべらねど、かかる色こそ、あやしくものあはれなるわざにはべりけれ」

 とて、例よりもしめりたる御けしき、いとらうたげにをかし。

 [第四段 夕霧、玉鬘と和歌を詠み交す]

 かかるついでにとや思ひ寄りけむ、蘭の花のいとおもしろきを持たまへりけるを、御簾のつまよりさし入れて、

 「これも御覧ずべきゆゑはありけり」

 とて、とみにも許さで持たまへれば、うつたへに思ひ寄らで取りたまふ御袖を、引き動かしたり。

 「同じ野の露にやつるる藤袴
  あはれはかけよかことばかりも」

 「道の果てなる」とかや、いと心づきなくうたてなりぬれど、見知らぬさまに、やをら引き入りて、

 「尋ぬるにはるけき野辺の露ならば
  薄紫やかことならまし
 かやうにて聞こゆるより、深きゆゑはいかが」

 とのたまへば、すこしうち笑ひて、

 「浅きも深きも、思し分く方ははべりなむと思ひたまふる。まめやかには、いとかたじけなき筋を思ひ知りながら、えしづめはべらぬ心のうちを、いかでかしろしめさるべき。なかなか思し疎まむがわびしさに、いみじく籠めはべるを、今はた同じと、思ひたまへわびてなむ。

 頭中将のけしきは御覧じ知りきや。人の上に、なんど思ひはべりけむ。身にてこそ、いとをこがましく、かつは思ひたまへ知られけれ。なかなか、かの君は思ひさまして、つひに、御あたり離るまじき頼みに、思ひ慰めたるけしきなど見はべるも、いとうらやましくねたきに、あはれとだに思しおけよ」

 など、こまかに聞こえ知らせたまふこと多かれど、かたはらいたければ書かぬなり。

 尚侍の君、やうやう引き入りつつ、むつかしと思したれば、

 「心憂き御けしきかな。過ちすまじき心のほどは、おのづから御覧じ知らるるやうもはべらむものを」

 とて、かかるついでに、今すこし漏らさまほしけれど、

 「あやしくなやましくなむ」

 とて、入り果てたまひぬれば、いといたくうち嘆きて立ちたまひぬ。

 [第五段 夕霧、源氏に復命]

 「なかなかにもうち出でてけるかな」と、口惜しきにつけても、かの、今すこし身にしみておぼえし御けはひを、かばかりの物越しにても、「ほのかに御声をだに、いかならむついでにか聞かむ」と、やすからず思ひつつ、御前に参りたまへれば、出でたまひて、御返りなど聞こえたまふ。

 「この宮仕へを、しぶげにこそ思ひたまへれ。宮などの、練じたまへる人にて、いと心深きあはれを尽くし、言ひ悩ましたまふになむ、心やしみたまふらむと思ふになむ、心苦しき。

 されど、大原野の行幸に、主上を見たてまつりたまひては、いとめでたくおはしけり、と思ひたまへりき。若き人は、ほのかにも見たてまつりて、えしも宮仕への筋もて離れじ。さ思ひてなむ、このこともかくものせし」

 などのたまへば、

 「さても、人ざまは、いづ方につけてかは、たぐひてものしたまふらむ。中宮、かく並びなき筋にておはしまし、また、弘徽殿、やむごとなく、おぼえことにてものしたまへば、いみじき御思ひありとも、立ち並びたまふこと、かたくこそはべらめ。

 宮は、いとねむごろに思したなるを、わざと、さる筋の御宮仕へにもあらぬものから、ひき違へたらむさまに御心おきたまはむも、さる御仲らひにては、いといとほしくなむ聞きたまふる」

 と、おとなおとなしく申したまふ。

 [第六段 源氏の考え方]

 「かたしや。わが心ひとつなる人の上にもあらぬを、大将さへ、我をこそ恨むなれ。すべて、かかることの心苦しさを見過ぐさで、あやなき人の恨み負ふ、かへりては軽々しきわざなりけり。かの母君の、あはれに言ひおきしことの忘れざりしかば、心細き山里になど聞きしを、かの大臣、はた、聞き入れたまふべくもあらずと愁へしに、いとほしくて、かく渡しはじめたるなり。ここにかくものめかすとて、かの大臣も人めかいたまふなめり」

 と、つきづきしくのたまひなす。

 「人柄は、宮の御人にていとよかるべし。今めかしく、いとなまめきたるさまして、さすがにかしこく、過ちすまじくなどして、あはひはめやすからむ。さてまた、宮仕へにも、いとよく足らひたらむかし。容貌よく、らうらうじきものの、公事などにもおぼめかしからず、はかばかしくて、主上の常に願はせたまふ御心には、違ふまじ」

 などのたまふけしきの見まほしければ、

 「年ごろかくて育みきこえたまひける御心ざしを、ひがざまにこそ人は申すなれ。かの大臣も、さやうになむおもむけて、大将の、あなたざまのたよりにけしきばみたりけるにも、応へける」

 と聞こえたまへば、うち笑ひて、

 「かたがたいと似げなきことかな。なほ、宮仕へをも、御心許して、かくなむと思されむさまにぞ従ふべき。女は三つに従ふものにこそあなれど、ついでを違へて、おのが心にまかせむことは、あるまじきことなり」

 とのたまふ。

 [第七段 玉鬘の出仕を十月と決定]

 「うちうちにも、やむごとなきこれかれ、年ごろを経てものしたまへば、えその筋の人数にはものしたまはで、捨てがてらにかく譲りつけ、おほぞうの宮仕への筋に、領ぜむと思しおきつる、いとかしこくかどあることなりとなむ、よろこび申されけると、たしかに人の語り申しはべりしなり」

 と、いとうるはしきさまに語り申したまへば、「げに、さは思ひたまふらむかし」と思すに、いとほしくて、

 「いとまがまがしき筋にも思ひ寄りたまひけるかな。いたり深き御心ならひならむかし。今おのづから、いづ方につけても、あらはなることありなむ。思ひ隈なしや」

 と笑ひたまふ。御けしきはけざやかなれど、なほ、疑ひは置かる。大臣も、

 「さりや。かく人の推し量る、案に落つることもあらましかば、いと口惜しくねぢけたらまし。かの大臣に、いかで、かく心清きさまを知らせたてまつらむ」

 と思すにぞ、「げに、宮仕への筋にて、けざやかなるまじく紛れたるおぼえを、かしこくも思ひ寄りたまひけるかな」と、むくつけく思さる。

 かくて御服など脱ぎたまひて、

 「月立たば、なほ参りたまはむこと忌あるべし。十月ばかりに」

 と思しのたまふを、内裏にも心もとなく聞こし召し、聞こえたまふ人びとは、誰も誰も、いと口惜しくて、この御参りの先にと、心寄せのよすがよすがに責めわびたまへど、

 「吉野の滝を堰かむよりも難きことなれば、いとわりなし」

 と、おのおの応ふ。

 中将も、なかなかなることをうち出でて、「いかに思すらむ」と苦しきままに、駆けりありきて、いとねむごろに、おほかたの御後見を思ひあつかひたるさまにて、追従しありきたまふ。たはやすく、軽らかにうち出でては聞こえかかりたまはず、めやすくもてしづめたまへり。

 

第二章 玉鬘の物語 玉鬘と柏木との新関係
 [第一段 柏木、内大臣の使者として玉鬘を訪問]
 まことの御はらからの君たちは、え寄り来ず、「宮仕へのほどの御後見を」と、おのおの心もとなくぞ思ひける。

 頭中将、心を尽くしわびしことは、かき絶えにたるを、「うちつけなりける御心かな」と、人びとはをかしがるに、殿の御使にておはしたり。なほもて出でず、忍びやかに御消息なども聞こえ交はしたまひければ、月の明かき夜、桂の蔭に隠れてものしたまへり。見聞き入るべくもあらざりしを、名残なく南の御簾の前に据ゑたてまつる。

 みづから聞こえたまはむことはしも、なほつつましければ、宰相の君して応へ聞こえたまふ。

 「なにがしらを選びてたてまつりたまへるは、人伝てならぬ御消息にこそはべらめ。かくもの遠くては、いかが聞こえさすべからむ。みづからこそ、数にもはべらねど、絶えぬたとひもはべなるは。いかにぞや、古代のことなれど、頼もしくぞ思ひたまへける」

 とて、ものしと思ひたまへり。

 「げに、年ごろの積もりも取り添へて、聞こえまほしけれど、日ごろあやしく悩ましくはべれば、起き上がりなどもえしはべらでなむ。かくまでとがめたまふも、なかなか疎々しき心地なむしはべりける」

 と、いとまめだちて聞こえ出だしたまへり。

 「悩ましく思さるらむ御几帳のもとをば、許させたまふまじくや。よしよし。げに、聞こえさするも、心地なかりけり」

 とて、大臣の御消息ども忍びやかに聞こえたまふ用意など、人には劣りたまはず、いとめやすし。

 [第二段 柏木、玉鬘と和歌を詠み交す]

 「参りたまはむほどの案内、詳しきさまもえ聞かぬを、うちうちにのたまはむなむよからむ。何ごとも人目に憚りて、え参り来ず、聞こえぬことをなむ、なかなかいぶせく思したる」

 など、語りきこえたまふついでに、

 「いでや、をこがましきことも、えぞ聞こえさせぬや。いづ方につけても、あはれをば御覧じ過ぐすべくやはありけると、いよいよ恨めしさも添ひはべるかな。まづは、今宵などの御もてなしよ。北面だつ方に召し入れて、君達こそめざましくも思し召さめ、下仕へなどやうの人びととだに、うち語らはばや。またかかるやうはあらじかし。さまざまにめづらしき世なりかし」

 と、うち傾きつつ、恨み続けたるもをかしければ、かくなむと聞こゆ。

 「げに、人聞きを、うちつけなるやうにやと憚りはべるほどに、年ごろの埋れいたさをも、あきらめはべらぬは、いとなかなかなること多くなむ」

 と、ただすくよかに聞こえなしたまふに、まばゆくて、よろづおしこめたり。

 「妹背山深き道をば尋ねずて
  緒絶の橋に踏み迷ひける
 よ」

 と恨むるも、人やりならず。

 「惑ひける道をば知らず妹背山
  たどたどしくぞ誰も踏み見し」

 「いづ方のゆゑとなむ、え思し分かざめりし。何ごとも、わりなきまで、おほかたの世を憚らせたまふめれば、え聞こえさせたまはぬになむ。おのづからかくのみもはべらじ」

 と聞こゆるも、さることなれば、

 「よし、長居しはべらむも、すさまじきほどなり。やうやう労積もりてこそは、かことをも」
 とて、立ちたまふ。

 月隈なくさし上がりて、空のけしきも艶なるに、いとあてやかにきよげなる容貌して、御直衣の姿、好ましくはなやかにて、いとをかし。

 宰相中将のけはひありさまには、え並びたまはねど、これもをかしかめるは、「いかでかかる御仲らひなりけむ」と、若き人びとは、例の、さるまじきことをも取り立ててめであへり。

 

第三章 玉鬘の物語 玉鬘と鬚黒大将
 [第一段 鬚黒大将、熱心に言い寄る]
 大将は、この中将は同じ右の次将なれば、常に呼び取りつつ、ねむごろに語らひ、大臣にも申させたまひけり。人柄もいとよく、朝廷の御後見となるべかめる下形なるを、「などかはあらむ」と思しながら、「かの大臣のかくしたまへることを、いかがは聞こえ返すべからむ。さるやうあることにこそ」と、心得たまへる筋さへあれば、任せきこえたまへり。

 この大将は、春宮の女御の御はらからにぞおはしける。大臣たちをおきたてまつりて、さしつぎの御おぼえ、いとやむごとなき君なり。年三十二三のほどにものしたまふ。

 北の方は、紫の上の御姉ぞかし。式部卿宮の御大君よ。年のほど三つ四つがこのかみは、ことなるかたはにもあらぬを、人柄やいかがおはしけむ、「嫗」とつけて心にも入れず、いかで背きなむと思へり。

 その筋により、六条の大臣は、大将の御ことは、「似げなくいとほしからむ」と思したるなめり。色めかしくうち乱れたるところなきさまながら、いみじくぞ心を尽くしありきたまひける。

 「かの大臣も、もて離れても思したらざなり。女は、宮仕へをもの憂げに思いたなり」と、うちうちのけしきも、さる詳しきたよりあれば、漏り聞きて、

 「ただ大殿の御おもむけの異なるにこそはあなれ。まことの親の御心だに違はずは」

 と、この弁の御許にも責ためたまふ。

 [第二段 九月、多数の恋文が集まる]

 九月にもなりぬ。初霜むすぼほれ、艶なる朝に、例の、とりどりなる御後見どもの、引きそばみつつ持て参る御文どもを、見たまふこともなくて、読みきこゆるばかりを聞きたまふ。大将殿のには、

 「なほ頼み来しも、過ぎゆく空のけしきこそ、心尽くしに、

  数ならば厭ひもせまし長月に
  命をかくるほどぞはかなき」

 「月たたば」とある定めを、いとよく聞きたまふなめり。

 兵部卿宮は、

 「いふかひなき世は、聞こえむ方なきを、

  朝日さす光を見ても玉笹の
  葉分けの霜を消たずもあらなむ

 思しだに知らば、慰む方もありぬべくなむ」

 とて、いとかしけたる下折れの霜も落とさず持て参れる御使さへぞ、うちあひたるや。

 式部卿宮の左兵衛督は、殿の上の御はらからぞかし。親しく参りなどしたまふ君なれば、おのづからいとよくものの案内も聞きて、いみじくぞ思ひわびける。いと多く怨み続けて、

 「忘れなむと思ふもものの悲しきを
  いかさまにしていかさまにせむ」

 紙の色、墨つき、しめたる匂ひも、さまざまなるを、人びとも皆、
 「思し絶えぬべかめるこそ、さうざうしけれ」
 など言ふ。

 宮の御返りをぞ、いかが思すらむ、ただいささかにて、

 「心もて光に向かふ葵だに
  朝おく霜をおのれやは消つ」

 とほのかなるを、いとめづらしと見たまふに、みづからはあはれを知りぬべき御けしきにかけたまひつれば、つゆばかりなれど、いとうれしかりけり。

 かやうに何となけれど、さまざまなる人びとの、御わびごとも多かり。
 女の御心ばへは、この君をなむ本にすべきと、大臣たち定めきこえたまひけりとや。

梅枝

第一章 光る源氏の物語 薫物合せ
 [第一段 六条院の薫物合せの準備]

 御裳着のこと、思しいそぐ御心おきて、世の常ならず。春宮も同じ二月に、御かうぶりのことあるべければ、やがて御参りもうち続くべきにや。

 正月の晦日なれば、公私のどやかなるころほひに、薫物合はせたまふ。大弐の奉れる香ども御覧ずるに、「なほ、いにしへのには劣りてやあらむ」と思して、二条院の御倉開けさせたまひて、唐の物ども取り渡させたまひて、御覧じ比ぶるに、

 「錦、綾なども、なほ古きものこそなつかしうこまやかにはありけれ」

 とて、近き御しつらひの、物の覆ひ、敷物、茵などの端どもに、故院の御世の初めつ方、高麗人のたてまつれりける綾、緋金錦どもなど、今の世のものに似ず、なほさまざま御覧じあてつつせさせたまひて、このたびの綾、羅などは、人びとに賜はす。

 香どもは、昔今の、取り並べさせたまひて、御方々に配りたてまつらせたまふ。

 「二種づつ合はせさせたまへ」

 と、聞こえさせたまへり。贈り物、上達部の禄など、世になきさまに、内にも外にも、ことしげくいとなみたまふに添へて、方々に選りととのへて、鉄臼の音耳かしかましきころなり。

 大臣は、寝殿に離れおはしまして、承和の御いましめの二つの方を、いかでか御耳には伝へたまひけむ、心にしめて合はせたまふ。

 上は、東の中の放出に、御しつらひことに深うしなさせたまひて、八条の式部卿の御方を伝へて、かたみに挑み合はせたまふほど、いみじう秘したまへば、

 「匂ひの深さ浅さも、勝ち負けの定めあるべし」

 と大臣のたまふ。人の御親げなき御あらそひ心なり。

 いづ方にも、御前にさぶらふ人あまたならず。御調度どもも、そこらのきよらを尽くしたまへるなかにも、香壺の御筥どものやう、壺の姿、火取りの心ばへも、目馴れぬさまに、今めかしう、やう変へさせたまへるに、所々の心を尽くしたまへらむ匂ひどもの、すぐれたらむどもを、かぎあはせて入れむと思すなりけり。

 [第二段 二月十日、薫物合せ]

 二月の十日、雨すこし降りて、御前近き紅梅盛りに、色も香も似るものなきほどに、兵部卿宮渡りたまへり。御いそぎの今日明日になりにけることども、訪らひきこえたまふ。昔より取り分きたる御仲なれば、隔てなく、そのことかのこと、と聞こえあはせたまひて、花をめでつつおはするほどに、前斎院よりとて、散りすきたる梅の枝につけたる御文持て参れり。宮、聞こしめすこともあれば、

 「いかなる御消息のすすみ参れるにか」

 とて、をかしと思したれば、ほほ笑みて、

 「いと馴れ馴れしきこと聞こえつけたりしを、まめやかに急ぎものしたまへるなめり」

 とて、御文は引き隠したまひつ。

 沈の筥に、瑠璃の坏二つ据ゑて、大きにまろがしつつ入れたまへり。心葉、紺瑠璃には五葉の枝、白きには梅を選りて、同じくひき結びたる糸のさまも、なよびやかになまめかしうぞしたまへる。

 「艶あるもののさまかな」

 とて、御目止めたまへるに、

 「花の香は散りにし枝にとまらねど
  うつらむ袖に浅くしまめや」

 ほのかなるを御覧じつけて、宮はことことしう誦じたまふ。

 宰相中将、御使尋ねとどめさせたまひて、いたう酔はしたまふ。紅梅襲の唐の細長添へたる女の装束かづけたまふ。御返りもその色の紙にて、御前の花を折らせてつけさせたまふ。

 宮、

 「うちのこと思ひやらるる御文かな。何ごとの隠ろへあるにか、深く隠したまふ」

 と恨みて、いとゆかしと思したり。

 「何ごとかはべらむ。隈々しく思したるこそ、苦しけれ」

 とて、御硯のついでに、

 「花の枝にいとど心をしむるかな
  人のとがめむ香をばつつめど」

 とやありつらむ。

 「まめやかには、好き好きしきやうなれど、またもなかめる人の上にて、これこそはことわりのいとなみなめれと、思ひたまへなしてなむ。いと醜ければ、疎き人はかたはらいたさに、中宮まかでさせたてまつりてと思ひたまふる。親しきほどに馴れきこえかよへど、恥づかしきところの深うおはする宮なれば、何ごとも世の常にて見せたてまつらむ、かたじけなくてなむ」

 など、聞こえたまふ。

 「あえものも、げに、かならず思し寄るべきことなりけり」

 と、ことわり申したまふ。

 [第三段 御方々の薫物]

 このついでに、御方々の合はせたまふども、おのおの御使して、
 「この夕暮れのしめりにこころみむ」
 と聞こえたまへれば、さまざまをかしうしなして奉りたまへり。

 「これ分かせたまへ。誰れにか見せむ」

 と聞こえたまひて、御火取りども召して、こころみさせたまふ。

 「知る人にもあらずや」

 と卑下したまへど、言ひ知らぬ匂ひどもの、進み遅れたる香一種などが、いささかの咎を分きて、あながちに劣りまさりのけぢめをおきたまふ。かのわが御二種のは、今ぞ取う出させたまふ。

 右近の陣の御溝水のほとりになずらへて、西の渡殿の下より出づる汀近う埋ませたまへるを、惟光の宰相の子の兵衛尉、堀りて参れり。宰相中将、取りて伝へ参らせたまふ。宮、

 「いと苦しき判者にも当たりてはべるかな。いと煙たしや」

 と、悩みたまふ。同じうこそは、いづくにも散りつつ広ごるべかめるを、人びとの心々に合はせたまへる、深さ浅さを、かぎあはせたまへるに、いと興あること多かり。

 さらにいづれともなき中に、斎院の御黒方、さいへども、心にくくしづやかなる匂ひ、ことなり。侍従は、大臣の御は、すぐれてなまめかしうなつかしき香なりと定めたまふ。

 対の上の御は、三種ある中に、梅花、はなやかに今めかしう、すこしはやき心しつらひを添へて、めづらしき薫り加はれり。

 「このころの風にたぐへむには、さらにこれにまさる匂ひあらじ」

 とめでたまふ。

 夏の御方には、人びとの、かう心々に挑みたまふなる中に、数々にも立ち出でずやと、煙をさへ思ひ消えたまへる御心にて、ただ荷葉を一種合はせたまへり。さま変はりしめやかなる香して、あはれになつかし。

 冬の御方にも、時々によれる匂ひの定まれるに消たれむもあいなしと思して、薫衣香の方のすぐれたるは、前の朱雀院のをうつさせたまひて、公忠朝臣の、ことに選び仕うまつれりし百歩の方など思ひ得て、世に似ずなまめかしさを取り集めたる、心おきてすぐれたりと、いづれをも無徳ならず定めたまふを、

 「心ぎたなき判者なめり」

 と聞こえたまふ。

 [第四段 薫物合せ後の饗宴]

 月さし出でぬれば、大御酒など参りて、昔の御物語などしたまふ。霞める月の影心にくきを、雨の名残の風すこし吹きて、花の香なつかしきに、御殿のあたり言ひ知らず匂ひ満ちて、人の御心地いと艶あり。

 蔵人所の方にも、明日の御遊びのうちならしに、御琴どもの装束などして、殿上人などあまた参りて、をかしき笛の音ども聞こゆ。

 内の大殿の頭中将、弁少将なども、見参ばかりにてまかづるを、とどめさせたまひて、御琴ども召す。

 宮の御前に琵琶、大臣に箏の御琴参りて、頭中将、和琴賜はりて、はなやかに掻きたてたるほど、いとおもしろく聞こゆ。宰相中将、横笛吹きたまふ。折にあひたる調子、雲居とほるばかり吹きたてたり。弁少将、拍子取りて、「梅が枝」出だしたるほど、いとをかし。童にて、韻塞ぎの折、「高砂」謡ひし君なり。宮も大臣もさしいらへしたまひて、ことことしからぬものから、をかしき夜の御遊びなり。

 御土器参るに、宮、

 「鴬の声にやいとどあくがれむ
  心しめつる花のあたりに
 千代も経ぬべし」

 と聞こえたまへば、

 「色も香もうつるばかりにこの春は
  花咲く宿をかれずもあらなむ」

 頭中将に賜へば、取りて、宰相中将にさす。

 「鴬のねぐらの枝もなびくまで
  なほ吹きとほせ夜半の笛竹」

 宰相中将、

 「心ありて風の避くめる花の木に
  とりあへぬまで吹きや寄るべき
 情けなく」

 と、皆うち笑ひたまふ。弁少将、

 「霞だに月と花とを隔てずは
  ねぐらの鳥もほころびなまし」

 まことに、明け方になりてぞ、宮帰りたまふ。御贈り物に、みづからの御料の御直衣の御よそひ一領、手触れたまはぬ薫物二壺添へて、御車にたてまつらせたまふ。宮、

 「花の香をえならぬ袖にうつしもて
  ことあやまりと妹やとがめむ」

 とあれば、

 「いと屈したりや」

 と笑ひたまふ。御車かくるほどに、追ひて、

 「めづらしと故里人も待ちぞ見む
  花の錦を着て帰る君

 またなきことと思さるらむ」

 とあれば、いといたうからがりたまふ。次々の君達にも、ことことしからぬさまに、細長、小袿などかづけたまふ。

 

第二章 光る源氏の物語 明石の姫君の裳着
 [第一段 明石の姫君の裳着]

 かくて、西の御殿に、戌の時に渡りたまふ。宮のおはします西の放出をしつらひて、御髪上の内侍なども、やがてこなたに参れり。上も、このついでに、中宮に御対面あり。御方々の女房、押しあはせたる、数しらず見えたり。

 子の時に御裳たてまつる。大殿油ほのかなれど、御けはひいとめでたしと、宮は見たてまつれたまふ。大臣、

 「思し捨つまじきを頼みにて、なめげなる姿を、進み御覧ぜられはべるなり。後の世のためしにやと、心狭く忍び思ひたまふる」

 など聞こえたまふ。宮、

 「いかなるべきこととも思うたまへ分きはべらざりつるを、かうことことしうとりなさせたまふになむ、なかなか心おかれぬべく」

 と、のたまひ消つほどの御けはひ、いと若く愛敬づきたるに、大臣も、思すさまにをかしき御けはひどもの、さし集ひたまへるを、あはひめでたく思さる。母君の、かかる折だにえ見たてまつらぬを、いみじと思へりしも心苦しうて、参う上らせやせましと思せど、人のもの言ひをつつみて、過ぐしたまひつ。

 かかる所の儀式は、よろしきにだに、いとこと多くうるさきを、片端ばかり、例のしどけなくまねばむもなかなかにやとて、こまかに書かず。

 [第二段 明石の姫君の入内準備]

 春宮の御元服は、二十余日のほどになむありける。いと大人しくおはしませば、人の女ども競ひ参らすべきことを、心ざし思すなれど、この殿の思しきざすさまの、いとことなれば、なかなかにてや交じらはむと、左の大臣なども、思しとどまるなるを聞こしめして、

 「いとたいだいしきことなり。宮仕への筋は、あまたあるなかに、すこしのけぢめを挑まむこそ本意ならめ。そこらの警策の姫君たち、引き籠められなば、世に映えあらじ」

 とのたまひて、御参り延びぬ。次々にもとしづめたまひけるを、かかるよし所々に聞きたまひて、左大臣殿の三の君参りたまひぬ。麗景殿と聞こゆ。
 この御方は、昔の御宿直所、淑景舎を改めしつらひて、御参り延びぬるを、宮にも心もとながらせたまへば、四月にと定めさせたまふ。御調度どもも、もとあるよりもととのへて、御みづからも、ものの下形、絵様などをも御覧じ入れつつ、すぐれたる道々の上手どもを召し集めて、こまかに磨きととのへさせたまふ。

 草子の筥に入るべき草子どもの、やがて本にもしたまふべきを選らせたまふ。いにしへの上なき際の御手どもの、世に名を残したまへるたぐひのも、いと多くさぶらふ。

 [第三段 源氏の仮名論議]

 「よろづのこと、昔には劣りざまに、浅くなりゆく世の末なれど、仮名のみなむ、今の世はいと際なくなりたる。古き跡は、定まれるやうにはあれど、広き心ゆたかならず、一筋に通ひてなむありける。

 妙にをかしきことは、外よりてこそ書き出づる人びとありけれど、女手を心に入れて習ひし盛りに、こともなき手本多く集へたりしなかに、中宮の母御息所の、心にも入れず走り書いたまへりし一行ばかり、わざとならぬを得て、際ことにおぼえしはや。

 さて、あるまじき御名も立てきこえしぞかし。悔しきことに思ひしみたまへりしかど、さしもあらざりけり。宮にかく後見仕うまつることを、心深うおはせしかば、亡き御影にも見直したまふらむ。

 宮の御手は、こまかにをかしげなれど、かどや後れたらむ」

 と、うちささめきて聞こえたまふ。

 「故入道宮の御手は、いとけしき深うなまめきたる筋はありしかど、弱きところありて、にほひぞすくなかりし。

 院の尚侍こそ、今の世の上手におはすれど、あまりそぼれて癖ぞ添ひためる。さはありとも、かの君と、前斎院と、ここにとこそは、書きたまはめ」

 と、聴しきこえたまへば、

 「この数には、まばゆくや」

 と聞こえたまへば、

 「いたうな過ぐしたまひそ。にこやかなる方のなつかしさは、ことなるものを。真名のすすみたるほどに、仮名はしどけなき文字こそ混じるめれ」

 とて、まだ書かぬ草子ども作り加へて、表紙、紐などいみじうせさせたまふ。

 「兵部卿宮、左衛門督などにものせむ。みづから一具は書くべし。けしきばみいますがりとも、え書き並べじや」

 と、われぼめをしたまふ。

 [第四段 草子執筆の依頼]

 墨、筆、並びなく選り出でて、例の所々に、ただならぬ御消息あれば、人びと、難きことに思して、返さひ申したまふもあれば、まめやかに聞こえたまふ。高麗の紙の薄様だちたるが、せめてなまめかしきを、

 「この、もの好みする若き人びと、試みむ」

 とて、宰相中将、式部卿宮の兵衛督、内の大殿の頭中将などに、

 「葦手、歌絵を、思ひ思ひに書け」

 とのたまへば、皆心々に挑むべかめり。

 例の寝殿に離れおはしまして書きたまふ。花ざかり過ぎて、浅緑なる空うららかなるに、古き言どもなど思ひすましたまひて、御心のゆく限り、草のも、ただのも、女手も、いみじう書き尽くしたまふ。

 御前に人しげからず、女房二、三人ばかり、墨など擦らせたまひて、ゆゑある古き集の歌など、いかにぞやなど選り出でたまふに、口惜しからぬ限りさぶらふ。

 御簾上げわたして、脇息の上に草子うち置き、端近くうち乱れて、筆の尻くはへて、思ひめぐらしたまへるさま、飽く世なくめでたし。白き赤きなど、掲焉なる枚は、筆とり直し、用意したまへるさまさへ、見知らむ人は、げにめでぬべき御ありさまなり。

 [第五段 兵部卿宮、草子を持参]

 「兵部卿宮渡りたまふ」と聞こゆれば、おどろきて、御直衣たてまつり、御茵参り添へさせたまひて、やがて待ち取り、入れたてまつりたまふ。この宮もいときよげにて、御階さまよく歩み昇りたまふほど、内にも人びとのぞきて見たてまつる。うちかしこまりて、かたみにうるはしだちたまへるも、いときよらなり。

 「つれづれに籠もりはべるも、苦しきまで思うたまへらるる心ののどけさに、折よく渡らせたまへる」

 と、よろこびきこえたまふ。かの御草子待たせて渡りたまへるなりけり。やがて御覧ずれば、すぐれてしもあらぬ御手を、ただかたかどに、いといたう筆澄みたるけしきありて書きなしたまへり。歌も、ことさらめき、そばみたる古言どもを選りて、ただ三行ばかりに、文字少なに好ましくぞ書きたまへる。大臣、御覧じ驚きぬ。

 「かうまでは思ひたまへずこそありつれ。さらに筆投げ捨てつべしや」

 と、ねたがりたまふ。

 「かかる御中に面なくくだす筆のほど、さりともとなむ思うたまふる」

 など、戯れたまふ。

 書きたまへる草子どもも、隠したまふべきならねば、取う出たまひて、かたみに御覧ず。

 唐の紙の、いとすくみたるに、草書きたまへる、すぐれてめでたしと見たまふに、高麗の紙の、肌こまかに和うなつかしきが、色などははなやかならで、なまめきたるに、おほどかなる女手の、うるはしう心とどめて書きたまへる、たとふべきかたなし。

 見たまふ人の涙さへ、水茎に流れ添ふ心地して、飽く世あるまじきに、また、ここの紙屋の色紙の、色あひはなやかなるに、乱れたる草の歌を、筆にまかせて乱れ書きたまへる、見所限りなし。しどろもどろに愛敬づき、見まほしければ、さらに残りどもに目も見やりたまはず。

 [第六段 他の人々持参の草子]

 左衛門督は、ことことしうかしこげなる筋をのみ好みて書きたれど、筆の掟て澄まぬ心地して、いたはり加へたるけしきなり。歌なども、ことさらめきて、選り書きたり。

 女の御は、まほにも取り出でたまはず。斎院のなどは、まして取う出たまはざりけり。葦手の草子どもぞ、心々にはかなうをかしき。

 宰相中将のは、水の勢ひ豊に書きなし、そそけたる葦の生ひざまなど、難波の浦に通ひて、こなたかなたいきまじりて、いたう澄みたるところあり。また、いといかめしう、ひきかへて、文字やう、石などのたたずまひ、好み書きたまへる枚もあめり。

 「目も及ばず。これは暇いりぬべきものかな」

 と、興じめでたまふ。何事ももの好みし、艶がりおはする親王にて、いといみじうめできこえたまふ。

 [第七段 古万葉集と古今和歌集]

 今日はまた、手のことどものたまひ暮らし、さまざまの継紙の本ども、選り出でさせたまへるついでに、御子の侍従して、宮にさぶらふ本ども取りに遣はす。

 嵯峨の帝の、『古万葉集』を選び書かせたまへる四巻、延喜の帝の、『古今和歌集』を、唐の浅縹の紙を継ぎて、同じ色の濃き紋の綺の表紙、同じき玉の軸、緞の唐組の紐など、なまめかしうて、巻ごとに御手の筋を変へつつ、いみじう書き尽くさせたまへる、大殿油短く参りて御覧ずるに、

 「尽きせぬものかな。このころの人は、ただかたそばをけしきばむにこそありけれ」

 など、めでたまふ。やがてこれはとどめたてまつりたまふ。

 「女子などを持てはべらましにだに、をさをさ見はやすまじきには伝ふまじきを、まして、朽ちぬべきを」

 など聞こえてたてまつれたまふ。侍従に、唐の本などのいとわざとがましき、沈の筥に入れて、いみじき高麗笛添へて、奉れたまふ。

 またこのころは、ただ仮名の定めをしたまひて、世の中に手書くとおぼえたる、上中下の人びとにも、さるべきものども思しはからひて、尋ねつつ書かせたまふ。この御筥には、立ち下れるをば混ぜたまはず、わざと、人のほど、品分かせたまひつつ、草子、巻物、皆書かせたてまつりたまふ。

 よろづにめづらかなる御宝物ども、人の朝廷までありがたげなる中に、この本どもなむ、ゆかしと心動きたまふ若人、世に多かりける。御絵どもととのへさせたまふ中に、かの『須磨の日記』は、末にも伝へ知らせむと思せど、「今すこし世をも思し知りなむに」と思し返して、まだ取り出でたまはず。

 

第三章 内大臣家の物語 夕霧と雲居雁の物語
 [第一段 内大臣家の近況]

 内の大臣は、この御いそぎを、人の上にて聞きたまふも、いみじう心もとなく、さうざうしと思す。姫君の御ありさま、盛りにととのひて、あたらしううつくしげなり。つれづれとうちしめりたまへるほど、いみじき御嘆きぐさなるに、かの人の御けしき、はた、同じやうになだらかなれば、「心弱く進み寄らむも、人笑はれに、人のねむごろなりしきざみに、なびきなましかば」など、人知れず思し嘆きて、一方に罪をもおほせたまはず。

 かくすこしたわみたまへる御けしきを、宰相の君は聞きたまへど、しばしつらかりし御心を憂しと思へば、つれなくもてなし、しづめて、さすがに他ざまの心はつくべくもおぼえず、心づから戯れにくき折多かれど、「浅緑」聞こえごちし御乳母どもに、納言に昇りて見えむの御心深かるべし。

 [第二段 源氏、夕霧に結婚の教訓]

 大臣は、「あやしう浮きたるさまかな」と、思し悩みて、

 「かのわたりのこと、思ひ絶えにたらば、右大臣、中務宮などの、けしきばみ言はせたまふめるを、いづくも思ひ定められよ」

 とのたまへど、ものも聞こえたまはず、かしこまりたる御さまにてさぶらひたまふ。

 「かやうのことは、かしこき御教へにだに従ふべくもおぼえざりしかば、言まぜま憂けれど、今思ひあはするには、かの御教へこそ、長き例にはありけれ。

 つれづれとものすれば、思ふところあるにやと、世人も推し量るらむを、宿世の引く方にて、なほなほしきことにありありてなびく、いと尻びに、人悪ろきことぞや。

 いみじう思ひのぼれど、心にしもかなはず、限りのあるものから、好き好きしき心つかはるな。いはけなくより、宮の内に生ひ出でて、身を心にまかせず、所狭く、いささかの事のあやまりもあらば、軽々しきそしりをや負はむと、つつみしだに、なほ好き好きしき咎を負ひて、世にはしたなめられき。

 位浅く、何となき身のほど、うちとけ、心のままなる振る舞ひなどものせらるな。心おのづからおごりぬれば、思ひしづむべきくさはひなき時、女のことにてなむ、かしこき人、昔も乱るる例ありける。

 さるまじきことに心をつけて、人の名をも立て、みづからも恨みを負ふなむ、つひのほだしとなりける。とりあやまりつつ見む人の、わが心にかなはず、忍ばむこと難き節ありとも、なほ思ひ返さむ心をならひて、もしは親の心にゆづり、もしは親なくて世の中かたほにありとも、人柄心苦しうなどあらむ人をば、それを片かどに寄せても見たまへ。わがため、人のため、つひによかるべき心ぞ深うあるべき」

 など、のどやかにつれづれなる折は、かかる御心づかひをのみ教へたまふ。

 [第三段 夕霧と雲居の雁の仲]

 かやうなる御諌めにつきて、戯れにても他ざまの心を思ひかかるは、あはれに、人やりならずおぼえたまふ。女も、常よりことに、大臣の思ひ嘆きたまへる御けしきに、恥づかしう、憂き身と思し沈めど、上はつれなくおほどかにて、眺め過ぐしたまふ。

 御文は、思ひあまりたまふ折々、あはれに心深きさまに聞こえたまふ。「誰がまことをか」と思ひながら、世馴れたる人こそ、あながちに人の心をも疑ふなれ、あはれと見たまふふし多かり。

 「中務宮なむ、大殿にも御けしき賜はりて、さもやと、思し交はしたなる」

 と人の聞こえければ、大臣は、ひき返し御胸ふたがるべし。忍びて、

 「さることをこそ聞きしか。情けなき人の御心にもありけるかな。大臣の、口入れたまひしに、執念かりきとて、引き違へたまふなるべし。心弱くなびきても、人笑へならましこと」

 など、涙を浮けてのたまへば、姫君、いと恥づかしきにも、そこはかとなく涙のこぼるれば、はしたなくて背きたまへる、らうたげさ限りなし。

 「いかにせまし。なほや進み出でて、けしきをとらまし」

 など、思し乱れて立ちたまひぬる名残も、やがて端近う眺めたまふ。

 「あやしく、心おくれても進み出でつる涙かな。いかに思しつらむ」

 など、よろづに思ひゐたまへるほどに、御文あり。さすがにぞ見たまふ。こまやかにて、

 「つれなさは憂き世の常になりゆくを
  忘れぬ人や人にことなる」

 とあり。「けしきばかりもかすめぬ、つれなさよ」と、思ひ続けたまふは憂けれど、

 「限りとて忘れがたきを忘るるも
  こや世になびく心なるらむ」

 とあるを、「あやし」と、うち置かれず、傾きつつ見ゐたまへり。

藤裏葉

第一章 夕霧の物語 雲居雁との筒井筒の恋実る
 [第一段 夕霧と雲居雁の相思相愛の恋]

 御いそぎのほどにも、宰相中将は眺めがちにて、ほれぼれしき心地するを、「かつはあやしく、わが心ながら執念きぞかし。あながちにかう思ふことならば、関守の、うちも寝ぬべきけしきに思ひ弱りたまふなるを聞きながら、同じくは、人悪からぬさまに見果てむ」と念ずるも、苦しう思ひ乱れたまふ。

 女君も、大臣のかすめたまひしことの筋を、「もし、さもあらば、何の名残かは」と嘆かしうて、あやしく背き背きに、さすがなる御もろ恋なり。

 大臣も、さこそ心強がりたまひしかど、たけからぬに思しわづらひて、「かの宮にも、さやうに思ひ立ち果てたまひなば、またとかく改め思ひかかづらはむほど、人のためも苦しう、わが御方ざまにも人笑はれに、おのづから軽々しきことやまじらむ。忍ぶとすれど、うちうちのことあやまりも、世に漏りにたるべし。とかく紛らはして、なほ負けぬべきなめり」と、思しなりぬ。

 上はつれなくて、恨み解けぬ御仲なれば、「ゆくりなく言ひ寄らむもいかが」と、思し憚りて、「ことことしくもてなさむも、人の思はむところをこなり。いかなるついでしてかはほのめかすべき」など思すに、三月二十日、大殿の大宮の御忌日にて、極楽寺に詣でたまへり。

 [第二段 三月二十日、極楽寺に詣でる]

 君達皆ひき連れ、勢ひあらまほしく、上達部などもあまた参り集ひたまへるに、宰相中将、をさをさけはひ劣らず、よそほしくて、容貌など、ただ今のいみじき盛りにねびゆきて、取り集めめでたき人の御ありさまなり。

 この大臣をば、つらしと思ひきこえたまひしより、見えたてまつるも、心づかひせられて、いといたう用意し、もてしづめてものしたまふを、大臣も、常よりは目とどめたまふ。御誦経など、六条院よりもせさせたまへり。宰相君は、まして、よろづをとりもちて、あはれにいとなみ仕うまつりたまふ。

 夕かけて、皆帰りたまふほど、花は皆散り乱れ、霞たどたどしきに、大臣、昔を思し出でて、なまめかしううそぶき眺めたまふ。宰相も、あはれなる夕べのけしきに、いとどうちしめりて、「雨気あり」と、人びとの騒ぐに、なほ眺め入りてゐたまへり。心ときめきに見たまふことやありけむ、袖を引き寄せて、

 「などか、いとこよなくは勘じたまへる。今日の御法の縁をも尋ね思さば、罪許したまひてよや。残り少なくなりゆく末の世に、思ひ捨てたまへるも、恨みきこゆべくなむ」

 とのたまへば、うちかしこまりて、

 「過ぎにし御おもむけも、頼みきこえさすべきさまに、うけたまはりおくことはべりしかど、許しなき御けしきに、憚りつつなむ」

 と聞こえたまふ。

 心あわたたしき雨風に、皆ちりぢりに競ひ帰りたまひぬ。君、「いかに思ひて、例ならずけしきばみたまひつらむ」など、世とともに心をかけたる御あたりなれば、はかなきことなれど、耳とまりて、とやかうやと思ひ明かしたまふ。

 [第三段 内大臣、夕霧を自邸に招待]

 ここらの年ごろの思ひのしるしにや、かの大臣も、名残なく思し弱りて、はかなきついでの、わざとはなく、さすがにつきづきしからむを思すに、四月の朔日ごろ、御前の藤の花、いとおもしろう咲き乱れて、世の常の色ならず、ただに見過ぐさむこと惜しき盛りなるに、遊びなどしたまひて、暮れ行くほどの、いとど色まされるに、頭中将して、御消息あり。

 「一日の花の蔭の対面の、飽かずおぼえはべりしを、御暇あらば、立ち寄りたまひなむや」

 とあり。御文には、

 「わが宿の藤の色濃きたそかれに
  尋ねやは来ぬ春の名残を」

 げに、いとおもしろき枝につけたまへり。待ちつけたまへるも、心ときめきせられて、かしこまりきこえたまふ。

 「なかなかに折りやまどはむ藤の花
  たそかれ時のたどたどしくは」

 と聞こえて、

 「口惜しくこそ臆しにけれ。取り直したまへよ」

 と聞こえたまふ。

 「御供にこそ」

 とのたまへば、

 「わづらはしき随身は、否」

 とて、返しつ。

 大臣の御前に、かくなむ、とて、御覧ぜさせたまふ。

 「思ふやうありてものしたまひつるにやあらむ。さも進みものしたまはばこそは、過ぎにし方の孝なかりし恨みも解けめ」

 とのたまふ。御心おごり、こよなうねたげなり。

 「さしもはべらじ。対の前の藤、常よりもおもしろう咲きてはべるなるを、静かなるころほひなれば、遊びせむなどにやはべらむ」

 と申したまふ。

 「わざと使ひさされたりけるを、早うものしたまへ」

 と許したまふ。いかならむと、下には苦しう、ただならず。

 「直衣こそあまり濃くて、軽びためれ。非参議のほど、何となき若人こそ、二藍はよけれ、ひき繕はむや」

 とて、わが御料の心ことなるに、えならぬ御衣ども具して、御供に持たせてたてまつれたまふ。

 [第四段 夕霧、内大臣邸を訪問]

 わが御方にて、心づかひいみじう化粧じて、たそかれも過ぎ、心やましきほどに参うでたまへり。主人の君達、中将をはじめて、七、八人うち連れて迎ヘ入れたてまつる。いづれとなくをかしき容貌どもなれど、なほ、人にすぐれて、あざやかにきよらなるものから、なつかしう、よしづき、恥づかしげなり。

 大臣、御座ひきつくろはせなどしたまふ御用意、おろかならず。御冠などしたまひて、出でたまふとて、北の方、若き女房などに、

 「覗きて見たまへ。いと警策にねびまさる人なり。用意などいと静かに、ものものしや。あざやかに、抜け出でおよすけたる方は、父大臣にもまさりざまにこそあめれ。
 かれは、ただいと切になまめかしう愛敬づきて、見るに笑ましく、世の中忘るる心地ぞしたまふ。公ざまは、すこしたはれて、あざれたる方なりし、ことわりぞかし。
 これは、才の際もまさり、心もちゐ男々しく、すくよかに足らひたりと、世におぼえためり」

 などのたまひてぞ、対面したまふ。ものまめやかに、むべむべしき御物語は、すこしばかりにて、花の興に移りたまひぬ。

 「春の花、いづれとなく、皆開け出づる色ごとに、目おどろかぬはなきを、心短くうち捨てて散りぬるが、恨めしうおぼゆるころほひ、この花のひとり立ち後れて、夏に咲きかかるほどなむ、あやしう心にくくあはれにおぼえはべる。色もはた、なつかしきゆかりにしつべし」

 とて、うちほほ笑みたまへる、けしきありて、匂ひきよげなり。

 [第五段 藤花の宴 結婚を許される]

 月はさし出でぬれど、花の色さだかにも見えぬほどなるを、もてあそぶに心を寄せて、大酒参り、御遊びなどしたまふ。大臣、ほどなく空酔ひをしたまひて、乱りがはしく強ひ酔はしたまふを、さる心して、いたうすまひ悩めり。

 「君は、末の世にはあまるまで、天の下の有職にものしたまふめるを、齢古りぬる人、思ひ捨てたまふなむつらかりける。文籍にも、家礼といふことあるべくや。なにがしの教へも、よく思し知るらむと思ひたまふるを、いたう心悩ましたまふと、恨みきこゆべくなむ」

 などのたまひて、酔ひ泣きにや、をかしきほどにけしきばみたまふ。

 「いかでか。昔を思うたまへ出づる御変はりどもには、身を捨つるさまにもとこそ、思うたまへ知りはべるを、いかに御覧じなすことにかはべらむ。もとより、おろかなる心のおこたりにこそ」

 と、かしこまりきこえたまふ。御時よく、さうどきて、
 「藤の裏葉の」
 とうち誦じたまへる、御けしきを賜はりて、頭中将、花の色濃く、ことに房長きを折りて、客人の御盃に加ふ。取りて、もて悩むに、大臣、

 「紫にかことはかけむ藤の花
  まつより過ぎてうれたけれども」

 宰相、盃を持ちながら、けしきばかり拝したてまつりたまへるさま、いとよしあり。

 「いく返り露けき春を過ぐし来て
  花の紐解く折にあふらむ」

 頭中将に賜へば、

 「たをやめの袖にまがへる藤の花
  見る人からや色もまさらむ」

 次々順流るめれど、酔ひの紛れにはかばかしからで、これよりまさらず。

 [第六段 夕霧、雲居雁の部屋を訪う]

 七日の夕月夜、影ほのかなるに、池の鏡のどかに澄みわたれり。げに、まだほのかなる梢どもの、さうざうしきころなるに、いたうけしきばみ横たはれる松の、木高きほどにはあらぬに、かかれる花のさま、世の常ならずおもしろし。

 例の、弁少将、声いとなつかしくて、「葦垣」を謡ふ。大臣、

 「いとけやけうも仕うまつるかな」

 と、うち乱れたまひて、

 「年経にけるこの家の」

 と、うち加へたまへる御声、いとおもしろし。をかしきほどに乱りがはしき御遊びにて、もの思ひ残らずなりぬめり。

 やうやう夜更け行くほどに、いたうそら悩みして、

 「乱り心地いと堪へがたうて、まかでむ空もほとほとしうこそはべりぬべけれ。宿直所譲りたまひてむや」

 と、中将に愁へたまふ。大臣、

 「朝臣や、御休み所求めよ。翁いたう酔ひ進みて無礼なれば、まかり入りぬ」

 と言ひ捨てて、入りたまひぬ。

 中将、

 「花の蔭の旅寝よ。いかにぞや、苦しきしるべにぞはべるや」

 と言へば、

 「松に契れるは、あだなる花かは。ゆゆしや」

 と責めたまふ。中将は、心のうちに、「ねたのわざや」と思ふところあれど、人ざまの思ふさまにめでたきに、「かうもあり果てなむ」と、心寄せわたることなれば、うしろやすく導きつ。

 男君は、夢かとおぼえたまふにも、わが身いとどいつかしうぞおぼえたまひけむかし。女は、いと恥づかしと思ひしみてものしたまふも、ねびまされる御ありさま、いとど飽かぬところなくめやすし。

 「世の例にもなりぬべかりつる身を、心もてこそ、かうまでも思し許さるめれ。あはれを知りたまはぬも、さま異なるわざかな」

 と、怨みきこえたまふ。

 「少将の進み出だしつる『葦垣』の趣きは、耳とどめたまひつや。いたき主かなな。『河口の』とこそ、さしいらへまほしかりつれ」

 とのたまへば、女、いと聞き苦し、と思して、

 「浅き名を言ひ流しける河口は
  いかが漏らしし関の荒垣
 あさまし」

 とのたまふさま、いとこめきたり。すこしうち笑ひて、

 「漏りにける岫田の関を河口の
  浅きにのみはおほせざらなむ

 年月の積もりも、いとわりなくて悩ましきに、ものおぼえず」

 と、酔ひにかこちて、苦しげにもてなして、明くるも知らず顔なり。人びと、聞こえわづらふを、大臣、

 「したり顔なる朝寝かな」

 と、とがめたまふ。されど、明かし果てでぞ出でたまふ。ねくたれの御朝顔、見るかひありかし。

 [第七段 後朝の文を贈る]

 御文は、なほ忍びたりつるさまの心づかひにてあるを、なかなか今日はえ聞こえたまはぬを、もの言ひさがなき御達つきじろふに、大臣渡りて見たまふぞ、いとわりなきや。

 「尽きせざりつる御けしきに、いとど思ひ知らるる身のほどを。堪へぬ心にまた消えぬべきも、

  とがむなよ忍びにしぼる手もたゆみ
  今日あらはるる袖のしづくを」

 など、いと馴れ顔なり。うち笑みて、

 「手をいみじうも書きなられにけるかな」

 などのたまふも、昔の名残なし。

 御返り、いと出で来がたげなれば、「見苦しや」とて、さも思し憚りぬべきことなれば、渡りたまひぬ。

 御使の禄、なべてならぬさまにて賜へり。中将、をかしきさまにもてなしたまふ。常にひき隠しつつ隠ろへありきし御使、今日は、面もちなど、人びとしく振る舞ふめり。右近将監なる人の、むつましう思し使ひたまふなりけり。

 六条の大臣も、かくと聞こし召してけり。宰相、常よりも光添ひて参りたまへれば、うちまもりたまひて、

 「今朝はいかに。文などものしつや。賢しき人も、女の筋には乱るる例あるを、人悪ろくかかづらひ、心いられせで過ぐされたるなむ、すこし人に抜けたりける御心とおぼえける。
 大臣の御おきての、あまりすくみて、名残なくくづほれたまひぬるを、世人も言ひ出づることあらむや。さりとても、わが方たけう思ひ顔に、心おごりして、好き好きしき心ばへなど漏らしたまふな。
 さこそおいらかに、大きなる心おきてと見ゆれど、下の心ばへ男々しからず癖ありて、人見えにくきところつきたまへる人なり」

 など、例の教へきこえたまふ。ことうちあひ、めやすき御あはひ、と思さる。

 御子とも見えず、すこしがこのかみばかりと見えたまふ。ほかほかにては、同じ顔を写し取りたると見ゆるを、御前にては、さまざま、あなめでたと見えたまへり。

 大臣は、薄き御直衣、白き御衣の唐めきたるが、紋けざやかにつやつやと透きたるをたてまつりて、なほ尽きせずあてになまめかしうおはします。

 宰相殿は、すこし色深き御直衣に、丁子染めの焦がるるまでしめる、白き綾のなつかしきを着たまへる、ことさらめきて艶に見ゆ。

 [第八段 夕霧と雲居雁の固い夫婦仲]

 灌仏率てたてまつりて、御導師遅く参りければ、日暮れて、御方々より童女出だし、布施など、公ざまに変はらず、心々にしたまへり。御前の作法を移して、君達なども参り集ひて、なかなか、うるはしき御前よりも、あやしう心づかひせられて臆しがちなり。

 宰相は、静心なく、いよいよ化粧じ、ひきつくろひて出でたまふを、わざとならねど、情けだちたまふ若人は、恨めしと思ふもありけり。年ごろの積もり取り添へて、思ふやうなる御仲らひなめれば、水も漏らむやは。

 主人の大臣、いとどしき近まさりを、うつくしきものに思して、いみじうもてかしづききこえたまふ。負けぬる方の口惜しさは、なほ思せど、罪も残るまじうぞ、まめやかなる御心ざまなどの、年ごろ異心なくて過ぐしたまへるなどを、ありがたく思し許す。

 女御の御ありさまなどよりも、はなやかにめでたくあらまほしければ、北の方、さぶらふ人びとなどは、心よからず思ひ言ふもあれど、何の苦しきことかはあらむ。按察使の北の方なども、かかる方にて、うれしと思ひきこえたまひけり。

 

第二章 光る源氏の物語 明石の姫君の入内
 [第一段 紫の上、賀茂の御阿礼に参詣]

 かくて、六条院の御いそぎは、二十余日のほどなりけり。対の上、御阿礼に詣うでたまふとて、例の御方々いざなひきこえたまへど、なかなか、さしも引き続きて心やましきを思して、誰も誰もとまりたまひて、ことことしきほどにもあらず、御車二十ばかりして、御前なども、くだくだしき人数多くもあらず、ことそぎたるしも、けはひことなり。

 祭の日の暁に詣うでたまひて、かへさには、物御覧ずべき御桟敷におはします。御方々の女房、おのおの車引き続きて、御前、所占めたるほど、いかめしう、「かれはそれ」と、遠目よりおどろおどろしき御勢ひなり。

 大臣は、中宮の御母御息所の、車押し避けられたまへりし折のこと思し出でて、

 「時により心おごりして、さやうなることなむ、情けなきことなりける。こよなく思ひ消ちたりし人も、嘆き負ふやうにて亡くなりにき」

 と、そのほどはのたまひ消ちて、

 「残りとまれる人の、中将は、かくただ人にて、わづかになりのぼるめり。宮は並びなき筋にておはするも、思へば、いとこそあはれなれ。すべていと定めなき世なればこそ、何ごとも思ふさまにて、生ける限りの世を過ぐさまほしけれと、残りたまはむ末の世などの、たとしへなき衰へなどをさへ、思ひ憚らるれば」

 と、うち語らひたまひて、上達部なども御桟敷に参り集ひたまへれば、そなたに出でたまひぬ。

 [第二段 柏木や夕霧たちの雄姿]

 近衛司の使は、頭中将なりけり。かの大殿にて、出で立つ所よりぞ人びとは参りたまうける。藤典侍も使なりけり。おぼえことにて、内裏、春宮よりはじめたてまつりて、六条院などよりも、御訪らひども所狭きまで、御心寄せいとめでたし。

 宰相中将、出で立ちの所にさへ訪らひたまへり。うちとけずあはれを交はしたまふ御仲なれば、かくやむごとなき方に定まりたまひぬるを、ただならずうち思ひけり。

 「何とかや今日のかざしよかつ見つつ
  おぼめくまでもなりにけるかな
 あさまし」

 とあるを、折過ぐしたまはぬばかりを、いかが思ひけむ、いともの騒がしく、車に乗るほどなれど、

 「かざしてもかつたどらるる草の名は
  桂を折りし人や知るらむ
 博士ならでは」

 と聞こえたり。はかなけれど、ねたきいらへと思す。なほ、この内侍にぞ、思ひ離れず、はひまぎれたまふべき。

 [第三段 四月二十日過ぎ、明石姫君、東宮に入内]

 かくて、御参りは北の方添ひたまふべきを、「常に長々しうえ添ひさぶらひたまはじ。かかるついでに、かの御後見をや添へまし」と思す。

 上も、「つひにあるべきことの、かく隔たりて過ぐしたまふを、かの人も、ものしと思ひ嘆かるらむ。この御心にも、今はやうやうおぼつかなく、あはれに思し知るらむ。かたがた心おかれたてまつらむも、あいなし」と思ひなりたまひて、

 「この折に添へたてまつりたまへ。まだいとあえかなるほどもうしろめたきに、さぶらふ人とても、若々しきのみこそ多かれ。御乳母たちなども、見及ぶことの心いたる限りあるを、みづからは、えつとしもさぶらはざらむほど、うしろやすかるべく」

 と聞こえたまへば、「いとよく思し寄るかな」と思して、「さなむ」と、あなたにも語らひのたまひければ、いみじくうれしく、思ふこと叶ひはべる心地して、人の装束、何かのことも、やむごとなき御ありさまに劣るまじくいそぎたつ。

 尼君なむ、なほこの御生ひ先見たてまつらむの心深かりける。「今一度見たてまつる世もや」と、命をさへ執念くなして念じけるを、「いかにしてかは」と、思ふも悲し。

 その夜は、上添ひて参りたまふに、さて、車にも立ちくだりうち歩みなど、人悪るかるべきを、わがためは思ひ憚らず、ただ、かく磨きたてまつりたまふ玉の疵にて、わがかくながらふるを、かつはいみじう心苦しう思ふ。

 御参りの儀式、「人の目おどろくばかりのことはせじ」と思しつつめど、おのづから世の常のさまにぞあらぬや。限りもなくかしづきすゑたてまつりたまひて、上は、「まことにあはれにうつくし」と思ひきこえたまふにつけても、人に譲るまじう、「まことにかかることもあらましかば」と思す。大臣も、宰相の君も、ただこのことひとつをなむ、「飽かぬことかな」と、思しける。

 [第四段 紫の上、明石御方と対面する]

 三日過ごしてぞ、上はまかでさせたまふ。たち変はりて参りたまふ夜、御対面あり。

 「かくおとなびたまふけぢめになむ、年月のほども知られはべれば、疎々しき隔ては、残るまじくや」

 と、なつかしうのたまひて、物語などしたまふ。これもうちとけぬる初めなめり。ものなどうち言ひたるけはひなど、「むべこそは」と、めざましう見たまふ。

 また、いと気高う盛りなる御けしきを、かたみにめでたしと見て、「そこらの御中にもすぐれたる御心ざしにて、並びなきさまに定まりたまひけるも、いとことわり」と思ひ知らるるに、「かうまで、立ち並びきこゆる契り、おろかなりやは」と思ふものから、出でたまふ儀式の、いとことによそほしく、御輦車など聴されたまひて、女御の御ありさまに異ならぬを、思ひ比ぶるに、さすがなる身のほどなり。

 いとうつくしげに、雛のやうなる御ありさまを、夢の心地して見たてまつるにも、涙のみとどまらぬは、一つものとぞ見えざりける。年ごろよろづに嘆き沈み、さまざま憂き身と思ひ屈しつる命も延べまほしう、はればれしきにつけて、まことに住吉の神もおろかならず思ひ知らる。

 思ふさまにかしづききこえて、心およばぬことはた、をさをさなき人のらうらうじさなれば、おほかたの寄せ、おぼえよりはじめ、なべてならぬ御ありさま容貌なるに、宮も、若き御心地に、いと心ことに思ひきこえたまへり。

 挑みたまへる御方々の人などは、この母君の、かくてさぶらひたまふを、疵に言ひなしなどすれど、それに消たるべくもあらず。いまめかしう、並びなきことをば、さらにもいはず、心にくくよしある御けはひを、はかなきことにつけても、あらまほしうもてなしきこえたまへれば、殿上人なども、めづらしき挑み所にて、とりどりにさぶらふ人びとも、心をかけたる女房の、用意ありさまさへ、いみじくととのへなしたまへり。

 上も、さるべき折節には参りたまふ。御仲らひあらまほしううちとけゆくに、さりとてさし過ぎもの馴れず、あなづらはしかるべきもてなし、はた、つゆなく、あやしくあらまほしき人のありさま、心ばへなり。

 

第三章 光る源氏の物語 准太上天皇となる
 [第一段 源氏、秋に准太上天皇の待遇を得る]

 大臣も、「長からずのみ思さるる御世のこなたに」と、思しつる御参りの、かひあるさまに見たてまつりなしたまひて、心からなれど、世に浮きたるやうにて、見苦しかりつる宰相の君も、思ひなくめやすきさまにしづまりたまひぬれば、御心おちゐ果てたまひて、「今は本意も遂げなむ」と、思しなる。

 対の上の御ありさまの、見捨てがたきにも、「中宮おはしませば、おろかならぬ御心寄せなり。この御方にも、世に知られたる親ざまには、まづ思ひきこえたまふべければ、さりとも」と、思し譲りけり。

 夏の御方の、時に花やぎたまふまじきも、「宰相のものしたまへば」と、皆とりどりにうしろめたからず思しなりゆく。

 明けむ年、四十になりたまふ、御賀のことを、朝廷よりはじめたてまつりて、大きなる世のいそぎなり。

 その秋、太上天皇に准らふ御位得たまうて、御封加はり、年官年爵など、皆添ひたまふ。かからでも、世の御心に叶はぬことなけれど、なほめづらしかりける昔の例を改めで、院司どもなどなり、さまことにいつくしうなり添ひたまへば、内裏に参りたまふべきこと、難かるべきをぞ、かつは思しける。

 かくても、なほ飽かず帝は思して、世の中を憚りて、位をえ譲りきこえぬことをなむ、朝夕の御嘆きぐさなりける。

 内大臣上がりたまひて、宰相中将、中納言になりたまひぬ。御よろこびに出でたまふ。光いとどまさりたまへるさま、容貌よりはじめて、飽かぬことなきを、主人の大臣も、「なかなか人に圧されまし宮仕へよりは」と、思し直る。

 女君の大輔乳母、「六位宿世」と、つぶやきし宵のこと、ものの折々に思し出でければ、菊のいとおもしろくて、移ろひたるを賜はせて、

 「浅緑若葉の菊を露にても
  濃き紫の色とかけきや

 からかりし折の一言葉こそ忘られね」

 と、いと匂ひやかにほほ笑みて賜へり。恥づかしう、いとほしきものから、うつくしう見たてまつる。

 「双葉より名立たる園の菊なれば
  浅き色わく露もなかりき

 いかに心おかせたまへりけるにか」

 と、いと馴れて苦しがる。

 [第二段 夕霧夫妻、三条殿に移る]

 御勢ひまさりて、かかる御住まひも所狭ければ、三条殿に渡りたまひぬ。すこし荒れにたるを、いとめでたく修理しなして、宮のおはしましし方を改めしつらひて住みたまふ。昔おぼえて、あはれに思ふさまなる御住まひなり。

 前栽どもなど、小さき木どもなりしも、いとしげき蔭となり、一村薄も心にまかせて乱れたりける、つくろはせたまふ。遣水の水草もかき改めて、いと心ゆきたるけしきなり。

 をかしき夕暮のほどを、二所眺めたまひて、あさましかりし世の、御幼さの物語などしたまふに、恋しきことも多く、人の思ひけむことも恥づかしう、女君は思し出づ。古人どもの、まかで散らず、曹司曹司にさぶらひけるなど、参う上り集りて、いとうれしと思ひあへり。

 男君、

 「なれこそは岩守るあるじ見し人の
  行方は知るや宿の真清水」

 女君、

 「亡き人の影だに見えずつれなくて
  心をやれるいさらゐの水」

 などのたまふほどに、大臣、内裏よりまかでたまひけるを、紅葉の色に驚かされて渡りたまへり。

 [第三段 内大臣、三条殿を訪問]

 昔おはさひし御ありさまにも、をさをさ変はることなく、あたりあたりおとなしく住まひたまへるさま、はなやかなるを見たまふにつけても、いとものあはれに思さる。中納言も、けしきことに、顔すこし赤みて、いとどしづまりてものしたまふ。

 あらまほしくうつくしげなる御あはひなれど、女は、またかかる容貌のたぐひも、などかなからむと見えたまへり。男は、際もなくきよらにおはす。古人ども御前に所得て、神さびたることども聞こえ出づ。ありつる御手習どもの、散りたるを御覧じつけて、うちしほたれたまふ。

 「この水の心尋ねまほしけれど、翁は言忌して」

 とのたまふ。

 「そのかみの老木はむべも朽ちぬらむ
  植ゑし小松も苔生ひにけり」

 男君の御宰相の乳母、つらかりし御心も忘れねば、したり顔に、

 「いづれをも蔭とぞ頼む双葉より
  根ざし交はせる松の末々」

 老人どもも、かやうの筋に聞こえ集めたるを、中納言は、をかしと思す。女君は、あいなく面赤み、苦しと聞きたまふ。

 [第四段 十月二十日過ぎ、六条院行幸]

 神無月の二十日あまりのほどに、六条院に行幸あり。紅葉の盛りにて、興あるべきたびの行幸なるに、朱雀院にも御消息ありて、院さへ渡りおはしますべければ、世にめづらしくありがたきことにて、世人も心をおどろかす。主人の院方も、御心を尽くし、目もあやなる御心まうけをせさせたまふ。

 巳の時に行幸ありて、まづ、馬場殿に左右の寮の御馬牽き並べて、左右近衛立ち添ひたる作法、五月の節にあやめわかれず通ひたり。未くだるほどに、南の寝殿に移りおはします。道のほどの反橋、渡殿には錦を敷き、あらはなるべき所には軟障を引き、いつくしうしなさせたまへり。

 東の池に舟ども浮けて、御厨子所の鵜飼の長、院の鵜飼を召し並べて、鵜をおろさせたまへり。小さき鮒ども食ひたり。わざとの御覧とはなけれども、過ぎさせたまふ道の興ばかりになむ。

 山の紅葉、いづ方も劣らねど、西の御前は心ことなるを、中の廊の壁を崩し、中門を開きて、霧の隔てなくて御覧ぜさせたまふ。

 御座、二つよそひて、主人の御座は下れるを、宣旨ありて直させたまふほど、めでたく見えたれど、帝は、なほ限りあるゐやゐやしさを尽くして見せたてまつりたまはぬことをなむ、思しける。

 池の魚を、左少将捕り、蔵人所の鷹飼の、北野に狩仕まつれる鳥一番を、右少将捧げて、寝殿の東より御前に出でて、御階の左右に膝をつきて奏す。太政大臣、仰せ言賜ひて、調じて御膳に参る。親王たち、上達部などの御まうけも、めづらしきさまに、常の事どもを変へて仕うまつらせたまへり。

 [第五段 六条院行幸の饗宴]

 皆御酔ひになりて、暮れかかるほどに、楽所の人召す。わざとの大楽にはあらず、なまめかしきほどに、殿上の童べ、舞仕うまつる。朱雀院の紅葉の賀、例の古事思し出でらる。「賀王恩」といふものを奏するほどに、太政大臣の御弟子の十ばかりなる、切におもしろう舞ふ。内裏の帝、御衣ぬぎて賜ふ。太政大臣降りて舞踏したまふ。

 主人の院、菊を折らせたまひて、「青海波」の折を思し出づ。

 「色まさる籬の菊も折々に
  袖うちかけし秋を恋ふらし」

 大臣、その折は、同じ舞に立ち並びきこえたまひしを、我も人にはすぐれたまへる身ながら、なほこの際はこよなかりけるほど、思し知らる。時雨、折知り顔なり。

 「紫の雲にまがへる菊の花
  濁りなき世の星かとぞ見る
 時こそありけれ」

 と聞こえたまふ。

 [第六段 朱雀院と冷泉帝の和歌]

 夕風の吹き敷く紅葉の色々、濃き薄き、錦を敷きたる渡殿の上、見えまがふ庭の面に、容貌をかしき童べの、やむごとなき家の子どもなどにて、青き赤き白橡、蘇芳、葡萄染めなど、常のごと、例のみづらに、額ばかりのけしきを見せて、短きものどもをほのかに舞ひつつ、紅葉の蔭に返り入るほど、日の暮るるもいと惜しげなり。

 楽所などおどろおどろしくはせず。上の御遊び始まりて、書司の御琴ども召す。ものの興切なるほどに、御前に皆御琴ども参れり。宇多法師の変はらぬ声も、朱雀院は、いとめづらしくあはれに聞こし召す。

 「秋をへて時雨ふりぬる里人も
  かかる紅葉の折をこそ見ね」

 うらめしげにぞ思したるや。帝、

 「世の常の紅葉とや見るいにしへの
  ためしにひける庭の錦を」

 と、聞こえ知らせたまふ。御容貌いよいよねびととのほりたまひて、ただ一つものと見えさせたまふを、中納言さぶらひたまふが、ことことならぬこそ、めざましかめれ。あてにめでたきけはひや、思ひなしに劣りまさらむ、あざやかに匂はしきところは、添ひてさへ見ゆ。

 笛仕うまつりたまふ、いとおもしろし。唱歌の殿上人、御階にさぶらふ中に、弁少将の声すぐれたり。なほさるべきにこそと見えたる御仲らひなめり。

2020-02-29

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