かな

2021-02-11

いづれのおほむ-ときにか にようご かういあまたさぶらひたまひけるなかに いとやむごとなききはにはあらぬが すぐれてときめきたまふありけり
はじめよりわれはとおもひあがりたまへるおほむ-かたがた めざましきものにおとしめそねみたまふ おなじほど それよりげらふのかうい-たちは ましてやすからず あさゆふのみやづかへにつけても ひとのこころをのみうごかし うらみをおふつもりにやありけむ いとあづしくなりゆき もの-こころぼそげにさとがちなるを いよいよあかずあはれなるものにおもほして ひとのそしりをもえはばからせたまはず よのためしにもなりぬべきおほむ-もてなしなり
かむだちめ うへびとなども あいなくめをそばめつつ いとまばゆきひとのおほむ-おぼエなり もろこしにも かかることのおこりにこそ よもみだれ あしかりけれと やうやうあめのしたにもあぢきなう ひとのもてなやみぐさになりて やうきひのためしもひきいでつべくなりゆくに いとはしたなきことおほかれど かたじけなきみ-こころばへのたぐひなきをたのみにてまじらひたまふ
ちちのだいなごんはなくなりて ははきたのかたなむいにしへのよしあるにて おやうち-ぐし さしあたりてよのおぼエはなやかなるおほむ-かたがたにもいたうおとらず なにごとのぎしきをももてなしたまひけれど とりたててはかばかしきうしろみしなければ ことあるときは なほよりどころなくこころぼそげなり

さきのよにもおほむ-ちぎりやふかかりけむ よになくきよらなるたまのをのこ-みこさへむまれたまひぬ いつしかとこころ-もとながらせたまひて いそぎまゐらせてごらんずるに めづらかなるちごのおほむ-かたちなり

いち-の-みこは うだいじん-の-にようごのおほむ-はらにて よせおもく うたがひなきまうけ-の-きみと よにもて-かしづききこゆれど このおほむ-にほひにはならびたまふべくもあらざりければ おほかたのやむごとなきおほむ-おもひにて このきみをば わたくしものにおもほしかしづきたまふことかぎりなし
はじめよりおしなべてのうへみやづかへしたまふべききはにはあらざりき おぼエいとやむごとなく じやうず-めかしけれど わりなくまつはさせたまふあまりに さるべきおほむ-あそびのをりをり なにごとにもゆゑあることのふしぶしには まづまうのぼらせたまふ あるときにはおほとのごもりすぐして やがてさぶらはせたまひなど あながちにお-まへさらずもてなさせたまひしほどに おのづからかろきかたにもみエしを このみこうまれたまひてのちは いとこころことにおもほし-おきてたれば ばうにも ようせずは このみこのゐたまふべきなめりと いち-の-みこのにようごはおぼし-うたがへり ひとよりさきにまゐりたまひて やむごとなきおほむ-おもひなべてならず みこ-たちなどもおはしませば このおほむ-かたのおほむ-いさめをのみぞ なほわづらはしうこころ-ぐるしうおもひきこエさせたまひける
かしこきみ-かげを-ばたのみきこエながら おとしめきずをもとめたまふひとはおほく わがみはかよわくもの-はかなきありさまにて なかなかなるもの-おもひをぞしたまふ み-つぼねはきりつぼなり あまたのおほむ-かたがたをすぎさせたまひて ひまなきお-まへわたりに ひとのみ-こころをつくしたまふも げにことわりとみエたり まう-のぼりたまふにも あまりうちしきるをりをりは うちはし わたどののここ-かしこのみちに あやしきわざをしつつ おほむ-おくり-むかへのひとのきぬのすそ たへがたく まさなきこともあり またあるときには えさらぬめだうのとをさし-こめ こなた-かなたこころをあはせて はしたなめわづらはせたまふときもおほかり ことにふれてかずしらずくるしきことのみまされば いといたうおもひ-わびたるを いとどあはれとごらんじて こうらうでんにもとよりさぶらひたまふかういのざうしをほかにうつさせたまひて うへつぼねにたまはす そのうらみましてやらむかた-なし

このみこみ-つになりたまふとし おほむ-はかまぎのこといち-の-みやのたてまつりしにおとらず くらづかさ をさめどののものをつくして いみじうせさせたまふ それにつけても よのそしりのみおほかれど このみこのおよすげもて-おはするおほむ-かたちこころばへありがたくめづらしきまでみエたまふを えそねみあへたまはず もののこころしりたまふひとは かかるひともよにいでおはするものなりけり と あさましきまでめをおどろかしたまふ

そのとしのなつ みやすむどころ はかなきここちにわづらひたまひて まかでなむとしたまふを いとまさらにゆるさせたまはず としごろ つねのあづしさになりたまへれば おほむ-めなれて なほしばしこころみよ とのみのたまはするに ひびにおもりたまひて ただいつ-かむゆ-かのほどにいとよわうなれば ははぎみなくなくそうして まかでさせたてまつりたまふ かかるをりにも あるまじきはぢもこそとこころづかひして みこをばとどめたてまつりて しのびてぞいでたまふ
かぎりあれば さのみもえとどめさせたまはず ごらんじだにおくらぬおぼつかなさを いふかたなくおもほさる いとにほひやかにうつくしげなるひとの いたうおもやせて いとあはれとものをおもひしみながら ことにいでてもきこエやらず あるかなきかにきエいりつつものしたまふをごらんずるに きしかたゆくすゑおぼしめされず よろづのことをなくなくちぎりのたまはすれど おほむ-いらへもえきこエたまはず まみなどもいとたゆげにて いとどなよなよと われかのけしきにてふしたれば いかさまにとおぼしめしまどはる てぐるまのせんじなどのたまはせても またいらせたまひて さらにえゆるさせたまはず
 かぎりあらむみちにも おくれ-さきだたじと ちぎらせたまひけるを さりとも うち-すてては えゆきやらじ
とのたまはするを をむなもいといみじと みたてまつりて
 かぎりとてわかるるみちのかなしきに
いかまほしきはいのちなりけり
いとかくおもひたまへましかば
と いきもたエつつ きこエまほしげなることはありげなれど いとくるしげにたゆげなれば かくながら ともかくもならむをごらんじ-はてむとおぼしめすに けふはじむべきいのり-ども さるべきひとびとうけたまはれる こよひよりと きこエいそがせば わりなくおもほしながらまかでさせたまふ
おほむ-むねつとふたがりて つゆまどろまれず あかし-かねさせたまふ おほむ-つかひのゆきかふほどもなきに なほいぶせさをかぎりなくのたまはせつるを よなかうち-すぐるほどになむたエはてたまひぬる とてなきさわげば おほむ-つかひもいとあへなくてかへりまゐりぬ きこしめすみ-こころまどひ なにごともおぼしめし-わかれず こもりおはします
みこは かくてもいとごらんぜまほしけれど かかるほどにさぶらひたまふ れいなきことなれば まかでたまひなむとす なにごとかあらむともおぼしたらず さぶらふひとびとのなきまどひ うへもおほむ-なみだのひまなくながれおはしますを あやしとみたてまつりたまへるを よろしきことにだに かかるわかれのかなしからぬはなきわざなるを ましてあはれにいふかひなし

かぎりあれば れいのさほふにをさめたてまつるを はは-きたのかた おなじけぶりにのぼりなむと なきこがれたまひて おほむ-おくりのにようばうのくるまにしたひのりたまひて おたぎといふところにいといかめしうそのさほふしたるに おはしつきたるここち いかばかりかはありけむ  むなしきおほむ-からをみる-みる なほおはするものとおもふが いとかひなければ はひになりたまはむをみたてまつりて いまはなきひとと ひたぶるにおもひなりなむと さかしうのたまひつれど くるまよりもおちぬべうまろびたまへば さはおもひつかしと ひとびともて-わづらひきこゆ
うちよりおほむ-つかひあり み-つ-の-くらゐおくりたまふよし ちよくしきてそのせんみやうよむなむ かなしきことなりけり にようごとだにいはせずなりぬるが あかずくちをしうおぼさるれば いまひと-きざみのくらゐをだにと おくらせたまふなりけり これにつけてもにくみたまふひとびとおほかり ものおもひ-しりたまふは さまかたちなどのめでたかりしこと こころばせのなだらかにめやすく にくみがたかりしことなど いまぞおぼし-いづる さまあしきおほむ-もてなしゆゑこそ すげなうそねみたまひしか ひとがらのあはれになさけありしみ-こころを うへ-の-にようばうなどもこひしのびあへり なくてぞとは かかるをりにやとみエたり

はかなくひごろすぎて のち-の-わざなどにもこまかにとぶらはせたまふ ほどふるままに せむかたなうかなしうおぼさるるに おほむ-かたがたのおほむ-とのゐなどもたエてしたまはず ただなみだにひちてあかし-くらさせたまへば みたてまつるひとさへつゆけきあきなり  なきあとまで ひとのむねあくまじかりけるひとのおほむ-おぼエかな  とぞ こうきでんなどにはなほゆるしなうのたまひける いち-の-みやをみたてまつらせたまふにも わかみやのおほむ-こひしさのみおもほし-いでつつ したしきにようばう おほむ-めのとなどをつかはしつつ ありさまをきこしめす

のわきだちて にはかにはださむきゆふぐれのほど つねよりもおぼし-いづることおほくて ゆげひ-の-みやうぶといふをつかはす ゆふづくよのをかしきほどにいだしたてさせたまひて やがてながめおはします かうやうのをりは おほむ-あそびなどせさせたまひしに こころ-ことなるもの-の-ねをかき-ならし はかなくきこエいづることのはも ひとよりはことなりしけはひかたちの おもかげにつとそひておぼさるるにも やみ-の-うつつにはなほおとりけり
みやうぶ かしこにま でつきて かどひき-いるるより けはひあはれなり やもめ-ずみなれど ひとひとりのおほむ-かしづきに とかくつくろひ-たてて めやすきほどにてすぐしたまひつる やみにくれてふししづみたまへるほどに くさもたかくなり のわきにいとどあれたるここちして つきかげばかりぞやへむぐらにもさはらずさし-いりたる みなみ-おもてにおろして ははぎみも とみにえものものたまはず
 いままでとまりはべるがいとうきを かかるおほむ-つかひのよもぎふのつゆわけ-いりたまふにつけても いとはづかしうなむ
とて げにえたふまじくないたまふ

  まゐりては いとどこころぐるしう こころぎももつくるやうになむと ないし-の-すけのそうしたまひしを ものおもうたまへしらぬここちにも げにこそいとしのび-がたうはべりけれ
とて ややためらひて おほせごとつたへきこゆ
  しばしはゆめかとのみたどられしを やうやうおもひ-しづまるにしも さむべきかたなくたへがたきは いかにすべきわざにかとも とひ-あはすべきひとだになきを しのびてはまゐりたまひなむや わかみやのいとおぼつかなく つゆけきなかにすぐしたまふも こころぐるしうおぼさるるを とくまゐりたまえ  など はかばかしうものたまはせやらず むせかへらせたまひつつ かつはひともこころ-よわくみたてまつるらむと おぼし-つつまぬにしもあらぬみ-けしきのこころぐるしさに うけたまはりはてぬやうにてなむ まかではべりぬる
とて おほむ-ふみたてまつる
 めもみエはべらぬに かくかしこきおほせごとをひかりにてなむ とて みたまふ
 ほどへばすこしうち-まぎるることもやと まちすぐすつきひにそへて いとしのびがたきはわりなきわざになむ いはけなきひとをいかにとおもひやりつつ もろともにはぐくまぬおぼつかなさを いまは なほむかしのかたみになずらへて ものしたまへ
など こまやかにかかせたまへり
 みやぎののつゆふきむすぶかぜのおとに
こはぎがもとをおもひこそやれ
とあれど えみたまひはてず
 いのちながさの いとつらうおもひたまへしらるるに まつのおもはむことだに はづかしうおもうたまへはべれば ももしきにゆきかひはべらむことは ましていとはばかりおほくなむ かしこきおほせごとをたびたびうけたまはりながら みづからはえなむおもひたまへたつまじき わかみやは いかにおもほししるにか まゐりたまはむことをのみなむおぼし-いそぐめれば ことわりにかなしうみたてまつりはべるなど うちうちにおもうたまふるさまをそうしたまへ ゆゆしきみにはべれば かくておはしますも いまいましうかたじけなくなむ
とのたまふ みやはおほとのごもりにけり
 みたてまつりて くはしうみ-ありさまもそうしはべらまほしきを まちおはしますらむに よふけはべりぬべし とていそぐ
 くれ-まどふこころ-の-やみもたへがたきかたはしをだに はるくばかりにきこエまほしうはべるを わたくしにもこころのどかにまかでたまへ としごろ うれしくおもだたしきついでにてたちよりたまひしものを かかるおほむ-せうそこにてみたてまつる かへすがへすつれなきいのちにもはべるかな
うまれしときより おもふこころありしひとにて こ-だいなごん いまはとなるまで ただ このひとのみやづかへのほ い かならずとげさせたてまつれ われなくなりぬとて くちをしうおもひくづほるなと かへすがへすいさめ-おかれはべりしかば はかばかしううしろみおもふひともなきまじらひは なかなかなるべきこととおもひたまへながら ただかのゆいごんをたがへじとばかりに いだし-たてはべりしを みにあまるまでのみ-こころざしの よろづにかたじけなきに ひとげなきはぢをかくしつつ まじらひたまふめりつるを ひとのそねみふかくつもり やすからぬことおほくなりそひはべりつるに よこさまなるやうにて つひにかくなりはべりぬれば かへりてはつらくなむ かしこきみ-こころざしをおもひたまへられはべる これもわりなきこころ-の-やみになむ
と いひもやらずむせかへりたまふほどに よもふけぬ
 うへもしかなむ  わがみ-こころながら あながちにひとめおどろくばかりおぼされしも ながかるまじきなりけりと いまはつらかりけるひと-の-ちぎりになむ よにいささかもひとのこころをまげたることはあらじとおもふを ただこのひとのゆゑにて あまたさるまじきひとのうらみをおひしはてはては かううち-すてられて こころをさめむかたなきに いとどひとわろうかたくなになりはつるも さき-の-よゆかしうなむ とうち-かへしつつ おほむ-しほたれがちにのみおはします とかたりてつきせず なくなく よいたうふけぬれば こよひすぐさず おほむ-かへりそうせむ といそぎまゐる
つきはいりがたの そらきようすみ-わたれるに かぜいとすずしくなりて くさむらのむしのこゑごゑもよほし-がほなるも いとたちはなれにくきくさのもとなり
 すずむしのこゑのかぎりをつくしても
ながきよあかずふるなみだかな
えものり-やらず
 いとどしくむしのねしげきあさぢふに
つゆおきそふるくものうへびと
かごともきこエつべくなむ
といはせたまふ をかしきおほむ-おくりものなどあるべきをりにもあらねば ただかのおほむ-かたみにとて かかるようもやとのこしたまへりけるおほむ-さうぞくひと-くだり み-ぐしあげのてうど-めくものそへたまふ
わかきひとびと かなしきことはさらにもいはず うちわたりをあさゆふにならひて いとさうざうしく うへのおほむ-ありさまなどおもひ-いできこゆれば とくまゐりたまはむことをそそのかしきこゆれど かくいまいましきみのそひたてまつらむも いとひとぎきうかるべし また みたてまつらでしばしもあらむは いとうしろめたう おもひきこエたまひて すがすがともえまゐらせたてまつりたまはぬなりけり

みやうぶは まだおほとのごもらせたまはざりける と あはれにみたてまつる お-まへのつぼせんざいのいとおもしろきさかりなるをごらんずるやうにて しのびやかにこころにくきかぎりのにようばうし ご-にんさぶらはせたまひて おほむ-ものがたりせさせたまふなりけり このごろ あけくれごらんずるちやうごんかのおほむ-ゑ ていじ-の-ゐんのかかせたまひて いせ つらゆきによませたまへる やまと-ことのはをも もろこしのうたをも ただそのすぢをぞ まくらごとにせさせたまふ いとこまやかにありさまとはせたまふ あはれなりつることしのびやかにそうす おほむ-かへりごらんずれば
 いともかしこきはおきどころもはべらず かかるおほせごとにつけても かき-くらすみだりごこちになむ
あらきかぜふせぎしかげのかれしより
こはぎがうへぞしづごころなき 

などやうにみだりがはしきを こころをさめざりけるほどとごらんじゆるすべし いとかうしもみエじと おぼししづむれど さらにえしのびあへさせたまはず ごらんじはじめしとしつきのことさへかきあつめ よろづにおぼしつづけられて ときのまもおぼつかなかりしを かくてもつきひはへにけりと あさましうおぼしめさる
 こ-だいなごんのゆいごんあやまたず みやづかへのほ いふかくものしたりしよろこびは かひあるさまにとこそおもひわたりつれ いふかひなしや  とうち-のたまはせて いとあはれにおぼし-やる  かくても おのづからわかみやなどおひ-いでたまはば さるべきついでもありなむ いのちながくとこそおもひ-ねんぜめ
などのたまはす かのおくりものごらんぜさす  なきひとのすみかたづね-いでたりけむしるしのかむざしならましかば とおもほすもいとかひなし
 たづねゆくまぼろしもがなつてにても
たまのありかをそことしるべく
ゑにかけるやうきひのかたちは いみじきゑしといへども ふでかぎりありければいとにほひすくなし  たいえき-の-ふようびやう-の-やなぎ も げにかよひたりしかたちを からめいたるよそひはうるはしうこそありけめ なつかしうらうたげなりしをおぼし-いづるに はなとりのいろにもねにもよそふべきかたぞなき あさゆふのこと-ぐさに はねをならべ えだをかはさむ とちぎらせたまひしに かなはざりけるいのちのほどぞ つきせずうらめしき
かぜのおと むしのねにつけて もののみかなしうおぼさるるに こうきでんには ひさしくうへ-の-み-つぼねにもまうのぼりたまはず つきのおもしろきに よふくるまであそびをぞしたまふなる いとすさまじう ものしときこしめす このごろのみ-けしきをみたてまつるうへびと にようばうなどは かたはらいたしとききけり いとおしたちかどかどしきところものしたまふおほむ-かたにて ことにもあらずおぼし-けちてもてなしたまふなるべし つきもいりぬ
 くものうへもなみだにくるるあきのつき
いかですむらむあさぢふのやど
おぼしめし-やりつつ ともしびをかかげ-つくしておきおはします うこん-の-つかさのとのゐまうしのこゑきこゆるは うしになりぬるなるべし ひとめをおぼして よるのおとどにいらせたまひても まどろませたまふことかたし あしたにおきさせたまふとても あくるもしらで とおぼし-いづるにも なほあさまつりごとはおこたらせたまひぬべか めり
ものなどもきこしめさず あさがれひのけしきばかりふれさせたまひて だいしやうじのお-ものなどは いとはるかにおぼしめしたれば はいぜんにさぶらふかぎりは こころぐるしきみ-けしきをみたてまつりなげく すべて ちかうさぶらふかぎりは をとこをむな いとわりなきわざかな  といひあはせつつなげく  さるべきちぎりこそはおはしましけめ そこらのひとのそしり うらみをもはばからせたまはず このおほむ-ことにふれたることをば だうりをもうしなはせたまひ いまはた かくよのなかのことをも おもほし-すてたるやうになり-ゆくは いとたいだいしきわざなりと ひと-の-みかどのためしまでひき-いで ささめきなげきけり

つきひへて わかみやまゐりたまひぬ いとどこのよのものならずきよらにおよすげたまへれば いとゆゆしうおぼしたり
あくる-としのはる ばうさだまりたまふにも いとひきこさまほしうおぼせど おほむ-うしろみすべきひともなく またよのうけひくまじきことなりければ なかなかあやふくおぼし-はばかりて いろにもいださせたまはずなりぬるを さばかりおぼしたれど かぎりこそありけれと よひともきこエ にようごもみ-こころおち-ゐたまひぬ
かのおほむ-おばきたのかた なぐさむかたなくおぼし-しづみて おはすらむところにだにたづねゆかむとねがひたまひししるしにや つひにうせたまひぬれば またこれをかなしび-おぼすことかぎりなし みこむ-つになりたまふとしなれば このたびはおぼし-しりてこひ-なきたまふ とし-ごろなれ-むつびきこエたまひつるを みたてまつりおくかなしびをなむ かへすがへすのたまひける

いまはうちにのみさぶらひたまふ なな-つになりたまへば ふみはじめなどせさせたまひて よにしらずさとうかしこくおはすれば あまりおそろしきまでごらんず
 いまはたれもたれもえにくみたまはじ ははぎみなくてだにらうたうしたまへ とて こうきでんなどにもわたらせたまふおほむ-ともには やがてみ-すのうちにいれたてまつりたまふ いみじきもののふ あたかたきなりとも みてはうち-ゑまれぬべきさまのしたまへれば えさし-はなちたまはず をむな-みこ-たちふた-ところ このおほむ-はらにおはしませど なずらひたまふべきだにぞなかりける おほむ-かたがたもかくれたまはず いまよりなまめかしうはづかしげにおはすれば いとをかしううちとけぬあそびぐさに たれもたれもおもひきこエたまへり
わざとのご-がくもんはさるものにて ことふえのねにもくもゐをひびかし すべていひ-つづけば ことごとしう うたてぞなりぬべきひとのおほむ-さまなりける

そのころ こまうどのまゐれるなかに かしこきさうにんありけるをきこしめして みやのうちにめさむことは うだ-の-みかどのおほむ-いましめあれば いみじうしのびて このみこをこうろくわんにつかはしたり おほむ-うしろみだちてつかうまつるうだいべんのこのやうにおもはせてゐてたてまつるに さうにんおどろきて あまたたびかたぶきあやしぶ

 くにのおやとなりて ていわうのかみなきくらゐにのぼるべきさうおはしますひとの そなたにてみれば みだれうれふることやあらむ おほやけのかためとなりて あめのしたをたすくるかたにてみれば またそのさうたがふべし といふ
べんも いとざえかしこきはかせにて いひ-かはしたること-どもなむ いときようありける ふみなどつくりかはして けふあすかへり-さりなむとするに かくありがたきひとにたいめんしたるよろこび かへりてはかなしかるべきこころばへをおもしろくつくりたるに みこもいとあはれなるくをつくりたまへるを かぎりなうめでたてまつりて いみじきおくりもの-どもをささげたてまつる おほやけよりもおほくのものたまはす
おのづからことひろごりて もらさせたまはねど とうぐうのおほぢおとどなど いかなることにかとおぼし-うたがひてなむありける
みかど かしこきみ-こころに やまとさうをおほせて おぼしよりにけるすぢなれば いままでこのきみをみこにもなさせたまはざりけるを さうにんはまことにかしこかりけり とおぼして む-ほん-の-しんわうのげしやくのよせなきにてはただよはさじ わがみ-よもいとさだめなきを ただうどにておほやけのおほむ-うしろみをするなむ ゆくさきもたのもしげな めること とおぼし-さだめて いよいよみちみちのざえをならはさせたまふ
きはことにかしこくて ただうどにはいとあたらしけれど みことなりたまひなば よのうたがひおひたまひぬべくものしたまへば すくエうのかしこきみちのひとにかむがへさせたまふにも おなじさまにまうせば げんじになしたてまつるべくおぼし-おきてたり

としつきにそへて みやすむどころのおほむ-ことをおぼし-わするるをりなし  なぐさむや と さるべきひとびとまゐらせたまへど なずらひにおぼさるるだにいとかたきよかな と うとましうのみよろづにおぼし-なりぬるに せんだいのし-の-みやの おほむ-かたちすぐれたまへるきこエたかくおはします はは-ぎさきよになくかしづききこエたまふを うへにさぶらふないし-の-すけは せんだいのおほむ-ときのひとにて かのみやにもしたしうまゐりなれたりければ いはけなくおはしまししときよりみたてまつり いまもほの-みたてまつりて うせたまひにしみやすむどころのおほむ-かたちににたまへるひとを さむ-だいのみやづかへにつたはりぬるに えみたてまつりつけぬを きさい-の-みやのひめみやこそいとようおぼエておひ-いでさせたまへりけれ ありがたきおほむ-かたちびとになむ とそうしけるに まことにや と み-こころとまりて ねむごろにきこエさせたまひけり
はは-ぎさき あなおそろしや とうぐう-の-にようごのいとさがなくて きりつぼ-の-かういの あらはにはかなくもてなされにしためしもゆゆしうと おぼし-つつみて すがすがしうもおぼし-たたざりけるほどに きさきもうせたまひぬ
こころ-ぼそきさまにておはしますに ただ わがをむなみこ-たちのおなじつらにおもひきこエむと いとねむごろにきこエさせたまふ さぶらふひとびと おほむ-うしろみ-たち おほむ-せうとのひやうぶきやう-の-みこなど かくこころぼそくておはしまさむよりは うちずみせさせたまひて み-こころもなぐさむべく などおぼし-なりて まゐらせたてまつりたまへり
ふぢつぼときこゆ げに おほむ-かたちありさまあやしきまでぞおぼエたまへる これは ひとのおほむ-きはまさりて おもひなしめでたく ひともえおとしめきこエたまはねば うけばりてあかぬことなし かれは ひとのゆるしきこエざりしに み-こころざしあやにくなりしぞかし おぼし-まぎるとはなけれど おのづからみ-こころうつろひて こよなうおぼし-なぐさむやうなるも あはれなるわざなりけり

げんじ-の-きみは おほむ-あたりさりたまはぬを ましてしげくわたらせたまふおほむ-かたは えはぢ-あへたまはず いづれのおほむ-かたも われひとにおとらむとおぼいたるやはある とりどりにいとめでたけれど うち-おとなびたまへるに いとわかううつくしげにて せちにかくれたまへど おのづからもりみたてまつる
はは-みやすむどころも かげだにおぼエたまはぬを いとようにたまへりと ないし-の-すけのきこエけるを わかきみ-ここちにいとあはれとおもひきこエたまひて つねにまゐらまほしく なづさひみたててまつらばや  とおぼエたまふ
うへもかぎりなきおほむ-おもひどちにて なうとみたまひそ あやしくよそへきこエつべきここちなむする なめしとおぼさで らうたくしたまへ つらつき まみなどは いとようにたりしゆゑ かよひてみエたまふも にげなからずなむ などきこエつけたまへれば をさなごこちにも はかなきはなもみぢにつけてもこころざしをみエたてまつる こよなうこころ-よせきこエたまへれば こうきでん-の-にようご またこのみやともおほむ-なかそばそばしきゆゑ うち-そへてもとよりのにくさもたち-いでて ものしとおぼしたり
よにたぐひなしとみたてまつりたまひ なだかうおはするみやのおほむ-かたちにも なほにほはしさはたとへむかたなく うつくしげなるを よのひと ひかる-きみ ときこゆ ふぢつぼならびたまひて おほむ-おぼエもとりどりなれば かかやく-ひのみや ときこゆ

このきみのおほむ-わらはすがた いとかへ-ま-うくおぼせど じふ-ににておほん-げんぷくしたまふ ゐ-たちおぼし-いとなみて かぎりあることにことをそへさせたまふ

ひととせのとうぐうのおほん-げんぷく なでんにてありしぎしき よそほしかりしおほむ-ひびきにおとさせたまはず ところどころのきやうなど くらづかさ こくさうゐんなど おほやけごとにつかうまつれる おろそかなることもぞと とりわきおほせごとありて きよらをつくしてつかうまつれり
おはします-でんのひむがしのひさし ひむがし-むきにいしたてて くわんざのご-ざ ひきいれ-の-おとどのご-ざ お-まへにあり さるのときにてげんじまゐりたまふ みづらゆひたまへるつらつき かほのにほひ さまかへたまはむことをしげなり おほくらきやう くらびとつかうまつる いときよらなるみ-ぐしをそぐほど こころぐるしげなるを うへは みやすむどころのみましかばと おぼし-いづるに たへがたきを こころ-づよくねんじ-かへさせたまふ
かうぶりしたまひて おほむ-やすみどころにまかでたまひて おほむ-ぞたてまつり-かへて おりてはいしたてまつりたまふさまに みなひとなみだおとしたまふ みかどはた ましてえしのび-あへたまはず おぼし-まぎるるをりもありつるむかしのこと とりかへしかなしくおぼさる いとかうきびはなるほどは あげおとりやとうたがはしくおぼされつるを あさましううつくしげさそひたまへり
ひきいれ-の-おとどのみこ-ばらにただひとりかしづきたまふおほむ-むすめ とうぐうよりもみ-けしきあるを おぼし-わづらふことありける このきみにたてまつらむのみ-こころなりけり うちにも み-けしきたまはらせたまへりければ さらば このをりのうしろみなか めるを そひぶしにも ともよほさせたまひければ さおぼしたり
さぶらひにまかでたまひて ひとびとおほみきなどまゐるほど みこ-たちのおほむ-ざのすゑにげんじつきたまへり おとどけしきばみきこエたまふことあれど もののつつましきほどにて ともかくもあへ-しらひきこエたまはず
お-まへより ないし せんじうけたまはりつたへて おとどまゐりたまふべきめしあれば まゐりたまふ おほむ-ろくのもの うへ-の-みやうぶとりてたまふ しろきおほうちきにおほむ-ぞひと-くだり れいのことなり
おほむ-さかづきのついでに
 いときなきはつ-もとゆひにながきよを
ちぎるこころはむすびこめつや
み-こころばへありて おどろかさせたまふ
 むすびつるこころもふかきもとゆひに
こきむらさきのいろしあせずは
とそうして ながはしよりおりてぶたふしたまふ
ひだり-の-つかさのおほむ-むま くらうど-どころのたかすゑてたまはりたまふ み-はしのもとにみこ-たちかむだちめつらねて ろく-どもしなじなにたまはりたまふ
そのひのお-まへのをりびつもの こものなど う-だいべんなむうけたまはりてつかうまつらせける とんじき ろくのからびつ-どもなど ところせきまで とうぐうのおほん-げんぷくのをりにもかずまされり なかなかかぎりもなくいかめしうなむ

そのよ おとどのおほむ-さとにげんじ-の-きみまかでさせたまふ さほふよにめづらしきまで もて-かしづききこエたまへり いときびはにておはしたるを ゆゆしううつくしとおもひきこエたまへり をむなぎみはすこしすぐしたまへるほどに いとわかうおはすれば にげなくはづかしとおぼいたり
このおとどのおほむ-おぼエいとやむごとなきに ははみや うちのひと-つ-きさいばらになむおはしければ いづかたにつけてもいとはなやかなるに このきみさへかくおはしそひぬれば とうぐうのおほむ-おほぢにて つひによのなかをしりたまふべきみぎ-の-おとどのおほむ-いきほいは ものにもあらずおされたまへり
みこ-どもあまたはらばらにものしたまふ みやのおほむ-はらは くらうど-の-せうしやうにていとわかうをかしきを みぎ-の-おとどの おほむ-なかはいとよからねど えみ-すぐしたまはで かしづきたまふし-の-きみにあはせたまへり おとらずもて-かしづきたるは あらまほしきおほむ-あはひ-どもになむ
げんじ-の-きみは うへのつねにめし-まつはせば こころ-やすくさとずみもえしたまはず こころのうちには ただふぢつぼのおほむ-ありさまを たぐひなしとおもひきこエて さやうならむひとをこそみめ にるひとなくもおはしけるかな おほいどの-の-きみ いとをかしげにかしづかれたるひととはみゆれど こころにもつかず おぼエたまひて をさなきほどのこころひと-つにかかりて いとくるしきまでぞおはしける

おとなになりたまひてのちは ありしやうにみ-すのうちにもいれたまはず おほむ-あそびのをりをり ことふえのねにきこエかよひ ほのかなるおほむ-こゑをなぐさめにて うちずみのみこのましうおぼエたまふ いつ-かむゆ-かさぶらひたまひて おほいどのにふつ-かみ-かなど たエだエにまかでたまへど ただいまは をさなきおほむ-ほどに つみなくおぼし-なして いとなみかしづききこエたまふ
おほむ-かたがたのひとびと よのなかにおしなべたらぬをえりととのへすぐりてさぶらはせたまふ み-こころにつくべきおほむ-あそびをし おほなおほなおぼしいたつく
うちには もとのしげいさをおほむ-ざうしにて はは-みやすむどころのおほむ-かたのひとびとまかでちらずさぶらはせたまふ
さとのとのは すり-しき たくみ-づかさにせんじくだりて になうあらためつくらせたまふ もとのこだち やまのたたずまひ おもしろきところなりけるを いけのこころひろくしなして めでたくつくりののしる
 かかるところにおもふやうならむひとをすゑてすまばや  とのみ なげかしうおぼしわたる
 ひかる-きみといふなは こまうどのめできこエてつけたてまつりける とぞ いひつたへたるとなむ

ひかる-げんじ なのみことことしう いひけたれたまふとがおほかなるに いとど かかるすきごと-どもを すゑのよにもききつたへて かろびたるなをやながさむと しのびたまひけるかくろへごとをさへ かたりつたへけむひとのものいひさがなさよ さるは いといたくよをはばかり まめだちたまひけるほど なよびかにをかしきことはなくて かたの-の-せうしやうにはわらはれたまひけむかし
まだちうじやうなどにものしたまひしときは うちにのみさぶらひようしたまひて おほいどのにはたエだエまかでたまふ しのぶのみだれやと うたがひきこゆることもありしかど さしもあだめきめなれたるうちつけのすきずきしさなどはこのましからぬご-ほんしやうにて まれには あながちにひきたがへこころづくしなることを み-こころにおぼし-とどむるくせなむ あやにくにて さるまじきおほむ-ふるまひもうち-まじりける

ながあめはれまなきころ うちのおほむ-ものいみさしつづきて いとどながゐさぶらひたまふを おほいどのにはおぼつかなくうらめしくおぼしたれど よろづのおほむ-よそひなにくれとめづらしきさまにてうじ-いでたまひつつ おほむ-むすこのきみたちただこのおほむ-とのゐどころのみやづかへをつとめたまふ
みやばらのちうじやうは なかにしたしくなれきこエたまひて あそびたはぶれをもひとよりはこころやすく なれなれしくふるまひたり みぎ-の-おとどのいたはりかしづきたまふすみかは このきみもいとものうくして すきがましきあだびとなり
さとにても わがかたのしつらひまばゆくして きみのいでいりしたまふにうちつれきこエたまひつつ よるひる がくもんをもあそびをももろともにして をさをさたちおくれず いづくにてもまつはれきこエたまふほどに おのづからかしこまりもえおかず こころのうちにおもふことをもかくしあへずなむ むつれきこエたまひける

つれづれとふりくらして しめやかなるよひのあめに てんじやうにもをさをさひとずくなに おほむ-とのゐどころもれいよりはのどやかなるここちするに おほとなぶらちかくてふみ-どもなどみたまふ ちかきみづしなるいろいろのかみなるふみ-どもひきいでて ちうじやうわりなくゆかしがれば
さりぬべき すこしはみせむ かたはなるべきもこそ
と ゆるしたまはねば
そのうちとけてかたはらいたしとおぼされむこそゆかしけれ おしなべたるおほかたのは かずならねど ほどほどにつけて かきかはしつつもみはべりなむ おのがじし うらめしきをりをり まちがほならむゆふぐれなどのこそ みどころはあらめ
とゑんずれば やむごとなくせちにかくしたまふべきなどは かやうにおほぞうなるみづしなどにうちおきちらしたまふべくもあらず ふかくとりおきたまふべかめれば にのまちのこころやすきなるべし かたはし-づつみるに かくさまざまなるもの-どもこそはべりけれ とて こころあてにそれか かれか などとふなかに いひあつるもあり もてはなれたることをもおもひよせてうたがふも をかしとおぼせど ことずくなにて とかくまぎらはしつつ とりかくしたまひつ
そこにこそおほくつどへたまふらめ すこしみばや さてなむ このづしもこころよくひらくべき とのたまへば
ごらんじ-どころあらむこそ かたくはべらめ などきこエたまふついでに をむなの これはしもとなんつくまじきは かたくもあるかなと やうやうなむみたまへしる ただうはべばかりのなさけに てはしりかき をりふしのいらへこころえて うち-しなどばかりは ずいぶんによろしきもおほかりとみたまふれど そもまことにそのかたをとりいでむえらびにかならずもるまじきは いとかたしや わがこころえたることばかりを おのがじしこころをやりて ひとをばおとしめなど かたはらいたきことおほかり
おやなどたちそひもてあがめて おひさきこもれるまどのうちなるほどは ただかたかどをききつたへて こころをうごかすこともあめり かたちをかしくうちおほどき わかやかにてまぎるることなきほど はかなきすさびをも ひとまねにこころをいるることもあるに おのづから ひとつゆゑづけてしいづることもあり
みるひと おくれたるかたをばいひかくし さてありぬべきかたをばつくろひて まねびいだすに それ しかあらじと そらにいかがはおしはかりおもひくたさむ まことかとみもてゆくに みおとりせぬやうは なくなむあるべき
と うめきたるけしきもはづかしげなれば いとなべてはあらねど われおぼし-あはすることやあらむ うち-ほほゑみて
その かたかどもなきひとは あらむや とのたまへば
いと さばかりならむあたりには たれかはすかされよりはべらむ とるかたなくくちをしききはと いうなりとおぼゆばかりすぐれたるとは かずひとしくこそはべらめ ひとのしなたかくむまれぬれば ひとにもて-かしづかれて かくるることおほく じねんにそのけはひこよなかるべし なかのしなになむ ひとのこころごころ おのがじしのたてたるおもむきもみエて わかるべきことかたがたおほかるべき しものきざみといふきはになれば ことにみみたたずかし
とて いとくまなげなるけしきなるも ゆかしくて
そのしなじなや いかに いづれをみつのしなにおきてかわくべき もとのしなたかくむまれながら みはしづみ くらゐみじかくてひとげなき またなほびとのかむだちめなどまでなりのぼり われはがほにていへのうちをかざり ひとにおとらじとおもへる そのけぢめをば いかがわくべき
ととひたまふほどに ひだり-の-むまのかみ とう-しきぶのじよう おほむ-ものいみにこもらむとてまゐれり よのすきものにてものよくいひとほれるを ちうじやうまちとりて このしなじなをわきまへさだめあらそふ いとききにくきことおほかり

なりのぼれども もとよりさるべきすぢならぬは よひとのおもへることも さはいへど なほことなり また もとはやむごとなきすぢなれど よにふるたづきすくなく ときよにうつろひて おぼエおとろへぬれば こころはこころとしてことたらず わろびたること-どもいでくるわざなめれば とりどりにことわりて なかのしなにぞおくべき
ずりやうといひて ひとのくにのことにかかづらひいとなみて しなさだまりたるなかにも またきざみ-きざみありて なかのしなのけしうはあらぬ えりいでつべきころほひなり なまなまのかむだちめよりもひ-さむぎのしゐ-どもの よのおぼエくちをしからず もとのねざしいやしからぬ やすらかにみをもてなしふるまひたる いとかはらかなりや
いへのうちにたらぬことなど はたなかめるままに はぶかずまばゆきまでもて-かしづけるむすめなどの おとしめ-がたくおひいづるもあまたあるべし みやづかへにいでたちて おもひかけぬさいはひとりいづるためし-どもおほかりかし などいへば
すべて にぎははしきによるべきななり とて わらひたまふを
ことひとのいはむやうに こころえずおほせらると ちうじやうにくむ
もとのしな ときよのおぼエうちあひ やむごとなきあたりのうちうちのもてなしけはひおくれたらむは さらにもいはず なにをしてかくおひいでけむと いふかひなくおぼゆべし うちあひてすぐれたらむもことわり これこそはさるべきこととおぼエて めづらかなることとこころもおどろくまじ なにがしがおよぶべきほどならねば かみがかみはうちおきはべりぬ
さて よにありとひとにしられず さびしくあばれたらむむぐらのかどに おもひのほかにらうたげならむひとのとぢられたらむこそ かぎりなくめづらしくはおぼエめ いかで はたかかりけむと おもふよりたがへることなむ あやしくこころとまるわざなる
ちちのとしおイ もの-むつかしげにふとりすぎ せうとのかほにくげに おもひやりことなることなきねやのうちに いといたくおもひあがり はかなくしいでたることわざも ゆゑなからずみエたらむ かたかどにても いかがおもひのほかにをかしからざらむ
すぐれてきずなきかたのえらびにこそおよばざらめ さるかたにてすて-がたきものをは
とて しきぶをみやれば わがいもうと-どものよろしききこエあるをおもひてのたまふにや とやこころうらむ ものもいはず
いでや かみのしなとおもふにだにかたげなるよをと きみはおぼすべし しろきおほむ-ぞ-どものなよらかなるに なほしばかりをしどけなくきなしたまひて ひもなどもうちすてて そひふしたまへるおほむ-ほかげ いとめでたく をむなにてみたてまつらまほし このおほむ-ためにはかみがかみをえりいでても なほあくまじくみエたまふ
さまざまのひとのうへ-どもをかたりあはせつつ
おほかたのよにつけてみるにはとがなきも わがものとうちたのむべきをえらむに おほかるなかにも えなむおもひさだむまじかりける をのこのおほやけにつかうまつり はかばかしきよのかためとなるべきも まことのうつはものとなるべきをとりいださむには かたかるべしかし されど かしこしとても ひとりふたりよのなかをまつりごちしるべきならねば かみはしもにたすけられ しもはかみになびきて ことひろきにゆづろふらむ
せばきいへのうちのあるじとすべきひとひとりをおもひ-めぐらすに たらはであしかるべきだいじ-どもなむ かたがたおほかる とあれば-かかり あふさきるさにて なのめにさてもありぬべきひとのすくなきを すきずきしきこころのすさびにて ひとのありさまをあまたみあはせむのこのみならねど ひとへにおもひさだむべきよるべとすばかりに おなじくは わがちからいりをしなほしひきつくろふべきところなく こころにかなふやうにもやと えりそめつるひとの さだまり-がたきなるべし
かならずしもわがおもふにかなはねど みそめつるちぎりばかりをすて-がたくおもひとまるひとは ものまめやかなりとみエ さて たもたるるをむなのためも こころにくくおしはからるるなり されど なにか よのありさまをみたまへあつむるままに こころにおよばずいとゆかしきこともなしや きむだちのかみなきおほむ-えらびには まして いかばかりのひとかはたらひたまはむ
かたちきたなげなく わかやかなるほどの おのがじしはちりもつかじとみをもてなし ふみをかけど おほどかにことえりをし すみつきほのかにこころもとなくおもはせつつ またさやかにもみてしがなとすべなくまたせ わづかなるこゑきくばかりいひよれど いきのしたにひきいれことずくななるが いとよくもてかくすなりけり なよびかにをむなしとみれば あまりなさけにひきこめられて とりなせば あだめく これをはじめのなんとすべし
ことがなかに なのめなるまじきひとのうしろみのかたは もののあはれしりすぐし はかなきついでのなさけあり をかしきにすすめるかたなくてもよかるべしとみエたるに また まめまめしきすぢをたててみみはさみがちにびさうなきいへとうじの ひとへにうちとけたるうしろみばかりをして
あさゆふのいでいりにつけても おほやけわたくしのひとのたたずまひ よきあしきことの めにもみみにもとまるありさまを うときひとに わざとうち-まねばむやは ちかくてみむひとのききわきおもひしるべからむにかたりもあはせばやと うちもゑまれ なみだもさしぐみ もしは あやなきおほやけ-はらだたしく こころひとつにおもひあまることなどおほかるを なににかはきかせむとおもへば うち-そむかれて ひとしれぬおもひいでわらひもせられ あはれとも うち-ひとりごたるるに なにごとぞ など あはつかにさし-あふぎゐたらむは いかがはくちをしからぬ
ただひたふるにこめきてやはらかならむひとを とかくひき-つくろひてはなどかみざらむ こころもとなくとも なほし-どころあるここちすべし げに さしむかひてみむほどは さてもらうたきかたにつみゆるしみるべきを たち-はなれてさるべきことをもいひやり をりふしにしいでむわざのあだごとにもまめごとにも わがこころとおもひ-うることなくふかきいたりなからむは いとくちをしくたのもしげなきとがや なほくるしからむ つねはすこしそばそばしくこころづきなきひとの をりふしにつけていでばエするやうもありかし
など くまなきものいひも さだめかねていたくうち-なげく

いまは ただ しなにもよらじ かたちをばさらにもいはじ いとくちをしくねぢけがましきおぼエだになくは ただひとへにもの-まめやかに しづかなるこころのおもむきならむよるべをぞ つひのたのみ-どころにはおもひおくべかりける あまりのゆゑよしこころばせうち-そへたらむをば よろこびにおもひ すこしおくれたるかたあらむをも あながちにもとめくはへじ うしろやすくのどけきところだにつよくは うはべのなさけは おのづからもてつけつべきわざをや
えんにものはぢして うらみいふべきことをもみしらぬさまにしのびて うへはつれなくみさをづくり こころひとつにおもひあまるときは いはむかたなくすごきことのは あはれなるうたをよみおき しのばるべきかたみをとどめて ふかきやまざと よ-ばなれたるうみづらなどにはひ-かくれぬるをり
わらはにはべりしとき にようばうなどのものがたりよみしをききて いとあはれにかなしく こころふかきことかなと なみだをさへなむおとしはべりし いまおもふには いとかるがるしく ことさらびたることなり こころざしふかからむをとこをおきて みるめのまへにつらきことありとも ひとのこころをみしらぬやうににげ-かくれて ひとをまどはし こころをみむとするほどに ながきよのもの-おもひになる いとあぢきなきことなり こころふかしや など ほめ-たてられて あはれすすみぬれば やがてあまになりぬかし おもひたつほどは いとこころすめるやうにて よにかへりみすべくもおもへらず いで あなかなし かくはたおぼしなりにけるよ などやうに あひしれるひときとぶらひ ひたすらにうしともおもひはなれぬをとこ ききつけてなみだおとせば つかふひと ふるごたちなど きみのみこころは あはれなりけるものを あたらおほむ-みを などいふ みづからひたひがみをかき-さぐりて あへなくこころぼそければ うち-ひそみぬかし しのぶれどなみだこぼれ-そめぬれば をりをりごとにえねんじえず くやしきことおほかめるに ほとけもなかなかこころぎたなしと みたまひつべし にごりにしめるほどよりも なまうかびにては かへりてあしきみちにもただよひぬべくぞおぼゆる たエぬすくせあさからで あまにもなさでたづねとりたらむも やがてあひそひて とあらむをりもかからむきざみをも みすぐしたらむなかこそ ちぎりふかくあはれならめ われもひとも うしろめたくこころおかれじやは
また なのめにうつろふかたあらむひとをうらみて けしきばみそむかむ はたをこがましかりなむ こころはうつろふかたありとも みそめしこころざしいとほしくおもはば さるかたのよすがにおもひてもありぬべきに さやうならむたぢろきに たエぬべきわざなり
すべて よろづのことなだらかに ゑんずべきことをばみしれるさまにほのめかし うらむべからむふしをもにくからずかすめ-なさば それにつけて あはれもまさりぬべし おほくは わがこころもみるひとからをさまりもすべし あまりむげにうち-ゆるべみはなちたるも こころやすくらうたきやうなれど おのづからかろきかたにぞおぼエはべるかし つながぬふねのうきたるためしも げにあやなし さははべらぬか
といへば ちうじやううなづく
さしあたりて をかしともあはれともこころにいらむひとの たのもしげなきうたがひあらむこそ だいじなるべけれ わがこころあやまちなくてみすぐさば さしなほしてもなどかみざらむとおぼエたれど それさしもあらじ ともかくも たがふべきふしあらむを のどやかにみしのばむよりほかに ますことあるまじかりけり
といひて わがいもうとのひめぎみは このさだめにかなひたまへりとおもへば きみのうち-ねぶりて ことばまぜたまはぬを さうざうしくこころやましとおもふ むまのかみ もの-さだめのはかせになりて ひひらきゐたり ちうじやうは このことわりききはてむと こころいれて あへしらひゐたまへり
よろづのことによそへておぼせ きのみちのたくみのよろづのものをこころにまかせてつくり-いだすも りんじのもて-あそびものの そのものとあともさだまらぬは そばつきさればみたるも げにかうもしつべかりけりと ときにつけつつさまをかへて いまめかしきにめうつりてをかしきもあり だいじとして まことにうるはしきひとのてうどのかざりとする さだまれるやうあるものをなんなくし-いづることなむ なほまことのもの-の-じやうずは さまことにみエわかれはべる
またゑどころにじやうずおほかれど すみがきにえらばれて つぎつぎにさらにおとりまさるけぢめ ふとしもみエわかれず かかれど ひとのみおよばぬほうらい-の-やま あらうみのいかれるいをのすがた からくにのはげしきけだもののかたち めにみエぬおにのかほなどの おどろおどろしくつくりたるものは こころにまかせてひときはめおどろかして じちにはにざらめど さてありぬべし
よのつねのやまのたたずまひ みづのながれ めにちかきひとのいへゐありさま げにとみエ なつかしくやはらいだるかたなどをしづかにかきまぜて すくよかならぬやまのけしき こぶかくよばなれてたたみ-なし けぢかきまがきのうちをば そのこころしらひおきてなどをなむ じやうずはいといきほひことに わろものはおよばぬところおほかめる
てをかきたるにも ふかきことはなくて ここかしこの てんながにはしりかき そこはかとなくけしきばめるは うち-みるにかどかどしくけしきだちたれど なほまことのすぢをこまやかにかきえたるは うはべのふできエてみゆれど いまひとたびとりならべてみれば なほじちになむよりける
はかなきことだにかくこそはべれ ましてひとのこころの ときにあたりてけしきばめらむみるめのなさけをば えたのむまじくおもうたまへえてはべる そのはじめのこと すきずきしくともまうしはべらむ
とて ちかくゐよれば きみもめさましたまふ ちうじやういみじくしんじて つらづえをつきて むかひゐたまへり のりのしのよのことわりとききかせむところのここちするも かつはをかしけれど かかるついでは おのおのむつごともえしのびとどめずなむありける

はやう まだいとげらふにはべりしとき あはれとおもふひとはべりき きこエさせつるやうに かたちなどいとまほにもはべらざりしかば わかきほどのすき-ごころには このひとをとまりにともおもひとどめはべらず よるべとはおもひながら さうざうしくて とかくまぎれはべりしを ものゑんじをいたくしはべりしかば こころづきなく いとかからで おイらかならましかばとおもひつつ あまりいとゆるしなくうたがひはべりしもうるさくて かくかずならぬみをみもはなたで などかくしもおもふらむと こころぐるしきをりをりもはべりて じねんにこころをさめらるるやうになむはべりし
このをむなのあるやう もとよりおもひいたらざりけることにも いかでこのひとのためにはと なきてをいだし おくれたるすぢのこころをも なほくちをしくはみエじとおもひはげみつつ とにかくにつけて ものまめやかにうしろみ つゆにてもこころにたがふことはなくもがなとおもへりしほどに すすめるかたとおもひしかど とかくになびきてなよびゆき みにくきかたちをも このひとにみやうとまれむと わりなくおもひつくろひ うときひとにみエば おもてぶせにやおもはむと はばかりはぢて みさをにもて-つけてみなるるままに こころもけしうはあらずはべりしかど ただこのにくきかたひとつなむ こころをさめずはべりし
そのかみおもひはべりしやう かうあながちにしたがひおぢたるひとなめり いかでこるばかりのわざして おどして このかたもすこしよろしくもなり さがなさもやめむとおもひて まことにうしなどもおもひてたエぬべきけしきならば かばかりわれにしたがふこころならばおもひこりなむとおもうたまへえて ことさらになさけなくつれなきさまをみせて れいのはらだちゑんずるに
かくおぞましくは いみじきちぎりふかくとも たエてまたみじ かぎりとおもはば かくわりなきもの-うたがひはせよ ゆくさきながくみエむとおもはば つらきことありとも ねんじてなのめにおもひなりて かかるこころだにうせなば いとあはれとなむおもふべき ひと-なみなみにもなり すこしおとなびむにそへて またならぶひとなくあるべき やうなど かしこくをしへたつるかなとおもひたまへて われたけくいひそしはべるに すこしうち-われひて
よろづにみだてなく ものげなきほどをみすぐして ひとかずなるよもやとまつかたは いとのどかにおもひなされて こころやましくもあらず つらきこころをしのびて おもひなほらむをりをみつけむと としつきをかさねむあいなだのみは いとくるしくなむあるべければ かたみにそむきぬべききざみになむある
とねたげにいふに はらだたしくなりて にくげなること-どもをいひはげましはべるに をむなもえをさめぬすぢにて およびひとつをひきよせてくひてはべりしを おどろおどろしくかこちて
かかるきずさへつきぬれば いよいよまじらひをすべきにもあらず はづかしめたまふめるつかさくらゐ いとどしくなににつけてかはひとめかむ よをそむきぬべきみなめり などいひおどして さらば けふこそはかぎりなめれと このおよびをかがめてまかでぬ
てををりてあひみしことをかぞふれば
これひとつやはきみがうきふし
えうらみじ
などいひはべれば さすがにうち-なきて
うきふしをこころひとつにかぞへきて
こやきみがてをわかるべきをり
など いひしろひはべりしかど まことにはかはるべきことともおもひたまへずながら ひごろふるまでせうそこもつかはさず あくがれまかりありくに りんじのまつりのでうがくに よふけていみじうみぞれふるよ これかれまかりあかるるところにて おもひめぐらせば なほいへぢとおもはむかたはまたなかりけり
うちわたりのたびねすさまじかるべく けしきばめるあたりはそぞろさむくや とおもひたまへられしかば いかがおもへると けしきもみがてらゆきをうち-はらひつつ なま-ひとわろくつめくはるれど さりともこよひひごろのうらみはとけなむ とおもうたまへしに ひほのかにかべにそむけ なエたるきぬ-どものあつごエたる おほいなるこにうち-かけて ひきあぐべきもののかたびらなどうち-あげて こよひばかりやと まちけるさまなり さればよと こころおごりするに さうじみはなし さるべきにようばう-どもばかりとまりて おやのいへに このよさりなむわたりぬる とこたへはべり
えんなるうたもよまず けしきばめるせうそこもせで いとひたやごもりになさけなかりしかば あへなきここちして さがなくゆるしなかりしも われをうとみねとおもふかたのこころやありけむと さしもみたまへざりしことなれど こころやましきままにおもひはべりしに きるべきもの つねよりもこころとどめたるいろあひ しざまいとあらまほしくて さすがにわがみすててむのちをさへなむ おもひやりうしろみたりし
さりとも たエておもひはなつやうはあらじとおもうたまへて とかくいひはべりしを そむきもせずと たづねまどはさむともかくれしのびず かかやかしからずいらへつつ ただ ありしながらは えなむみすぐすまじき あらためてのどかにおもひならばなむ あひみるべき などいひしを さりともえおもひはなれじとおもひたまへしかば しばしこらさむのこころにて しかあらためむともいはず いたくつなびきてみせしあひだに いといたくおもひなげきて はかなくなりはべりにしかば たはぶれにくくなむおぼエはべりし
ひとへにうち-たのみたらむかたは さばかりにてありぬべくなむおもひたまへいでらるる はかなきあだごとをもまことのだいじをも いひあはせたるにかひなからず たつたひめといはむにもつきなからず たなばたのてにもおとるまじくそのかたもぐして うるさくなむはべりし
とて いとあはれとおもひいでたり ちうじやう
そのたなばたのたちぬふかたをのどめて ながきちぎりにぞあエまし げに そのたつたひめのにしきには またしくものあらじ はかなきはなもみぢといふも をりふしのいろあひつきなく はかばかしからぬは つゆのはエなくきエぬるわざなり さあるにより かたきよとはさだめかねたるぞや
と いひはやしたまふ

さて またおなじころ まかりかよひしところは ひともたち-まさりこころばせまことにゆゑありとみエぬべく うち-よみ はしり-かき かい-ひくつまおと てつきくちつき みなたどたどしからず みききわたりはべりき みるめもこともなくはべりしかば このさがなものを うち-とけたるかたにて ときどきかくろへみはべりしほどは こよなくこころとまりはべりき このひとうせてのち いかがはせむ あはれながらもすぎぬるはかひなくて しばしばまかりなるるには すこしまばゆくえんにこのましきことは めにつかぬところあるに うち-たのむべくはみエず かれがれにのみみせはべるほどに しのびてこころかはせるひとぞありけらし
かむなづきのころほひ つきおもしろかりしよ うちよりまかではべるに あるうへびときあひて このくるまにあひ-のりてはべれば だいなごんのいへにまかりとまらむとするに このひといふやう こよひひとまつらむやどなむ あやしくこころぐるしきとて このをむなのいへはた よきぬみちなりければ あれたるくづれよりいけのみづかげみエて つきだにやどるすみかをすぎむもさすがにて おりはべりぬかし
もとよりさるこころをかはせるにやありけむ このをとこいたくすずろきて かどちかきらうのすのこ-だつものにしりかけて とばかりつきをみる きくいとおもしろくうつろひわたり かぜにきほへるもみぢのみだれなど あはれと げにみエたり
ふところなりけるふえとりいでてふきならし かげもよしなどつづしりうたふほどに よくなるわごんを しらべととのへたりける うるはしくかき-あはせたりしほど けしうはあらずかし りちのしらべは をむなのもの-やはらかにかき-ならして すのうちよりきこエたるも いまめきたるもののこゑなれば きよくすめるつきにをりつきなからず をとこいたくめでて すのもとにあゆみきて
にはのもみぢこそ ふみ-わけたるあともなけれなどねたます きくををりて
ことのねもつきもえならぬやどながら
つれなきひとをひきやとめける
わろかめり などいひて いまひとこゑ きき-はやすべきひとのあるとき てなのこいたまひそ など いたくあざれ-かかれば をむないたうこゑつくろひて
こがらしにふきあはすめるふえのねを
ひきとどむべきことのはぞなき
となまめきかはすに にくくなるをもしらで また さうのことをばんしき-でうにしらべて いまめかしくかい-ひきたるつまおと かどなきにはあらねど まばゆきここちなむしはべりし ただときどきうち-かたらふみやづかへ-びとなどの あくまでさればみすきたるは さてもみるかぎりはをかしくもありぬべし ときどきにても さるところにてわすれぬよすがとおもひたまへむには たのもしげなくさし-すぐいたりとこころおかれて そのよのことにことつけてこそ まかりたエにしか
このふたつのことをおもうたまへあはするに わかきときのこころにだに なほさやうにもて-いでたることは いとあやしくたのもしげなくおぼエはべりき いまよりのちは ましてさのみなむおもひたまへらるべき みこころのままに をらばおちぬべきはぎのつゆ ひろはばきエなむとみるたまざさのうへのあられなどの えんにあエかなるすきずきしさのみこそ をかしくおぼさるらめ いまさりとも ななとせあまりがほどにおぼし-しりはべなむ なにがしがいやしきいさめにて すきたわめらむをむなにこころおかせたまへ あやまちして みむひとのかたくななるなをもたてつべきものなり
といましむ ちうじやう れいのうなづく きみすこしかた-ゑみて さることとはおぼすべかめり
いづかたにつけても ひとわろくはしたなかりけるみものがたりかな とて うち-わらひおはさうず

ちうじやう
なにがしは しれもののものがたりせむとて いとしのびてみそめたりしひとの さてもみつべかりしけはひなりしかば ながらふべきものとしもおもひたまへざりしかど なれゆくままに あはれとおぼエしかば たエだエわすれぬものにおもひたまへしを さばかりになれば うち-たのめるけしきもみエき たのむにつけては うらめしとおもふこともあらむと こころながらおぼゆるをりをりもはべりしを みしらぬやうにて ひさしきとだエをも かうたまさかなるひとともおもひたらず ただあさゆふにもて-つけたらむありさまにみエて こころぐるしかりしかば たのめわたることなどもありきかし
おやもなく いとこころぼそげにて さらばこのひとこそはと ことにふれておもへるさまもらうたげなりき かうのどけきにおだしくて ひさしくまからざりしころ このみたまふるわたりより なさけなくうたてあることをなむ さるたよりありてかすめいはせたりける のちにこそききはべりしか
さるうきことやあらむともしらず こころにはわすれずながら せうそこなどもせでひさしくはべりしに むげにおもひしをれてこころぼそかりければ をさなきものなどもありしにおもひわづらひて なでしこのはなををりておこせたりし とてなみだぐみたり
さて そのふみのことばは ととひたまへば
いさや ことなることもなかりきや
やまがつのかきほあるともをりをりに
あはれはかけよなでしこのつゆ
おもひいでしままにまかりたりしかば れいのうらもなきものから いともの-おもひがほにて あれたるいへのつゆしげきをながめて むしのねにきほへるけしき むかしものがたりめきておぼエはべりし
さきまじるいろはいづれとわかねども
なほとこなつにしくものぞなき
やまとなでしこをばさし-おきて まづちりをだになど おやのこころをとる
うち-はらふそでもつゆけきとこなつに
あらしふきそふあきもきにけり
とはかなげにいひ-なして まめまめしくうらみたるさまもみエず なみだをもらしおとしても いとはづかしくつつましげにまぎらはしかくして つらきをもおもひしりけりとみエむは わりなくくるしきものとおもひたりしかば こころやすくて またとだエおきはべりしほどに あともなくこそかき-けちてうせにしか
まだよにあらば はかなきよにぞさすらふらむ あはれとおもひしほどに わづらはしげにおもひまとはすけしきみエましかば かくもあくがらさざらまし こよなきとだエおかず さるものにしなしてながくみるやうもはべりなまし かのなでしこのらうたくはべりしかば いかでたづねむとおもひたまふるを いまもえこそきき-つけはべらね
これこそのたまへるはかなきためしなめれ つれなくてつらしとおもひけるもしらで あはれたエざりしも やくなきかたおもひなりけり いまやうやうわすれゆくきはに かれはたえしもおもひはなれず をりをりひとやりならぬむねこがるるゆふべもあらむとおぼエはべり これなむ えたもつまじくたのもしげなきかたなりける
されば かのさがなものも おもひいであるかたにわすれがたけれど さしあたりてみむにはわづらはしく よくせずは あきたきこともありなむや ことのねすすめけむかどかどしさも すきたるつみおもかるべし このこころもとなきも うたがひそふべければ いづれとつひにおもひさだめずなりぬるこそ よのなかや ただかくこそ とりどりにくらべくるしかるべき このさまざまのよきかぎりをとりぐし なんずべきくさはひまぜぬひとは いづこにかはあらむ きちじやうてんによをおもひかけむとすれば ほふけづき くすしからむこそ また わびしかりぬべけれ とて みなわらひぬ

しきぶがところにぞ けしきあることはあらむ すこし-づつかたりまうせ とせめらる
しもがしものなかには なでふことか きこしめしどころはべらむ
といへど とう-の-きみ まめやかにおそしとせめたまへば なにごとをとりまうさむとおもひめぐらすに
まだもんじやう-の-しやうにはべりしとき かしこきをむなのためしをなむみたまへし かの むま-の-かみのまうしたまへるやうに おほやけごとをもいひあはせ わたくしざまのよにすまふべきこころおきてをおもひめぐらさむかたもいたりふかく ざえのきはなまなまのはかせはづかしく すべてくちあかすべくなむはべらざりし
それは あるはかせのもとにがくもんなどしはべるとて まかりかよひしほどに あるじのむすめ-どもおほかりとききたまへて はかなきついでにいひよりてはべりしを おやききつけて さかづきもて-いでて わがふたつのみちうたふをきけ となむ きこエごちはべりしかど をさをさうちとけてもまからず かのおやのこころをはばかりて さすがにかかづらひはべりしほどに いとあはれにおもひうしろみ ねざめのかたらひにも みのざえつき おほやけにつかうまつるべきみちみちしきことををしへて いときよげにせうそこぶみにもかんなといふものかきまぜず むべむべしくいひまはしはべるに おのづからえまかりたエで そのものをしとしてなむ わづかなるこしをれぶみつくることなどならひはべりしかば いまにそのおんはわすれはべらねど なつかしきさいしとうち-たのまむには むざいのひと なまわろならむふるまひなどみエむに はづかしくなむみエはべりし まいてきむだちのおほむ-ため はかばかしくしたたかなるおほむ-うしろみは なににかせさせたまはむ はかなし くちをし とかつみつつも ただわがこころにつき すくせのひくかたはべるめれば をのこしもなむ しさいなきものははべめる
とまうせば のこりをいはせむとて さてさてをかしかりけるをむなかな とすかいたまふを こころはえながら はなのわたりおこづきてかたり-なす
さて いとひさしくまからざりしに もののたよりにたちよりてはべれば つねのうちとけゐたるかたにははべらで こころやましきものごしにてなむあひてはべる ふすぶるにやと をこがましくも また よきふしなりともおもひたまふるに このさかしびとはた かろがろしきもの-ゑんじすべきにもあらず よのだうりをおもひ-とりてうらみざりけり
こゑもはやりかにていふやう
つきごろ ふびやうおもきにたへかねて ごくねちのさうやくをぶくして いとくさきによりなむ えたいめんたまはらぬ まのあたりならずとも さるべからむざうじ-らはうけたまはらむ
と いとあはれにむべむべしくいひはべり いらへになにとかは ただ うけたまはりぬとて たちいではべるに さうざうしくやおぼエけむ
このかうせなむときにたちよりたまへ とたかやかにいふを ききすぐさむもいとほし しばしやすらふべきに はたはべらねば げにそのにほひさへ はなやかにたちそへるもすべなくて にげめをつかひて
ささがにのふるまひしるきゆふぐれに
ひるますぐせといふがあやなさ
いかなることつけぞや
と いひもはてずはしりいではべりぬるに おひて
あふことのよをしへだてぬなかならば
ひるまもなにかまばゆからまし
さすがにくちとくなどははべりき
と しづしづとまうせば きみたちあさましとおもひて そらごととてわらひたまふ
いづこのさるをむなかあるべき おイらかにおにとこそむかひゐたらめ むくつけきこと
とつまはじきをして いはむかたなしと しきぶをあはめにくみて
すこしよろしからむことをまうせ とせめたまへど
これよりめづらしきことはさぶらひなむや とて をり
すべてをとこもをむなもわろものは わづかにしれるかたのことをのこりなくみせつくさむとおもへるこそ いとほしけれ
さむしごきやう みちみちしきかたを あきらかにさとりあかさむこそ あいぎやうなからめ などかは をむなといはむからに よにあることのおほやけわたくしにつけて むげにしらずいたらずしもあらむ わざとならひまねばねど すこしもかどあらむひとの みみにもめにもとまること じねんにおほかるべし
さるままには まんなをはしりかきて さるまじき-どちのをむなぶみに なかばすぎてかきすすめたる あなうたて このひとのたをやかならましかばとみエたり ここちにはさしもおもはざらめど おのづからこはごはしきこゑによみなされなどしつつ ことさらびたり じやうらふのなかにも おほかることぞかし
うたよむとおもへるひとの やがてうたにまつはれ をかしきふることをもはじめよりとりこみつつ すさまじきをりをり よみかけたるこそ ものものしきことなれ かへしせねばなさけなし えせざらむひとははしたなからむ
さるべきせちゑなど さつきのせちにいそぎまゐるあした なにのあやめもおもひしづめられぬに えならぬねをひきかけ ここぬか-の-えんに まづかたきしのこころをおもひめぐらしていとまなきをりに きくのつゆをかこちよせなどやうの つきなきいとなみにあはせ さならでもおのづから げにのちにおもへばをかしくもあはれにもあべかりけることの そのをりにつきなく めにとまらぬなどを おしはからずよみいでたる なかなかこころおくれてみゆ
よろづのことに などかは さても とおぼゆるをりから ときどき おもひわかぬばかりのこころにては よしばみなさけだたざらむなむめやすかるべき
すべて こころにしれらむことをも しらずがほにもてなし いはまほしからむことをも ひとつふたつのふしはすぐすべくなむあべかりける
といふにも きみは ひとひとりのおほむ-ありさまを こころのうちにおもひつづけたまふ これはたらずまたさし-すぎたることなくものしたまひけるかなと ありがたきにも いとどむねふたがる
いづかたによりはつともなく はてはてはあやしきこと-どもになりて あかしたまひつ

からうしてけふはひのけしきもなほれり かくのみこもりさぶらひたまふも おほいどののみこころいとほしければ まかでたまへり
おほかたのけしき ひとのけはひも けざやかにけだかく みだれたるところまじらず なほ これこそは かの ひとびとのすてがたくとりいでしまめびとにはたのまれぬべけれ とおぼすものから あまりうるはしきおほむ-ありさまの とけがたくはづかしげにおもひしづまりたまへるをさうざうしくて ちうなごん-の-きみ なかつかさなどやうの おしなべたらぬわかうど-どもに たはぶれごとなどのたまひつつ あつさにみだれたまへるおほむ-ありさまを みるかひありとおもひきこエたり
おとどもわたりたまひて うちとけたまへれば みきちやうへだてておはしまして おほむ-ものがたりきこエたまふを あつきにとにがみたまへば ひとびとわらふ あなかまとて けふそくによりおはす いとやすらかなるおほむ-ふるまひなりや
くらくなるほどに
こよひ なかがみ うちよりはふたがりてはべりけり ときこゆ
さかし れいはいみたまふかたなりけり
にでう-の-ゐんにもおなじすぢにて いづくにかたがへむ いとなやましきに
とておほとのごもれり いとあしきことなりと これかれきこゆ
き-の-かみにてしたしくつかうまつるひとの なかがはのわたりなるいへなむ このころみづせきいれて すずしきかげにはべる ときこゆ
いとよかなり なやましきに うしながらひきいれつべからむところを
とのたまふ しのびしのびのおほむ-かたたがへ-どころは あまたありぬべけれど ひさしくほどへてわたりたまへるに かたふたげて ひき-たがへほかざまへとおぼさむは いとほしきなるべし き-の-かみにおほせごとたまへば うけたまはりながら しりぞきて
いよのかみ-の-あそむのいへにつつしむことはべりて にようばうなむまかりうつれるころにて せばきところにはべれば なめげなることやはべらむ
と したになげくをききたまひて
そのひとちかからむなむ うれしかるべき をむなとほきたびねは もの-おそろしきここちすべきを ただそのきちやうのうしろに とのたまへば
げに よろしきおまし-どころにもとて ひとはしらせやる いとしのびて ことさらにことことしからぬところをと いそぎいでたまへば おとどにもきこエたまはず おほむ-ともにもむつましきかぎりしておはしましぬ

にはかにとわぶれど ひともききいれず しんでんのひむがしおもてはらひあけさせて かりそめのおほむ-しつらひしたり みづのこころばへなど さるかたにをかしくしなしたり ゐなかいへ-だつしばがきして せんさいなどこころとめてうゑたり かぜすずしくて そこはかとなきむしのこゑごゑきこエ ほたるしげくとびまがひて をかしきほどなり
ひとびと わたどのよりいでたるいづみにのぞきゐて さけのむ あるじもさかなもとむと こゆるぎのいそぎありくほど きみはのどやかにながめたまひて かの なかのしなにとりいでていひし このなみならむかしとおぼしいづ
おもひあがれるけしきにききおきたまへるむすめなれば ゆかしくてみみとどめたまへるに このにしおもてにぞひとのけはひする きぬのおとなひはらはらとして わかきこゑ-どもにくからず さすがにしのびて わらひなどするけはひ ことさらびたり かうしをあげたりけれど かみ こころなしとむつかりておろしつれば ひともしたるすきかげ さうじのかみよりもりたるに やをらよりたまひて みゆや とおぼせど ひまもなければ しばしききたまふに このちかきもやにつどひゐたるなるべし うち-ささめきいふこと-どもをききたまへば わがおほむ-うへなるべし
いといたうまめだちて まだきに やむごとなきよすがさだまりたまへるこそ さうざうしかめれ
されど さるべきくまには よくこそ かくれありきたまふなれ
などいふにも おぼすことのみこころにかかりたまへば まづ むねつぶれて かやうのついでにも ひとのいひもらさむを ききつけたらむとき などおぼエたまふ
ことなることなければ ききさしたまひつ しきぶきやう-の-みやのひめぎみにあさがほたてまつりたまひしうたなどを すこしほほゆがめてかたるもきこゆ くつろぎ-がましく うたずんじ-がちにもあるかな なほみおとりはしなむかし とおぼす
かみいできて とうろかけそへ ひあかくかかげなどして おほむ-くだものばかりまゐれり
とばりちやうも いかにぞは さるかたのこころもとなくては めざましきあるじならむ とのたまへば
なによけむとも えうけたまはらずと かしこまりてさぶらふ はしつかたのおましに かりなるやうにて おほとのごもれば ひとびともしづまりぬ
あるじのこども をかしげにてあり わらはなる てんじやうのほどにごらんじなれたるもあり いよ-の-すけのこもあり あまたあるなかに いとけはひあてはかにて じふに さむばかりなるもあり
いづれかいづれ などとひたまふに
これは こ-えもん-の-かみのすゑのこにて いとかなしくしはべりけるを をさなきほどにおくれはべりて あねなるひとのよすがに かくてはべるなり ざえなどもつきはべりぬべく けしうははべらぬを てんじやうなどもおもひたまへかけながら すがすがしうはえまじらひはべらざめる とまうす
あはれのことや このあねぎみや まうとののちのおや
さなむはべる とまうすに
にげなきおやをも まうけたりけるかな うへにもきこしめしおきて みやづかへにいだしたてむともらしそうせし いかになりにけむと いつぞやのたまはせし よこそさだめなきものなれと いとおよすけのたまふ
ふいに かくてものしはべるなり よのなかといふもの さのみこそ いまもむかしも さだまりたることはべらね なかについても をむなのすくせはうかびたるなむ あはれにはべる などきこエさす
いよ-の-すけは かしづくや きみとおもふらむな
いかがは わたくしのしゆうとこそはおもひてはべるめるを すきずきしきことと なにがしよりはじめて うけひきはべらずなむ とまうす
さりとも まうと-たちのつきづきしくいまめきたらむに おろしたてむやは かのすけは いとよしありてけしきばめるをや など ものがたりしたまひて
いづかたにぞ
みな しもやにおろしはべりぬるを えやまかりおりあへざらむ ときこゆ
ゑひすすみて みなひとびとすのこにふしつつ しづまりぬ

きみは とけてもねられたまはず いたづらぶしとおぼさるるにおほむ-めさめて このきたのさうじのあなたにひとのけはひするを こなたや かくいふひとのかくれたるかたならむ あはれや とみこころとどめて やをらおきてたちききたまへば ありつるこのこゑにて
ものけたまはる いづくにおはしますぞ
と かれたるこゑのをかしきにていへば
ここにぞふしたる まらうとはねたまひぬるか いかにちかからむとおもひつるを されどけ-どほかりけり
といふ ねたりけるこゑのしどけなき いとよくにかよひたれば いもうととききたまひつ
ひさしにぞおほとのごもりぬる おとにききつるおほむ-ありさまをみたてまつりつる げにこそめでたかりけれと みそかにいふ
ひるならましかば のぞきてみたてまつりてまし
とねぶたげにいひて かほひきいれつるこゑす ねたう こころとどめてもとひきけかし とあぢきなくおぼす
まろははしにねはべらむ あなくるし
とて ひかかげなどすべし をむなぎみは ただこのさうじぐちすぢかひたるほどにぞふしたるべき
ちうじやう-の-きみは いづくにぞ ひとげとほきここちして もの-おそろし
といふなれば なげしのしもに ひとびとふしていらへすなり
しもにゆにおりて ただいままゐらむとはべる といふ
みなしづまりたるけはひなれば かけがねをこころみにひきあけたまへれば あなたよりはささざりけり きちやうをさうじぐちにはたてて ひはほの-くらきに みたまへば からびつ-だつものどもをおきたれば みだりがはしきなかを わけいりたまへれば ただひとりいとささやかにてふしたり なま-わづらはしけれど うへなるきぬおしやるまで もとめつるひととおもへり
ちうじやうめしつればなむ ひとしれぬおもひの しるしあるここちして
とのたまふを ともかくもおもひわかれず ものにおそはるるここちして や とおびゆれど かほにきぬのさはりて おとにもたてず
うちつけに ふかからぬこころのほどとみたまふらむ ことわりなれど としごろおもひわたるこころのうちも きこエしらせむとてなむ かかるをりをまちいでたるも さらにあさくはあらじと おもひなしたまへ
と いとやはらかにのたまひて おにがみもあらだつまじきけはひなれば はしたなく ここに ひと とも えののしらず ここちはた わびしく あるまじきこととおもへば あさましく
ひとたがへにこそはべるめれ といふもいきのしたなり
きエまどへるけしき いとこころぐるしくらうたげなれば をかしとみたまひて
たがふべくもあらぬこころのしるべを おもはずにもおぼめいたまふかな すきがましきさまには よにみエたてまつらじ おもふことすこしきこゆべきぞ
とて いとちひさやかなれば かき-いだきてさうじのもといでたまふにぞ もとめつるちうじやう-だつひときあひたる
やや とのたまふに あやしくてさぐりよりたるにぞ いみじくにほひみちて かほにもくゆりかかるここちするに おもひよりぬ あさましう こはいかなることぞとおもひまどはるれど きこエむかたなし なみなみのひとならばこそ あららかにもひき-かなぐらめ それだにひとのあまたしらむは いかがあらむ こころもさわぎて したひきたれど どうもなくて おくなるおましにいりたまひぬ
さうじをひきたてて あかつきにおほむ-むかへにものせよ とのたまへば をむなは このひとのおもふらむことさへ しぬばかりわりなきに ながるるまであせになりて いとなやましげなる いとほしけれど れいの いづこよりとうでたまふことのはにかあらむ あはれしらるばかり なさけなさけしくのたまひつくすべかめれど なほいとあさましきに
うつつともおぼエずこそ かずならぬみながらも おぼしくたしけるみこころばへのほども いかがあさくはおもうたまへざらむ いとかやうなるきはは きはとこそはべなれ
とて かくおしたちたまへるを ふかくなさけなくうしとおもひいりたるさまも げにいとほしく こころはづかしきけはひなれば
そのきはぎはを まだしらぬ うひごとぞや なかなか おしなべたるつらにおもひなしたまへるなむうたてありける おのづからききたまふやうもあらむ あながちなるすきごころは さらにならはぬを さるべきにや げに かくあはめられたてまつるも ことわりなるこころまどひを みづからもあやしきまでなむ
など まめ-だちてよろづにのたまへど いとたぐひなきおほむ-ありさまの いよいようちとけきこエむことわびしければ すくよかにこころづきなしとはみエたてまつるとも さるかたのいふかひなきにてすぐしてむとおもひて つれなくのみもてなしたり ひとがらのたをやぎたるに つよきこころをしひてくはへたれば なよたけのここちして さすがにをるべくもあらず
まことにこころやましくて あながちなるみこころばへを いふかたなしとおもひて なくさまなど いとあはれなり こころぐるしくはあれど みざらましかばくちをしからまし とおぼす なぐさめがたく うしとおもへれば
など かくうとましきものにしもおぼすべき おぼエなきさまなるしもこそ ちぎりあるとはおもひたまはめ むげによをおもひしらぬやうに おぼほれたまふなむ いとつらき とうらみられて
いとかくうきみのほどのさだまらぬ ありしながらのみにて かかるみこころばへをみましかば あるまじきわがたのみにて みなほしたまふのちせをもおもひたまへなぐさめましを いとかうかりなるうきねのほどをおもひはべるに たぐひなくおもうたまへまどはるるなり よし いまはみきとなかけそ
とて おもへるさま げにいとことわりなり おろかならずちぎりなぐさめたまふことおほかるべし
とりもなきぬ ひとびとおきいでて
いといぎたなかりけるよかな
みくるまひきいでよ
などいふなり かみもいできて
をむななどのおほむ-かたたがへこそ よぶかくいそがせたまふべきかは などいふもあり
きみは またかやうのついであらむこともいとかたく さしはえてはいかでか おほむ-ふみなどもかよはむことのいとわりなきをおぼすに いとむねいたし おくのちうじやうもいでて いとくるしがれば ゆるしたまひても またひきとどめたまひつつ
いかでか きこゆべき よにしらぬみこころのつらさも あはれも あさからぬよのおもひいでは さまざまめづらかなるべきためしかな
とて うち-なきたまふけしき いとなまめきたり
とりもしばしばなくに こころあわたたしくて
つれなきをうらみもはてぬしののめに
とりあへぬまでおどろかすらむ
をむな みのありさまをおもふに いとつきなくまばゆきここちして めでたきおほむ-もてなしも なにともおぼエず つねはいとすくすくしくこころづきなしとおもひあなづるいよのかたのおもひやられて ゆめにやみゆらむと そら-おそろしくつつまし
みのうさをなげくにあかであくるよは
とりかさねてぞねもなかれける
こととあかくなれば さうじぐちまでおくりたまふ うちもともひとさわがしければ ひきたてて わかれたまふほど こころぼそく へだつるせきとみエたり
おほむ-なほしなどきたまひて みなみのかうらんにしばしうち-ながめたまふ にしおもてのかうしそそきあげて ひとびとのぞくべかめる すのこのなかのほどにたてたるこさうじのかみよりほのかにみエたまへるおほむ-ありさまを みにしむばかりおもへるすきごころ-どもあめり
つきはありあけにて ひかりをさまれるものから かげけざやかにみエて なかなかをかしきあけぼのなり なにごこころなきそらのけしきも ただみるひとから えんにもすごくもみゆるなりけり ひとしれぬみこころには いとむねいたく ことづてやらむよすがだになきをと かへりみ-がちにていでたまひぬ
とのにかへりたまひても とみにもまどろまれたまはず またあひみるべきかたなきを まして かのひとのおもふらむこころのうち いかならむと こころぐるしくおもひやりたまふ すぐれたることはなけれど めやすくもてつけてもありつるなかのしなかな くまなくみあつめたるひとのいひしことは げに とおぼしあはせられけり
このほどは おほいどのにのみおはします なほいとかき-たエて おもふらむことのいとほしくみこころにかかりて くるしくおぼしわびて き-の-かみをめしたり
かの ありしちうなごんのこは えさせてむや らうたげにみエしを みぢかくつかふひとにせむ うへにもわれたてまつらむ とのたまへば
いとかしこきおほせごとにはべるなり あねなるひとにのたまひみむ
とまうすも むねつぶれておぼせど
そのあねぎみは あそむのおとうとやもたる
さもはべらず このふたとせばかりぞ かくてものしはべれど おやのおきてにたがへりとおもひなげきて こころゆかぬやうになむ ききたまふる
あはれのことや よろしくきこエしひとぞかし まことによしや とのたまへば
けしうははべらざるべし もて-はなれてうとうとしくはべれば よのたとひにて むつびはべらず とまうす

さて いつかむゆかありて このこゐてまゐれり こまやかにをかしとはなけれど なまめきたるさまして あてびととみエたり めしいれて いとなつかしくかたらひたまふ わらはごこちに いとめでたくうれしとおもふ いもうとのきみのこともくはしくとひたまふ さるべきことはいらへきこエなどして はづかしげにしづまりたれば うち-いでにくし されど いとよくいひしらせたまふ
かかることこそはと ほの-こころうるも おもひのほかなれど をさなごこちにふかくしもたどらず おほむ-ふみをもてきたれば をむな あさましきになみだもいできぬ このこのおもふらむこともはしたなくて さすがに おほむ-ふみをおもがくしにひろげたり いとおほくて
みしゆめをあふよありやとなげくまに
めさへあはでぞころもへにける
ぬるよなければ
など めもおよばぬおほむ-かきざまも きりふたがりて こころえぬすくせうち-そへりけるみをおもひつづけてふしたまへり
またのひ こぎみめしたれば まゐるとておほむ-かへりこふ
かかるおほむ-ふみみるべきひともなし ときこエよ
とのたまへば うち-ゑみて
たがふべくものたまはざりしものを いかが さはまうさむ
といふに こころやましく のこりなくのたまはせ しらせてけるとおもふに つらきことかぎりなし
いで およすけたることはいはぬぞよき さは なまゐりたまひそ とむつかられて
めすには いかでか とて まゐりぬ
き-の-かみ すきごころにこのままははのありさまをあたらしきものにおもひて ついしようしありけば このこをもてかしづきて ゐてありく
きみ めしよせて
きのふまちくらししを なほあひおもふまじきなめり
とゑんじたまへば かほうち-あかめてゐたり
いづら とのたまふに しかしかとまうすに
いふかひなのことや あさまし とて またもたまへり
あこはしらじな そのいよのおきなよりは さきにみしひとぞ されど たのもしげなくくびほそしとて ふつつかなるうしろみまうけて かくあなづりたまふなめり さりとも あこはわがこにてをあれよ このたのもしびとは ゆくさきみじかかりなむ
とのたまへば さもやありけむ いみじかりけることかな とおもへる をかしとおぼす
このこをまつはしたまひて うちにもゐてまゐりなどしたまふ わがみくしげどのにのたまひて さうぞくなどもせさせ まことにおやめきてあつかひたまふ
おほむ-ふみはつねにあり されど このこもいとをさなし こころよりほかにちりもせば かろがろしきなさへとり-そへむ みのおぼエをいとつきなかるべくおもへば めでたきこともわがみからこそとおもひて うちとけたるおほむ-いらへもきこエず ほのかなりしおほむ-けはひありさまは げに なべてにやはと おもひいできこエぬにはあらねど をかしきさまをみエたてまつりても なににかはなるべき など おもひかへすなりけり
きみはおぼしおこたるときのまもなく こころぐるしくもこひしくもおぼしいづ おもへりしけしきなどのいとほしさも はるけむかたなくおぼしわたる かろがろしくはひ-まぎれたちよりたまはむも ひとめしげからむところに びんなきふるまひやあらはれむと ひとのためもいとほしく とおぼしわづらふ
れいの うちにひかずへたまふころ さるべきかたのいみまちいでたまふ にはかにまかでたまふまねして みちのほどよりおはしましたり
き-の-かみおどろきて やりみづのめいぼくとかしこまりよろこぶ こぎみには ひるより かくなむおもひよれる とのたまひちぎれり あけくれまつはしならしたまひければ こよひもまづめしいでたり
をむなも さるおほむ-せうそこありけるに おぼしたばかりつらむほどは あさくしもおもひなされねど さりとて うちとけ ひとげなきありさまをみエたてまつりても あぢきなく ゆめのやうにてすぎにしなげきを またやくはへむ とおもひみだれて なほさてまちつけきこエさせむことのまばゆければ こぎみがいでていぬるほどに
いとけ-ぢかければ かたはらいたし なやましければ しのびてうち-たたかせなどせむに ほどはなれてを
とて わたどのに ちうじやうといひしがつぼねしたるかくれに うつろひぬ
さるこころして ひととくしづめて おほむ-せうそこあれど こぎみはたづねあはず よろづのところもとめありきて わたどのにわけいりて からうして たどりきたり いとあさましくつらし とおもひて
いかにかひなしとおぼさむと なきぬばかりいへば
かく けしからぬこころばへは つかふものか をさなきひとのかかることいひつたふるは いみじくいむなるものを といひおどして ここちなやましければ ひとびとさけずおさへさせてなむときこエさせよ あやしとたれもたれもみるらむ
といひ-はなちて こころのうちには いと かくしなさだまりぬるみのおぼエならで すぎにしおやのおほむ-けはひとまれるふるさとながら たまさかにもまちつけたてまつらば をかしうもやあらまし しひておもひしらぬかほにみけつも いかにほどしらぬやうにおぼすらむと こころながらも むねいたく さすがにおもひみだる とてもかくても いまはいふかひなきしゆくせなりければ むじんにこころづきなくてやみなむ とおもひはてたり
きみは いかにたばかりなさむと まだをさなきをうしろめたくまちふしたまへるに ふようなるよしをきこゆれば あさましくめづらかなりけるこころのほどを みもいとはづかしくこそなりぬれと いといとほしきみけしきなり とばかりものものたまはず いたくうめきて うしとおぼしたり
ははきぎのこころをしらでそのはらの
みちにあやなくまどひぬるかな
きこエむかたこそなけれ
とのたまへり をむなも さすがに まどろまざりければ
かずならぬふせやにおふるなのうさに
あるにもあらずきゆるははきぎ
ときこエたり
こぎみ いといとほしさにねぶたくもあらでまどひありくを ひとあやしとみるらむ とわびたまふ
れいの ひとびとはいぎたなきに ひとところすずろにすさまじくおぼしつづけらるれど ひとににぬこころざまの なほきエずたちのぼれりける とねたく かかるにつけてこそこころもとまれと かつはおぼしながら めざましくつらければ さばれとおぼせども さもおぼしはつまじく
かくれたらむところに なほゐていけ とのたまへど
いとむつかしげにさし-こめられて ひとあまたはべるめれば かしこげに
ときこゆ いとほしとおもへり
よし あこだに なすてそ
とのたまひて おほむ-かたはらにふせたまへり わかくなつかしきおほむ-ありさまを うれしくめでたしとおもひたれば つれなきひとよりは なかなかあはれにおぼさるとぞ

ねられたまはぬままには われは かくひとににくまれてもならはぬを こよひなむ はじめてうしとよをおもひしりぬれば はづかしくて ながらふまじうこそ おもひなりぬれ などのたまへば なみだをさへこぼしてふしたり いとらうたしとおぼす てさぐりの ほそくちひさきほど かみのいとながからざりしけはひのさまかよひたるも おもひなしにやあはれなり あながちにかかづらひたどりよらむも ひとわろかるべく まめやかにめざましとおぼしあかしつつ れいのやうにものたまひまつはさず よぶかういでたまへば このこは いといとほしく さうざうしとおもふ
をむなも なみなみならずかたはらいたしとおもふに おほむ-せうそくもたエてなし おぼしこりにけるとおもふにも やがてつれなくてやみたまひなましかばうからまし しひていとほしきおほむ-ふるまひのたエざらむもうたてあるべし よきほどに かくてとぢめてむとおもふものから ただならず ながめがちなり
きみは こころづきなしとおぼしながら かくてはえやむまじうみこころにかかり ひとわろくおもほしわびて こぎみに いとつらうも うれたうもおぼゆるに しひておもひかへせど こころにしもしたがはずくるしきを さりぬべきをりみて たいめんすべくたばかれとのたまひわたれば わづらはしけれど かかるかたにても のたまひまつはすは うれしうおぼエけり

をさなきここちに いかならむをりとまちわたるに きのかみくににくだりなどして をむなどちのどやかなるゆふやみのみちたどたどしげなるまぎれに わがくるまにてゐてたてまつる
このこもをさなきを いかならむとおぼせど さのみもえおぼしのどむまじければ さりげなきすがたにて かどなどささぬさきにと いそぎおはす
ひとみぬかたよりひきいれて おろしたてまつる わらはなれば とのゐびとなどもことにみいれついせうせず こころやすし
ひむがしのつまどに たてたてまつりて われはみなみのすみのまより かうしたたきののしりていりぬ ごたち
あらはなり といふなり
なぞ かうあつきに このかうしはおろされたる ととへば
ひるより にし-の-おほむ-かたのわたらせたまひて ごうたせたまふ といふ
さてむかひゐたらむをみばや とおもひて やをらあゆみいでて すだれのはさまにいりたまひぬ
このいりつるかうしはまだささねば ひまみゆるに よりてにし-ざまにみとほしたまへば このきはにたてたるびやうぶ はしのかたおし-たたまれたるに まぎるべききちやうなども あつければにや うち-かけて いとよくみいれらる

ひちかうともしたり もやのなか-ばしらにそばめるひとやわがこころかくると まづめとどめたまへば こきあやのひとへ-がさねなめり なににかあらむ うへにきて かしらつきほそやかにちひさきひとの ものげなきすがたぞしたる かほなどは さしむかひたらむひとなどにも わざとみゆまじうもてなしたり てつきやせやせにて いたうひき-かくしためり
いまひとりは ひむがし-むきにて のこるところなくみゆ しろきうすもののひとへ-がさね ふたあゐのこうちきだつもの ないがしろにきなして くれなゐのこしひきゆへるきはまでむねあらはに ばうぞくなるもてなしなり いとしろうをかしげに つぶつぶとこエて そぞろかなるひとの かしらつきひたひつきもの-あざやかに まみくちつき いとあいぎやうづき はなやかなるかたちなり かみはいとふさやかにて ながくはあらねど さがりば かたのほどきよげに すべていとねぢけたるところなく をかしげなるひととみエたり

むべこそおやのよになくはおもふらめと をかしくみたまふ ここちぞ なほしづかなるけをそへばやと ふとみゆる かどなきにはあるまじ ごうちはてて けちさすわたり こころとげにみエて きはぎはとさうどけば おくのひとはいとしづかにのどめて
まちたまへや そこはぢにこそあらめ このわたりのこふをこそ などいへど
いで このたびはまけにけり すみのところ いでいで とおよびをかがめて とを はたち みそ よそ などかぞふるさま いよのゆげたもたどたどしかるまじうみゆ すこししなおくれたり
たとしへなくくちおほひて さやかにもみせねど めをしつけたまへれば おのづからそばめもみゆ めすこしはれたるここちして はななどもあざやかなるところなうねびれて にほはしきところもみエず いひたつれば わろきによれるかたちをいといたうもてつけて このまされるひとよりはこころあらむと めとどめつべきさましたり
にぎははしうあいぎやうづきをかしげなるを いよいよほこりかにうちとけて わらひなどそぼるれば にほひおほくみエて さるかたにいとをかしきひとざまなり あはつけしとはおぼしながら まめならぬみこころは これもえおぼしはなつまじかりけり
みたまふかぎりのひとは うちとけたるよなく ひきつくろひそばめたるうはべをのみこそみたまへ かくうちとけたるひとのありさまかいまみなどは まだしたまはざりつることなれば なにごころもなうさやかなるはいとほしながら ひさしうみたまはまほしきに こぎみいでくるここちすれば やをらいでたまひぬ
わたどののとぐちによりゐたまへり いとかたじけなしとおもひて
れいならぬひとはべりて えちかうもよりはべらず
さて こよひもやかへしてむとする いとあさましう からうこそあべけれとのたまへば
などてか あなたにかへりはべりなば たばかりはべりなむ ときこゆ
さもなびかしつべきけしきにこそはあらめ わらはなれど もののこころばへ ひとのけしきみつべくしづまれるをと おぼすなりけり
ごうちはてつるにやあらむ うち-そよめくここちして ひとびとあかるるけはひなどすなり
わか-ぎみはいづくにおはしますならむ このみかうしはさしてむ とて ならすなり
しづまりぬなり いりて さらば たばかれ とのたまふ
このこも いもうとのみこころはたわむところなくまめだちたれば いひあはせむかたなくて ひとずくなならむをりにいれたてまつらむとおもふなりけり
き-の-かみのいもうともこなたにあるか われにかいまみせさせよ とのたまへど
いかでか さははべらむ かうしにはきちやうそへてはべり ときこゆ
さかし されどもをかしくおぼせど みつとはしらせじ いとほしとおぼして よふくることのこころもとなさをのたまふ
こたみはつまどをたたきている みなひとびとしづまりねにけり
このさうじ-ぐちに まろはねたらむ かぜふきとほせ とて たたみひろげてふす ごたち ひむがしのひさしにいとあまたねたるべし とはなちつるわらはべもそなたにいりてふしぬれば とばかりそらねして ひあかきかたにびやうぶをひろげて かげほのかなるに やをらいれたてまつる
いかにぞ をこがましきこともこそ とおぼすに いとつつましけれど みちびくままに もやのきちやうのかたびらひきあげて いとやをらいりたまふとすれど みなしづまれるよの おほむ-ぞのけはひやわらかなるしも いとしるかりけり

をむなは さこそわすれたまふをうれしきにおもひなせど あやしくゆめのやうなることを こころにはなるるをりなきころにて こころとけたるいだにねられずなむ ひるはながめ よるはねざめ-がちなれば はるならぬこのめも いとなくなげかしきに ごうちつるきみ こよひは こなたにと いまめかしくうち-かたらひて ねにけり
わかきひとは なにごころなくいとようまどろみたるべし かかるけはひの いとかうばしくうち-にほふに かほをもたげたるに ひとへうち-かけたるきちやうのすきまに くらけれど うち-みじろきよるけはひ いとしるし あさましくおぼエて ともかくもおもひわかれず やをらおきいでて すずしなるひとへをひとつきて すべりいでにけり

きみはいりたまひて ただひとりふしたるをこころやすくおぼす ゆかのしもに ふたりばかりぞふしたる きぬをおしやりてよりたまへるに ありしけはひよりは ものものしくおぼゆれど おもほしうもよらずかし いぎたなきさまなどぞ あやしくかはりて やうやうみあらはしたまひて あさましくこころやましけれど ひとたがへとたどりてみエむも をこがましく あやしとおもふべし ほいのひとをたづねよらむも かばかりのがるるこころあめれば かひなう をこにこそおもはめ とおぼす かのをかしかりつるほかげならば いかがはせむにおぼしなるも わろきみこころあささなめりかし
やうやうめさめて いとおぼエずあさましきに あきれたるけしきにて なにのこころふかくいとほしきよういもなし よのなかをまだおもひしらぬほどよりは さればみたるかたにて あエかにもおもひまどはず われともしらせじとおぼせど いかにしてかかることぞと のちにおもひめぐらさむも わがためにはことにもあらねど あのつらきひとの あながちになをつつむも さすがにいとほしければ たびたびのおほむ-かたたがへにことつけたまひしさまを いとよういひなしたまふ たどらむひとはこころえつべけれど まだいとわかきここちに さこそさし-すぎたるやうなれど えしもおもひわかず
にくしとはなけれど みこころとまるべきゆゑもなきここちして なほかのうれたきひとのこころを いみじくおぼす いづくにはひ-まぎれて かたくなしとおもひゐたらむ かくしふねきひとはありがたきものを とおぼすしも あやにくに まぎれがたうおもひいでられたまふ このひとの なま-こころなく わかやかなるけはひもあはれなれば さすがになさけなさけしくちぎりおかせたまふ
ひとしりたることよりも かやうなるは あはれもそふこととなむ むかしびともいひける あひおもひたまへよ つつむことなきにしもあらねば みながらこころにもえまかすまじくなむありける また さるべきひとびともゆるされじかしと かねてむねいたくなむ わすれでまちたまへよ など なほなほしくかたらひたまふ
ひとのおもひはべらむことのはづかしきになむ えきこエさすまじき とうらもなくいふ
なべて ひとにしらせばこそあらめ このちひさきうへびとにつたへてきこエむ けしきなくもてなしたまへ
などいひおきて かのぬぎすべしたるとみゆるうすごろもをとりていでたまひぬ
こぎみちかうふしたるをおこしたまへば うしろめたうおもひつつねければ ふとおどろきぬ とをやをらおしあくるに おイたるごたちのこゑにて
あれはたそ
とおどろおどろしくとふ わづらはしくて
まろぞ といらふ
よなかに こは なぞとありかせたまふ
とさかしがりて とざまへく いとにくくて
あらず ここもとへいづるぞ
とて きみをおしいでたてまつるに あかつきちかきつき くまなくさし-いでて ふとひとのかげみエければ
またおはするは たそ ととふ
みんぶ-の-おもとなめり けしうはあらぬおもとのたけだちかな
といふ たけたかきひとのつねにわらはるるをいふなりけり おイ-びと これをつらねてありきけるとおもひて
いま ただいまたちならびたまひなむ
といふいふ われもこのとよりいでてく わびしければ えはたおしかへさで わたどののくちにかい-そひてかくれたちたまへれば このおもとさし-よりて
おもとは こよひは うへにやさぶらひたまひつる をととひよりはらをやみて いとわりなければ しもにはべりつるを ひとずくななりとてめししかば よべまうのぼりしかど なほえたふまじくなむ
と うれふ いらへもきかで
あな はらはら いまきこエむとてすぎぬるに からうしていでたまふ なほかかるありきはかろがろしくあやしかりけりと いよいよおぼしこりぬべし

こぎみ みくるまのしりにて にでう-の-ゐんにおはしましぬ ありさまのたまひて をさなかりけり とあはめたまひて かのひとのこころをつまはじきをしつつうらみたまふ いとほしうて ものもえきこエず
いとふかうにくみたまふべかめれば みもうくおもひはてぬ などか よそにても なつかしきいらへばかりはしたまふまじき いよ-の-すけにおとりけるみこそ
など こころづきなしとおもひてのたまふ ありつるこうちきを さすがに おほむ-ぞのしたにひき-いれて おほとのごもれり こぎみをおまへにふせて よろづにうらみ かつは かたらひたまふ
あこは らうたけれど つらきゆかりにこそ えおもひはつまじけれ
とまめやかにのたまふを いとわびしとおもひたり
しばしうち-やすみたまへど ねられたまはず おほむ-すずりいそぎめして さしはへたるおほむ-ふみにはあらで たたうがみにてならひのやうにかきすさびたまふ
うつせみのみをかへてけるこのもとに
なほひとがらのなつかしきかな
とかきたまへるを ふところにひき-いれてもたり かのひともいかにおもふらむと いとほしけれど かたがたおもほしかへして おほむ-ことつけもなし かのうすごろもは こうちきのいとなつかしきひとがにしめるを みちかくならしてみゐたまへり
こぎみ かしこにいきたれば あね-ぎみまちつけて いみじくのたまふ
あさましかりしに とかうまぎらはしても ひとのおもひけむことさりどころなきに いとなむわりなき いとかうこころをさなきを かつはいかにおもほすらむ
とて はづかしめたまふ ひだりみぎにくるしうおもへど かのおほむ-てならひとりいでたり さすがに とりてみたまふ かのもぬけを いかに いせをのあまのしほなれてや などおもふもただならず いとよろづにみだれて
にし-の-きみも もの-はづかしきここちしてわたりたまひにけり またしるひともなきことなれば ひとしれずうち-ながめてゐたり こぎみのわたりありくにつけても むねのみふたがれど おほむ-せうそこもなし あさましとおもひうるかたもなくて されたるこころに ものあはれなるべし
つれなきひとも さこそしづむれ いとあさはかにもあらぬみけしきを ありしながらのわがみならばと とりかへすものならねど しのびがたければ このおほむ-たたうがみのかたつかたに
うつせみのはにおくつゆのこがくれて
しのびしのびにぬるるそでかな

ろくでうわたりのおほむ-しのびありきのころ うちよりまかでたまふなかやどりに だいに-の-めのとのいたくわづらひてあまになりにける とぶらはむとて ごでうなるいへたづねておはしたり
みくるまいるべきかどはさしたりければ ひとしてこれみつめさせて またせたまひけるほど むつかしげなるおほぢのさまをみわたしたまへるに このいへのかたはらに ひがきといふものあたらしうして かみははじとみし ごけむばかりあげわたして すだれなどもいとしろうすずしげなるに をかしきひたひつきのすきかげ あまたみエてのぞく たちさまよふらむしもつかたおもいやるに あながちにたけたかきここちぞする いかなるもののつどへるならむと やうかはりておぼさる
みくるまもいたくやつしたまへり さきもおはせたまはず たれとかしらむとうちとけたまひて すこしさしのぞきたまへれば かどはしとみのやうなる おしあげたる みいれのほどなく ものはかなきすまひを あはれに いづこかさして とおもほしなせば たまのうてなもおなじことなり
きりかけだつものに いとあをやかなるかづらのここちよげにはひかかれるに しろきはなぞ おのれひとりゑみのまゆひらけたる
をちかたびとにものまうす
とひとりごちたまふを みずいじんついゐて
かのしろくさけるをなむ ゆふがほとまうしはべる はなのなはひとめきて かうあやしきかきねになむさきはべりける
とまうす げにいとこいへ-がちに むつかしげなるわたりの このも-かのも あやしくうち-よろぼひて むねむねしからぬのきのつまなどにはひまつはれたるを
くちをしのはなのちぎりや ひと-ふさをりてまゐれ
とのたまへば このおしあげたるかどにいりてをる
さすがに されたるやりどぐちに きなるすずしのひとへ-ばかま ながくきなしたるわらはの をかしげなるいできて うち-まねく しろきあふぎのいたうこがしたるを
これにおきてまゐらせよ えだもなさけなげなめるはなを
とてとらせたれば かどあけてこれみつ-の-あそむいできたるして たてまつらす
かぎをおきまどはしはべりて いとふびんなるわざなりや もののあやめみたまへわくべきひともはべらぬわたりなれど らうがはしきおほぢにたちおはしまして とかしこまりまうす
ひきいれて おりたまふ これみつがあにのあざり むこのみかは-の-かみ むすめなど わたりつどひたるほどに かくおはしましたるよろこびを またなきことにかしこまる
あまぎみもおきあがりて
をしげなきみなれど すてがたくおもうたまへつることは ただ かくおまへにさぶらひ ごらんぜらるることのかはりはべりなむことをくちをしくおもひたまへ たゆたひしかど いむことのしるしによみがへりてなむ かくわたりおはしますを みたまへはべりぬれば いまなむあみだぶつのおほむ-ひかりもこころきよくまたれはべるべき
などきこエて よわげになく
ひごろ おこたりがたくものせらるるを やすからずなげきわたりつるに かく よをはなるるさまにものしたまへば いとあはれにくちをしうなむ いのちながくて なほくらゐたかくなどみなしたまへ さてこそ ここのしなのかみにも さはりなくむまれたまはめ このよにすこしうらみのこるは わろきわざとなむきくなど なみだぐみてのたまふ
かたほなるをだに めのとやうのおもふべきひとは あさましうまほにみなすものを まして いとおもだたしう なづさひつかうまつりけむみも いたはしうかたじけなくおもほゆべかめれば すずろになみだがちなり
こどもは いとみぐるしとおもひて そむきぬるよのさりがたきやうに みづからひそみごらんぜられたまふと つきしろひめくはす
きみは いとあはれとおもほして
いはけなかりけるほどに おもふべきひとびとのうち-すててものしたまひにけるなごり はぐくむひとあまたあるやうなりしかど したしくおもひむつぶるすぢは またなくなむおもほエし ひととなりてのちは かぎりあれば あさゆふにしもえみたてまつらず こころのままにとぶらひまうづることはなけれど なほひさしうたいめんせぬときは こころぼそくおぼゆるを さらぬわかれはなくもがな
となむ こまやかにかたらひたまひて おしのごひたまへるそでのにほひも いとところせきまでかをりみちたるに げに よにおもへば おしなべたらぬひとのみすくせぞかしと あまぎみをもどかしとみつるこども みなうち-しほたれけり
すほふなど またまたはじむべきことなどおきてのたまはせて いでたまふとて これみつにしそくめして ありつるあふぎごらんずれば もて-ならしたるうつりが いとしみふかうなつかしくて をかしうすさみかきたり
こころあてにそれかとぞみるしらつゆの
ひかりそへたるゆふがほのはな

そこはかとなくかきまぎらはしたるも あてはかにゆゑづきたれば いとおもひのほかに をかしうおぼエたまふ これみつに
このにしなるいへはなにびとのすむぞ とひききたりや
とのたまへば れいのうるさきみこころとはおもへども えさはまうさで
このご ろくにちここにはべれど ばうざのことをおもうたまへあつかひはべるほどに となりのことはえききはべらず
など はしたなやかにきこゆれば
にくしとこそおもひたれな されど このあふぎの たづぬべきゆゑありてみゆるを なほ このわたりのこころしれらむものをめしてとへ
とのたまへば いりて このやどもりなるをのこをよびて とひきく
やうめいのすけなるひとのいへになむはべりける をとこはゐなかにまかりて めなむわかくことこのみて はらからなどみやづかへびとにてきかよふ とまうす くはしきことは しもびとのえしりはべらぬにやあらむ ときこゆ
さらば そのみやづかへびとななり したりがほにもの-なれていへるかなと めざましかるべききはにやあらむとおぼせど さしてきこエかかれるこころの にくからずすぐしがたきぞ れいの このかたにはおもからぬみこころなめるかし おほむ-たたうがみにいたうあらぬさまにかきかへたまひて
よりてこそそれかともみめたそかれに
ほのぼのみつるはなのゆふがほ
ありつるみずいじんしてつかはす
まだみぬおほむ-さまなりけれど いとしるくおもひあてられたまへるおほむ-そばめをみすぐさで さし-おどろかしけるを いらへたまはでほどへければ なま-はしたなきに かくわざとめかしければ あまエて いかにきこエむ などいひしろふべかめれど めざましとおもひて ずいじんはまゐりぬ
おほむ-さきのまつほのかにて いとしのびていでたまふ はじとみはおろしてけり ひまひまよりみゆるひのひかり ほたるよりけにほのかにあはれなり
みこころざしのところには こだちせんさいなど なべてのところににず いとのどかにこころにくくすみなしたまへり うちとけぬおほむ-ありさまなどの けしきことなるに ありつるかきねおもほしいでらるべくもあらずかし
つとめて すこしねすぐしたまひて ひさし-いづるほどにいでたまふ あさけのすがたは げにひとのめできこエむもことわりなるおほむ-さまなりけり
けふもこのしとみのまへわたりしたまふ きしかたもすぎたまひけむわたりなれど ただはかなきひとふしにみこころとまりて いかなるひとのすみかならむ とは ゆききにおほむ-めとまりたまひけり

これみつ ひごろありてまゐれり
わづらひはべるひと なほよわげにはべれば とかくみたまへあつかひてなむ
など きこエて ちかくまゐりよりてきこゆ
おほせられしのちなむ となりのことしりてはべるものよびて とはせはべりしかど はかばかしくもまうしはべらず いとしのびてさつきのころほひよりものしたまふひとなむあるべけれど そのひととは さらにいへのうちのひとにだにしらせずとなむまうす
ときどきなかがきのかいまみしはべるに げにわかきをむな-どものすきかげみエはべり しびらだつもの かことばかりひき-かけて かしづくひとはべるなめり
きのふ ゆふひのなごりなくさし-いりてはべりしに ふみかくとてゐてはべりしひとの かほこそいとよくはべりしか ものおもへるけはひして あるひとびともしのびてうち-なくさまなどなむ しるくみエはべる
ときこゆ きみうち-ゑみたまひて しらばやとおもほしたり
おぼエこそおもかるべきおほむ-みのほどなれど おほむ-よはひのほど ひとのなびきめできこエたるさまなどおもふには すきたまはざらむも なさけなくさうざうしかるべしかし ひとのうけひかぬほどにてだに なほ さりぬべきあたりのことは このましうおぼゆるものを とおもひをり
もし みたまへうることもやはべると はかなきついでつくりいでて せうそこなどつかはしたりき かきなれたるてして くちとくかへりごとなどしはべりき いとくちをしうはあらぬわかうど-どもなむはべるめる
ときこゆれば
なほ いひよれ たづねよらでは さうざうしかりなむ とのたまふ
かの しも-が-しもと ひとのおもひすてしすまひなれど そのなかにも おもひのほかにくちをしからぬをみつけたらばと めづらしくおもほすなりけり

さて かのうつせみのあさましくつれなきを このよのひとにはたがひておぼすに おイらかならましかば こころぐるしきあやまちにてもやみぬべきを いとねたく まけてやみなむを こころにかからぬをりなし かやうのなみなみまではおもほしかからざりつるを ありしあまよのしなさだめののち いぶかしくおもほしなるしなじなあるに いとどくまなくなりぬるみこころなめりかし
うらもなくまちきこエがほなるかたつかた-びとを あはれとおぼさぬにしもあらねど つれなくてききゐたらむことのはづかしければ まづ こなたのこころみはててとおぼすほどに いよ-の-すけのぼりぬ
まづいそぎまゐれり ふなみちのしわざとて すこしくろみやつれたるたびすがた いとふつつかにこころづきなし されど ひともいやしからぬすぢに かたちなどねびたれど きよげにて ただならず けしきよしづきてなどぞありける
くにのものがたりなどまうすに ゆげたはいくつと とはまほしくおぼせど あいなくまばゆくて みこころのうちにおぼしいづることもさまざまなり
もの-まめやかなるおとなを かくおもふも げにをこがましく うしろめたきわざなりや げに これぞ なのめならぬかたはなべかりけると むま-の-かみのいさめおぼしいでて いとほしきに つれなきこころはねたけれど ひとのためは あはれ とおぼしなさる
むすめをばさるべきひとにあづけて きたのかたをばゐてくだりぬべしと ききたまふに ひとかたならずこころあわたたしくて いまひとたびはえあるまじきことにやと こぎみをかたらひたまへど ひとのこころをあはせたらむことにてだに かろらかにえしもまぎれたまふまじきを まして にげなきことにおもひて いまさらにみぐるしかるべし とおもひはなれたり
さすがに たエておもほしわすれなむことも いといふかひなく うかるべきことにおもひて さるべきをりをりのおほむ-いらへなど なつかしくきこエつつ なげのふでづかひにつけたることのは あやしくらうたげに めとまるべきふしくはへなどして あはれとおぼしぬべきひとのけはひなれば つれなくねたきものの わすれがたきにおぼす
いまひとかたは ぬしつよくなるとも かはらずうちとけぬべくみエしさまなるをたのみて とかくききたまへど みこころもうごかずぞありける

あきにもなりぬ ひとやりならず こころづくしにおぼしみだるること-どもありて おほとのには たエまおきつつ うらめしくのみおもひきこエたまへり
ろくでうわたりにも とけがたかりしみけしきをおもむけきこエたまひてのち ひきかへし なのめならむはいとほしかし されど よそなりしみこころまどひのやうに あながちなることはなきも いかなることにかとみエたり
をむなは いとものをあまりなるまで おぼししめたるみこころざまにて よはひのほどもにげなく ひとのもりきかむに いとどかくつらきおほむ-よがれのねざめねざめ おぼししをるること いとさまざまなり
きりのいとふかきあした いたくそそのかされたまひて ねぶたげなるけしきに うち-なげきつついでたまふを ちうじやう-の-おもと みかうしひとまあげて みたてまつりおくりたまへ とおぼしく みきちやうひきやりたれば みぐしもたげてみいだしたまへり

せんさいのいろいろみだれたるを すぎがてにやすらひたまへるさま げにたぐひなし らうのかたへおはするに ちうじやう-の-きみ おほむ-ともにまゐる しをん-いろのをりにあひたる うすもののも あざやかにひき-ゆひたるこしつき たをやかに なまめきたり
みかへりたまひて すみのまのかうらんに しばし ひき-すゑたまへり うちとけたらぬもてなし かみのさがりば めざましくも とみたまふ
さくはなにうつるてふなはつつめども
をらですぎうきけさのあさがほ
いかがすべき
とて てをとらへたまへれば いとなれてとく
あさぎりのはれまもまたぬけしきにて
はなにこころをとめぬとぞみる
と おほやけごとにぞきこエなす
をかしげなるさぶらひわらはの すがたこのましう ことさらめきたる さしぬき すそ つゆけげに はなのなかにまじりて あさがほをりてまゐるほどなど ゑにかかまほしげなり
おほかたに うち-みたてまつるひとだに こころとめたてまつらぬはなし もののなさけしらぬやまがつも はなのかげには なほやすらはまほしきにや このおほむ-ひかりをみたてまつるあたりは ほどほどにつけて わがかなしとおもふむすめを つかうまつらせばやとねがひ もしは くちをしからずとおもふいもうとなどもたるひとは いやしきにても なほ このおほむ-あたりにさぶらはせむと おもひよらぬはなかりけり
まして さりぬべきついでのおほむ-ことのはも なつかしきみけしきをみたてまつるひとの すこしもののこころおもひしるは いかがはおろかにおもひきこエむ あけくれうちとけてしもおはせぬを こころもとなきことにおもふべかめり

まことや かのこれみつがあづかりのかいまみは いとよくあないみとりてまうす
そのひととは さらにえおもひえはべらず ひとにいみじくかくれしのぶるけしきになむみエはべるを つれづれなるままに みなみのはじとみあるながやにわたりきつつ くるまのおとすれば わかきもの-どもののぞきなどすべかめるに このしゆうとおぼしきも はひわたるときはべかめる かたちなむ ほのかなれど いとらうたげにはべる
ひとひ さきおひてわたるくるまのはべりしを のぞきて わらはべのいそぎて うこん-の-きみこそ まづものみたまへ ちうじやう-どのこそ これよりわたりたまひぬれ といへば また よろしきおとないできて あなかまと てかくものから いかでさはしるぞ いで みむ とて はひわたる うちはし-だつものをみちにてなむかよひはべる いそぎくるものは きぬのすそをものにひき-かけて よろぼひたふれて はしよりもおちぬべければ いで このかづらき-の-かみこそ さがしうしおきたれと むつかりて もののぞきのこころもさめぬめりき きみは おほむ-なほしすがたにて みずいじん-どももありし なにがし くれがし とかずへしは とう-の-ちうじやうのずいじん そのこどねり-わらはをなむ しるしにいひはべりし などきこゆれば
たしかにそのくるまをぞみまし
とのたまひて もし かのあはれにわすれざりしひとにやと おもほしよるも いとしらまほしげなるみけしきをみて
わたくしのけさうもいとよくしおきて あないものこるところなくみたまへおきながら ただ われ-どちとしらせて ものなどいふわかきおもとのはべるを そらおぼれしてなむ かくれまかりありく いとよくかくしたりとおもひて ちひさきこどもなどのはべるがことあやまりしつべきも いひまぎらはして またひとなきさまを しひてつくりはべる など かたりてわらふ
あまぎみのとぶらひにものせむついでに かいまみせさせよ とのたまひけり
かりにても やどれるすまひのほどをおもふに これこそ かのひとのさだめ あなづりししも-の-しなならめ そのなかに おもひのほかにをかしきこともあらば など おぼすなりけり
これみつ いささかのこともみこころにたがはじとおもふに おのれもくまなきすきごころにて いみじくたばかりまどひありきつつ しひておはしまさせそめてけり このほどのこと くだくだしければ れいのもらしつ
をむな さしてそのひととたづねいでたまはねば われもなのりをしたまはで いとわりなくやつれたまひつつ れいならずおりたちありきたまふは おろかにおぼされぬなるべし とみれば わがむまをばたてまつりて おほむ-ともにはしりありく
けさうびとのいとものげなきあしもとを みつけられてはべらむとき からくもあるべきかな とわぶれど ひとにしらせたまはぬままに かのゆふがほのしるべせしずいじんばかり さては かほむげにしるまじきわらは ひとりばかりぞ ゐておはしける もしおもひよるけしきもや とて となりになかやどりをだにしたまはず
をむなも いとあやしくこころえぬここちのみして おほむ-つかひにひとをそへ あかつきのみちをうかがはせ おほむ-ありかみせむとたづぬれど そこはかとなくまどはしつつ さすがに あはれにみではえあるまじく このひとのみこころにかかりたれば びんなくかろがろしきことと おもほしかへしわびつつ いとしばしばおはします
かかるすぢは まめびとのみだるるをりもあるを いとめやすくしづめたまひて ひとのとがめきこゆべきふるまひはしたまはざりつるを あやしきまで けさのほど ひるまのへだても おぼつかなくなど おもひわづらはれたまへば かつは いともの-ぐるほしく さまでこころとどむべきことのさまにもあらずと いみじくおもひさましたまふに ひとのけはひ いとあさましくやはらかにおほどきて もの-ふかくおもきかたはおくれて ひたぶるにわかびたるものから よをまだしらぬにもあらず いとやむごとなきにはあるまじ いづくにいとかうしもとまるこころぞ とかへすがへすおぼす
いとことさらめきて おほむ-さうぞくをもやつれたるかりのおほむ-ぞをたてまつり さまをかへ かほをもほの-みせたまはず よぶかきほどに ひとをしづめていでいりなどしたまへば むかしありけむもののへんげめきて うたておもひ-なげかるれど ひとのおほむ-けはひ はた てさぐりもしるべきわざなりければ たればかりにかはあらむ なほこのすきもののしいでつるわざなめりと たいふをうたがひながら せめてつれなくしらずがほにて かけておもひよらぬさまに たゆまずあざれありけば いかなることにかとこころえがたく をむながたもあやしうたがひたるもの-おもひをなむしける

きみも かくうらなくたゆめてはひかくれなば いづこをはかりとか われもたづねむ かりそめのかくれがと はたみゆめれば いづかたにもいづかたにも うつろひゆかむひを いつともしらじ とおぼすに おひまどはして なのめにおもひなしつべくは ただかばかりのすさびにてもすぎぬべきことを さらにさてすぐしてむ とおぼされずと ひとめをおぼして へだておきたまふよなよななどは いとしのびがたく くるしきまでおぼエたまへば なほたれとなくてにでう-の-ゐんにむかへてむ もしきこエありてびんなかるべきことなりとも さるべきにこそは わがこころながら いとかくひとにしむことはなきを いかなるちぎりにかはありけむ などおもほしよる
いざ いとこころやすきところにて のどかにきこエむ
など かたらひたまへば
なほ あやしう かくのたまへど よづかぬおほむ-もてなしなれば もの-おそろしくこそあれ
と いとわかびていへば げにと ほほゑまれたまひて
げに いづれかきつねなるらむな ただはかられたまへかし
と なつかしげにのたまへば をむなもいみじくなびきて さもありぬべくおもひたり よになく かたはなることなりとも ひたぶるにしたがふこころは いとあはれげなるひととみたまふに なほかのとう-の-ちうじやうのとこなつうたがはしく かたりしこころざま まづおもひいでられたまへど しのぶるやうこそはと あながちにもとひいでたまはず
けしきばみてふとそむきかくるべきこころざまなどはなければ かれがれにとだエおかむをりこそは さやうにおもひかはることもあらめ こころながらも すこしうつろふことあらむこそあはれなるべけれ とさへ おぼしけり
はちぐわちじふごや くまなきつきかげ ひまおほかるいたや のこりなくもりきて みならひたまはぬすまひのさまもめづらしきに あかつきちかくなりにけるなるべし となりのいへいへ あやしきしづのをのこゑごゑ めさまして
あはれ いとさむしや
ことしこそ なりはひにもたのむところすくなく ゐなかのかよひもおもひかけねば いとこころぼそけれ きたどのこそ ききたまふや
など いひかはすもきこゆ
いとあはれなるおのがじしのいとなみにおきいでて そそめきさわぐもほどなきを をむないとはづかしくおもひたり
えんだちけしきばまむひとは きエもいりぬべきすまひのさまなめりかし されど のどかに つらきもうきもかたはらいたきことも おもひいれたるさまならで わがもてなしありさまは いとあてはかにこめかしくて またなくらうがはしきとなりのよういなさを いかなることともききしりたるさまならねば なかなか はぢかかやかむよりは つみゆるされてぞみエける
ごほごほとなるかみよりもおどろおどろしく ふみとどろかすからうすのおとも まくらがみとおぼゆる あな みみかしかましと これにぞ おぼさるる なにのひびきともききいれたまはず いとあやしうめざましきおとなひとのみききたまふ くだくだしきことのみおほかり
しろたへのころもうつきぬたのおとも かすかにこなたかなたききわたされ そらとぶかりのこゑ とりあつめて しのびがたきことおほかり はしちかきおましどころなりければ やりどをひきあけて もろともにみいだしたまふ ほどなきにはに されたるくれたけ せんさいのつゆは なほかかるところもおなじごときらめきたり むしのこゑごゑみだりがはしく かべのなかのきりぎりすだにまどほにききならひたまへるおほむ-みみに さしあてたるやうになきみだるるを なかなかさまかへておぼさるるも みこころざしひとつのあさからぬに よろづのつみゆるさるるなめりかし

しろきあはせ うすいろのなよよかなるをかさねて はなやかならぬすがた いとらうたげにあエかなるここちして そこととりたててすぐれたることもなけれど ほそやかにたをたをとして ものうち-いひたるけはひ あな こころぐるしと ただいとらうたくみゆ こころばみたるかたをすこしそへたらば とみたまひながら なほうちとけてみまほしくおぼさるれば
いざ ただこのわたりちかきところに こころやすくてあかさむ かくてのみは いとくるしかりけり とのたまへば
いかで にはかならむ
と いとおイらかにいひてゐたり このよのみならぬちぎりなどまでたのめたまふに うちとくるこころばへなど あやしくやうかはりて よなれたるひとともおぼエねば ひとのおもはむところも えはばかりたまはで うこんをめしいでて ずいじんをめさせたまひて みくるまひきいれさせたまふ このあるひとびとも かかるみこころざしのおろかならぬをみしれば おぼめかしながら たのみかけきこエたり
あけがたもちかうなりにけり とりのこゑなどはきこエで みたけさうじにやあらむ ただおきなびたるこゑにぬかづくぞきこゆる たちゐのけはひ たへがたげにおこなふ いとあはれに あしたのつゆにことならぬよを なにをむさぼるみのいのりにかと ききたまふ なむたうらいだうしとぞおがむなる
かれ ききたまへ このよとのみはおもはざりけりと あはれがりたまひて
うばそくがおこなふみちをしるべにて
こむよもふかきちぎりたがふな
ちやうせいでんのふるきためしはゆゆしくて はねをかはさむとはひきかへて みろくのよをかねたまふ ゆくさきのおほむ-たのめ いとこちたし
さきのよのちぎりしらるるみのうさに
ゆくすゑかねてたのみがたさよ
かやうのすぢなども さるは こころもとなかめり

いさよふつきに ゆくりなくあくがれむことを をむなはおもひやすらひ とかくのたまふほど にはかにくもがくれて あけゆくそらいとをかし はしたなきほどにならぬさきにと れいのいそぎいでたまひて かろらかにうち-のせたまへれば うこんぞのりぬる
そのわたりちかきなにがし-の-ゐんにおはしましつきて あづかりめしいづるほど あれたるかどのしのぶぐさしげりてみあげられたる たとしへなくこぐらし きりもふかく つゆけきに すだれをさへあげたまへれば おほむ-そでもいたくぬれにけり
まだかやうなることをならはざりつるを こころづくしなることにもありけるかな
いにしへもかくやはひとのまどひけむ
わがまだしらぬしののめのみち
ならひたまへりや
とのたまふ をむな はぢらひて
やまのはのこころもしらでゆくつきは
うはのそらにてかげやたエなむ
こころぼそく
とて もの-おそろしうすごげにおもひたれば かのさし-つどひたるすまひのならひならむと をかしくおぼす
みくるまいれさせて にし-の-たいにおましなどよそふほど かうらんにみくるまひき-かけてたちたまへり うこん えんなるここちして きしかたのことなども ひとしれずおもひいでけり あづかりいみじくけいめいしありくけしきに このおほむ-ありさましりはてぬ
ほのぼのとものみゆるほどに おりたまひぬめり かりそめなれど きよげにしつらひたり
おほむ-ともにひともさぶらはざりけり ふびんなるわざかな とて むつましきしも-げいしにて とのにもつかうまつるものなりければ まゐりよりて さるべきひとめすべきにや など まうさすれど
ことさらにひとくまじきかくれがもとめたるなり さらにこころよりほかにもらすな とくちがためさせたまふ
おほむ-かゆなどいそぎまゐらせたれど とりつぐおほむ-まかなひうち-あはず まだしらぬことなるおほむ-たびねに おきながかはとちぎりたまふことよりほかのことなし
ひたくるほどにおきたまひて かうしてづからあげたまふ いといたくあれて ひとめもなくはるばるとみわたされて こだちいとうとましくもの-ふりたり けぢかきくさきなどは ことにみどころなく みなあきののらにて いけもみくさにうづもれたれば いとけうとげになりにけるところかな べちなふのかたにぞ ざうしなどして ひとすむべかめれど こなたははなれたり
けうとくもなりにけるところかな さりとも おになどもわれをばみゆるしてむ とのたまふ
かほはなほかくしたまへれど をむなのいとつらしとおもへれば げに かばかりにてへだてあらむも ことのさまにたがひたりとおぼして
ゆふつゆにひもとくはなはたまぼこの
たよりにみエしえにこそありけれ
つゆのひかりやいかに
とのたまへば しりめにみおこせて
ひかりありとみしゆふがほのうはつゆは
たそかれどきのそらめなりけり
とほのかにいふ をかしとおぼしなす げに うちとけたまへるさま よになく ところから まいてゆゆしきまでみエたまふ
つきせずへだてたまへるつらさに あらはさじとおもひつるものを いまだになのりしたまへ いとむくつけし
とのたまへど あまのこなれば とて さすがにうちとけぬさま いとあいだれたり
よし これもわれからなめりと うらみかつはかたらひ くらしたまふ
これみつ たづねきこエて おほむ-くだものなどまゐらす うこんがいはむこと さすがにいとほしければ ちかくもえさぶらひよらず かくまでたどりありきたまふ をかしう さもありぬべきありさまにこそは とおしはかるにも わがいとよくおもひよりぬべかりしことを ゆづりきこエて こころひろさよ など めざましうおもひをる
たとしえなくしづかなるゆふべのそらをながめたまひて おくのかたは くらうもの-むつかしと をむなはおもひたれば はしのすだれをあげて そひふしたまへり ゆふばエをみかはして をむなも かかるありさまを おもひのほかにあやしきここちはしながら よろづのなげきわすれて すこしうちとけゆくけしき いとらうたし つとおほむ-かたはらにそひくらして ものをいとおそろしとおもひたるさま わかうこころぐるし かうしとくおろしたまひて おほとなぶらまゐらせて なごりなくなりにたるおほむ-ありさまにて なほこころのうちのへだてのこしたまへるなむつらきと うらみたまふ
うちに いかにもとめさせたまふらむを いづこにたづぬらむと おぼしやりて かつは あやしのこころや ろくでうわたりにも いかにおもひみだれたまふらむ うらみられむに くるしう ことわりなりと いとほしきすぢは まづおもひきこエたまふ なにごころもなきさしむかひを あはれとおぼすままに あまりこころふかく みるひともくるしきおほむ-ありさまを すこしとりすてばやと おもひくらべられたまひける

よひすぐるほど すこしねいりたまへるに おほむ-まくらがみに いとをかしげなるをむなゐて
おのがいとめでたしとみたてまつるをば たづねおもほさで かく ことなることなきひとをゐておはして ときめかしたまふこそ いとめざましくつらけれ
とて このおほむ-かたはらのひとをかき-おこさむとす とみたまふ
ものにおそはるるここちして おどろきたまへれば ひもきエにけり うたておぼさるれば たちをひきぬきて うち-おきたまひて うこんをおこしたまふ これもおそろしとおもひたるさまにて まゐりよれり
わたどのなるとのゐびとおこして しそくさしてまゐれ といへ とのたまへば
いかでかまからむ くらうて といへば
あな わかわかしと うち-わらひたまひて てをたたきたまへば やまびこのこたふるこゑ いとうとまし ひとえききつけでまゐらぬに このをむなぎみ いみじくわななきまどひて いかさまにせむとおもへり あせもしとどになりて われかのけしきなり
もの-おぢをなむわりなくせさせたまふほんじやうにて いかにおぼさるるにかと うこんもきこゆ いとかよわくて ひるもそらをのみみつるものを いとほし とおぼして
われ ひとをおこさむ てたたけば やまびこのこたふる いとうるさし ここに しばし ちかく
とて うこんをひきよせたまひて にしのつまどにいでて とをおしあけたまへれば わたどののひもきエにけり
かぜすこしうち-ふきたるに ひとはすくなくて さぶらふかぎりみなねたり このゐんのあづかりのこ むつましくつかひたまふわかきをのこ またうへわらはひとり れいのずいじんばかりぞありける めせば おほむ-こたへしておきたれば
しそくさしてまゐれ ずいじんも つるうちして たエずこわづくれとおほせよ ひとはなれたるところに こころとけていぬるものか これみつ-の-あそむのきたりつらむはと とはせたまへば
さぶらひつれど おほせごともなし あかつきにおほむ-むかへにまゐるべきよしまうしてなむ まかではべりぬる ときこゆ この かうまうすものは たきぐちなりければ ゆづるいとつきづきしくうち-ならして ひあやふしといふいふ あづかりがざうしのかたにいぬなり うちをおぼしやりて なだいめんはすぎぬらむ たきぐちのとのゐまうし いまこそと おしはかりたまふは まだ いたうふけぬにこそは
かへりいりて さぐりたまへば をむなぎみはさながらふして うこんはかたはらにうつぶしふしたり
こはなぞ あな もの-ぐるほしのものおぢや あれたるところは きつねなどやうのものの ひとをおびやかさむとて け-おそろしうおもはするならむ まろあれば さやうのものには おどされじ とて ひきおこしたまふ
いとうたて みだりごこちのあしうはべれば うつぶしふしてはべるや おまへにこそわりなくおぼさるらめ といへば
そよ などかうは とて かい-さぐりたまふに いきもせず ひきうごかしたまへど なよなよとして われにもあらぬさまなれば いといたくわかびたるひとにて ものにけどられぬるなめりと せむかたなきここちしたまふ
しそくもてまゐれり うこんもうごくべきさまにもあらねば ちかきみきちやうをひきよせて
なほもてまゐれ
とのたまふ れいならぬことにて おまへちかくもえまゐらぬ つつましさに なげしにもえのぼらず
なほもてこや ところにしたがひてこそ
とて めしよせてみたまへば ただこのまくらがみに ゆめにみエつるかたちしたるをむな おもかげにみエて ふときエうせぬ
むかしのものがたりなどにこそ かかることはきけと いとめづらかにむくつけけれど まづ このひといかになりぬるぞ とおもほすこころさわぎに みのうへもしられたまはず そひふして や やと おどろかしたまへど ただひエにひエいりて いきはとくたエはてにけり いはむかたなし たのもしく いかにといひふれたまふべきひともなし ほふしなどをこそは かかるかたのたのもしきものにはおぼすべけれど さこそつよがりたまへど わかきみこころにて いふかひなくなりぬるをみたまふに やるかたなくて つといだきて
あがきみ いきいでたまへ いといみじきめ なみせたまひそ
とのたまへど ひエいりにたれば けはひもの-うとくなりゆく
うこんは ただあな むつかしとおもひけるここちみなさめて なきまどふさま いといみじ
なでんのおにの なにがしのおとどおびやかしけるたとひをおぼしいでて こころづよく
さりとも いたづらになりはてたまはじ よるのこゑはおどろおどろし あなかま
といさめたまひて いとあわたたしきに あきれたるここちしたまふ
このをとこをめして
ここに いとあやしう ものにおそはれたるひとのなやましげなるを ただいま これみつ-の-あそむのやどるところにまかりて いそぎまゐるべきよしいへ とおほせよ なにがしあざり そこにものするほどならば ここにくべきよし しのびて いへ かのあまぎみなどのきかむに おどろおどろしくいふな かかるありきゆるさぬひとなり
など もののたまふやうなれど むねふたがりて このひとをむなしくしなしてむことの いみじくおぼさるるにそへて おほかたのむくむくしさ たとへむかたなし
よなかもすぎにけむかし かぜのややあらあらしうふきたるは まして まつのひびき こぶかくきこエて けしきあるとりのからごゑになきたるも ふくろふはこれにやとおぼゆ うち-おもひめぐらすに こなたかなた けどほくうとましきに ひとごゑはせず などて かくはかなきやどりはとりつるぞと くやしさもやらむかたなし
うこんは ものもおぼエず きみにつとそひたてまつりて わななきしぬべし また これもいかならむと こころそらにてとらへたまへり われひとりさかしきひとにて おぼしやるかたぞなきや 
ひはほのかにまたたきて もやのきはにたてたるびやうぶのかみ ここかしこのくまぐましくおぼエたまふに もののあしおと ひしひしとふみならしつつ うしろよりよりくるここちす これみつ とくまゐらなむ とおぼす ありかさだめぬものにて ここかしこたづねけるほどに よのあくるほどのひさしさは ちよをすぐさむここちしたまふ
からうして とりのこゑはるかにきこゆるに いのちをかけて なにのちぎりに かかるめをみるらむ わがこころながら かかるすぢに おほけなくあるまじきこころのむくイに かく きしかたゆくさきのためしとなりぬべきことはあるなめり しのぶとも よにあることかくれなくて うちにきこしめさむをはじめて ひとのおもひいはむこと よからぬわらはべのくちずさびになるべきなめり ありありて をこがましきなをとるべきかなと おぼしめぐらす

からうして これみつ-の-あそむまゐれり よなか あかつきといはず みこころにしたがへるものの こよひしもさぶらはで めしにさへおこたりつるを にくしとおぼすものから めしいれて のたまひいでむことのあへなきに ふともものいはれたまはず うこん たいふのけはひきくに はじめよりのこと うち-おもひいでられてなくを きみもえたへたまはで われひとりさかしがりいだきもたまへりけるに このひとにいきをのべたまひてぞ かなしきこともおぼされける とばかり いといたく えもとどめずなきたまふ
ややためらひて ここに いとあやしきことのあるを あさましといふにもあまりてなむある かかるとみのことには ずきやうなどをこそはすなれとて そのこと-どももせさせむ ぐわんなどもたてさせむとて あざりものせよ といひつるは とのたまふに
きのふ やまへまかりのぼりにけり まづ いとめづらかなることにもはべるかな かねて れいならずみここちものせさせたまふことやはべりつらむ
さることもなかりつ とて なきたまふさま いとをかしげにらうたく みたてまつるひともいとかなしくて おのれもよよとなきぬ
さいへど としうち-ねび よのなかのとあることと しほじみぬるひとこそ もののをりふしはたのもしかりけれ いづれもいづれもわかき-どちにて いはむかたなけれど
このゐんもりなどにきかせむことは いとびんなかるべし このひとひとりこそむつましくもあらめ おのづからものいひもらしつべきくゑんぞくもたち-まじりたらむ まづ このゐんをいでおはしましね といふ
さて これよりひとずくななるところはいかでかあらむ とのたまふ
げに さぞはべらむ かのふるさとは にようばうなどの かなしびにたへず なきまどひはべらむに となりしげく とがむるさとびとおほくはべらむに おのづからきこエはべらむを やまでらこそ なほかやうのこと おのづからゆきまじり ものまぎるることはべらめと おもひまはして むかし みたまへしにようばうの あまにてはべるひむがしやまのあたりに うつしたてまつらむ これみつがちちのあそむのめのとにはべりしものの みづはぐみてすみはべるなり あたりは ひとしげきやうにはべれど いとかごかにはべり
ときこエて あけはなるるほどのまぎれに みくるまよす
このひとをえいだきたまふまじければ うはむしろにおし-くくみて これみつのせたてまつる いとささやかにて うとましげもなく らうたげなり したたかにしもえせねば かみはこぼれいでたるも めくれまどひて あさましうかなし とおぼせば なりはてむさまをみむとおぼせど
はや おほむ-むまにて にでう-の-ゐんへおはしまさむ ひとさわがしくなりはべらぬほどに
とて うこんをそへてのすれば かちより きみにむまはててまつりて くくりひきあげなどして かつは いとあやしく おぼエぬおくりなれど みけしきのいみじきをみたてまつれば みをすててゆくに きみはものもおぼエたまはず われかのさまにて おはしつきたり
ひとびと いづこより おはしますにか なやましげにみエさせたまふ などいへど みちやうのうちにいりたまひて むねをおさへて おもふに いといみじければ などて のりそひていかざりつらむ いきかへりたらむとき いかなるここちせむ みすててゆきあかれにけりと つらくやおもはむと こころまどひのなかにも おもほすに おほむ-むねせきあぐるここちしたまふ みぐしもいたく みもあつきここちして いとくるしく まどはれたまへば かくはかなくて われもいたづらになりぬるなめり とおぼす
ひたかくなれど おきあがりたまはねば ひとびとあやしがりて おほむ-かゆなどそそのかしきこゆれど くるしくて いとこころぼそくおぼさるるに うちよりおほむ-つかひあり きのふ えたづねいでたてまつらざりしより おぼつかながらせたまふ おほとののきむだちまゐりたまへど とう-の-ちうじやうばかりを たちながら こなたにいりたまへ とのたまひて みすのうちながらのたまふ
めのとにてはべるものの このごぐわちのころほひより おもくわづらひはべりしが かしらそりいむことうけなどして そのしるしにや よみがへりたりしを このごろ またおこりて よわくなむなりにたる いまひとたび とぶらひみよ とまうしたりしかば いときなきよりなづさひしものの いまは-の-きざみに つらしとやおもはむ とおもうたまへてまかれりしに そのいへなりけるしもびとの やまひしけるが にはかにいであへでなくなりにけるを おぢはばかりて ひをくらしてなむとりいではべりけるを ききつけはべりしかば かむわざなるころ いとふびんなること とおもうたまへかしこまりて えまゐらぬなり このあかつきより しはぶきやみにやはべらむ かしらいといたくてくるしくはべれば いとむらいにてきこゆること
などのたまふ ちうじやう
さらば さるよしをこそそうしはべらめ よべも おほむ-あそびに かしこくもとめたてまつらせたまひて みけしきあしくはべりき ときこエたまひて たちかへり いかなるいきぶれにかからせたまふぞや のべやらせたまふことこそ まこととおもうたまへられね
といふに むねつぶれたまひて
かく こまかにはあらで ただ おぼエぬけがらひにふれたるよしを そうしたまへ いとこそ たいだいしくはべれ
と つれなくのたまへど こころのうちには いふかひなくかなしきことをおぼすに みここちもなやましければ ひとにめもみあはせたまはず くらうど-の-べんをめしよせて まめやかにかかるよしをそうせさせたまふ おほとのなどにも かかることありて えまゐらぬおほむ-せうそこなどきこエたまふ

ひくれて これみつまゐれり かかるけがらひありとのたまひて まゐるひとびとも みなたちながらまかづれば ひとしげからず めしよせて
いかにぞ いまはとみはてつや
とのたまふままに そでをおほむ-かほにおし-あててなきたまふ これみつもなくなく
いまはかぎりにこそはものしたまふめれ ながながとこもりはべらむもびんなきを あすなむ ひよろしくはべれば とかくのこと いとたふときらうそうの あひしりてはべるに いひかたらひつけはべりぬる ときこゆ
そひたりつるをむなはいかに とのたまへば
それなむ また えいくまじくはべるめる われもおくれじとまどひはべりて けさはたににおちいりぬとなむみたまへつる かのふるさとびとにつげやらむ とまうせど しばし おもひしづめよと ことのさまおもひめぐらして となむ こしらへおきはべりつる
と かたりきこゆるままに いといみじとおぼして
われも いとここちなやましく いかなるべきにかとなむおぼゆる とのたまふ
なにか さらにおもほしものせさせたまふ さるべきにこそ よろづのことはべらめ ひとにももらさじとおもうたまふれば これみつおりたちて よろづはものしはべる などまうす
さかし さみなおもひなせど うかびたるこころのすさびに ひとをいたづらになしつるかごとおひぬべきが いとからきなり せうしやう-の-みやうぶなどにもきかすな あまぎみましてかやうのことなど いさめらるるを こころはづかしくなむおぼゆべきと くちかためたまふ
さらぬほふしばらなどにも みな いひなすさまことにはべる
ときこゆるにぞ かかりたまへる
ほの-きくにようばうなど あやしく なにごとならむ けがらひのよしのたまひて うちにもまゐりたまはず また かくささめきなげきたまふと ほのぼのあやしがる
さらにことなくしなせと そのほどのさほふのたまへど
なにか ことことしくすべきにもはべらず
とてたつが いとかなしくおぼさるれば
びんなしとおもふべけれど いまひとたび かのなきがらをみざらむが いといぶせかるべきを むまにてものせむ
とのたまふを いとたいだいしきこととはおもへど
さおぼされむは いかがせむ はや おはしまして よふけぬさきにかへらせおはしませ
とまうせば このごろのおほむ-やつれにまうけたまへる かりのおほむ-さうぞくきかへなどしていでたまふ
みここちかき-くらし いみじくたへがたければ かくあやしきみちにいでたちても あやふかりしものごりに いかにせむとおぼしわづらへど なほかなしさのやるかたなく ただいまのからをみでは またいつのよにかありしかたちをもみ と おぼしねんじて れいのたいふ ずいじんをぐしていでたまふ
みちとほくおぼゆ じふしち-にちのつきさし-いでて かはらのほど おほむ-さきのひもほのかなるに とりべののかたなどみやりたるほどなど もの-むつかしきも なにともおぼエたまはず かき-みだるここちしたまひて おはしつきぬ
あたりさへすごきに いたやのかたはらにだうたてておこなへるあまのすまひ いとあはれなり みあかしのかげ ほのかにすきてみゆ そのやには をむなひとりなくこゑのみして とのかたに ほふしばらに さむ-にんものがたりしつつ わざとのこゑたてぬねんぶつぞする てらでらのそやも みなおこなひはてて いとしめやかなり きよみづのかたぞ ひかりおほくみエ ひとのけはひもしげかりける このあまぎみのこなるだいとこのこゑたふとくて きやううち-よみたるに なみだののこりなくおぼさる
いりたまへれば ひとりそむけて うこんはびやうぶへだててふしたり いかにわびしからむと みたまふ おそろしきけもおぼエず いとらうたげなるさまして まだいささかかはりたるところなし てをとらへて
われに いまひとたびこゑをだにきかせたまへ いかなるむかしのちぎりにかありけむ しばしのほどに こころをつくしてあはれにおもほエしを うち-すてて まどはしたまふが いみじきこと
と こゑもをしまず なきたまふこと かぎりなし

だいとこ-たちも たれとはしらぬに あやしとおもひて みな なみだおとしけり
うこんを いざ にでうへ とのたまへど
としごろ をさなくはべりしより かたときたち-はなれたてまつらず なれきこエつるひとに にはかにわかれたてまつりて いづこにかかへりはべらむ いかになりたまひにきとか ひとにもいひはべらむ かなしきことをばさるものにて ひとにいひさわがれはべらむが いみじきこと といひて なきまどひて けぶりにたぐひて したひまゐりなむ といふ
ことわりなれど さなむよのなかはある わかれといふもの かなしからぬはなし とあるもかかるも おなじいのちのかぎりあるものになむある おもひなぐさめて われをたのめと のたまひこしらへて かくいふわがみこそは いきとまるまじきここちすれ
とのたまふも たのもしげなしや
これみつ よは あけがたになりはべりぬらむ はやかへらせたまひなむ
ときこゆれば かへりみのみせられて むねもつとふたがりていでたまふ
みちいとつゆけきに いとどしきあさぎりに いづこともなくまどふここちしたまふ ありしながらうち-ふしたりつるさま うち-かはしたまへりしが わがおほむ-くれなゐのおほむ-ぞのきられたりつるなど いかなりけむちぎりにかとみちすがらおぼさる おほむ-むまにも はかばかしくのりたまふまじきおほむ-さまなれば また これみつそひたすけておはしまさするに つつみのほどにて おほむ-むまよりすべりおりて いみじくみここちまどひければ
かかるみちのそらにて はふれぬべきにやあらむ さらに えいきつくまじきここちなむする
とのたまふに これみつここちまどひて わがはかばかしくは さのたまふとも かかるみちにゐていでたてまつるべきかは とおもふに いとこころあわたたしければ かはのみづにてをあらひて きよみづ-の-くわのんをねんじたてまつりても すべなくおもひまどふ
きみも しひてみこころをおこして こころのうちにほとけをねんじたまひて また とかくたすけられたまひてなむ にでう-の-ゐんへかへりたまひける
あやしうよぶかきおほむ-ありきを ひとびと みぐるしきわざかな このごろ れいよりもしづごころなきおほむ-しのびありきの しきるなかにも きのふのみけしきの いとなやましうおぼしたりしに いかでかく たどりありきたまふら と なげきあへり
まことに ふしたまひぬるままに いといたくくるしがりたまひて に さむ-にちになりぬるに むげによわるやうにしたまふ うちにも きこしめし なげくことかぎりなし おほむ-いのり かたがたにひまなくののしる まつり はらへ すほふなど いひつくすべくもあらず よにたぐひなくゆゆしきおほむ-ありさまなれば よにながくおはしますまじきにやと あめのしたのひとのさわぎなり
くるしきみここちにも かのうこんをめしよせて つぼねなどちかくたまひて さぶらはせたまふ これみつ ここちもさわぎまどへど おもひのどめて このひとのたづきなしとおもひたるを もてなしたすけつつさぶらはす
きみは いささかひまありておぼさるるときは めしいでてつかひなどすれば ほどなくまじらひつきたり ぶくいとくろくして かたちなどよからねど かたはにみぐるしからぬわかうどなり
あやしうみじかかりけるおほむ-ちぎりにひかされて われもよにえあるまじきなめり としごろのたのみうしなひて こころぼそくおもふらむなぐさめにも もしながらへば よろづにはぐくまむとこそおもひしか ほどなくまたたちそひぬべきが くちをしくもあるべきかな
と しのびやかにのたまひて よわげになきたまへば いふかひなきことをばおきて いみじくをしとおもひきこゆ
とののうちのひと あしをそらにておもひまどふ うちより おほむ-つかひ あめのあしよりもけにしげし おぼしなげきおはしますをききたまふに いとかたじけなくて せめてつよくおぼしなる おほとのもけいめいしたまひて おとど ひびにわたりたまひつつ さまざまのことをせさせたまふ しるしにや にじふ-よにち いとおもくわづらひたまひつれど ことなるなごりのこらず おこたるさまにみエたまふ
けがらひいみたまひしも ひとつにみちぬるよなれば おぼつかながらせたまふみこころ わりなくて うちのおほむ-とのゐどころにまゐりたまひなどす おほとの わがみくるまにてむかへたてまつりたまひて おほむ-ものいみなにやと むつかしうつつしませたてまつりたまふ われにもあらず あらぬよによみがへりたるやうに しばしはおぼエたまふ

くぐわちはつかのほどにぞ おこたりはてたまひて いといたくおもやせたまへれど なかなか いみじくなまめかしくて ながめがちに ねをのみなきたまふ みたてまつりとがむるひともありて おほむ-もののけなめりなどいふもあり
うこんをめしいでて のどやかなるゆふぐれに ものがたりなどしたまひて
なほ いとなむあやしき などてそのひととしられじとは かくいたまへりしぞ まことにあまのこなりとも さばかりにおもふをしらで へだてたまひしかばなむ つらかりし とのたまへば
などてか ふかくかくしきこエたまふことははべらむ いつのほどにてかは なにならぬおほむ-なのりをきこエたまはむ はじめより あやしうおぼエぬさまなりしおほむ-ことなれば うつつともおぼエずなむあるとのたまひて おほむ-ながくしも さばかりにこそは ときこエたまひながら なほざりにこそまぎらはしたまふらめ となむ うきことにおぼしたりし ときこゆれば
あいなかりけるこころくらべ-どもかな われは しかへだつるこころもなかりき ただ かやうにひとにゆるされぬふるまひをなむ まだならはぬことなる うちにいさめのたまはするをはじめ つつむことおほかるみにて はかなくひとにたはぶれごとをいふも ところせう とりなしうるさきみのありさまになむあるを はかなかりしゆふべより あやしうこころにかかりて あながちにみたてまつりしも かかるべきちぎりこそはものしたまひけめとおもふも あはれになむ またうちかへし つらうおぼゆる かうながかるまじきにては など さしもこころにしみて あはれとおぼエたまひけむ なほくはしくかたれ いまは なにごとをかくすべきぞ なぬかなぬかにほとけかかせても たがためとか こころのうちにもおもは  とのたまへば
なにか へだてきこエさせはべら みづから しのびすぐしたまひしことを なきおほむ-うしろに くちさがなくやは とおもうたまふばかりになむ
おや-たちは はやうせたまひにき さむゐ-の-ちうじやうとなむきこエし いとらうたきものにおもひきこエたまへりしかど わがみのほどのこころもとなさをおぼすめりしに いのちさへたへたまはずなりにしのち はかなきもののたよりにて とう-の-ちうじやうなむ まだせうしやうにものしたまひしとき みそめたてまつらせたまひて みとせばかりは こころざしあるさまにかよひたまひしを こぞのあきごろ かのみぎ-の-おほとのより いとおそろしきことのきこエまでこしに ものをぢをわりなくしたまひしみこころに せむかたなくおぼしをぢて にし-の-きやうに おほむ-めのとすみはべるところになむ はひ-かくれたまへりし それもいとみぐるしきに すみわびたまひて やまざとにうつろひなむとおぼしたりしを ことしよりはふたがりけるかたにはべりければ たがふとて あやしきところにものしたまひしを みあらはされたてまつりぬることと おぼしなげくめりし よのひとににず ものづつみをしたまひてひとにものおもふけしきをみエむを はづかしきものにしたまひて つれなくのみもてなして ごらんぜられたてまつりたまふめりしか
と かたりいづるに さればよと おぼしあはせて いよいよあはれまさりぬ
をさなきひとまどはしたりと ちうじやうのうれへしは さるひとや ととひたまふ
しか をととしのはるぞ ものしたまへりし をむなにて いとらうたげになむ とかたる
さて いづこにぞ ひとにさとはしらせで われにえさせよ あとはかなく いみじとおもふおほむ-かたみに いとうれしかるべくなむ とのたまふ かのちうじやうにもつたふべけれど いふかひなきかことおひなむ とざまかうざまにつけて はぐくまむにとがあるまじきを そのあらむめのとなどにも ことざまにいひなして ものせよかし などかたらひたまふ
さらば いとうれしくなむはべるべき かのにし-の-きやうにておひいでたまはむは こころぐるしくなむ はかばかしくあつかふひとなしとて かしこに などきこゆ
ゆふぐれのしづかなるに そらのけしきいとあはれに おまへのせんさいかれがれに むしのねもなきかれて もみぢのやうやういろづくほど ゑにかきたるやうにおもしろきをみわたして こころよりほかにをかしきまじらひかなと かのゆふがほのやどりをおもひいづるもはづかし たけのなかにいへばとといふとりの ふつつかになくをききたまひて かのありしゐんにこのとりのなきしを いとおそろしとおもひたりしさまの おもかげにらうたくおぼしいでらるれば
としはいくつにかものしたまひし あやしくよのひとににず あエかにみエたまひしも かくながかるまじくてなりけり とのたまふ
じふくにやなりたまひけむ うこんは なくなりにけるおほむ-めのとのすておきてはべりければ さむゐ-の-きみのらうたがりたまひて かのおほむ-あたりさらず おほしたてたまひしをおもひたまへいづれば いあかでかよにはべらむずらむ いとしもひとにと くやしくなむ もの-はかなげにものしたまひしひとのみこころを たのもしきひとにて としごろならひはべりけること ときこゆ
はかなびたるこそは らうたけれ かしこくひとになびかぬ いとこころづきなきわざなり みづからはかばかしくすくよかならぬこころならひに をむなはただやはらかに とりはづしてひとにあざむかれぬべきが さすがにものづつみし みむひとのこころにしたがはむなむ あはれにて わがこころのままにとりなほしてみむに なつかしくおぼゆべき などのたまへば
このかたのおほむ-このみには もて-はなれたまはざりけり とおもひたまふるにも くちをしくはべるわざかな とてなく
そらのうち-くもりて かぜひややかなるに いといたくながめたまひて
みしひとのけぶりをくもとながむれば
ゆふべのそらもむつましきかな
ひとりごちたまへど えさしいらへもきこエず かやうにて おはせましかば とおもふにも むねふたがりておぼゆ みみかしかましかりしきぬたのおとを おぼしいづるさへこひしくて まさにながきよとうち-ずんじて ふしたまへり

かの いよのいへのこぎみ まゐるをりあれど ことにありしやうなることづてもしたまはねば うしとおぼしはてにけるを いとほしとおもふに かくわづらひたまふをききて さすがにうち-なげきけり とほくくだりなどするを さすがにこころぼそければ おぼしわすれぬるかと こころみに
うけたまはり なやむを ことにいでては えこそ
とはぬをもなどかととはでほどふるに
いかばかりかはおもひみだるる
ますだはまことになむ
ときこエたり めづらしきに これもあはれわすれたまはず
いけるかひなきや たがいはましことにか
うつせみのよはうきものとしりにしを
またことのはにかかるいのちよ
はかなしや 

と おほむ-てもうち-わななかるるに みだれかきたまへる いとどうつくしげなり なほ かのもぬけをわすれたまはぬを いとほしうもをかしうもおもひけり
かやうににくからずは きこエかはせど けぢかくとはおもひよらず さすがに いふかひなからずはみエたてまつりてやみなむ とおもふなりけり
かのかたつかたは くらうど-の-せうしやうをなむかよはす とききたまふ あやしや いかにおもふらむと せうしやうのこころのうちもいとほしく また かのひとのけしきもゆかしければ こぎみして しにかへりおもふこころは しりたまへりや といひかはす
ほのかにものきばのをぎをむすばずは
つゆのかことをなににかけまし
たかやかなるをぎにつけて しのびてとのたまへれど とり-あやまちて せうしやうもみつけて われなりけりとおもひあはせば さりとも つみゆるしてむ とおもふ みこころおごりぞ あいなかりける
せうしやうのなきをりにみすれば こころうしとおもへど かくおぼしいでたるも さすがにて おほむ-かへり くちときばかりをかことにてとらす
ほのめかすかぜにつけてもしたをぎの
なかばはしもにむすぼほれつつ
てはあしげなるを まぎらはしさればみてかいたるさま しななし ほかげにみしかほ おぼしいでらる うちとけでむかひゐたるひとは えうとみはつまじきさまもしたりしかな なにのこころばせありげもなく さうどきほこりたりしよ とおぼしいづるに にくからず なほこりずまに またもあだなたちぬべきみこころのすさびなめり

かのひとのなななぬか しのびてひえのほけだうにて ことそがず さうぞくよりはじめて さるべきもの-ども こまかに ずきやうなどせさせたまひぬ きやう ほとけのかざりまでおろかならず これみつがあにのあざり いとたふときひとにて になうしけり
おほむ-ふみのしにて むつましくおぼすもんじやうはかせめして ぐわんもんつくらせたまふ そのひととなくて あはれとおもひしひとのはかなきさまになりたるを あみだぶつにゆづりきこゆるよし あはれげにかきいでたまへれば
ただ かくながら くはふべきことはべらざめり とまうす
しのびたまへど おほむ-なみだもこぼれて いみじくおぼしたれば
なにびとならむ そのひとときこエもなくて かうおぼしなげかすばかりなりけむすくせのたかさ
といひけり しのびててうぜさせたまへりけるさうぞくのはかまをとりよせさせたまひて
なくなくもけふはわがゆふしたひもを
いづれのよにかとけてみるべき
このほどまではただよふなるを いづれのみちにさだまりておもむくらむ とおもほしやりつつ ねんずをいとあはれにしたまふ とう-の-ちうじやうをみたまふにも あいなくむねさわぎて かのなでしこのおひたつありさま きかせまほしけれど かことにおぢて うち-いでたまはず
かれ かのゆふがほのやどりには いづかたにとおもひまどへど そのままにえたづねきこエず うこんだにおとづれねば あやしとおもひなげきあへり たしかならねど けはひをさばかりにやと ささめきしかば これみつをかこちけれど いとかけはなれ けしきなくいひなして なほおなじごとすきありきければ いとどゆめのここちして もし ずりやうのこどものすきずきしきが とう-の-きみにおぢきこエて やがて ゐてくだりにけるにや とぞ おもひよりける
このいへあるじぞ にし-の-きやうのめのとのむすめなりける みたりそのこはありて うこんはことびとなりければ おもひへだてて おほむ-ありさまをきかせぬなりけりと なきこひけり うこん はた かしかましくいひさわがむをおもひて きみもいまさらにもらさじとしのびたまへば わかぎみのうへをだにえきかず あさましくゆくへなくてすぎゆく
きみは ゆめをだにみばやと おぼしわたるに このほふじしたまひて またのよ ほのかに かのありしゐんながら そひたりしをむなのさまもおなじやうにてみエければ あれたりしところにすみけむものの われにみいれけむたよりに かくなりぬることと おぼしいづるにもゆゆしくなむ

いよ-の-すけ かむなづきのついたち-ごろにくだる にようばうのくだらむにとて たむけこころことにせさせたまふ また うちうちにもわざとしたまひて こまやかにをかしきさまなるくし あふぎおほくして ぬさなどわざとがましくて かのこうちきもつかはす
あふまでのかたみばかりとみしほどに
ひたすらそでのくちにけるかな
こまかなること-どもあれど うるさければかかず
おほむ-つかひ かへりにけれど こぎみして こうちきのおほむ-かへりばかりはきこエさせたり
せみのはもたちかへてけるなつごろも
かへすをみてもねはなかれけり
おもへど あやしうひとににぬこころづよさにても ふり-はなれぬるかな とおもひつづけたまふ けふぞふゆたつひなりけるも しるく うち-しぐれて そらのけしきいとあはれなり ながめくらしたまひて
すぎにしもけふわかるるもふたみちに
ゆくかたしらぬあきのくれかな
なほ かくひとしれぬことはくるしかりけりと おぼししりぬらむかし かやうのくだくだしきことは あながちにかくろへしのびたまひしもいとほしくて みなもらしとどめたるを などみかどのみこならむからに みむひとさへ かたほならずものほめがちなると つくりごとめきてとりなすひと ものしたまひければなむ あまりものいひさがなきつみ さりどころなく

わらはやみにわづらひたまひて よろづにまじなひかぢなどまゐらせたまへど しるしなくて あまたたびおこりたまひければ あるひと きたやまになむ なにがしでらといふところに かしこきおこなひびとはべる こぞのなつもよにおこりて ひとびとまじなひわづらひしを やがてとどむるたぐひ あまたはべりき ししこらかしつるときはうたてはべるを とくこそこころみさせたまはめ などきこゆれば めしにつかはしたるに おイかがまりてむろのとにもまかでず とまうしたれば いかがはせむ いとしのびてものせむ とのたまひて おほむ-ともにむつましきし ごにんばかりして まだあかつきにおはす
ややふかういるところなりけり やよひのつごもりなれば きやうのはなさかりはみなすぎにけり やまのさくらはまださかりにて いりもておはするままに かすみのたたずまひもをかしうみゆれば かかるありさまもならひたまはず ところせきおほむ-みにて めづらしうおぼされけり
てらのさまもいとあはれなり みねたかく ふかきいはやのなかにぞ ひじりいりゐたりける のぼりたまひて たれともしらせたまはず いといたうやつれたまへれど しるきおほむ-さまなれば 

あな かしこや ひとひ めしはべりしにやおはしますらむ いまは このよのことをおもひたまへねば げんがたのおこなひもすてわすれてはべるを いかで かうおはしましつらむ
と おどろきさわぎ うち-ゑみつつみたてまつる いとたふときだいとこなりけり さるべきものつくりて すかせたてまつり かぢなどまゐるほど ひたかくさし-あがりぬ

すこしたちいでつつみわたしたまへば たかきところにて ここかしこ そうばう-どもあらはにみおろさるる ただこのつづらをりのしもに おなじこしばなれど うるはしくしわたして きよげなるや らうなどつづけて こだちいとよしあるは
なにびとのすむにか
ととひたまへば おほむ-ともなるひと
これなむ なにがしそうづの ふたとせこもりはべるかたにはべるなる
こころはづかしきひとすむなるところにこそあなれ あやしうも あまりやつしけるかな ききもこそすれ などのたまふ
きよげなるわらはなどあまたいできて あかたてまつり はなをりなどするもあらはにみゆ
かしこに をむなこそありけれ
そうづは よも さやうには すゑたまはじを
いかなるひとならむ
とくちぐちいふ おりてのぞくもあり
をかしげなるをむなご-ども わかきひと わらはべなむみゆる といふ
きみは おこなひしたまひつつ ひたくるままに いかならむとおぼしたるを
とかうまぎらはさせたまひて おぼしいれぬなむ よくはべる
ときこゆれば しりへのやまにたちいでて きやうのかたをみたまふ はるかにかすみわたりて よものこずゑそこはかとなうけぶりわたれるほど
ゑにいとよくもにたるかな かかるところにすむひと こころにおもひのこすことはあらじかし とのたまへば
これは いとあさくはべり ひとのくになどにはべるうみ やまのありさまなどをごらんぜさせてはべらば いかに おほむ-ゑいみじうまさらせたまはむ ふじのやま なにがしのたけ
など かたりきこゆるもあり またにしくにのおもしろきうらうら いそのうへをいひつづくるもありて よろづに まぎらはしきこゆ
ちかきところには はりまのあかしのうらこそ なほことにはbれ なにのいたりふかきくまはなけれど ただ うみのおもてをみわたしたるほどなむ あやしくことどころににず ゆほびかなるところにはべる
かのくにのさきのかみ しぼちの むすめかしづきたるいへ いといたしかし だいじんののちにて いでたちもすべかりけるひとの よのひがものにて まじらひもせず このゑのちゆうじやうをすてて まうしたまはれりけるつかさなれど かのくにのひとにもすこしあなづられて なにのめいぼくにてか またみやこにもかへらむといひて かしらもおろしはべりにけるを すこしおくまりたるやまずみもせで さるうみづらにいでゐたる ひがひがしきやうなれど げに かのくにのうちに さも ひとのこもりゐぬべきところどころはありながら ふかきさとは ひとばなれこころすごく わかきさいしのおもひわびぬべきにより かつはこころをやれるすまひになむはべる
さいつころ まかりくだりてはべりしついでに ありさまみたまへによりてはべりしかば きやうにてこそところえぬやうなりけれ そこらはるかに いかめしうしめてつくれるさま さはいへど くにのつかさにてしおきけることなれば のこりのよはひゆたかにふべきこころがまへも になくしたりけり のちのよのつとめも いとよくして なかなかほふしまさりしたるひとになむはべりける とまうせば
さて そのむすめは ととひたまふ
けしうはあらず かたち こころばせなどはべるなり だいだいのくにのつかさなど よういことにして さるこころばへみすなれど さらにうけひかず わがみのかくいたづらにしづめるだにあるを このひとひとりにこそあれ おもふさまことなり もしわれにおくれてそのこころざしとげず このおもひおきつるすくせたがはば うみにいりねと つねにゆいごんしおきてはべるなる
ときこゆれば きみもをかしとききたまふ ひとびと
かいりゆわうのきさきになるべきいつきむすめななり
こころたかさくるしや とてわらふ
かくいふは はりまのかみのこの くらうどより ことし かうぶりえたるなりけり
いとすきたるものなれば かのにふだうのゆいごんやぶりつべきこころはあらむかし
さて たたずみよるならむ
といひあへり
いで さいふとも いなかびたらむ をさなくよりさるところにおひいでて ふるめいたるおやにのみしたがひたらむは
ははこそゆゑあるべけれ よきわかうど わらはなど みやこのやむごとなきところどころより るいにふれてたづねとりて まばゆくこそもてなすなれ
なさけなきひとなりてゆかば さてこころやすくてしも えおきたらじをや
などいふもあり きみ
なにごころありて うみのそこまでふかうおもひいるらむ そこのみるめも ものむつかしう
などのたまひて ただならずおぼしたり かやうにても なべてならず もて-ひがみたることこのみたまふみこころなれば おほむ-みみとどまらむをや とみたてまつる
くれかかりぬれど おこらせたまはずなりぬるにこそはあめれ はやかへらせたまひなむ
とあるを だいとこ
おほむ-もののけなど くははれるさまにおはしましけるを こよひは なほしづかにかぢなどまゐりて いでさせたまへ とまうす
さもあることと みなひとまうす きみも かかるたびねもならひたまはねば さすがに をかしくて
さらばあかつきに とのたまふ

ひとなくて つれづれなれば ゆふぐれのいたうかすみたるにまぎれて かのこしばがきのほどにたちいでたまふ ひとびとはかへしたまひて これみつのあそむとのぞきたまへば ただこのにしおもてにしも ほとけすゑたてまつりておこなふ あまなりけり すだれすこしあげて はなたてまつるめり なかのはしらによりゐて けふそくのうへにきやうをおきて いとなやましげによみゐたるあまぎみ ただびととみエず しじふよばかりにて いとしろうあてに やせたれど つらつきふくらかに まみのほど かみのうつくしげにそがれたるすゑも なかなかながきよりもこよなういまめかしきものかなと あはれにみたまふ
きよげなるおとなふたりばかり さてはわらはべぞいでいりあそぶ なかにとをばかりやあらむとみエて しろききぬ やまぶきなどのなエたるきて はしりきたるをむなご あまたみエつるこどもににるべうもあらず いみじくおひさきみエて うつくしげなるかたちなり かみはあふぎをひろげたるやうにゆらゆらとして かほはいとあかくすりなしてたてり

なにごとぞや わらはべとはらだちたまへるか
とて あまぎみのみあげたるに すこしおぼエたるところあれば こなめり とみたまふ
すずめのこをいぬきがにがしつる ふせごのうちにこめたりつるものを
とて いとくちをしとおもへり このゐたるおとな
れいの こころなしの かかるわざをして さいなまるるこそ いとこころづきなけれ いづかたへかまかりぬる いとをかしう やうやうなりつるものを からすなどもこそみつくれ
とて たちてゆく かみゆるるかにいとながく めやすきひとなめり せうなごんのめのととこそひといふめるは このこのうしろみなるべし
あまぎみ
いで あなをさなや いふかひなうものしたまふかな おのが かく けふあすにおぼゆるいのちをば なにともおぼしたらで すずめしたひたまふほどよ つみうることぞと つねにきこゆるを こころうく とて こちや といへば つい-ゐたり
つらつきいとらうたげにて まゆのわたりうち-けぶり いはけなくかい-やりたるひたひつき かむざし いみじううつくし ねびゆかむさまゆかしきひとかなと めとまりたまふ さるは かぎりなうこころをつくしきこゆるひとに いとようにたてまつれるが まもらるるなりけりと おもふにもなみだぞおつる
あまぎみ かみをかき-なでつつ
けづることをうるさがりたまへど をかしのみぐしや いとはかなうものしたまふこそ あはれにうしろめたけれ かばかりになれば いとかからぬひともあるものを こ-ひめぎみは とをばかりにてとのにおくれたまひしほどいみじうものはおもひしりたまへりしぞかし ただいま おのれみすてたてまつらば いかでよにおはせむとすらむ
とて いみじくなくをみたまふも すずろにかなし をさなごこちにも さすがにうち-まもりて ふしめになりてうつぶしたるに こぼれかかりたるかみ つやつやとめでたうみゆ
おひたたむありかもしらぬわかくさを
おくらすつゆぞきエむそらなき
またゐたるおとな げにと うち-なきて
はつくさのおひゆくすゑもしらぬまに
いかでかつゆのきエむとすらむ
ときこゆるほどに そうづ あなたよりきて
こなたはあらはにやはべらむ けふしも はしにおはしましけるかな このかみのひじりのかたに げんじのちゆzはうの わらはやみまじなひにものしたまひけるを ただいまなむ ききつけはべる いみじうしのびたまひければ しりはべらで ここにはべりながら おほむ-とぶらひにもまでざりける とのたまへば
あないみじや いとあやしきさまを ひとやみつらむ とて すだれおろしつ
このよに ののしりたまふひかるげんじ かかるついでにみたてまつりたまはむや よをすてたるほふしのここちにも いみじうよのうれへわすれ よはひのぶるひとのおほむ-ありさまなり いで おほむ-せうそこきこエむ
とて たつおとすれば かへりたまひぬ

あはれなるひとをみつるかな かかれば このすきもの-どもは かかるありきをのみして よくさるまじきひとをもみつくるなりけり たまさかにたちいづるだに かくおもひのほかなることをみるよと をかしうおぼす さても いとうつくしかりつるちごかな なにびとならむ かのひとのおほむ-かはりに あけくれのなぐさめにもみばや とおもふこころ ふかうつきぬ
うち-ふしたまへるに そうづのみでし これみつをよびいでさす ほどなきところなれば きみもやがてききたまふ
よきりおはしましけるよし ただいまなむ ひとまうすに おどろきながら さぶらべきを なにがしこのてらにこもりはべりとは しろしめしながら しのびさせたまへるを うれはしくおもひたまへてなむ くさのおほむ-むしろも このばうにこそまうけはべるべけれ いとほいなきこと とまうしたまへり
いぬるじふよにちのほどより わらはやみにわづらひはべるを たびかさなりてたへがたくはべれば ひとのをしへのまま にはかにたづねいりはべりつれど かやうなるひとのしるしあらはさぬとき はしたなかるべきも ただなるよりは いとほしうおもひたまへつつみてなむ いたうしのびはべりつる いま そなたにも とのたまへり
すなはち そうづまゐりたまへり ほふしなれど いとこころはづかしくひとがらもやむごとなく よにおもはれたまへるひとなれば かるがるしきおほむ-ありさまを はしたなうおぼす かくこもれるほどのおほむ-ものがたりなどきこエたまひて おなじしばのいほりなれど すこしすずしきみづのながれもごらんぜさせむと せちにきこエたまへば かの まだみぬひとびとにことことしういひきかせつるを つつましうおぼせど あはれなりつるありさまもいぶかしくて おはしぬ
げに いとこころことによしありて おなじきくさをもうゑなしたまへり つきもなきころなれば やりみづにかがりびともし とうろなどもまゐりたり みなみおもていときよげにしつらひたまへり そらだきもの いとこころにくくかをりいで みやうがうのかなどにほひみちたるに きみのおほむ-おひかぜいとことなれば うちのひとびともこころづかひすべかめり
そうづ よのつねなきおほむ-ものがたり のちせのことなどきこエしらせたまふ わがつみのほどおそろしう あぢきなきことにこころをしめて いけるかぎりこれをおもひなやむべきなめり ましてのちのよのいみじかるべき おぼしつづけて かうやうなるすまひもせまほしうおぼエたまふものから ひるのおもかげこころにかかりてこひしければ
ここにものしたまふは たれにか たづねきこエまほしきゆめをみたまへしかな けふなむおもひあはせつる
ときこエたまへば うち-わらひて
うちつけなるおほむ-ゆめがたりにぞはべるなる たづねさせたまひても み-こころおとりせさせたまひぬべし こ-あぜちのだいなごんは よになくてひさしくなりはべりぬれば えしろしめさじかし そのきたのかたなむ なにがしがいもうとにはべる かのあぜちかくれてのち よをそむきてはべるが このごろ わづらふことはべるにより かくきやうにもまかでねば たのもしどころにこもりてものしはべるなり ときこエたまふ
かのだいなごんのみ-むすめ ものしたまふとききたまへしは すきずきしきかたにはあらで まめやかにきこゆるなりと おしあてにのたまへば
むすめただひとりはべりし うせて このじふよねんにやなりはべりぬらむ こ-だいなごん うちにたてまつらむなど かしこういつきはべりしを そのほいのごとくもものしはべらで すぎはべりにしかば ただこのあまぎみひとりもて-あつかひはべりしほどに いかなるひとのしわざにか ひやうぶきやうのみやなむ しのびてかたらひつきたまへりけるを もとのきたのかた やむごとなくなどして やすからぬことおほくて あけくれものをおもひてなむ なくなりはべりにし ものおもひにやまひづくものと めにちかくみたまへし
などまうしたまふ さらば そのこなりけりとおぼしあはせつ みこのおほむ-すぢにて かのひとにもかよひきこエたるにやと いとどあはれにみまほし ひとのほどもあてにをかしう なかなかのさかしらごころなく うち-かたらひて こころのままにをしへおほしたててみばや とおぼす
いとあはれにものしたまふことかな それは とどめたまふかたみもなきか
と をさなかりつるゆくへの なほたしかにしらまほしくて とひたまへば
なくなりはべりしほどにこそ はべりしか それも をむなにてぞ それにつけてものおもひのもよほしになむ よはひのすゑにおもひたまへなげきはべるめる ときこエたまふ
さればよ とおぼさる
あやしきことなれど をさなきおほむ-うしろみにおぼすべく きこエたまひてむや おもふこころありて ゆきかかづらふかたもはべりながら よにこころのしまぬにやあらむ ひとりずみにてのみなむ まだにげなきほどとつねのひとにおぼしなづらへて はしたなくや などのたまへば
いとうれしかるべきおほせごとなるを まだむげにいはきなきほどにはべるめれば たはぶれにても ごらんじがたくや そもそも によにんは ひとにもてなされておとなにもなりたまふものなれば くはしくはえとりまうさず かのおばにかたらひはべりてきこエさせむ
と すこやかにいひて もの-ごはきさましたまへれば わかきみこころにはづかしくて えよくもきこエたまはず
あみだぶつものしたまふだうに することはべるころになむ そや いまだつとめはべらず すぐしてさぶらはむ とて のぼりたまひぬ
きみは ここちもいとなやましきに あめすこしうち-そそき やまかぜひややかにふきたるに たきのよどみもまさりて おとたかうきこゆ すこしねぶたげなるどきやうのたエだエすごくきこゆるなど すずろなるひとも ところからもの-あはれなり まして おぼしめぐらすことおほくて まどろませたまはず そやといひしかども よるもいたうふけにけり うちにも ひとのねぬけはひしるくて いとしのびたれど ずずのけふそくにひきならさるるおとほの-きこエ なつかしううち-そよめくおとなひ あてはかなりとききたまひて ほどもなくちかければ とにたてわたしたるびやうぶのなかを すこしひきあけて あふぎをならしたまへば おぼエなきここちすべかめれど ききしらぬやうにやとて ゐざりいづるひとあなり すこししぞきて
あやし ひがみみにや とたどるを ききたまひて
ほとけのおほむ-しるべは くらきにいりても さらにたがふまじかなるものを
とのたまふおほむ-こゑの いとわかうあてなるに うち-いでむこわづかひも はづかしけれど
いかなるかたの おほむ-しるべにか おぼつかなく ときこゆ
げに うちつけなりとおぼめきたまはむも ことわりなれど
はつくさのわかばのうへをみつるより
たびねのそでもつゆぞかはかぬ
ときこエたまひてむや とのたまふ
さらに かやうのおほむ-せうそこ うけたまはりわくべきひともものしたまはぬさまは しろしめし-たりげなるを たれにかは ときこゆ
おのづからさるやうありてきこゆるならむとおもひなしたまへかし
とのたまへば いりてきこゆ
あな いまめかし このきみや よづいたるほどにおはするとぞ おぼすらむ さるにては かのわかくさを いかできいたまへることぞと さまざまあやしきに こころみだれて ひさしうなれば なさけなしとて
まくらゆふこよひばかりのつゆけさを
みやまのこけにくらべざらなむ
ひがたうはべるものを ときこエたまふ
かうやうの ついでなるおほむ-せうそこは まださらにきこエしらず ならはぬことになむ かたじけなくとも かかるついでに まめまめしうきこエさすべきことなむ ときこエたまへれば あまぎみ
ひがことききたまへるならむ いとむつかしきおほむ-けはひに なにごとをかはいらへきこエむ とのたまへば
はしたなうもこそおぼせ とひとびときこゆ
げに わかやかなるひとこそうたてもあらめ まめやかにのたまふ かたじけなし
とて ゐざりよりたまへり
うちつけに あさはかなりと ごらんぜられぬべきついでなれど こころにはさもおぼエはべらねば ほとけはおのづから
とて おとなおとなしう はづかしげなるにつつまれて とみにもえうち-いでたまはず
げに おもひたまへよりがたきついでに かくまでのたまはせ きこエさするも いかが とのたまふ
あはれにうけたまはるおほむ-ありさまを かのすぎたまひにけむおほむ-かはりに おぼしないてむや いふかひなきほどのよはひにて むつましかるべきひとにもたちおくれはべりにければ あやしううきたるやうにて としつきをこそかさねはべれ おなじさまにものしたまふなるを たぐひになさせたまへと いときこエまほしきを かかくるをりはべりがたくてなむ おぼされむところをもはばからず うち-いではべりぬる ときこエたまへば
いとうれしうおもひたまへぬべきおほむ-ことながらも きこしめしひがめたることなどやはべらむと つつましうなむ あやしきみひとつをたのもしびとにするひとなむはべれど いとまだいふかひなきほどにて ごらんじゆるさるるかたもはべりがたげなれば えなむうけたまはりとどめられざりける とのたまふ
みな おぼつかなからずうけたまはるものを ところせうおぼしはばからで おもひたまへよるさまことなるこころのほどを ごらんぜよ
ときこエたまへど いとにげなきことを さもしらでのたまふ とおぼして こころとけたるおほむ-いらへもなし そうづおはしぬれば
よし かうきこエそめはべりぬれば いとたのもしうなむ とて おしたてたまひつ
あかつきがたになりにければ ほけざむまいおこなふだうのせんぼふのこゑ やまおろしにつきてきこエくる いとたふとく たきのおとにひびきあひたり
ふきまよふみやまおろしにゆめさめて
なみだもよほすたきのおとかな
さしぐみにそでぬらしけるやまみづに
すめるこころはさわぎやはする
みみなれはべりにけりや ときこエたまふ

あけゆくそらは いといたうかすみて やまのとり-どもそこはかとなうさへづりあひたり なもしらぬきくさのはな-どもも いろいろにちりまじり にしきをしけるとみゆるに しかのたたずみありくも めづらしくみたまふに なやましさもまぎれはてぬ
ひじり うごきもえせねど とかうしてごしんまゐらせたまふ かれたるこゑの いといたうすきひがめるも あはれにくうづきて だらによみたり
おほむ-むかへのひとびとまゐりて おこたりたまへるよろこびきこエ うちよりもおほむ-とぶらひあり そうづ よにみエぬさまのおほむ-くだもの なにくれと たにのそこまでほりいで いとなみきこエたまふ
ことしばかりのちかひふかうはべりて おほむ-おくりにもえまゐりはべるまじきこと なかなかにもおもひたまへらるべきかな
などきこエたまひて おほみきまゐりたまふ
やまみづにこころとまりはべりぬれど うちよりもおぼつかながらせたまへるも かしこければなむ いま このはなのをりすぐさずまゐりこむ
みやびとにゆきてかたらむやまざくら
かぜよりさきにきてもみるべく
とのたまふおほむ-もてなし こわづかひさへ めもあやなるに
うどんげのはなまちえたるここちして
みやまざくらにめこそうつらね
ときこエたまへば ほほゑみて ときありて ひとたびひらくなるは かたかなるものを とのたまふ
ひじり おほむ-かはらけたまはりて
おくやまのまつのとぼそをまれにあけて
まだみぬはなのかほをみるかな
と うち-なきてみたてまつる ひじり おほむ-まもりに とこたてまつる みたまひて そうづ さうとくたいしのくだらよりえたまへりけるこむがうじのずずの たまのさうぞくしたる やがてそのくによりいれたるはこの からめいたるを すきたるふくろにいれて ごえふのえでにつけて こんるりのつぼ-どもに おほむ-くすり-どもいれて ふぢ さくらなどにつけて ところにつけたるおほむ-おくりもの-どもささげたてまつりたまふ
きみ ひじりよりはじめ どきやうしつるほふしのふせ-ども まうけのもの-ども さまざまにとりにつかはしたりければ そのわたりのやまがつまで さるべきもの-どもたまひ みずきやうなどしていでたまふ
うちにそうづいりたまひて かのきこエたまひしこと まねびきこエたまへど
ともかくも ただいまは きこエむかたなし もし みこころざしあらば いまよとせ いつとせをすぐしてこそは ともかくもとのたまへば さなむ とおなじさまにのみあるを ほいなしとおぼす
おほむ-せうそこ そうづのもとなるちひさきわらはして
ゆふまぐれほのかにはなのいろをみて
けさはかすみのたちぞわづらふ
おほむ-かへし
まことにやはなのあたりはたちうきと
かすむるそらのけしきをもみむ
と よしあるての いとあてなるを うち-すてかいたまへり
みくるまにたてまつるほど おほいどのより いづちともなくて おはしましにけること とて おほむ-むかへのひとびと きみたちなどあまたまゐりたまへり とうのちゆうじやう さちゆうべん さらぬきみたちもしたひきこエて
かうやうのおほむ-ともには つかうまつりはべらむ とおもひたまふるを あさましく おくらさせたまへること とうらみきこエて いといみじきはなのかげに しばしもやすらはず たちかへりはべらむは あかぬわざかな とのたまふ
いはがくれのこけのうへになみゐて かはらけまゐる おちくるみづのさまなど ゆゑあるたきのもとなり とうのちゆうじやう ふところなりけるふえとりいでて ふきすましたり べんのきみ あふぎはかなううち-ならして とよらのてらの にしなるやとうたふ ひとよりはことなるきみたちを げんじのきみ いといたううち-なやみて いはによりゐたまへるは たぐひなくゆゆしきおほむ-ありさまにぞ なにごとにもめうつるまじかりける れいの ひちりきふくずいじん しやうのふえもたせたるすきものなどあり
そうづ きむをみづからもてまゐりて
これ ただおほむ-てひとつあそばして おなじうは やまのとりもおどろかしはべらむ
とせちにきこエたまへば
みだりごこち いとたへがたきものを ときこエたまへど けににくからずかき-ならして みなたちたまひぬ
あかずくちをしと いふかひなきほふし わらはべも なみだをおとしあへり まして うちには としおイたるあまぎみ-たちなど まださらにかかるひとのおほむ-ありさまをみざりつれば このよのものともおぼエたまはず ときこエあへり そうづも
あはれ なにのちぎりにて かかるおほむ-さまながら いとむつかしきひのもとのすゑのよにむまれたまへらむとみるに いとなむかなしき とて めおしのごひたまふ
このわかぎみ をさなごこちに めでたきひとかな とみたまひて
みやのおほむ-ありさまよりも まさりたまへるかな などのたまふ
さらば かのひとのみこになりておはしませよ
ときこゆれば うち-うなづきて いとようありなむ とおぼしたり ひひなあそびにも ゑかいたまふにも げんじのきみとつくりいでて きよらなるきぬきせ かしづきたまふ

きみは まづうちにまゐりたまひて ひごろのおほむ-ものがたりなどきこエたまふ いといたうおとろへにけり とて ゆゆしとおぼしめしたり ひじりのたふとかりけることなど とはせたまふ くはしくそうしたまへば
あざりなどにもなるべきものにこそあなれ おこなひのらうはつもりて おほやけにしろしめされざりけることと たふとがりのたまはせけり
おほいどの まゐりあひたまひて
おほむ-むかへにもとおもひたまへつれど しのびたるおほむ-ありきに いかがとおもひはばかりてなむ のどやかにいち ににちうち-やすみたまへ とて やがて おほむ-おくりつかうまつらむ とまうしたまへば さしもおぼさねど ひかされてまかでたまふ
わがみくるまにのせたてまつりたまうて みづからはひきいりてたてまつれり もて-かしづききこエたまへるみこころばへのあはれなるをぞ さすがにこころぐるしくおぼしける
とのにも おはしますらむとこころづかひしたまひて ひさしくみたまはぬほど いとどたまのうてなにみがきしつらひ よろづをととのへたまへり
をむなぎみ れいの はひ-かくれて とみにもいでたまはぬを おとど せちにきこエたまひて からうしてわたりたまへり ただゑにかきたるもののひめぎみのやうに しすゑられて うち-みじろきたまふこともかたく うるはしうてものしたまへば おもふこともうち-かすめ やまみちのものがたりをもきこエむ いふかひありて をかしういらへたまはばこそ あはれならめ よにはこころもとけず うとくはづかしきものにおぼして としのかさなるにそへて みこころのへだてもまさるを いとくるしくおもはずに
ときどきは よのつねなるみけしきをみばや たへがたうわづらひはべりしをも いかがとだに とひたまはぬこそ めづらしからぬことなれど なほうらめしう
ときこエたまふ からうして
とはぬは つらきものにやあらむ
と しりめにみおこせたまへるまみ いとはづかしげに けだかううつくしげなるおほむ-かたちなり
まれまれは あさましのおほむ-ことや とはぬ などいふきはは ことにこそはべるなれ こころうくものたまひなすかな よとともにはしたなきおほむ-もてなしを もし おぼしなほるをりもやと とざまかうさまにこころみきこゆるほど いとどおもほしうとむなめりかし よしや いのちだに
とて よるのおましにいりたまひぬ をむなぎみ ふともいりたまはず きこエわづらひたまひて うち-なげきてふしたまへるも なま-こころづきなきにやあらむ ねぶたげにもてなして とかうよをおぼしみだるることおほかり
このわかくさのおひいでむほどのなほゆかしきを にげないほどとおもへりしも ことわりぞかし いひよりがたきことにもあるかな いかにかまへて ただこころやすくむかへとりて あけくれのなぐさめにみむ ひやうぶきやうのみやは いとあてになまめいたまへれど にほひやかになどもあらぬを いかで かのひとぞうにおぼエたまふらむ ひとつきさきばらなればにや などおぼす ゆかりいとむつましきに いかでかと ふかうおぼゆ

またのひ おほむ-ふみたてまつれたまへり そうづにもほのめかしたまふべし あまうへには
もて-はなれたりしみけしきのつつましさに おもひたまふるさまをも えあらはしはてはべらずなりにしをなむ かばかりきこゆるにても おしなべたらぬこころざしのほどをごらんじしらば いかにうれしう
などあり なかに ちひさくひき-むすびて
おもかげはみをもはなれずやまざくら
こころのかぎりとめてこしかど
よのまのかぜも うしろめたくなむ
とあり おほむ-てなどはさるものにて ただはかなうおし-つつみたまへるさまも さだすぎたるおほむ-め-どもには めもあやにこのましうみゆ
あな かたはらいたや いかがきこエむと おぼしわづらふ
ゆくてのおほむ-ことは なほざりにもおもひたまへなされしを ふりはへさせたまへるに きこエさせむかたなくなむ まだなにはづをだに はかばかしうつづけはべらざめれば かひなくなむ さても
あらしふくをのへのさくらちらぬまを
こころとめけるほどのはかなさ
いとどうしろめたう
とあり そうづのおほむ-かへりもおなじさまなれば くちをしくて に さむにちありて これみつをぞたてまつれたまふ
せうなごんのめのとといふひとあべし たづねて くはしうかたらへ などのたまひしらす さも かからぬくまなきみこころかな さばかりいはけなげなりしけはひをと まほならねども みしほどをおもひやるもをかし
わざと かうおほむ-ふみあるを そうづもかしこまりきこエたまふ せうなごんにせうそこして あひたり くはしく おぼしのたまふさま おほかたのおほむ-ありさまなどかたる ことばおほかるひとにて つきづきしういひつづくれど いとわりなきおほむ-ほどを いかにおぼすにかと ゆゆしうなむ たれもたれもおぼしける
おほむ-ふみにも いとねむごろにかいたまひて れいの なかに かのおほむ-はなちがきなむ なほみたまへまほしき とて
あさかやまあさくもひとをおもはぬに
などやまのゐのかけはなるらむ
おほむ-かへし
くみそめてくやしとききしやまのゐの
あさきながらやかげをみるべき
これみつもおなじことをきこゆ
このわづらひたまふことよろしくは このごろすぐして きやうのとのにわたりたまひてなむ きこエさすべき とあるを こころもとなうおぼす

ふぢつぼのみや なやみたまふことありて まかでたまへり うへの おぼつかながり なげききこエたまふみけしきも いといとほしうみたてまつりながら かかるをりだにと こころもあくがれまどひて いづくにもいづくにも まうでたまはず うちにても さとにても ひるはつれづれとながめくらして くるれば わうみやうぶをせめありきたまふ
いかがたばかりけむ いとわりなくてみたてまつるほどさへ うつつとはおぼエぬぞ わびしきや みやも あさましかりしをおぼしいづるだに よととものおほむ-ものおもひなるを さてだにやみなむとふかうおぼしたるに いとうくて いみじきみけしきなるものから なつかしうらうたげに さりとてうちとけず こころふかうはづかしげなるおほむ-もてなしなどの なほひとににさせたまはぬを などか なのめなることだにうち-まじりたまはざりけむと つらうさへぞおぼさるる なにごとをかはきこエつくしたまはむ くらぶのやまにやどりもとらまほしげなれど あやにくなるみじかよにて あさましう なかなかなり

みてもまたあふよまれなるゆめのうちに
やがてまぎるるわがみともがな
と むせかへりたまふさまも さすがにいみじければ
よがたりにひとやつたへむたぐひなく
うきみをさめぬゆめになしても
おぼし-みだれたるさまも いとことわりにかたじけなし みやうぶのきみぞ おほむ-なほしなどは かき-あつめもてきたる
とのにおはして なきねにふしくらしたまひつ おほむ-ふみなども れいの ごらんじいれぬよしのみあれば つねのことながらも つらういみじうおぼしほれて うちへもまゐらで に さむにちこもりおはすれば また いかなるにかと みこころうごかせたまふべかめるも おそろしうのみおぼエたまふ

みやも なほいとこころうきみなりけりと おぼしなげくに なやましさもまさりたまひて とくまゐりたまふべきおほむ-つかひ しきれど おぼしもたたず
まことに みここち れいのやうにもおはしまさぬは いかなるにかと ひとしれずおぼすこともありければ こころうく いかならむ とのみおぼしみだる
あつきほどは いとどおきもあがりたまはず みつきになりたまへば いとしるきほどにて ひとびとみたてまつりとがむるに あさましきおほむ-すくせのほど こころうし ひとはおもひよらぬことなれば このつきまで そうせさせたまはざりけることと おどろききこゆ わがみこころひとつには しるうおぼしわくこともありけり
おほむ-ゆどのなどにもしたしうつかうまつりて なにごとのみけしきをもしるくみたてまつりしれる おほむ-めのとごのべん みやうぶなどぞ あやしとおもへど かたみにいひあはすべきにあらねば なほのがれがたかりけるおほむ-すくせをぞ みやうぶはあさましとおもふ
うちには おほむ-もののけのまぎれにて とみにけしきなうおはしましけるやうにぞそうしけむかし みるひともさのみおもひけり いとどあはれにかぎりなうおぼされて おほむ-つかひなどのひまなきも そら-おそろしう ものを おぼすこと ひまなし
ちゆうじようのきみも おどろおどろしうさまことなるゆめをみたまひて あはするものをめして とはせたまへば およびなうおぼしもかけぬすぢのことをあはせけり
そのなかに たがひめありて つつしませたまふべきことなむはべる
といふに わづらはしくおぼエて
みづからのゆめにはあらず ひとのおほむ-ことをかたるなり このゆめあふまで またひとにまねぶな
とのたまひて こころのうちには いかなることならむ とおぼしわたるに このをむなみやのおほむ-ことききたまひて もしさるやうもやと おぼしあはせたまふに いとどしくいみじきことのはつくしきこエたまへど みやうぶもおもふに いとむくつけう わづらはしさまさりて さらにたばかるべきかたなし はかなきひとくだりのおほむ-かへりのたまさかなりしも たエhてにたり

ふづきになりてぞまゐりたまひける めづらしうあはれにて いとどしきおほむ-おもひのほどかぎりなし すこしふくらかになりたまひて うち-なやみ おもやせたまへる はた げににるものなくめでたし
れいの あけくれ こなたにのみおはしまして おほむ-あそびもやうやうをかしきそらなれば げんじのきみもいとまなくめしまつはしつつ おほむ-こと ふえなど さまざまにつかうまつらせたまふ いみじうつつみたまへど しのびがたきけしきのもりいづるをりをり みやも さすがなること-どもをおほくおぼしつづけけり

かのやまでらのひとは よろしくなりていでたまひにけり きやうのおほむ-すみかたづねて ときどきのおほむ-せうそこなどあり おなじさまにのみあるも ことわりなるうちに このつきごろは ありしにまさるもの-おもひに ことごとなくてすぎゆく
あきのすゑつかた いともの-こころぼそくてなげきたまふ つきのをかしきよ しのびたるところにからうしておもひたちたまへるを しぐれめいて うち-そそく おはするところはろくでうきやうごくわたりにて うちよりなれば すこしほどとほきここちするに あれたるいへのこだちいともの-ふりてこぐらくみエたるあり れいのおほむ-ともにはなれぬこれみつなむ
こ-あぜちのだいなごんのいへにはべりて もののたよりにとぶらひてはべりしかば かのあまうへ いたうよわりたまひにたれば なにごともおぼエず となむまうしてはべりし ときこゆれば
あはれのことや とぶらふべかりけるを などか さなむとものせざりし いりてせうそこせよ
とのたまへば ひといれてあないせさす わざとかうたちよりたまへることといはせたれば いりて
かくおほむ-とぶらひになむおはしましたる といふに おどろきて
いとかたはらいたきことかな このひごろ むげにいとたのもしげなくならせたまひにたれば おほむ-たいめんなどもあるまじ
といへども かへしたてまつらむはかしこし とて みなみのひさしひき-つくろひて いれたてまつる
いとむつかしげにはべれど かしこまりをだにとて ゆくりなう もの-ふかきおましどころになむ
ときこゆ げにかかるところは れいにたがひておぼさる
つねにおもひたまへたちながら かひなきさまにのみもてなさせたまふに つつまれはべりてなむ なやませたまふこと おもくとも うけたまはらざりけるおぼつかなさ などきこエたまふ
みだりごこちは いつともなくのみはべるが かぎりのさまになりはべりて いとかたじけなく たちよらせたまへるに みづからきこエさせぬこと のたまはすることのすぢ たまさかにもおぼしめしかはらぬやうはべらば かくわりなきよはひすぎはべりて かならずかずまへさせたまへ いみじうこころぼそげにみたまへおくなむ ねがひはべるみちのほだしにおもひたまへられぬべき などきこエたまへり
いとちかければ こころぼそげなるおほむ-こゑたエだエきこエて
いと かたじけなきわざにもはべるかな このきみだに かしこまりもきこエたまつべきほどならましかば
とのたまふ あはれにききたまひて
なにか あさうおもひたまへむことゆゑ かうすきずきしきさまをみエたてまつらむ いかなるちぎりにか みたてまつりそめしより あはれにおもひきこゆるも あやしきまで このよのことにはおぼエはべらぬ などのたまひて かひなきここちのみしはべるを かのいはけなうものしたまふおほむ-ひとこゑ いかで とのたまへば
いでや よろづおぼししらぬさまに おほとのごもりいりて
などきこゆるをりしも あなたよりくるおとして
うへこそ このてらにありしげんじのきみこそおはしたなれ などみたまはぬ
とのたまふを ひとびと いとかたはらいたしとおもひて あなかま ときこゆ
いさ みしかば ここちのあしさなぐさみき とのたまひしかばぞかし
と かしこきこときこエたりとおぼしてのたまふ
いとをかしときいたまへど ひとびとのくるしとおもひたれば きかぬやうにて まめやかなるおほむ-とぶらひをきこエおきたまひて かへりたまひぬ げに いふかひなのけはひや さりとも いとようをしへてむ とおぼす
またのひも いとまめやかにとぶらひきこエたまふ れいの ちひさくて
いはけなきたづのひとこゑききしより
あしまになづむふねぞえならぬ
おなじひとにや
と ことさらをさなくかきなしたまへるも いみじうをかしげなれば やがておほむ-てほんにと ひとびときこゆ せうなごんぞきこエたる
とはせたまへるは けふをもすぐしがたげなるさまにて やまでらにまかりわたるほどにて かうとはせたまへるかしこまりは このよならでもきこエさせむ
とあり いとあはれとおぼす
あきのゆふべは まして こころのいとまなくおぼしみだるるひとのおほむ-あたりにこころをかけて あながちなるゆかりもたづねまほしきこころもまさりたまふなるべし きエむそらなきとありしゆふべおぼしいでられて こひしくも また みばおとりやせむと さすがにあやふし
てにつみていつしかもみむむらさきの
ねにかよひけるのべのわかくさ

かむなづきにすじやくゐんのぎやうがうあるべし まひびとなど やむごとなきいへのこ-ども かむだちめ てんじやうびと-どもなども そのかたにつきづきしきは みなえらせたまへれば みこ-たち だいじんよりはじめて とりどりのざえ-どもならひたまふ いとまなし
やまざとびとにも ひさしくおとづれたまはざりけるを おぼしいでて ふりはへつかはしたりければ そうづのかへりごとのみあり
たちぬるつきのはつかのほどになむ つひにむなしくみたまへなして せけんのだうりなれど かなしびおもひたまふる
などあるをみたまふに よのなかのはかなさもあはれに うしろめたげにおもへりしひともいかならむ をさなきほどに こひやすらむ こ-みやすむどころにおくれたてまつりし など はかばかしからねどおもひいでて あさからずとぶらひたまへり せうなごん ゆゑなからずおほむ-かへりなどきこエたり
いみなどすぎてきやうのとのになどききたまへば ほどへて みづから のどかなるよおはしたり いとすごげにあれたるところの ひとずくななるに いかにをさなきひとおそろしからむとみゆ れいのところにいれたてまつりて せうなごん おほむ-ありさまなど うち-なきつつきこエつづくるに あいなう おほむ-そでもただならず
みやにわたしたてまつらむとはべるめるを こ-ひめぎみの いとなさけなくうきものにおもひきこエたまへりしに いとむげにちごならぬよはひの まだはかばかしうひとのおもむけをもみしりたまはず なかぞらなるおほむ-ほどにて あまたものしたまふなるなかの あなづらはしきひとにてやまじりたまはむ など すぎたまひぬるも よとともにおぼしなげきつること しるきことおほくはべるに かくかたじけなきなげのおほむ-ことのはは のちのみこころもたどりきこエさせず いとうれしうおもひたまへられぬべきをりふしにはべりながら すこしもなぞらひなるさまにもものしたまはず おほむ-としよりもわかびてならひたまへれば いとかたはらいたくはべる ときこゆ
なにか かうくりかへしきこエしらするこころのほどを つつみたまふらむ そのいふかひなきみ-こころのありさまの あはれにゆかしうおぼエたまふも ちぎりことになむ こころながらおもひしられける なほ ひとづてならで きこエしらせばや
あしわかのうらにみるめはかたくとも
こはたちながらかへるなみかは
めざましからむ とのたまへば
げにこそ いとかしこけれ とて
よるなみのこころもしらでわかのうらに
たまもなびかむほどぞうきたる
わりなきこと
ときこゆるさまのなれたるに すこしつみゆるされたまふ なぞこエざらむと うち-ずじたまへるを みにしみてわかきひとびとおもへり
きみは うへをこひきこエたまひてなきふしたまへるに おほむ-あそびがたき-どもの
なほしきたるひとのおはする みやのおはしますなめり
ときこゆれば おきいでたまひて
せうなごんよ なほしきたりつらむは いづら みやのおはするか
とて よりおはしたるおほむ-こゑ いとらうたし
みやにはあらねど またおぼしはなつべうもあらず こち
とのたまふを はづかしかりしひとと さすがにききなして あしういひてけりとおぼして めのとにさし-よりて
いざかし ねぶたきに とのたまへば
いまさらに などしのびたまふらむ このひざのうへにおほとのごもれよ いますこしよりたまへ
とのたまへば めのとの
さればこそ かうよづかぬおほむ-ほどにてなむ
とて おしよせたてまつりたれば なにごころもなくゐたまへるに てをさし-いれてさぐりたまへれば なよらかなるおほむ-ぞに かみはつやつやとかかりて すゑのふさやかにさぐりつけられたる いとうつくしうおもひやらる てをとらへたまへれば うたてれいならぬひとの かくちかづきたまへるは おそろしうて
ねなむ といふものを
とて しひてひき-いりたまふにつきてすべりいりて
いまは まろぞおもふべきひと なうとみたまひそ
とのたまふ めのと
いで あなうたてや ゆゆしうもはべるかな きこエさせしらせたまふとも さらになにのしるしもはべらじものを とて くるしげにおもひたれば
さりとも かかるおほむ-ほどをいかがはあらむ なほ ただよにしらぬこころざしのほどをみはてたまへ とのたまふ
あられふりあれて すごきよのさまなり
いかで かうひとずくなにこころぼそうて すぐしたまふらむ
と うち-ないたまひて いとみすてがたきほどなれば
みかうしまゐりね もの-おそろしきよのさまなめるを とのゐびとにてはべらむ ひとびと ちかうさぶらはれよかし
とて いとなれがほにみちやうのうちにいりたまへば あやしうおもひのほかにもと あきれて たれもたれもゐたり めのとは うしろめたなうわりなしとおもへど あらましうきこエさわぐべきならねば うち-なげきつつゐたり
わかぎみは いとおそろしう いかならむとわななかれて いとうつくしきおほむ-はだつきも そぞろさむげにおぼしたるを らうたくおぼエて ひとへばかりをおし-くくみて わがみここちも かつはうたておぼエたまへど あはれにうち-かたらひたまひて
いざ たまへよ をかしきゑなどおほく ひひなあそびなどするところに
と こころにつくべきことをのたまふけはひの いとなつかしきを をさなきここちにも いといたうおぢず さすがに むつかしうねもいらずおぼエて みじろきふしたまへり
よひとよ かぜふきあるるに
げに かう おはせざらましかば いかにこころぼそからまし
おなじくは よろしきほどにおはしまさましかば
とささめきあへり めのとは うしろめたさに いとちかうさぶらふ かぜすこしふきやみたるに よぶかういでたまふも ことありがほなりや
いとあはれにみたてまつるおほむ-ありさまを いまはまして かたときのまもおぼつかなかるべし あけくれながめはべるところにわたしたてまつらむ かくてのみは いかが もの-おぢしたまはざりけり とのたまへば
みやもおほむ-むかへになどきこエのたまふめれど このおほむ-なななぬかすぐしてや などおもうたまふる ときこゆれば
たのもしきすぢながらも よそよそにてならひたまへるは おなじうこそうとうおぼエたまはめ いまよりみたてまつれど あさからぬこころざしはまさりぬべくなむ
とて かい-なでつつ かへりみがちにていでたまひぬ
いみじうきりわたれるそらもただならぬに しもはいとしろうおきて まことのけさうもをかしかりぬべきに さうざうしうおもひおはす いとしのびてかよひたまふところのみちなりけるをおぼしいでて かどうち-たたかせたまへど ききつくるひとなし かひなくて おほむ-ともにこゑあるひとしてうたはせたまふ

あさぼらけきりたつそらのまよひにも
ゆきすぎがたきいもがかどかな
と ふたかへりばかりうたひたるに よしあるしもづかひをいだして
たちとまりきりのまがきのすぎうくは
くさのとざしにさはりしもせじ
といひかけて いりぬ またひともいでこねば かへるもなさけなけれど あけゆくそらもはしたなくてとのへおはしぬ
をかしかりつるひとのなごりこひしく ひとりゑみしつつふしたまへり ひたかうおほとのごもりおきて ふみやりたまふに かくべきことばもれいならねば ふでうち-おきつつすさびゐたまへり をかしきゑなどをやりたまふ
かしこには けふしも みやわたりたまへり としごろよりもこよなうあれまさり ひろうもの-ふりたるところの いとどひとずくなにひさしければ みわたしたまひて
かかるところには いかでか しばしもをさなきひとのすぐしたまはむ なほ かしこにわたしたてまつりてむ なにのところせきほどにもあらず めのとは ざうしなどしてさぶらひなむ きみは わかきひとびとあれば もろともにあそびて いとようものしたまひなむ などのたまふ
ちかうよびよせたてまつりたまへるに かのおほむ-うつりがの いみじうえんにしみかへらせたまへれば をかしのおほむ-にほひや おほむ-ぞはいとなエてと こころぐるしげにおぼいたり
としごろも あつしくさだすぎたまへるひとにそひたまへるよ かしこにわたりてみならしたまへなど ものせしを あやしううとみたまひて ひともこころおくめりしを かかるをりにしもものしたまはむも こころぐるしう などのたまへば
なにかは こころぼそくとも しばしはかくておはしましなむ すこしもののこころおぼししりなむにわたらせたまはむこそ よくははべるべけれ ときこゆ
よるひるこひきこエたまふに はかなきものもきこしめさず
とて げにいといたうおもやせたまへれど いとあてにうつくしく なかなかみエたまふ
なにか さしもおぼす いまはよになきひとのおほむ-ことはかひなし おのれあれば
などかたらひきこエたまひて くるればかへらせたまふを いとこころぼそしとおぼいてないたまへば みやうち-なきたまひて
いとかうおもひないりたまひそ けふあす わたしたてまつらむ など かへすがへすこしらへおきて いでたまひぬ
なごりもなぐさめがたうなきゐたまへり ゆくさきのみのあらむことなどまでもおぼししらず ただとしごろたち-はなるるをりなうまつはしならひて いまはなきひととなりたまひにける とおぼすがいみじきに をさなきみここちなれど むねつとふたがりて れいのやうにもあそびたまはず ひるはさてもまぎらはしたまふを ゆふぐれとなれば いみじくくしたまへば かくてはいかでかすごしたまはむと なぐさめわびて めのともなきあへり
きみのおほむ-もとよりは これみつをたてまつれたまへり
まゐりくべきを うちよりめしあればなむ こころぐるしうみたてまつりしも しづごころなく とて とのゐびとたてまつれたまへり
あぢきなうもあるかな たはぶれにても もののはじめにこのおほむ-ことよ
みやきこしめしつけば さぶらふひとびとのおろかなるにぞさいなまむ
あなかしこ もののついでに いはけなくうち-いできこエさせたまふな
などいふも それをばなにともおぼしたらぬぞ あさましきや
せうなごんは これみつにあはれなるものがたり-どもして
ありへてのちや さるべきおほむ-すくせ のがれきこエたまはぬやうもあらむ ただいまは かけてもいとにげなきおほむ-こととみたてまつるを あやしうおぼしのたまはするも いかなるみこころにか おもひよるかたなうみだれはべる けふも みやわたらせたまひて うしろやすくつかうまつれ こころをさなくもてなしきこゆな とのたまはせつるも いとわづらはしう ただなるよりは かかるおほむ-すきごともおもひいでられはべりつる
などいひて このひともことありがほにやおもはむ など あいなければ いたうなげかしげにもいひなさず たいふも いかなることにかあらむと こころえがたうおもふ
まゐりて ありさまなどきこエければ あはれにおぼしやらるれど さてかよひたまはむも さすがにすずろなるここちして かるがるしうもてひがめたると ひともやもりきかむ など つつましければ ただむかへてむ とおぼす
おほむ-ふみはたびたびたてまつれたまふ くるれば れいのたいふをぞたてまつれたまふ さはること-どものありて えまゐりこぬを おろかにや などあり
みやより あすにはかにおほむ-むかへにとのたまはせたりつれば こころあわたたしくてなむ としごろのよもぎふをかれなむも さすがにこころぼそく さぶらふひとびともおもひみだれて
と ことずくなにいひて をさをさあへしらはず ものぬひいとなむけはひなどしるければ まゐりぬ

きみはおほいどのにおはしけるに れいの をむなぎみとみにもたいめんしたまはず もの-むつかしくおぼエたまひて あづまをすががきて ひたちにはたをこそつくれといふうたを こゑはいとなまめきて すさびゐたまへり
まゐりたれば めしよせてありさまとひたまふ しかしかなどきこゆれば くちをしうおぼして かのみやにわたりなば わざとむかへいでむも すきずきしかるべし をさなきひとをぬすみいでたりと もどきおひなむ そのさきに しばし ひとにもくちかためて わたしてむ とおぼして
あかつきかしこにものせむ くるまのさうぞくさながら ずいじんひとりふたりおほせおきたれ とのたまふ うけたまはりてたちぬ
きみ いかにせまし きこエありてすきがましきやうなるべきこと ひとのほどだにものをおもひしり をむなのこころかはしけることとおしはかられぬべくは よのつねなり ちちみやのたづねいでたまへらむも はしたなう すずろなるべきをと おぼしみだるれど さてはづしてむはいとくちをしかべければ まだよぶかういでたまふ
をむなぎみ れいのしぶしぶに こころもとけずものしたまふ
かしこに いとせちにみるべきことのはべるをおもひたまへいでて たち-かへりまゐりきなむ とて いでたまへば さぶらふひとびともしらざりけり わがおほむ-かたにて おほむ-なほしなどはたてまつる これみつばかりをむまにのせておはしぬ
かどうち-たたかせたまへば こくろしらぬもののあけたるに みくるまをやをらひき-いれさせて たいふ つまどをならして しはぶけば せうなごんききしりて いできたり
ここに おはします といへば
をさなきひとは おほむ-とのごもりてなむ などか いとよぶかうはいでさせたまへると もののたよりとおもひていふ
みやへわたらせたまふべかなるを そのさきにきこエおかむとてなむ とのたまへば
なにごとにかはべらむ いかにはかばかしきおほむ-いらへきこエさせたまはむ
とて うち-わらひてゐたり きみ いりたまへば いとかたはらいたく
うち-とけて あやしきふるびと-どものはべるに ときこエさす
まだ おどろいたまはじな いで おほむ-めさましきこエむ かかるあさぎりをしらでは ぬるものか
とて いりたまへば や とも えきこエず
きみはなにごころもなくねたまへるを いだきおどろかしたまふに おどろきて みやのおほむ-むかへにおはしたると ねおびれておぼしたり
みぐしかき-つくろひなどしたまひて
いざ たまへ みやのおほむ-つかひにてまゐりきつるぞ
とのたまふに あらざりけりと あきれて おそろしとおもひたれば
あな こころう まろもおなじひとぞ
とて かき-いだきていでたまへば たいふ せうなごんなど こは いかに ときこゆ
ここには つねにもえまゐらぬがおぼつかなければ こころやすきところにときこエしを こころうく わたりたまへるなれば ましてきこエがたかべければ ひとひとりまゐられよかし
とのたまへば こころあわたたしくて
けふは いとびんなくなむはべるべき みやのわたらせたまはむには いかさまにかきこエやらむ おのづから ほどへて さるべきにおはしまさば ともかうもはべりなむを いとおもひやりなきほどのことにはべれば さぶらふひとびとくるしうはべるべし ときこゆれば
よし のちにもひとはまゐりなむ とて みくるまよせさせたまへば あさましう いかさまにとおもひあへり
わかぎみも あやしとおぼしてないたまふ せうなごん とどめきこエむかたなければ よべぬひしおほむ-ぞ-どもひき-さげて みづからもよろしききぬきかへて のりぬ
にでうのゐんはちかければ まだあかうもならぬほどにおはして にしのたいにみくるまよせておりたまふ わかぎみをば いとかろらかにかき-いだきておろしたまふ
せうなごん
なほ いとゆめのここちしはべるを いかにしはべるべきことにかと やすらへば
そは こころななり おほむ-みづからわたしたてまつりつれば かへりなむとあらば おくりせむかし
とのたまふに わらひておりぬ にはかに あさましう むねもしづかならず みやのおぼし-のたまはむこと いかになりはてたまふべきおほむ-ありさまにか とてもかくても たのもしきひとびとにおくれたまへるがいみじさ とおもふに なみだのとまらぬを さすがにゆゆしければ ねんじゐたり
こなたはすみたまはぬたいなれば みちやうなどもなかりけり これみつめして みちやう みびやうぶなど あたりあたりしたてさせたまふ みきちやうのかたびらひき-おろし おましなどただひき-つくろふばかりにてあれば ひむがしのたいに おほむ-とのゐものめしにつかはして おほとのごもりぬ
わかぎみは いとむくつけく いかにすることならむと ふるはれたまへど さすがにこゑたててもえなきたまはず
せうなごんがもとにねむ
とのたまふこゑ いとわかし
いまは さはおほとのごもるまじきぞよ
とをしへきこエたまへば いとわびしくてなきふしたまへり めのとはうちもふされず ものもおぼエずおきゐたり
あけゆくままに みわたせば おとどのつくりざま しつらひざま さらにもいはず にはのすなごもたまをかさねたらむやうにみエて かかやくここちするに はしたなくおもひゐたれど こなたにはをむななどもさぶらはざりけり けうときまらうとなどのまゐるをりふしのかたなりければ をとこ-どもぞみすのとにありける
かく ひとむかへたまへりと きくひと たれならむ おぼろけにはあらじと ささめく みてうづ おほむ-かゆなど こなたにまゐる ひたかうねおきたまひて
ひとなくて あしかめるを さるべきひとびと ゆふづけてこそはむかへさせたまはめ
とのたまひて たいにわらはべめしにつかはす ちひさきかぎり ことさらにまゐれ とありければ いとをかしげにて よたりまゐりたり
きみはおほむ-ぞにまとはれてふしたまへるを せめておこして
かう こころうくなおはせそ すずろなるひとは かうはありなむや をむなはこころやはらかなるなむよき
など いまよりをしへきこエたまふ
おほむ-かたちは さし-はなれてみしよりも きよらにて なつかしううち-かたらひつつ をかしきゑ あそびもの-どもとりにつかはして みせたてまつり みこころにつくこと-どもをしたまふ
やうやうおきゐてみたまふに にびいろのこまやかなるが うち-なエたる-どもをきて なにごころなくうち-ゑみなどしてゐたまへるが いとうつくしきに われもうち-ゑまれてみたまふ
ひむがしのたいにわたりたまへるに たちいでて にはのこだち いけのかたなどのぞきたまへば しもがれのせんさい ゑにかけるやうにおもしろくて みもしらぬ しゐ ごゐこき-まぜに ひまなういでいりつつ げに をかしきところかな とおぼす みびやうぶ-どもなど いとをかしきゑをみつつ なぐさめておはするもはかなしや
きみは に さむにち うちへもまゐりたまはで このひとをなつけかたらひきこエたまふ やがてほんにとおぼすにや てならひ ゑなどさまざまにかきつつ みせたてまつりたまふ いみじうをかしげにかきあつめたまへり むさしのといへばかこたれぬと むらさきのかみにかいたまへるすみつきの いとことなるをとりてみゐたまへり すこしちひさくて
ねはみねどあはれとぞおもふむさしのの
つゆわけわぶるくさのゆかりを
とあり
いで きみもかいたまへ とあれば
まだ ようはかかず

とて みあげたまへるが なにごころなくうつくしげなれば うち-ほほゑみて
よからねど むげにかかぬこそわろけれ をしへきこエむかし
とのたまへば うち-そばみてかいたまふてつき ふでとりたまへるさまのをさなげなるも らうたうのみおぼゆれば こころ-ながらあやしとおぼす かきそこなひつ とはぢてかくしたまふを せめてみたまへば
かこつべきゆゑをしらねばおぼつかな
いかなるくさのゆかりなるらむ
と いとわかけれど おひさきみエて ふくよかにかいたまへり こ-あまぎみのにぞにたりける いまめかしきてほんならはば いとようかいたまひてむ とみたまふ
ひひななど わざとや-どもつくりつづけて もろともにあそびつつ こよなきもの-おもひのまぎらはしなり
かのとまりにしひとびと みやわたりたまひて たづねきこエたまひけるに きこエやるかたなくてぞ わびあへりける しばし ひとにしらせじ ときみものたまひ せうなごんもおもふことなれば せちにくちかためやりたり ただ ゆくへもしらず せうなごんがゐてかくしきこエたる とのみきこエさするに みやもいふかひなうおぼして こ-あまぎみも かしこにわたりたまはむことを いとものしとおぼしたりしことなれば めのとの いとさし-すぐしたるこころばせのあまり おイらかにわたさむを びんなし などはいはで こころにまかせ ゐてはふらかしつるなめり となくあんくかへりたまひぬ もし ききいでたてまつらば つげよ とのたまふも わづらはしく そうづのおほむ-もとにも たづねきこエたまへど あとはかなくて あたらしかりしおほむ-かたちなど こひしくかなしとおぼす
きたのかたも ははぎみをにくしとおもひきこエたまひけるこころもうせて わがこころにまかせつべうおぼしけるにたがひぬるは くちをしうおぼしけり
やうやうひとまゐりあつまりぬ おほむ-あそびがたきのわらはべ ちご-ども いとめづらかにいまめかしきおほむ-ありさま-どもなれば おもふことなくてあそびあへり
きみは をとこぎみのおはせずなどして さうざうしきゆふぐれなどばかりぞ あまぎみをこひきこエたまひて うち-なきなどしたまへど みやをばことにおもひいできこエたまはず もとよりみならひきこエたまはでならひたまへれば いまはただこののちのおやを いみじうむつびまつはしきこエたまふ ものよりおはすれば まづいでむかひて あはれにうち-かたらひ おほむ-ふところにいりゐて いささかうとくはづかしともおもひたらず さるかたに いみじうらうたきわざなりけり
さかしらごころあり なにくれとむつかしきすぢになりぬれば わがここちもすこしたがふふしもいでくやと こころおかれ ひともうらみがちに おもひのほかのこと おのづからいでくるを いとをかしきもて-あそびなり むすめなどはた かばかりになれば こころやすくうち-ふるまひ へだてなきさまにふしおきなどは えしもすまじきを これは いとさまかはりたるかしづきぐさなりと おもほいためり

おもへどもなほあかざりしゆふがほのつゆにおくれしここちを としつきふれど おぼしわすれず ここもかしこも うちとけぬかぎりの けしきばみこころふかきかたのおほむ-いどましさに け-ぢかくうちとけたりしあはれに にるものなうこひしくおもほエたまふ
いかで ことことしきおぼエはなく いとらうたげならむひとの つつましきことなからむ みつけてしがなと こりずまにおぼしわたれば すこしゆゑづきてきこゆるわたりは おほむ-みみとどめたまはぬくまなきに さてもやと おぼしよるばかりのけはひあるあたりにこそ ひとくだりをもほのめかしたまふめるに なびききこエずもてはなれたるは をさをさあるまじきぞ いとめなれたるや
つれなうこころづよきは たとしへなうなさけおくるるまめやかさなど あまりもののほどしらぬやうに さてしもすぐしはてず なごりなくくづほれて なほなほしきかたにさだまりなどするもあれば のたまひさしつるも おほかりける
かのうつせみを もののをりをりには ねたうおぼしいづ をぎのはも さりぬべきかぜのたよりあるときは おどろかしたまふをりもあるべし ほかげのみだれたりしさまは またさやうにてもみまほしくおぼす おほかた なごりなきもの-わすれをぞ えしたまはざりける

さゑもんのめのととて だいにのさしつぎにおぼいたるがむすめ たいふのみやうぶとて うちにさぶらふ わかむどほりのひやうぶのたいふなるむすめなりけり いといたういろこのめるわかうどにてありけるを きみもめしつかひなどしたまふ はははちくぜんのかみのめにて くだりにければ ちちぎみのもとをさとにてゆきかよふ
こ-ひたちのみこの すゑにまうけていみじうかなしうかしづきたまひしおほむ-むすめ こころぼそくてのこりゐたるを もののついでにかたりきこエければ あはれのことやとて みこころとどめてとひききたまふ
こころばへかたちなど ふかきかたはえしりはべらず かい-ひそめ ひとうとうもてなしたまへば さべきよひなど ものごしにてぞ かたらひはべる きんをぞなつかしきかたらひびととおもへる ときこゆれば
みつのともにて いまひとくさやうたてあらむ とて われにきかせよ ちちみこの さやうのかたにいとよしづきてものしたまうければ おしなべてのてにはあらじ となむおもふ とのたまへば
さやうにきこしめすばかりにはあらずやはべらむ
といへど みこころとまるばかりきこエなすを
いたうけしきばましや このごろのおぼろづきよにしのびてものせむ まかでよ
とのたまへば わづらはしとおもへど うちわたりものどやかなるはるのつれづれにまかでぬ
ちちのたいふのきみはほかにぞすみける ここにはときどきぞかよひける みやうぶは ままははのあたりはすみもつかず ひめぎみのおほむ-あたりをむつびて ここにはくるなりけり

のたまひしもしるく いざよひのつきをかしきほどにおはしたり
いと かたはらいたきわざかな もののねすむべきよのさまにもはべらざめるに ときこゆれど
なほ あなたにわたりて ただひとこゑも もよほしきこエよ むなしくてかへらむが ねたかるべきを
とのたまへば うちとけたるすみかにすゑたてまつりて うしろめたうかたじけなしとおもへど しんでんにまゐりたれば まだかうしもさながら むめのかをかしきをみいだしてものしたまふ よきをりかな とおもひて
おほむ-ことのね いかにまさりはべらむと おもひたまへらるるよのけしきに さそはれはべりてなむ こころあわたたしきいでいりに えうけたまはらぬこそくちをしけれ といへば
ききしるひとこそあなれ ももしきにゆきかふひとのきくばかりやは
とて めしよするも あいなう いかがききたまはむと むねつぶる
ほのかにかき-ならしたまふ をかしうきこゆ なにばかりふかきてならねど もののねがらのすぢことなるものなれば ききにくくもおぼされず
いといたうあれわたりてさびしきところに さばかりのひとの ふるめかしう ところせく かしづきすゑたりけむなごりなく いかにおもほしのこすことなからむ かやうのところにこそは むかしものがたりにもあはれなること-どもありけれ などおもひつづけても ものやいひよらまし とおぼせど うちつけにやおぼさむと こころはづかしくて やすらひたまふ
みやうぶ かどあるものにて いたうみみならさせたてまつらじ とおもひければ
くもりがちにはべるめり まらうとのこむとはべりつる いとひがほにもこそ いまこころのどかにを みかうしまゐりなむ
とて いたうもそそのかさでかへりたれば
なかなかなるほどにてもやみぬるかな ものききわくほどにもあらで ねたう
とのたまふけしき をかしとおぼしたり
おなじくは けぢかきほどのたちぎきせさせよ
とのたまへど こころにくくてとおもへば
いでや いとかすかなるありさまにおもひきエて こころぐるしげにものしたまふめるを うしろめたきさまにや
といへば げに さもあること にはかにわれもひともうちとけてかたらふべきひとのきはは きはとこそあれ など あはれにおぼさるるひとのおほむ-ほどなれば
なほ さやうのけしきをほのめかせと かたらひたまふ
またちぎりたまへるかたやあらむ いとしのびてかへりたまふ
うへの まめにおはしますと もて-なやみきこエさせたまふこそ をかしうおもうたまへらるるをりをりはべれ かやうのおほむ-やつれすがたを いかでかはごらんじつけむ
ときこゆれば たち-かへり うち-わらひて
ことびとのいはむやうに とがなあらはされそ これをあだあだしきふるまひといはば をむなのありさまくるしからむ
とのたまへば あまりいろめいたりとおぼして をりをりかうのたまふを はづかし とおもひて ものもいはず
しんでんのかたに ひとのけはひきくやうもやとおぼして やをらたちのきたまふ すいがいのただすこしをれのこりたるかくれのかたに たちよりたまふに もとよりたてるをとこありけり たれならむ こころかけたるすきものありけり とおぼして かげにつきてたちかくれたまへば とうのちゆうじやうなりけり
このゆふつかた うちよりもろともにまかでたまひける やがておほいどのにもよらず にでうのゐんにもあらで ひき-わかれたまひけるを いづちならむと ただならで われもゆくかたあれど あとにつきてうかがひけり あやしきむまに かりぎぬすがたのないがしろにてきければ えしりたまはぬに さすがに かうことかたにいりたまひぬれば こころもえずおもひけるほどに もののねにききついてたてるに かへりやいでたまふと したまつなりけり
きみは たれともえみわきたまはで われとしられじと ぬきあしにあゆみたまふに ふとよりて
ふりすてさせたまへるつらさに おほむ-おくりつかうまつりつるは
もろともにおほうちやまはいでつれど
いるかたみせぬいさよひのつき
とうらむるもねたけれど このきみとみたまふ すこしをかしうなりぬ
ひとのおもひよらぬことよ とにくむにくむ
さとわかぬかげをばみれどゆくつきの
いるさのやまをたれかたづぬる
かうしたひありかば いかにせさせたまはむ ときこエたまふ
まことは かやうのおほむ-ありきには ずいじんからこそはかばかしきこともあるべけれ おくらさせたまはでこそあらめ やつれたるおほむ-ありきは かるがるしきこともいできなむ
と おしかへしいさめたてまつる かうのみみつけらるるを ねたしとおぼせど かのなでしこはえたづねしらぬを おもきこうに みこころのうちにおぼしいづ

おのおのちぎれるかたにも あまエて えゆきわかれたまはず ひとつくるまにのりて つきのをかしきほどにくもがくれたるみちのほど ふえふきあはせておほいどのにおはしぬ
さきなどもおはせたまはず しのびいりて ひとみぬらうにおほむ-なほし-どもめして きかへたまふ つれなう いまくるやうにて おほむ-ふえ-どもふきすさびておはすれば おとど れいのききすぐしたまはで こまぶえとりいでたまへり いとじやうずにおはすれば いとおもしろうふきたまふ おほむ-ことめして うちにも このかたにこころえたるひとびとにひかせたまふ
なかつかさのきみ わざとびははひけど とうのきみこころかけたるをもて-はなれて ただこのたまさかなるみけしきのなつかしきをば えそむききこエぬに おのづからかくれなくて おほみやなどもよろしからずおぼしなりたれば もの-おもはしく はしたなきここちして すさまじげによりふしたり たエてみたてまつらぬところに かけはなれなむも さすがにこころぼそくおもひみだれたり
きみ-たちは ありつるきんのねをおぼしいでて あはれげなりつるすまひのさまなども やうかへてをかしうおもひつづけ あらましごとに いとをかしうらうたきひとの さてとしつきをかさねゐたらむとき みそめて いみじうこころぐるしくは ひとにももて-さわがるばかりや わがこころもさまあしからむ などさへ ちゆうじやうはおもひけり このきみのかうけしきばみありきたまふを まさに さては すぐしたまひてむやと なま-ねたうあやふがりけり
そののち こなたかなたより ふみなどやりたまふべし いづれもかへりごとみエず おぼつかなくこころやましきに あまりうたてもあるかな さやうなるすまひするひとは もの-おもひしりたるけしき はかなききくさ そらのけしきにつけても とりなしなどして こころばせおしはからるるをりをりあらむこそあはれなるべけれ おもしとても いとかうあまりうもれたらむは こころづきなく わるびたりと ちゆうじやうは まいてこころいられしけり れいの へだてきこエたまはぬこころにて
しかしかのかへりごとはみたまふや こころみにかすめたりしこそ はしたなくてやみにしか
と うれふれば さればよ いひよりにけるをやと ほほゑまれて
いさ みむとしもおもはねばにや みるとしもなし
と いらへたまふを ひとわきしけるとおもふに いとねたし
きみは ふかうしもおもはぬことの かうなさけなきを すさまじくおもひなりたまひにしかど かうこのちゆうじやうのいひありきけるを ことおほくいひなれたらむかたにぞなびかむかし したりがほにて もとのことをおもひはなちたらむけしきこそ うれはしかるべけれ とおぼして みやうぶをまめやかにかたらひたまふ
おぼつかなく もて-はなれたるみけしきなむ いとこころうき すきずきしきかたにうたがひよせたまふにこそあらめ さりとも みじかきこころばへつかはぬものを ひとのこころののどやかなることなくて おもはずにのみあるになむ おのづからわがあやまちにもなりぬべき こころのどかにて おやはらからのもて-あつかひうらむるもなう こころやすからむひとは なかなかなむらうたかるべきを とのたまへば
いでや さやうにをかしきかたのおほむ-かさやどりには えしもやと つきなげにこそみエはべれ ひとへにもの-づつみし ひきいりたるかたはしも ありがたうものしたまふひとになむ
と みるありさまかたりきこゆ らうらうじう かどめきたるこころはなきなめり いとこめかしうおほどかならむこそ らうたくはあるべけれ とおぼしわすれず のたまふ
わらはやみにわづらひたまひ ひとしれぬもの-おもひのまぎれも みこころのいとまなきやうにて はるなつすぎぬ

あきのころほひ しづかにおぼしつづけて かのきぬたのおともみみにつきてききにくかりしさへ こひしうおぼしいでらるるままに ひたちのみやにはしばしばきこエたまへど なほおぼつかなうのみあれば よづかず こころやましう まけてはやまじのみこころさへそひて みやうぶをせめたまふ
いかなるやうぞ いとかかることこそ まだしらね
と いとものしとおもひてのたまへば いとほしとおもひて
もて-はなれて にげなきおほむ-こととも おもむけはべらず ただ おほかたのおほむ-ものづつみのわりなきに てをえさし-いでたまはぬとなむみたまふる ときこゆれば
それこそはよづかぬことなれ もの-おもひしるまじきほど ひとりみをえこころにまかせぬほどこそ ことわりなれ なにごともおもひ-しづまりたまへらむ とおもふこそ そこはかとなく つれづれにこころぼそうのみおぼゆるを おなじこころにいらへたまはむは ねがひかなふここちなむすべき なにやかやと よづけるすぢならで そのあれたるすのこにたたずままほしきなり いとうたてこころえぬここちするを かのおほむ-ゆるしなくとも たばかれかし こころいられし うたてあるもてなしには よもあらじ
など かたらひたまふ
なほよにあるひとのありさまを おほかたなるやうにてききあつめ みみとどめたまふくせのつきたまへるを さうざうしきよひゐなど はかなきついでに さるひとこそとばかりきこエいでたりしに かくわざとがましうのたまひわたれば なま-わづらはしく をむなぎみのおほむ-ありさまも よづかはしく よしめきなどもあらぬを なかなかなるみちびきに いとほしきことやみエむなむ とおもひけれど きみのかうまめやかにのたまふに ききいれざらむも ひがひがしかるべし ちちみこおはしけるをりにだに ふりにたるあたりとて おとなひきこゆるひともなかりけるを まして いまはあさぢわくるひともあとたエたるに
かくよにめづらしきおほむ-けはひの もりにほひくるをば なま-をむな-ばらなどもゑみまけて なほきこエたまへと そそのかしたてまつれど あさましうもの-づつみしたまふこころにて ひたぶるにみもいれたまはぬなりけり
みやうぶは さらば さりぬべからむをりに ものごしにきこエたまはむほど みこころにつかずは さてもやみねかし また さるべきにて かりにもおはしかよはむを とがめたまふべきひとなし など あだめきたるはやりごころはうち-おもひて ちちぎみにも かかることなどもいはざりけり
はちぐわちにじふよにち よひすぐるまでまたるるつきのこころもとなきに ほしのひかりばかりさやけく まつのこずゑふくかぜのおとこころぼそくて いにしへのことかたりいでて うち-なきなどしたまふ いとよきをりかな とおもひて おほむ-せうそこやきこエつらむ れいのいとしのびておはしたり
つきやうやういでて あれたるまがきのほどうとましくうち-ながめたまふに きんそそのかされて ほのかにかき-ならしたまふほど けしうはあらず すこし けぢかういまめきたるけをつけばや とぞ みだれたるこころには こころもとなくおもひゐたる ひとめしなきところなれば こころやすくいりたまふ みやうぶをよばせたまふ いましもおどろきがほに
いとかたはらいあたきわざかな しかしかこそ おはしましたなれ つねに かううらみきこエたまふを こころにかなはぬよしをのみ いなびきこエはべれば みづからことわりもきこエしらせむと のたまひわたるなり いかがきこエかへさむ なみなみのたはやすきおほむ-ふるまひならねば こころぐるしきを もの-ごしにて きこエたまはむこと きこしめせ
といへば いとはづかしとおもひて
ひとにものきこエむやうもしらぬを
とて おくざまへゐざりいりたまふさま いとうひうひしげなり うち-わらひて
いとわかわかしうおはしますこそ こころぐるしけれ かぎりなきひとも おやなどおはしてあつかひうしろみきこエたまふほどこそ わかびたまふもことわりなれ かばかりこころぼそきおほむ-ありさまに なほよをつきせずおぼしはばかるは つきなうこそ とをしへきこゆ
さすがに ひとのいふことはつようもいなびぬみこころにて
いらへきこエで ただきけ とあらば かうしなどさしてはありなむ とのたまふ
すのこなどはびんなうはべりなむ おしたちて あはあはしきみこころなどは よも
など いとよくいひなして ふたまのきはなるさうじ てづからいとつよくさして おほむ-しとねうち-おきひきつくろふ
いとつつましげにおぼしたれど かやうのひとにものいふらむこころばへなども ゆめにしりたまはざりければ みやうぶのかういふを あるやうこそはとおもひてものしたまふ めのとだつおイびとなどは ざうしにいりふして ゆふまどひしたるほどなり わかきひと に さむにんあるは よにめでられたまふおほむ-ありさまを ゆかしきものにおもひきこエて こころげさうしあへり よろしきおほむ-ぞたてまつりかへ つくろひきこゆれば さうじみは なにのこころげさうもなくておはす
をとこは いとつきせぬおほむ-さまを うち-しのびよういしたまへるおほむ-けはひ いみじうなまめきて みしらむひとにこそみせめ はエあるまじきわたりを あな いとほしと みやうぶはおもへど ただおほかたにものしたまふをぞ うしろやすう さし-すぎたることはみエたてまつりたまはじ とおもひける わがつねにせめられたてまつるつみさりごとに こころぐるしきひとのおほむ-ものおもひやいでこむ など やすからずおもひゐたり
きみは ひとのおほむ-ほどをおぼせば されくつがへるいまやうのよしばみよりは こよなうおくゆかしう とおぼさるるに いたうそそのかされて ゐざりよりたまへるけはひ しのびやかに えひのかいとなつかしうかをりいでて おほどかなるを さればよとおぼす としごろおもひわたるさまなど いとよくのたまひつづくれど ましてちかきおほむ-いらへはたエてなし わりなのわざやと うち-なげきたまふ
いくそたびきみがしじまにまけぬらむ
ものないひそといはぬたのみに
のたまひもすててよかし たまだすきくるし
とのたまふ をむなぎみのおほむ-めのとご じじゆうとて はやりかなるわかうど いとこころもとなう かたはらいたし とおもひて さし-よりて きこゆ
かねつきてとぢめむことはさすがにて
こたへまうきぞかつはあやなき
いとわかびたるこゑの ことにおもりかならぬを ひとづてにはあらぬやうにきこエなせば ほどよりはあまエてとききたまへど
めづらしきが なかなかくちふたがるわざかな
いはぬをもいふにまさるとしりながら
おしこめたるはくるしかりけり
なにやかやと はかなきことなれど をかしきさまにも まめやかにものたまへど なにのかひなし
いとかかるも さまかはり おもふかたことにものしたまふひとにやと ねたくて やをらおし-あけていりたまひにけり
みやうぶ あな うたて たゆめたまへると いとほしければ しらずがほにて わがかたへいにけり このわかうど-ども はた よにたぐひなきおほむ-ありさまのおとぎきに つみゆるしきこエて おどろおどろしうもなげかれず ただ おもひもよらずにはかにて さるみこころもなきをぞ おもひける
さうじみは ただわれにもあらず はづかしくつつましきよりほかのことまたなければ いまはかかるぞあはれなるかし まだよなれぬひと うち-かしづかれたると みゆるしたまふものから こころえず なま-いとほしとおぼゆるおほむ-さまなり なにごとにつけてかはみこころのとまらむ うち-うめかれて よぶかういでたまひぬ
みやうぶは いかならむと めさめて ききふせりけれど しりがほならじとて おほむ-おくりにとも こわづくらず きみも やをらしのびていでたまひにけり

にでうのゐんにおはして うち-ふしたまひても なほおもふにかなひがたきよにこそと おぼしつtづけて かるらかならぬひとのおほむ-ほどを こころぐるしとぞおぼしける おもひみだれておはするに とうのちゆうじやうおはして
こよなきおほむ-あさいかな ゆゑあらむかしとこそ おもひたまへらるれ
といへば おきあがりたまひて
こころやすきひとりねのとこにて ゆるびにけりや うちよりか
とのたまへば
しか まかではべるままなり すざくゐんのぎやうがう けふなむ がくにん まひびとさだめらるべきよし よべうけたまはりしを おとどにもつたへまうさむとてなむ まかではべる やがてかへりまゐりぬべうはべり
と いそがしげなれば
さらば もろともに
とて おほむ-かゆ こはいひめして まらうとにもまゐりたまひて ひきつづけたれど ひとつにたてまつりて
なほ いとねぶたげなり
と とがめいでつつ
かくいたまふことおほかり
とぞ うらみきこエたまふ
こと-どもおほくさだめらるるひにて うちにさぶらひくらしたまひつ
かしこには ふみをだにと いとほしくおぼしいでて ゆふつかたぞありける あめふりいでて ところせくもあるに かさやどりせむと はた おぼされずやありけむ かしこには まつほどすぎて みやうぶも いといとほしきおほむ-さまかなと こころうくおもひけり さうじみは みこころのうちにはづかしうおもひたまひて けさのおほむ-ふみのくれぬれど なかなか とがともおもひわきたまはざりけり
ゆふぎりのはるるけしきもまだみぬに
いぶせさそふるよひのあめかな
くもままちいでむほど いかにこころもとなう
とあり おはしますまじきみけしきを ひとびとむねつぶれておもへど
なほ きこエさせたまへ
と そそのかしあへれど いとどおもひみだれたまへるほどにて えかたのやうにもつづけたまはねば よふけぬ とて じじゆうぞ れいのをしへきこゆる
はれぬよのつきまつさとをおもひやれ
おなじこころにながめせずとも
くちぐちにせめられて むらさきのかみの としへにければはひおくれふるめいたるに てはさすがにもじつよう なかさだのすぢにて かみしもひとしくかいたまへり みるかひなううち-おきたまふ
いかにおもふらむとおもひやるも やすからず
かかることを くやしなどはいふにやあらむ さりとていかがはせむ われは さりとも こころながくみはててむと おぼしなすみこころをしらねば かしこにはいみじうなげいたまひける
おとど よるにいりてまかでたまふに ひかれたてまつりて おほいどのにおはしましぬ ぎやうがうのことをきようありとおもほして きみ-たちあつまりて のたまひ おのおのまひ-どもならひたまふを その-ころのことにてすぎゆく
もののね-ども つねよりもみみかしかましくて かたがたいどみつつ れいのおほむ-あそびならず おほひちりき さくはちのふえなどのおほごゑをふきあげつつ たいこをさへかうらんのもとにまろばしよせて てづからうちならし あそびおはさうず
おほむ-いとまなきやうにて せちにおぼすところばかりにこそ ぬすまはれたまへれ かのわたりには いとおぼつかなくて あきくれはてぬ なほたのみこしかひなくてすぎゆく

ぎやうがうちかくなりて しがくなどののしるころぞ みやうぶはまゐれる
いかにぞ など とひたまひて いとほしとはおぼしたり ありさまきこエて
いとかう もて-はなれたるみこころばへは みたまふるひとさへ こころぐるしく
など なきぬばかりおもへり こころにくくもてなしてやみなむとおもへりしことを くたいてける こころもなくこのひとのおもふらむ をさへおぼす さうじみの ものはいはで おぼしうづもれたまふらむさま おもひやりたまふも いとほしければ
いとまなきほどぞや わりなしと うち-なげいたまひて ものおもひしらぬやうなるこころざまを こらさむとおもふぞかし
と ほほゑみたまへる わかううつくしげなれば われもうち-ゑまるるここちして わりなの ひとにうらみられたまふおほむ-よはひや おもひやりすくなう みこころのままならむも ことわり とおもふ
このおほむ-いそぎのほどすぐしてぞ ときどきおはしける
かのむらさきのゆかり たづねとりたまひて そのうつくしみにこころいりたまひて ろくでうわたりにだに かれまさりたまふめれば ましてあれたるやどは あはれにおぼしおこたらずながら ものうきぞ わりなかりけると ところせきおほむ-ものはぢをみあらはさむのみこころも ことになうてすぎゆくを またうち-かへし みまさりするやうもありかし てさぐりのたどたどしきに あやしう こころえぬこともあるにや みてしがな とおもほせど けざやかにとりなさむもまばゆし うちとけたるよひゐのほど やをらいりたまひて かうしのはさまよりみたまひけり
されど みづからはみエたまふべくもあらず きちやうなど いたくそこなはれたるものから としへにけるたちどかはらず おしやりなどみだれねば こころもとなくて ごたちし ごにんゐたり みだい ひそくやうのもろこしのものなれど ひとわろきに なにのくさはひもなくあはれげなる まかでてひとびとくふ
すみのまばかりにぞ いとさむげなるをむな-ばら しろききぬのいひしらずすすけたるに きたなげなるしびらひき-ゆひつけたるこしつき かたくなしげなり さすがにくしおし-たれてさしたるひたひつき ないけうばう ないしどころのほどに かかるもの-どもあるはやと をかし かけても ひとのあたりにちかうふるまふものともしりたまはざりけり
あはれ さもさむきとしかな いのちながければ かかるよにもあふものなりけり
とて うち-なくもあり
こ-みやおはしまししよを などてからしとおもひけむ かくたのみなくてもすぐるものなりけり
とて とびたちぬべくふるふもあり
さまざまにひとわろきこと-どもを うれへあへるをききたまふも かたはらいたければ たちのきて ただいまおはするやうにて うち-たたきたまふ
そそや などいひて ひとりなほし かうしはなちていれたてまつる
じじゆうは さいゐんにまゐりかよふわかうどにて このごろはなかりけり いよいよあやしうひなびたるかぎりにて みならはぬここちぞする
いとど うれふなりつるゆき かき-たれいみじうふりけり そらのけしきはげしう かぜふきあれて おほとなぶらきエにけるを ともしつくるひともなし かの ものにおそはれしをりおぼしいでられて あれたるさまはおとらざめるを ほどのせばう ひとけのすこしあるなどになぐさめたれど すごう うたていざときここちするよるのさまなり
をかしうもあはれにも やうかへて こころとまりぬべきありさまを いとうもれすくよかにて なにのはエなきをぞ くちをしうおぼす

からうしてあけぬるけしきなれば かうしてづからあげたまひて まへのせんさいのゆきをみたまふ ふみあけたるあともなく はるばるとあれわたりて いみじうさびしげなるに ふりいでてゆかむこともあはれにて
をかしきほどのそらもみたまへ つきせぬみこころのへだてこそ わりなけれ
と うらみきこエたまふ まだほの-くらけれど ゆきのひかりにいとどきよらにわかうみエたまふを おイびと-どもゑみさかエてみたてまつる
はやいでさせたまへ あぢきなし こころうつくしきこそ
などをしへきこゆれば さすがに ひとのきこゆることをえいなびたまはぬみこころにて とかうひき-つくろひて ゐざりいでたまへり
みぬやうにて とのかたをながめたまへれど しりめはただならず いかにぞ うちとけまさりの いささかもあらばうれしからむ とおぼすも あながちなるみこころなりや
まづ ゐだけのたかく をせながにみエたまふに さればよと むねつぶれぬ うち-つぎて あなかたはとみゆるものは はななりけり ふとめぞとまる ふげんぼさつののりものとおぼゆ あさましうたかうのびらかに さきのかたすこしたりていろづきたること ことのほかにうたてあり いろはゆきはづかしくしろうてさ-あをに ひたひつきこよなうはれたるに なほしもがちなるおもやうは おほかたおどろおどろしうながきなるべし やせたまへること いとほしげにさらぼひて かたのほどなどは いたげなるまできぬのうへまでみゆ なににのこりなうみあらはしつらむ とおもふものから めづらしきさまのしたれば さすがに うち-みやられたまふ
かしらつき かみのかかりはしも うつくしげにめでたしとおもひきこゆるひとびとにも をさをさおとるまじう うちきのすそにたまりてひかれたるほど いちさくばかりあまりたらむとみゆ きたまへるもの-どもをさへいひたつるも もの-いひさがなきやうなれど むかしものがたりにも ひとのおほむ-さうぞくをこそまづいひためれ
ゆるしいろのわりなううはじらみたるひとかさね なごりなうくろきうちきかさねて うはぎにはふるきのかはぎぬいときよらにかうばしきをきたまへり こたいのゆゑづきたるおほむ-さうぞくなれど なほわかやかなるをむなのおほむ-よそひには にげなうおどろおどろしきこと いともて-はやされたり されど げに このかはなうて はた さむからましとみゆるおほむ-かほさまなるを こころぐるしとみたまふ
なにごともいはれたまはず われさへくちとぢたるここちしたまへど れいのしじまもこころみむと とかうきこエたまふに いたうはぢらひて くちおほひしたまへるさへ ひなびふるめかしう ことごとしく ぎしきくわんのねりいでたるひぢもちおぼエて さすがにうち-ゑみたまへるけしき はしたなうすずろびたり いとほしくあはれにて いとどいそぎいでたまふ
たのもしきひとなきおほむ-ありさまを みそめたるひとには うとからずおもひむつびたまはむこそ ほいあるここちすべけれ ゆるしなきみけしきなれば つらう など ことつけて
あさひさすのきのたるひはとけながら
などかつららのむすぼほるらむ
とのたまへど ただむむ とうち-わらひて いとくちおもげなるもいとほしければ いでたまひぬ
みくるまよせたるちゆうもんの いといたうゆがみよろぼひて よめにこそ しるきながらもよろづかくろへたることおほかりけれ いとあはれにさびしくあれまどへるに まつのゆきのみあたたかげにふりつめる やまざとのここちして もの-あはれなるを かのひとびとのいひしむぐらのかどは かうやうなるところなりけむかし げに こころぐるしくらうたげならむひとをここにすゑて うしろめたうこひしとおもはばや あるまじきもの-おもひは それにまぎれなむかしと おもふやうなるすみかにあはぬおほむ-ありさまは とるべきかたなし とおもひながら われならぬひとは ましてみしのびてむや わがかうてみなれけるは こ-みこのうしろめたしとたぐへおきたまひけむたましひのしるべなめり とぞおぼさるる
たちばなのきのうづもれたる みずいじんめしてはらはせたまふ うらやみがほに まつのきのおのれおきかへりて さとこぼるるゆきも なにたつすゑのとみゆるなどを いとふかからずとも なだらかなるほどにあひしらはむひともがな とみたまふ
みくるまいづべきかどは まだあけざりければ かぎのあづかりたづねいでたれば おきなのいといみじきぞいできたる むすめにや むまごにや はしたなるおほきさのをむなの きぬはゆきにあひてすすけまどひ さむしとおもへるけしき ふかうて あやしきものにひをただほのかにいれてそでぐくみにもたり おきな かどをえあけやらねば よりてひき-たすくる いとかたくななり おほむ-とものひと よりてぞあけつる
ふりにけるかしらのゆきをみるひとも
おとらずぬらすあさのそでかな
わかきものはかたちかくれず
とうち-じゆじたまひても はなのいろにいでて いとさむしとみエつるおほむ-おもかげ ふとおもひ-いでられて ほほ-ゑまれたまふ とうのちゆうじやうに これをみせたらむとき いかなることをよそへいはむ つねにうかがひくれば いまみつけられなむと すべなうおぼす
よのつねなるほどの ことなることなさならば おもひすててもやみぬべきを さだかにみたまひてのちは なかなかあはれにいみじくて まめやかなるさまに つねにおとづれたまふ
ふるきのかはならぬ きぬ あや わたなど おイびと-どものきるべきもののたぐひ かのおきなのためまで かみしもおぼしやりてたてまつりたまふ かやうのまめやかごともはづかしげならぬを こころやすく さるかたのうしろみにてはぐくまむ とおもほしとりて さまことに さならぬうちとけわざもしたまひけり
かのうつせみの うちとけたりしよひのそばめには いとわろかりしかたちざまなれど もてなしにかくされて くちをしうはあらざりきかし おとるべきほどのひとなりやは げにしなにもよらぬわざなりけり こころばせのなだらかに ねたげなりしを まけてやみにしかなと もののをりごとにはおぼしいづ

としもくれぬ うちのとのゐどころにおはしますに たいふのみやうぶまゐれり みけづりぐしなどには けさうだつすぢなく こころやすきものの さすがにのたまひたはぶれなどして つかひならしたまへれば めしなきときも きこゆべきことあるをりは まうのぼりけり
あやしきことのはべるを きこエさせざらむもひがひがしう おもひたまへわづらひて
と ほほゑみてきこエやらぬを
なにざまのことぞ われにはつつむことあらじと なむおもふ とのたまへば
いかがは みづからのうれへは かしこくとも まづこそは これは いときこエさせにくくなむ
と いたうことこめたれば
れいの えんなる とにくみたまふ
かのみやよりはべるおほむ-ふみ とて とりいでたり
まして これはとり-かくすべきことかは
とて とりたまふも むねつぶる
みちのくにがみのあつごエたるに にほひばかりはふかうしめたまへり いとようかきおほせたり うたも
からころもきみがこころのつらければ
たもとはかくぞそぼちつつのみ
こころえずうち-かたぶきたまへるに つつみに ころもばこのおもりかにこたいなるうち-おきて おし-いでたり
これを いかでかは かたはらいたくおもひたまへざらむ されど ついたちのおほむ-よそひとて わざとはべるめるを はしたなうはえかへしはべらず ひとりひき-こめはべらむも ひとのみこころたがひはべるべければ ごらんぜさせてこそは ときこゆれば
ひき-こめられなむは からかりなまし そでまきほさむひともなきみにいとうれしきこころざしにこそは
とのたまひて ことにものいはれたまはず さても あさましのくちつきや これこそはてづからのおほむ-ことのかぎりなめれ じじゆうこそとり-なほすべかめれ また ふでのしりとるはかせぞなかるべき といふかひなくおぼす こころをつくしてよみいでたまひつらむほどをおぼすに
いともかしこきかたとは これをもいふべかりけり
と ほほゑみてみたまふを みやうぶ おもてあかみてみたてまつる
いまやういろの えゆるすまじくつやなうふるめきたるなほしの うらうへひとしうこまやかなる いとなほなほしう つまづまぞみエたる あさましとおぼすに このふみをひろげながら はしにてならひすさびたまふを そばめにみれば
なつかしきいろともなしになににこの
すゑつむはなをそでにふれけむ
いろこきはなとみしかども
など かきけがしたまふ はなのとがめを なほあるやうあらむと おもひあはするをりをりの つきかげなどを いとほしきものから をかしうおもひなりぬ
くれなゐのひとはなごろもうすくとも
ひたすらくたすなをしたてずは
こころぐるしのよや
と いといたうなれてひとりごつを よきにはあらねど かうやうのかいなでにだにあらましかばと かへすがへすくちをし ひとのほどのこころぐるしきに なのくちなむはさすがなり ひとびとまゐれば
とり-かくさむや かかるわざはひとのするものにやあらむ
と うち-うめきたまふ なににごらんぜさせつらむ われさへこころなきやうにと いとはづかしくて やをらおりぬ
またのひ うへにさぶらへば だいばんどころにさし-のぞきたまひて
くはや きのふのかへりごと あやしくこころばみすぐさるる
とて なげたまへり にようばう-たち なにごとならむと ゆかしがる
ただむめのはなのいろのごと みかさのやまのをとめをばすてて
と うたひすさびていでたまひぬるを みやうぶはいとをかしとおもふ こころしらぬひとびとは
なぞ おほむ-ひとりゑみはと とがめあへり
あらず さむきしもあさに かいねりこのめるはなのいろあひやみエつらむ おほむ-つづしりうたのいとほしき といへば
あながちなるおほむ-ことかな このなかには にほへるはなもなかめり
さこんのみやうぶ ひごのうねべやまじらひつらむ
など こころもえずいひしろふ
おほむ-かへりたてまつりたれば みやには にようばうつどひて みめでけり
あはぬよをへだつるなかのころもでに
かさねていとどみもしみよとや
しろきかみに すてかいたまへるしもぞ なかなかをかしげなる
つごもりのひ ゆふつかた かのおほむ-ころもばこに ごれうとて ひとのたてまつれるおほむ-ぞひとくだり えびぞめのおりもののおほむ-ぞ またやまぶきかなにぞ いろいろみエて みやうぶぞたてまつりたる ありしいろあひをわろしとやみたまひけむ とおもひしらるれど かれはた くれなゐのおもおもしかりしをや さりともきエじと ねびびと-どもはさだむる
おほむ-うたも これよりのは ことわりきこエて したたかにこそあれ
おほむ-かへりは ただをかしきかたにこそ
など くちぐちにいふ ひめぎみも おぼろけならでしいでたまひつるわざなれば ものにかきつけておきたまへりけり

ついたちのほどすぎて ことし をとこだふかあるべければ れいの ところどころあそびののしりたまふに もの-さわがしけれど さびしきところのあはれにおぼしやらるれば なぬかのひのせちゑはてて よるにいりて ごぜんよりまかでたまひけるを おほむ-とのゐどころにやがてとまりたまひぬるやうにて よふかして おはしたり
れいのありさまよりは けはひうち-そよめき よづいたり きみも すこしたをやぎたまへるけしきもて-つけたまへり いかにぞ あらためてひき-かへたらむとき とぞ おぼしつづけらるる
ひさし-いづるほどに やすらひなして いでたまふ ひむがしのつまど おし-あけたれば むかひたるらうの うへもなくあばれたれば ひのあし ほどなくさし-いりて ゆきすこしふりたるひかりに いとけざやかにみいれらる
おほむ-なほしなどたてまつるをみいだして すこしさし-いでて かたはらふしたまへるかしらつき こぼれいでたるほど いとめでたし おひ-なほりをみいでたらむとき とおぼされて かうしひきあげたまへり
いとほしかりしものごりに あげもはてたまはで けふそくをおし-よせて うち-かけて おほむ-びんぐきのしどけなきをつくろひたまふ わりなうふるめきたるきやうだいの からくしげ かかげのはこなど とりいでたり さすがに をとこのおほむ-ぐさへほのぼのあるを されてをかしとみたまふ
をむなのおほむ-さうぞく けふはよづきたり とみゆるは ありしはこのこころばを さながらなりけり さもおぼしよらず きようあるもんつきてしるきうはぎばかりぞ あやしとおぼしける
ことしだに こゑすこしきかせたまへかし またるるものはさし-おかれて みけしきのあらたまらむなむゆかしき とのたまへば
さへづるはるは
と からうしてわななかしいでたり
さりや としへぬるしるしよと うち-わらひたまひて ゆめかとぞみる
と うち-ずじていでたまふを みおくりてそひふしたまへり くちおほひのそばめより なほ かのすゑつむはな いとにほひやかにさし-いでたり みぐるしのわざやとおぼさる

にでうのゐんにおはしたれば むらさきのきみ いともうつくしきかたおひにて くれなゐはかうなつかしきもありけり とみゆるに むもんのさくらのほそなが なよらかにきなして なにごころもなくてものしたまふさま いみじうらうたし こたいのおばぎみのおほむ-なごりにて はぐろめもまだしかりけるを ひき-つくろはせたまへれば まゆのけざやかになりたるも うつくしうきよらなり こころから などか かううきよをみあつかふらむ かくこころぐるしきものをもみてゐたらでと おぼしつつ れいの もろともにひひなあそびしたまふ
ゑなどかきて いろどりたまふ よろづにをかしうすさびちらしたまひけり われもかきそへたまふ かみいとながきをむなをかきたまひて はなにべにをつけてみたまふに かたにかきてもみまうきさましたり わがみかげのきやうだいにうつれるが いときよらなるをみたまひて てづからこのあかははをかき-つけ にほはしてみたまふに かくよきかほだに さてまじれらむはみぐるしかるべかりけり ひめぎみ みて いみじくわらひたまふ
まろが かくかたはになりなむとき いかならむ とのたまへば
うたてこそあらめ
とて さもやしみつかむと あやふくおもひたまへり そら-のごひをして
さらにこそ しろまね ようなきすさびわざなりや うちにいかにのたまはむとすらむ
と いとまめやかにのたまふを いといとほしとおぼして よりて のごひたまへば
へいちゆうがやうにいろどりそへたまふな あかからむはあへなむ
と たはぶれたまふさま いとをかしきいもせとみエたまへり
ひのいとうららかなるに いつしかとかすみわたれるこずゑ-どもの こころもとなきなかにも むめはけしきばみ ほほゑみわたれる とりわきてみゆ はしかくしのもとのこうばい いととくさくはなにて いろづきにけり
くれなゐのはなぞあやなくうとまるる
むめのたちエはなつかしけれど
いでや
と あいなくうち-うめかれたまふ
かかるひとびとのすゑずゑ いかなりけむ 

すじやくゐんのぎやうがうは かむなづきのとをかあまりなり よのつねならず おもしろかるべきたびのことなりければ おほむ-かたがた ものみたまはぬことをくちをしがりたまふ うへも ふぢつぼのみたまはざらむを あかずおぼさるれば しがくをごぜんにて せさせたまふ
げんじのちゆうじやうは せいがいはをぞまひたまひける かたてにはおほとののとうのちゆうじやう かたち ようい ひとにはことなるを たちならびては なほはなのかたはらのみやまぎなり
いりがたのひかげ さやかにさしたるに がくのこゑまさり もののおもしろきほどに おなじまひのあしぶみ おももち よにみエぬさまなり えいなどしたまへるは これや ほとけのおほむ-かれうびんがのこゑならむときこゆ おもしろくあはれなるに みかど なみだをのごひたまひ かむだちめ みこ-たちも みななきたまひぬ えいはてて そでうち-なほしたまへるに まちとりたるがくのにぎははしきに かほのいろあひまさりて つねよりもひかるとみエたまふ
とうぐうのにようご かくめでたきにつけても ただならずおぼして かみなど そらにめでつべきかたちかな うたてゆゆし とのたまふを わかきにようぼうなどは こころうしとみみとどめけり ふぢつぼは おほけなきこころのなからましかば ましてめでたくみエまし とおぼすに ゆめのここちなむしたまひける
みやは やがておほむ-とのゐなりけり
けふのしがくは せいがいはにことみなつきぬな いかがみたまひつる
と きこエたまへば あいなう おほむ-いらへきこエにくくて
ことにはべりつ とばかりきこエたまふ
かたてもけしうはあらずこそみエつれ まひのさま てづかひなむ いへのこはことなる このよになをえたるまひのをのこ-どもも げにいとかしこけれど ここしうなまめいたるすぢを えなむみせぬ こころみのひ かくつくしつれば もみぢのかげやさうざうしくとおもへど みせたてまつらむのこころにて よういせさせつる などきこエたまふ

つとめて ちゆうじやうのきみ
いかにごらんじけむ よにしらぬみだりごこちながらこそ
ものおもふにたちまふべくもあらぬみの
そでうち-ふりしこころしりきや
あなかしこ
とあるおほむ-かへり めもあやなりしおほむ-さま かたちにみたまひしのばれずやありけむ
からひとのそでふることはとほけれど
たちゐにつけてあはれとはみき
おほかたには
とあるを かぎりなうめづらしう かやうのかたさへ たどたどしからず ひとのみかどまでおもほしやれるおほむ-きさきことばの かねてもと ほほゑまれて ぢきやうのやうにひきひろげてみゐたまへり

ぎやうがうには みこ-たちなど よにのこるひとなくつかうまつりたまへり とうぐうもおはします れいの がくのふね-どもこぎめぐりて もろこし こまと つくしたるまひ-ども くさおほかり がくのこゑ つづみのおと よをひびかす
ひとひのげんじのおほむ-ゆふかげ ゆゆしうおぼされて みじゆきやうなどところどころにせさせたまふを きくひともことわりとあはれがりきこゆるに とうぐうのにようごは あながちなりと にくみきこエたまふ
かいしろなど てんじやうびと ぢげも こころことなりとよひとにおもはれたるいうそくのかぎりととのへさせたまへり さいしやうふたり さゑもんのかみ うゑもんのかみ ひだりみぎのがくのことおこなふ まひのし-どもなど よになべてならぬをとりつつ おのおのこもりゐてなむならひける
こだかきもみぢのかげに よそびとのかいしろ いひしらずふきたてたるもののね-どもにあひたるまつかぜ まことのみやまおろしときこエてふきまよひ いろいろにちりかふこのはのなかより せいがいはのかかやきいでたるさま いとおそろしきまでみゆ かざしのもみぢいたうちりすぎて かほのにほひけおされたるここちすれば おまへなるきくををりて さだいしやうさし-かへたまふ
ひくれかかるほどに けしきばかりうち-しぐれて そらのけしきさへみしりがほなるに さるいみじきすがたに きくのいろいろうつろひ えならぬをかざして けふはまたなきてをつくしたるいりあやのほど そぞろさむく このよのことともおぼエず ものみしるまじきしもびとなどの このもと いはがくれ やまのこのはにうづもれたるさへ すこしもののこころしるはなみだおとしけり
しようきやうでんのおほむ-はらのしのみこ まだわらはにて しうふうらくまひたまへるなむ さしつぎのみものなりける これらにおもしろさのつきにければ ことごとにめもうつらず かへりてはことざましにやありけむ
そのよ げんじのちゆうじやう じやうざむゐしたまふ とうのちうじやう じやうげのかかいしたまふ かむだちめは みなさるべきかぎりよろこびしたまふも このきみにひかれたまへるなれば ひとのめをもおどろかし こころをもよろこばせたまふ むかしのよゆかしげなり

みやは その-ころまかでたまひぬれば れいの ひまもやとうかがひありきたまふをことにて おほいどのにはさわがれたまふ いとど かのわかくさたづねとりたまひてしを にでうのゐんにはひとむかへたまふなり とひとのきこエければ いとこころづきなしとおぼいたり
うちうちのありさまはしりたまはず さもおぼさむはことわりなれど こころうつくしく れいのひとのやうにうらみのたまはば われもうらなくうち-かたりて なぐさめきこエてむものを おもはずにのみとり-ないたまふこころづきなさに さもあるまじきすさびごともいでくるぞかし ひとのおほむ-ありさまの かたほに そのことのあかぬとおぼゆるきずもなし ひとよりさきにみたてまつりそめてしかば あはれにやむごとなくおもひきこゆるこころをも しりたまはぬほどこそあらめ つひにはおぼしなほされむと おだしくかるがるしからぬみこころのほども おのづからと たのまるるかたはことなりけり

をさなきひとは みついたまふままに いとよきこころざま かたちにて なにごころもなくむつれまとはしきこエたまふ しばし とののうちのひとにもたれとしらせじ とおぼして なほはなれたるたいに おほむ-しつらひになくして われもあけくれいりおはして よろづのおほむ-こと-どもををしへきこエたまひ てほんかきてならはせなどしつつ ただほかなりけるおほむ-むすめをむかへたまへらむやうにぞおぼしたる
まんどころ けいしなどをはじめ ことにわかちて こころもとなからずつかうまつらせたまふ これみつよりほかのひとは おぼつかなくのみおもひきこエたり かのちちみやも えしりきこエたまはざりけり
ひめぎみは なほ ときどきおもひいできこエたまふとき あまぎみをこひきこエたまふをりおほかり きみのおはするほどは まぎらはしたまふを よるなどは ときどきこそとまりたまへ ここかしこのおほむ-いとまなくて くるればいでたまふを したひきこエたまふをりなどあるを いとらうたくおもひきこエたまへり
に さむにちうちにさぶらひ おほとのにもおはするをりは いといたくくしなどしたまへば こころぐるしうて ははなきこもたらむここちして ありきもしづごころなくおぼエたまふ そうづは かくなむ とききたまひて あやしきものから うれしとなむおもほしける かのおほむ-ほふじなどしたまふにも いかめしうとぶらひきこエたまへり

ふぢつぼのまかでたまへるさむでうのみやに おほむ-ありさまもゆかしうて まゐりたまへれば みやうぶ ちゆうなごんのきみ なかつかさなどやうのひとびとたいめしたり けざやかにももてなしたまふかなと やすからずおもへど しづめて おほかたのおほむ-ものがたりきこエたまふほどに ひやうぶきやうのみやまゐりたまへり
このきみおはすとききたまひて たいめしたまへり いとよしあるさまして いろめかしうなよびたまへるを をむなにてみむはをかしかりぬべく ひとしれずみたてまつりたまふにも かたがたむつましくおぼエたまひて こまやかにおほむ-ものがたりなどきこエたまふ みやも このおほむ-ありさまのつねよりことになつかしううちとけたまへるを いとめでたしとみたてまつりたまひて むこになどはおぼしよらで をむなにてみばやと いろめきたるみこころにはおもほす
くれぬれば みすのうちにいりたまふを うらやましく むかしは うへのおほむ-もてなしに いとけぢかく ひとづてならで ものをもきこエたまひしを こよなううとみたまへるも つらうおぼゆるぞわりなきや
しばしばもさぶらふべけれど ことぞとはべらぬほどは おのづからおこたりはべるを さるべきことなどは おほせごともはべらむこそ うれしく
など すくすくしうていでたまひぬ みやうぶも たばかりきこエむかたなく みやのみけしきもありしよりは いとどうきふしにおぼしおきて こころとけぬみけしきも はづかしくいとほしければ なにのしるしもなくて すぎゆく はかなのちぎりや とおぼしみだるること かたみにつきせず

せうなごんは おぼエずをかしきよをみるかな これも こ-あまうへの このおほむ-ことをおぼして おほむ-おこなひにもいのりきこエたまひしほとけのおほむ-しるしにや とおぼゆ おほいどの いとやむごとなくておはします ここかしこあまたかかづらひたまふをぞ まことにおとなびたまはむほどは むつかしきこともや とおぼエける されど かくとり-わきたまへるおほむ-おぼエのほどは いとたのもしげなりかし
おほむ-ぶく ははがたはみつきこそはとて つごもりにはぬがせたてまつりたまふを またおやもなくておひいでたまひしかば まばゆきいろにはあらで くれなゐ むらさき やまぶきのぢのかぎりおれるおほむ-こうちきなどをきたまへるさま いみじういまめかしくをかしげなり

をとこぎみは てうはいにまゐりたまふとて さし-のぞきたまへり
けふよりは おとなしくなりたまへりや
とて うち-ゑみたまへる いとめでたうあいぎやうづきたまへり いつしか ひひなをしすゑて そそきゐたまへる さむじやくのみづしひとよろひに しなじなしつらひすゑて またちひさきや-どもつくりあつめて たてまつりたまへるを ところせきまであそびひろげたまへり
なやらふとて いぬきがこれをこぼちはべりにければ つくろひはべるぞ
とて いとだいじとおぼいたり
げに いとこころなきひとのしわざにもはべるなるかな いまつころはせはべらむ けふはこといみして なないたまひそ
とて いでたまふけしき ところせきを ひとびとはしにいでてみたてまつれば ひめぎみもたちいでてみたてまつりたまひて ひひなのなかのげんじのきみつくろひたてて うちにまゐらせなどしたまふ
ことしだにすこしおとなびさせたまへ とをにあまりぬるひとは ひひなあそびはいみはべるものを かくおほむ-をとこなどまうけたてまつりたまひては あるべかしうしめやかにてこそ みエたてまつらせたまはめ みぐしまゐるほどをだに ものうくせさせたまふ
など せうなごんきこゆ おほむ-あそびにのみこころいれたまへれば はづかしとおもはせたてまつらむとていへば こころのうちに われは さは をとこまうけてけり このひとびとのをとことてあるは みにくくこそあれ われはかくをかしげにわかきひとをももたりけるかなと いまぞおもほししりける さはいへど おほむ-としのかずそふしるしなめりかし かくをさなきおほむ-けはひの ことにふれてしるければ とののうちのひとびとも あやしとおもひけれど いとかうよづかぬおほむ-そひぶしならむとはおもはざりけり

うちよりおほいどのにまかでたまへれば れいのうるはしうよそほしきおほむ-さまにて こころうつくしきみけしきもなく くるしければ
ことしよりだに すこしよづきてあらためたまふみこころみエば いかにうれしからむ
など きこエたまへど わざとひとすゑて かしづきたまふ とききたまひしよりは やむごとなくおぼしさだめたることにこそはと こころのみおかれて いとどうとくはづかしくおぼさるべし しひてみしらぬやうにもてなして みだれたるおほむ-けはひには えしもこころづよからず おほむ-いらへなどうち-きこエたまへるは なほひとよりはいとことなり
よとせばかりがこのかみにおはすれば うち-すぐし はづかしげに さかりにととのほりてみエたまふ なにごとかはこのひとのあかぬところはものしたまふ わがこころのあまりけしからぬすさびに かくうらみられたてまつるぞかしと おぼししらる おなじおとどときこゆるなかにも おぼエやむごとなくおはするが みやばらにひとりいつきかしづきたまふみこころおごり いとこよなくて すこしもおろかなるをばめざまし とおもひきこエたまへるを をとこぎみは などかいとさしもと ならはいたまふ みこころのへだて-どもなるべし
おとども かくたのもしげなきみこころを つらしとおもひきこエたまひながら みたてまつりたまふときは うらみもわすれて かしづきいとなみきこエたまふ つとめて いでたまふところにさし-のぞきたまひて おほむ-さうぞくしたまふに なだかきおほむ-おび おほむ-てづからもたせてわたりたまひて おほむ-ぞのうしろひき-つくろひなど おほむ-くつをとらぬばかりにしたまふ いとあはれなり
これは ないえんなどいふこともはべるなるを さやうのをりにこそ
などきこエたまへば
それは まされるもはべり これはただめなれぬさまなればなむ
とて しひてささせたてまつりたまふ げに よろづにかしづきたててみたてまつりたまふに いけるかひあり たまさかにても かからむひとをいだしいれてみむに ますことあらじ とみエたまふ

さんざしにとても あまたところもありきたまはず うち とうぐう いちのゐんばかり さては ふぢつぼのさむでうのみやにぞまゐりたまへる
けふはまたことにもみエたまふかな
ねびたまふままに ゆゆしきまでなりまさりたまふおほむ-ありさまかな
と ひとびとめできこゆるを みや きちやうのひまより ほの-みたまふにつけても おもほすことしげかりけり
このおほむ-ことの しはすもすぎにしが こころもとなきに このつきはさりともと みやびともまちきこエ うちにも さるみこころまうけ-どもあり つれなくてたちぬ おほむ-もののけにやと よひともきこエさわぐを みや いとわびしう このことにより みのいたづらになりぬべきこと とおぼしなげくに みここちもいとくるしくてなやみたまふ
ちゆうじやうのきみは いとどおもひあはせて みすほふなど さとはなくてところどころにせさせたまふ よのなかのさだめなきにつけても かくはかなくてややみなむと とり-あつめてなげきたまふに にぐわつじふよにちのほどに をとこみこむまれたまひぬれば なごりなく うちにもみやびともよろこびきこエたまふ
いのちながくもとおもほすはこころうけれど こうきでんなどの うけはしげにのたまふ とききしを むなしくききなしたまはましかば ひとわらはれにや とおぼしつよりてなむ やうやうすこしづつさはやいたまひける
うへの いつしかとゆかしげにおぼしめしたること かぎりなし かの ひとしれぬみこころにも いみじうこころもとなくて ひとまにまゐりたまひて
うへのおぼつかながりきこエさせたまふを まづみたてまつりてくはしくそうしはべらむ
ときこエたまへど
むつかしげなるほどなれば
とて みせたてまつりたまはぬも ことわりなり さるは いとあさましう めづらかなるまでうつしとりたまへるさま たがふべくもあらず みやの みこころのおににいとくるしく ひとのみたてまつるも あやしかりつるほどのあやまりを まさにひとのおもひとがめじや さらぬはかなきことをだに きずをもとむるよに いかなるなのつひにもり-いづべきにか とおぼしつづくるに みのみぞいとこころうき
みやうぶのきみに たまさかにあひたまひて いみじきこと-どもをつくしたまへど なにのかひあるべきにもあらず わかみやのおほむ-ことを わりなくおぼつかながりきこエたまへば
など かうしもあながちにのたまはすらむ いま おのづからみたてまつらせたまひてむ
ときこエながら おもへるけしき かたみにただならず かたはらいたきことなれば まほにもえのたまはで
いかならむよに ひとづてならで きこエさせむ
とて ないたまふさまぞ こころぐるしき
いかさまにむかしむすべるちぎりにて
このよにかかるなかのへだてぞ
かかることこそこころえがたけれ
とのたまふ
みやうぶも みやのおもほしたるさまなどをみたてまつるに えはしたなうもさし-はなちきこエず
みてもおもふみぬはたいかになげくらむ
こやよのひとのまどふてふやみ
あはれに こころゆるびなきおほむ-こと-どもかな
と しのびてきこエけり
かくのみいひやるかたなくて かへりたまふものから ひとのもの-いひもわづらはしきを わりなきことにのたまはせおぼして みやうぶをも むかしおぼイたりしやうにも うちとけむつびたまはず ひとめたつまじく なだらかにもてなしたまふものから こころづきなしとおぼすときもあるべきを いとわびしくおもひのほかなるここちすべし

うづきにうちへまゐりたまふ ほどよりはおほきにおよすけたまひて やうやうおきかへりなどしたまふ あさましきまで まぎれどころなきおほむ-かほつきを おぼしよらぬことにしあれば またならびなき-どちは げにかよひたまへるにこそはと おもほしけり いみじうおもほしかしづくこと かぎりなし げんじのきみを かぎりなきものにおぼしめしながら よのひとのゆるしきこゆまじかりしによりて ばうにもすゑたてまつらずなりにしを あかずくちをしう ただうどにてかたじけなきおほむ-ありさま かたちに ねびもておはするをごらんずるままに こころぐるしくおぼしめすを かうやむごとなきおほむ-はらに おなじひかりにてさし-いでたまへれば きずなきたま とおぼしかしづくに みやはいかなるにつけても むねのひまなく やすからずものをおもほす
れいの ちうじやうのきみ こなたにておほむ-あそびなどしたまふに いだきいでたてまつらせたまひて
みこ-たち あまたあれど そこをのみなむ かかるほどよりあけくれみし されば おもひわたさるるにやあらむ いとよくこそおぼエたれ いとちひさきほどは みなかくのみあるわざにやあらむ
とて いみじくうつくしとおもひきこエさせたまへり
ちゆうじやうのきみ おもてのいろかはるここちして おそろしうも かたじけなくも うれしくも あはれにも かたがたうつろふここちして なみだおちぬべし ものがたりなどして うち-ゑみたまへるが いとゆゆしううつくしきに わがみながら これににたらむはいみじういたはしうおぼエたまふぞ あながちなるや みやは わりなくかたはらいたきに あせもながれてぞおはしける ちゆうじやうは なかなかなるここちの みだるやうなれば まかでたまひぬ
わがおほむ-かたにふしたまひて むねのやるかたなきほどすぐして おほいどのへ とおぼす おまへのせんさいの なにとなくあをみわたれるなかに とこなつのはなやかにさきいでたるを をらせたまひて みやうぶのきみのもとに かきたまふこと おほかるべし
よそへつつみるにこころはなぐさまで
つゆけさまさるなでしこのはな
はなにさかなむ とおもひたまへしも かひなきよにはべりければ
とあり さりぬべきひまにやありけむ ごらんぜさせて
ただちりばかり このはなびらに
ときこゆるを わがみこころにも ものいとあはれにおぼししらるるほどにて
そでぬるるつゆのゆかりとおもふにも
なほうとまれぬやまとなでしこ
とばかり ほのかにかきさしたるやうなるを よろこびながらたてまつれる れいのことなれば しるしあらじかしと くづほれてながめふしたまへるに むねうち-さわぎて いみじくうれしきにもなみだおちぬ

つくづくとふしたるにも やるかたなきここちすれば れいの なぐさめにはにしのたいにぞわたりたまふ
しどけなくうち-ふくだみたまへるびんぐき あざれたるうちきすがたにて ふえをなつかしうふきすさびつつ のぞきたまへれば をむなぎみ ありつるはなのつゆにぬれたるここちして そひふしたまへるさま うつくしうらうたげなり あいぎやうこぼるるやうにて おはしながらとくもわたりたまはぬ なま-うらめしかりければ れいならず そむきたまへるなるべし はしのかたについ-ゐて
こちや
とのたまへど おどろかず
いりぬるいその
とくちずさみて くちおほひしたまへるさま いみじうされてうつくし
あな にく かかることくちなれたまひにけりな みるめにあくは まさなきことぞよ
とて ひとめして おほむ-こととりよせてひかせたてまつりたまふ
さうのことは なかのほそをのたへがたきこそところせけれ
とて ひやうでうにおし-くだしてしらべたまふ かきあはせばかりひきて さし-やりたまへれば えゑんじはてず いとうつくしうひきたまふ
ちひさきおほむ-ほどに さし-やりて ゆしたまふおほむ-てつき いとうつくしければ らうたしとおぼして ふえふきならしつつをしへたまふ いとさとくて かたきてうし-どもを ただひとわたりにならひとりたまふ おほかたらうらうじうをかしきみこころばへを おもひしことかなふ とおぼす ほそろぐせりといふものは なはにくけれど おもしろうふきすさびたまへるに かきあはせまだわかけれど はうしたがはずじやうずめきたり
おほとなぶらまゐりて ゑ-どもなどごらんずるに いでたまふべしとありつれば ひとびとこわづくりきこエて
あめふりはべりぬべし
などいふに ひめぎみ れいの こころぼそくてくしたまへり ゑもみさして うつぶしておはすれば いとらうたくて みぐしのいとめでたくこぼれかかりたるを かき-なでて
ほかなるほどはこひしくやある
とのたまへば うなづきたまふ
われも ひとひもみたてまつらぬはいとくるしうこそあれど をさなくおはするほどは こころやすくおもひきこエて まづ くねくねしくうらむるひとのこころやぶらじとおもひて むつかしければ しばしかくもありくぞ おとなしくみなしては ほかへもさらにいくまじ ひとのうらみおはじなどおもふも よにながうありて おもふさまにみエたてまつらむとおもふぞ
など こまごまとかたらひきこエたまへば さすがにはづかしうて ともかくもいらへきこエたまはず やがておほむ-ひざによりかかりて ねいりたまひぬれば いとくるしうて
こよひはいでずなりぬ
とのたまへば みなたちて おものなどこなたにまゐらせたり ひめぎみおこしたてまつりたまひて
いでずなりぬ
ときこエたまへば なぐさみておきたまへり もろともにものなどまゐる いとはかなげにすさびて
さらば ねたまひねかし
と あやふげにおもひたまへれば かかるをみすてては いみじきみちなりとも おもむきがたくおぼエたまふ
かやうに とどめられたまふをりをりなどもおほかるを おのづからもり-きくひとおほいどのにきこエければ
たれならむ いとめざましきことにもあるかな
いままでそのひとともきこエず さやうにまつはしたはぶれなどすらむは あてやかにこころにくきひとにはあらじ
うちわたりなどにて はかなくみたまひけむひとを もの-めかしたまひて ひとやとがめむとかくしたまふななり こころなげにいはけてきこゆるは
など さぶらふひとびともきこエあへり
うちにも かかるひとありときこしめして
いとほしく おとどのおもひなげかるなることも げに ものげなかりしほどを おほなおほなかくものしたるこころを さばかりのことたどらぬほどにはあらじを などかなさけなくはもてなすなるらむ
と のたまはすれど かしこまりたるさまにて おほむ-いらへもきこエたまはねば こころゆかぬなめりと いとほしくおぼしめす
さるは すきずきしううち-みだれて このみゆるにようばうにまれ またこなたかなたのひとびとなど なべてならずなどもみエきこエざめるを いかなるもののくまにかくれありきて かくひとにもうらみらるらむ とのたまはす

みかどのおほむ-とし ねびさせたまひぬれど かうやうのかた えすぐさせたまはず うねべ によくらうどなどをも かたち こころあるをば ことにもて-はやしおぼしめしたれば よしあるみやづかへびとおほかるころなり はかなきことをもいひふれたまふには もて-はなるることもありがたきに めなるるにやあらむ げにぞ あやしうすいたまはざめると こころみにたはぶれごとをきこエかかりなどするをりあれど なさけなからぬほどにうち-いらへて まことにはみだれたまはぬを まめやかにさうざうしとおもひきこゆるひともあり
としいたうおイたるないしのすけ ひともやむごとなく こころばせあり あてに おぼエたかくはありながら いみじうあだめいたるこころざまにて そなたにはおもからぬを かう さだすぐるまで などさしもみだるらむと いぶかしくおぼエたまひければ たはぶれごといひふれてこころみたまふに にげなくもおもはざりける あさまし とおぼしながら さすがにかかるもをかしうて ものなどのたまひてければ ひとのもり-きかむも ふるめかしきほどなれば つれなくもてなしたまへるを をむなは いとつらしとおもへり

うへのみけづりぐしにさぶらひけるを はてにければ うへはみうちきのひとめしていでさせたまひぬるほどに またひともなくて このないしつねよりもきよげに やうだい かしらつきなまめきて さうぞく ありさま いとはなやかにこのましげにみゆるを さもふりがたうもと こころづきなくみたまふものから いかがおもふらむと さすがにすぐしがたくて ものすそをひきおどろかしたまへれば かはぼりのえならずゑがきたるを さし-かくしてみかへりたるまみ いたうみのべたれど まかはらいたくくろみおちいりて いみじうはつれそそけたり
につかはしからぬあふぎのさまかな とみたまひて わがもたまへるに さし-かへてみたまへば あかきかみの うつるばかりいろふかきに こだかきもりのかたをぬりかくしたり かたつかたに てはいとさだすぎたれど よしなからず もりのしたくさおイぬればなどかきすさびたるを ことしもあれ うたてのこころばへや とゑまれながら
もりこそなつの とみゆめる
とて なにくれとのたまふも にげなく ひとやみつけむとくるしきを をむなはさも おもひたらず
きみしこばたなれのこまにかりかはむ
さかりすぎたるしたばなりとも
といふさま こよなくいろめきたり
ささわけばひとやとがめむいつとなく
こまなつくめるもりのこがくれ
わづらはしさに
とて たちたまふを ひかへて
まだかかるものをこそおもひはべらね いまさらなる みのはぢになむ
とてなくさま いといみじ
いま きこエむ おもひながらぞや
とて ひき-はなちていでたまふを せめておよびて はしばしらとうらみかくるを うへはみうちきはてて みさうじよりのぞかせたまひけり につかはしからぬあはひかなと いとをかしうおぼされて
すきごころなしと つねにもて-なやむめるを さはいへど すぐさざりけるは
とて わらはせたまへば ないしは なま-まばゆけれど にくからぬひとゆゑは ぬれぎぬをだにきまほしがるたぐひもあなればにや いたうもあらがひきこエさせず
ひとびとも おもひのほかなることかなと あつかふめるを とうのちゆうじやう ききつけて いたらぬくまなきこころにて まだおもひよらざりけるよ とおもふに つきせぬこのみごころもみまほしうなりにければ かたらひつきにけり
このきみも ひとよりいとことなるを かのつれなきひとのおほむ-なぐさめにとおもひつれど みまほしきは かぎりありけるをとや うたてのこのみや 

いたうしのぶれば げんじのきみはえしりたまはず みつけきこエては まづうらみかくるを よはひのほどいとほしければ なぐさめむとおぼせど かなはぬもの-うさに いとひさしくなりにけるを ゆふだちして なごりすずしきよひのまぎれに うんめいでんのわたりを たたずみありきたまへば このないし びはをいとをかしうひきゐたり おまへなどにても をとこがたのおほむ-あそびにまじりなどして ことにまさるひとなきじやうずなれば もの-うらめしうおぼエけるものから いとあはれにきこゆ
うりつくりになりやしなまし
と こゑはいとをかしうてうたふぞ すこしこころづきなき がくしうにありけむむかしのひとも かくやをかしかりけむと みみとまりてききたまふ ひきやみて いといたうおもひみだれたるけはひなり きみ あづまやをしのびやかにうたひてよりたまへるに
おしひらいてきませ
と うち-そへたるも れいにたがひたるここちぞする
たちぬるるひとしもあらじあづまやに
うたてもかかるあまそそきかな
と うち-なげくを われひとりしもききおふまじけれど うとましや なにごとをかくまではと おぼゆ
ひとづまはあなわづらはしあづまやの
まやのあまりもなれじとぞおもふ
とて うち-すぎなまほしけれど あまりはしたなくや とおもひかへして ひとにしたがへば すこしはやりかなるたはぶれごとなどいひかはして これもめづらしきここちぞしたまふ
とうのちゆうじやうは このきみのいたうまめだちすぐして つねにもどきたまふがねたきを つれなくてうちうちしのびたまふかたがたおほかめるを いかでみあらはさむとのみおもひわたるに これをみつけたるここち いとうれし かかるをりに すこしおどしきこエて みこころまどはして こりぬやといはむ とおもひて たゆめきこゆ
かぜひややかにうち-ふきて ややふけゆくほどに すこしまどろむにやとみゆるけしきなれば やをらいりくるに きみは とけてしもねたまはぬこころなれば ふとききつけて このちゆうじやうとはおもひよらず なほわすれがたくすなるすりのかみにこそあらめ とおぼすに おとなおとなしきひとに かくにげなきふるまひをして みつけられむことは はづかしければ
あな わづらはし いでなむよ くものふるまひは しるかりつらむものを こころうく すかしたまひけるよ
とて なほしばかりをとりて びやうぶのうしろにいりたまひぬ ちゆうじやう をかしきをねんじて ひきたてまつるびやうぶのもとによりて ごほごほとたたみよせて おどろおどろしくさわがすに ないしは ねびたれど いたくよしばみなよびたるひとの さきざきもかやうにて こころうごかすをりをりありければ ならひて いみじくこころあわたたしきにも このきみをいかにしきこエぬるか とわびしさに ふるふふるふつとひかへたり たれとしられでいでなばや とおぼせど しどけなきすがたにて かうぶりなどうち-ゆがめてはしらむうしろでおもふに いとをこなるべしと おぼしやすらふ
ちゆうじやう いかでわれとしられきこエじ とおもひて ものもいはず ただいみじういかれるけしきにもてなして たちをひきぬけば をむな
あがきみ あがきみ
と むかひててをするに ほとほとわらひぬべし このましうわかやぎてもてなしたるうはべこそ さてもありけれ ごじふしち はちのひとの うちとけてものいひさわげるけはひ えならぬはたちのわかうど-たちのおほむ-なかにてもの-おぢしたる いとつきなし かうあらぬさまにもて-ひがめて おそろしげなるけしきをみすれど なかなかしるくみつけたまひて われとしりて ことさらにするなりけりと をこになりぬ そのひとなめり とみたまふに いとをかしければ たちぬきたるかひなをとらへて いといたうつみたまへれば ねたきものから えたへでわらひたまひぬ
まことは うつしごころかとよ たはぶれにくしや いで このなほしきむ
とのたまへど つととらへて さらにゆるしきこエず
さらば もろともにこそ
とて ちゆうじやうのおびをひきときてぬがせたまへば ぬがじとすまふを とかくひきしろふほどに ほころびはほろほろとたエぬ ちゆうじやう
つつむめるなやもりいでむひきかはし
かくほころぶるなかのころもに
うへにとりきば しるからむ
といふ きみ
かくれなきものとしるしるなつごろも
きたるをうすきこころとぞみる
といひかはして うらやみなきしどけなすがたにひきなされて みないでたまひぬ

きみは いとくちをしくみつけられぬること とおもひ ふしたまへり ないしは あさましくおぼエければ おちとまれるおほむ-さしぬき おびなど つとめてたてまつれり
うらみてもいふかひぞなきたち-かさね
ひきてかへりしなみのなごりに
そこもあらはに
とあり おもなのさまや とみたまふもにくけれど わりなしとおもへりしもさすがにて
あらだちしなみにこころはさわがねど
よせけむいそをいかがうらみぬ
とのみなむありける おびは ちゆうじやうのなりけり わがおほむ-なほしよりはいろふかし とみたまふに はたそでもなかりけり
あやしのこと-どもや おりたちてみだるるひとは むべをこがましきことはおほからむと いとどみこころをさめられたまふ
ちゆうじやう とのゐどころより これ まづとぢつけさせたまへ とて おし-つつみておこせたるを いかでとりつらむと こころやまし このおびをえざらましかば とおぼす そのいろのかみにつつみて
なかたエばかことやおふとあやふさに
はなだのおびをとりてだにみず
とて やりたまふ たち-かへり
きみにかくひき-とられぬるおびなれば
かくてたエぬるなかとかこたむ
えのがれさせたまはじ
とあり
ひたけて おのおのてんじやうにまゐりたまへり いとしづかに もの-とほきさましておはするに とうのきみもいとをかしけれど おほやけごとおほくそうしくだすひにて いとうるはしくすくよかなるをみるも かたみにほほゑまる ひとまにさし-よりて
もの-がくしはこりぬらむかし
とて いとねたげなるしりめなり
などてか さしもあらむ たちながらかへりけむひとこそ いとほしけれ まことは うしや よのなかよ
といひあはせて とこのやまなると かたみにくちがたむ
さて そののち ともすればことのついでごとに いひむかふるくさはひなるを いとどもの-むつかしきひとゆゑと おぼししるべし をむなは なほいとえんにうらみかくるを わびしとおもひありきたまふ
ちゆうじやうは いもうとのきみにもきこエいでず ただ さるべきをりのおどしぐさにせむ とぞおもひける やむごとなきおほむ-はらばらのみこ-たちだに うへのおほむ-もてなしのこよなきにわづらはしがりて いとことにさりきこエたまへるを このちゆうじやうは さらにおし-けたれじと はかなきことにつけても おもひいどみきこエたまふ
このきみひとりぞ ひめぎみのおほむ-ひとつばらなりける みかどのみこといふばかりにこそあれ われも おなじおとどときこゆれど おほむ-おぼエことなるが みこばらにてまたなくかしづかれたるは なにばかりおとるべききはと おぼエたまはぬなるべし ひとがらも あるべきかぎりととのひて なにごともあらまほしく たらひてぞものしたまひける このおほむ-なかどものいどみこそ あやしかりしか されど うるさくてなむ

しちぐわちにぞきさきゐたまふめりし げんじのきみ さいしやうになりたまひぬ みかど おりゐさせたまはむのみこころづかひちかうなりて このわかみやをばうに とおもひきこエさせたまふに おほむ-うしろみしたまふべきひとおはせず おほむ-ははがたの みなみこ-たちにて げんじのおほやけごとしりたまふすぢならねば ははみやをだにうごきなきさまにしおきたてまつりて つよりにとおぼすになむありける
こうきでん いとどみこころうごきたまふ ことわりなり されど
とうぐうのみよ いとちかうなりぬれば うたがひなきみくらゐなり おもほしのどめよ
とぞきこエさせたまひける げに とうぐうのおほむ-ははにてにじふよねんになりたまへるにようごをおきたてまつりては ひき-こしたてまつりたまひがたきことなりかしと れいの やすからずよひともきこエけり
まゐりたまふよのおほむ-ともに さいしやうのきみもつかうまつりたまふ おなじみやときこゆるなかにも きさきばらのみこ たまひかりかかやきて たぐひなきおほむ-おぼエにさへものしたまへば ひともいとことにおもひかしづききこエたり まして わりなきみこころには みこしのうちもおもひやられて いとどおよびなきここちしたまふに すずろはしきまでなむ
つきもせぬこころのやみにくるるかな
くもゐにひとをみるにつけても
とのみ ひとりごたれつつ ものいとあはれなり
みこは およすけたまふつきひにしたがひて いとみたてまつりわきがたげなるを みや いとくるし とおぼせど おもひよるひとなきなめりかし げに いかさまにつくりかへてかは おとらぬおほむ-ありさまは よにいでものしたまはまし つきひのひかりのそらにかよひたるやうに ぞよひともおもへる

きさらぎのはつかあまり なでんのさくらのえんせさせたまふ きさき とうぐうのおほむ-つぼね さいうにして まうのぼりたまふ こうきでんのにようご ちゆうぐうのかくておはするを をりふしごとにやすからずおぼせど もの-みにはえすぐしたまはで まゐりたまふ
ひいとよくはれて そらのけしき とりのこゑも ここちよげなるに みこたち かむだちめよりはじめて そのみちのはみな たんゐんたまはりてふみつくりたまふ さいしやうのちゆうじやう はるといふもじたまはれりと のたまふこゑさへ れいの ひとにことなり つぎにとうのちゆうじやう ひとのめうつしも ただならずおぼゆべかめれど いとめやすくもて-しづめて こわづかひなど ものものしくすぐれたり さてのひとびとは みなおくしがちにはなじろめるおほかり ぢげのひとは まして みかど とうぐうのおほむ-ざえかしこくすぐれておはします かかるかたにやむごとなきひとおほくものしたまふころなるに はづかしく はるばるとくもりなきにはにたち-いづるほど はしたなくて やすきことなれど くるしげなり としおイたるはかせ-どもの なりあやしくやつれて れいなれたるも あはれに さまざまごらんずるなむ をかしかりける
がく-どもなどは さらにもいはずととのへさせたまへり やうやういりひになるほど はるのうぐひすさへづるといふまひ いとおもしろくみゆるに げんじのおほむ-もみぢのがのをり おぼしいでられて とうぐう かざしたまはせて せちにせめのたまはするに のがれがたくて たちてのどかにそでかへすところをひとをれ けしきばかりまひたまへるに にるべきものなくみゆ ひだりのおとど うらめしさもわすれて なみだおとしたまふ
とうのちゆうじやう いづら おそし
とあれば りうくわえんといふまひを これはいますこしすぐして かかることもやと こころづかひやしけむ いとおもしろければ おほむ-ぞたまはりて いとめづらしきことにひとおもへり かむだちめみなみだれてまひたまへど よるにいりては ことにけぢめもみエず ふみなどかうずるにも げんじのきみのおほむをば かうじもえよみやらず くごとにずじののしる はかせ-どものこころにも いみじうおもへり
かうやうのをりにも まづこのきみをひかりにしたまへれば みかどもいかでかおろかにおぼされむ ちゆうぐう おほむ-めのとまるにつけて とうぐうのにようごのあながちににくみたまふらむもあやしう わがかうおもふもこころうし とぞ みづからおぼしかへされける
おほかたにはなのすがたをみましかば
つゆもこころのおかれましやは
みこころのうちなりけむこと いかでもりにけむ

よいたうふけてなむ ことはてける
かむだちめおのおのあかれ きさき とうぐうかへらせたまひぬれば のどやかになりぬるに つきいとあかうさし-いでてをかしきを げんじのきみ ゑひごこちに みすぐしがたくおぼエたまひければ うへのひとびともうち-やすみて かやうにおもひかけぬほどに もしさりぬべきひまもやあると ふぢつぼわたりを わりなうしのびてうかがひありけど かたらふべきとぐちもさしてければ うち-なげきて なほあらじに こうきでんのほそどのにたちよりたまへれば さむのくちあきたり
にようごは うへのみつぼねにやがてまうのぼりたまひにければ ひとずくななるけはひなり おくのくるるどもあきて ひとおともせず
かやうにて よのなかのあやまちはするぞかし とおもひて やをらのぼりてのぞきたまふ ひとはみなねたるべし いとわかうをかしげなるこゑの なべてのひととはきこエぬ
おぼろづきよににるものぞなき
とうち-ずじて こなたざまにはくるものか いとうれしくて ふとそでをとらへたまふ をむな おそろしとおもへるけしきにて
あな むくつけ こは たそ とのたまへど
なにか うとましき とて
ふかきよのあはれをしるもいるつきの
おぼろけならぬちぎりとぞおもふ
とて やをらいだきおろして とはおし-たてつ あさましきにあきれたるさま いとなつかしうをかしげなり わななくわななく
ここに ひと
と のたまへど
まろは みなひとにゆるされたれば めしよせたりとも なんでふことかあらむ ただ しのびてこそ
とのたまふこゑに このきみなりけりとききさだめて いささかなぐさめけり わびしとおもへるものから なさけなくこはごはしうはみエじ とおもへり ゑひごこちやれいならざりけむ ゆるさむことはくちをしきに をむなもわかうたをやぎて つよきこころもしらぬなるべし
らうたしとみたまふに ほどなくあけゆけば こころあわたたし をむなは まして さまざまにおもひみだれたるけしきなり
なほ なのりしたまへ いかでか きこゆべき かうてやみなむとは さりともおぼされじ
とのたまへば
うきみよにやがてきエなばたづねても
くさのはらをばとはじとやおもふ
といふさま えんになまめきたり
ことわりや きこエたがへたるもじかな とて
いづれぞとつゆのやどりをわかむまに
こざさがはらにかぜもこそふけ
わづらはしくおぼすことならずは なにかつつまむ もし すかいたまふか
ともいひあへず ひとびとおきさわぎ うへのみつぼねにまゐりちがふけしき-ども しげくまよへば いとわりなくて あふぎばかりをしるしにとりかへて いでたまひぬ
きりつぼには ひとびとおほくさぶらひて おどろきたるもあれば かかるを
さも たゆみなきおほむ-しのびありきかな
とつきしろひつつ そらねをぞしあへる いりたまひてふしたまへれど ねいられず
をかしかりつるひとのさまかな にようごのおほむ-おとうとたちにこそはあらめ まだよになれぬは ご ろくのきみならむかし そちのみやのきたのかた とうのちゆうじやうのすさめぬしのきみなどこそ よしとききしか なかなかそれならましかば いますこしをかしからまし ろくはとうぐうにたてまつらむとこころざしたまへるを いとほしうもあるべいかな わづらはしう たづねむほどもまぎらはし さてたエなむとはおもはぬけしきなりつるを いかなれば ことかよはすべきさまををしへずなりぬらむ
など よろづにおもふも こころのとまるなるべし かうやうなるにつけても まづ かのわたりのありさまの こよなうおくまりたるはやと ありがたうおもひくらべられたまふ

そのひはごえんのことありて まぎれくらしたまひつ さうのことつかうまつりたまふ きのふのことよりも なまめかしうおもしろし ふぢつぼは あかつきにまうのぼりたまひにけり かのありあけ いでやしぬらむと こころもそらにて おもひいたらぬくまなきよしきよ これみつをつけて うかがはせたまひければ おまへよりまかでたまひけるほどに
ただいま きたのぢんより かねてよりかくれたちてはべりつるくるま-どもまかりいづる おほむ-かたがたのさとびとはべりつるなかに しゐのせうしやう うちゆうべんなどいそぎいでて おくりしはべりつるや こうきでんのおほむ-あかれならむとみたまへつる けしうはあらぬけはひ-どもしるくて くるまみつばかりはべりつ
ときこゆるにも むねうち-つぶれたまふ
いかにして いづれとしらむ ちちおとどなどききて ことごとしうもてなさむも いかにぞや まだ ひとのありさまよくみさだめぬほどは わづらはしかるべし さりとて しらであらむ はた いとくちをしかるべければ いかにせましと おぼしわづらひて つくづくとながめふしたまへり
ひめぎみ いかにつれづれならむ ひごろになれば くしてやあらむと らうたくおぼしやる かのしるしのあふぎは さくらがさねにて こきかたにかすめるつきをかきて みづにうつしたるこころばへ めなれたれど ゆゑなつかしうもてならしたり くさのはらをばといひしさまのみ こころにかかりたまへば
よにしらぬここちこそすれありあけの
つきのゆくへをそらにまがへて
とかきつけたまひて おきたまへり

おほいどのにもひさしうなりにける とおぼせど わかぎみもこころぐるしければ こしらへむとおぼして にでうのゐんへおはしぬ みるままに いとうつくしげにおひなりて あいぎやうづきらうらうじきこころばへ いとことなり あかぬところなう わがみこころのままにをしへなさむ とおぼすにかなひぬべし をとこのおほむ-をしへなれば すこしひとなれたることやまじらむとおもふこそ うしろめたけれ
ひごろのおほむ-ものがたりおほむ-ことなどをしへくらしていでたまふを れいのとくちをしうおぼせど いまはいとようならはされて わりなくはしたひまつはさず
おほいどのには れいの ふともたいめんしたまはず つれづれとよろづおぼしめぐらされて さうのおほむ-ことまさぐりて
やはらかにぬるよはなくて
とうたひたまふ おとどわたりたまひて ひとひのきようありしこと きこエたまふ
ここらのよはひにて めいわうのみよ しだいをなむみはべりぬれど このたびのやうに ふみ-どもきやうざくに まひ がく もののね-どもととのほりて よはひのぶることなむはべらざりつる みちみちのもののじやうず-どもおほかるころほひ くはしうしろしめし ととのへさせたまへるけなり おきなもほとほとまひいでぬべきここちなむしはべりし
ときこエたまへば
ことにととのへおこなふこともはべらず ただおほやけごとに そしうなるもののし-どもを ここかしこにたづねはべりしなり よろづのことよりは りうくわゑん まことにこうだいのれいともなりぬべくみたまへしに ましてさかゆくはるにたちいでさせたまへらましかば よのめんぼくにやはべらまし
ときこエたまふ
べん ちゆうじやうなどまゐりあひて かうらんにせなかおしつつ とりどりにもののね-どもしらべあはせてあそびたまふ いとおもしろし

かのありあけのきみは はかなかりしゆめをおぼしいでて いとものなげかしうながめたまふ とうぐうには うづきばかりとおぼしさだめたれば いとわりなうおぼしみだれたるを をとこも たづねたまはむにあとはかなくはあらねど いづれともしらで ことにゆるしたまはぬあたりにかかづらはむも ひとわるくおもひわづらひたまふに やよひのにじふよにち みぎのおほいどののゆみのけちに かむだちめ みこ-たちおほくつどへたまひて やがてふぢのえんしたまふ はなざかりはすぎにたるを ほかのちりなむとやをしへられたりけむ おくれてさくさくら ふたきぞいとおもしろき あたらしうつくりたまへるおとどを みや-たちのおほむ-もぎのひ みがきしつらはれたり はなばなとものしたまふとののやうにて なにごともいまめかしうもてなしたまへり
げんじのきみにも ひとひ うちにておほむ-たいめんのついでに きこエたまひしかど おはせねば くちをしう もののはエなしとおぼして みこのしゐのせうしやうをたてまつりたまふ
わがやどのはなしなべてのいろならば
なにかはさらにきみをまたまし
うちにおはするほどにて うへにそうしたまふ
したりがほなりや とわらはせたまひて
わざとあめるを はやうものせよかし をむなみこ-たちなども おひいづるところなれば なべてのさまにはおもふまじきを
などのたまはす おほむ-よそひなどひき-つくろひたまひて いたうくるるほどに またれてぞわたりたまふ
さくらのからのきのおほむ-なほし えびぞめのしたがさね しりいとながくひきて みなひとはうへのきぬなるに あざれたるおほきみすがたのなまめきたるにて いつかれいりたまへるおほむ-さま げにいとことなり はなのにほひもけおされて なかなかことざましになむ
あそびなどいとおもしろうしたまひて よすこしふけゆくほどに げんじのきみ いたくゑひなやめるさまにもてなしたまひて まぎれたちたまひぬ
しんでんに をむないちのみや をむなさむのみやのおはします ひむがしのとぐちにおはして よりゐたまへり ふぢはこなたのつまにあたりてあれば みかうし-どもあげわたして ひとびといでゐたり そでぐちなど たふかのをりおぼエて ことさらめきもて-いでたるを ふさはしからずと まづふぢつぼわたりおぼしいでらる
なやましきにいといたうしひられて わびにてはべり かしこけれど このおまへにこそは かげにもかくさせたまはめ
とて つまどのみすをひき-きたまへば
あな わづらはし よからぬひとこそ やむごとなきゆかりはかこちはべるなれ
といふけしきをみたまふに おもおもしうはあらねど おしなべてのわかうど-どもにはあらず あてにをかしきけはひしるし
そらだきもの いとけぶたうくゆりて きぬのおとなひ いとはなやかにふるまひなして こころにくくおくまりたるけはひはたち-おくれ いまめかしきことをこのみたるわたりにて やむごとなきおほむ-かたがたものみたまふとて このとぐちはしめたまへるなるべし さしもあるまじきことなれど さすがにをかしうおもほされて いづれならむと むねうち-つぶれて
あふぎをとられて からきめをみる
と うち-おほどけたるこゑにいひなして よりゐたまへり
あやしくも さまかへけるこまうどかな
といらふるは こころしらぬにやあらむ いらへはせで ただときどき うち-なげくけはひするかたによりかかりて きちやうごしにてをとらへて
あづさゆみいるさのやまにまどふかな
ほの-みしつきのかげやみゆると
なにゆゑか
と おしあてにのたまふを えしのばぬなるべし
こころいるかたならませばゆみはりの
つきなきそらにまよはましやは
といふこゑ ただそれなり いとうれしきものから

よのなかかはりてのち よろづもの-うくおぼされ おほむ-みのやむごとなさもそふにや かるがるしきおほむ-しのびありきもつつましうて ここもかしこも おぼつかなさのなげきをかさねたまふ むくイにや なほわれにつれなきひとのみこころを つきせずのみおぼしなげく
いまは ましてひまなう ただうどのやうにてそひおはしますを いまぎさきはこころやましうおぼすにや うちにのみさぶらひたまへば たちならぶひとなうこころやすげなり をりふしにしたがひては おほむ-あそびなどをこのましう よのひびくばかりせさせたまひつつ いまのおほむ-ありさましもめでたし ただ とうぐうをぞいとこひしうおもひきこエたまふ おほむ-うしろみのなきを うしろめたうおもひきこエて だいしやうのきみによろづきこエつけたまふも かたはらいたきものから うれしとおぼす
まことや かのろくでうのみやすむどころのおほむ-はらのぜんばうのひめぎみ さいぐうにゐたまひにしかば だいしやうのみこころばへもいとたのもしげなきを をさなきおほむ-ありさまのうしろめたさにことつけてくだりやしなましと かねてよりおぼしけり
ゐんにも かかることなむと きこしめして
こみやのいとやむごとなくおぼし ときめかしたまひしものを かるがるしうおしなべたるさまにもてなすなるが いとほしきこと さいぐうをも このみこ-たちのつらになむおもへば いづかたにつけても おろかならざらむこそよからめ こころのすさびにまかせて かくすきわざするは いとよのもどきおひぬべきことなり
など みけしきあしければ わがみここちにも げにとおもひしらるれば かしこまりてさぶらひたまふ
ひとのため はぢがましきことなく いづれをもなだらかにもてなして をむなのうらみなおひそ
とのたまはするにも けしからぬこころのおほけなさをきこしめしつけたらむときと おそろしければ かしこまりてまかでたまひぬ
また かくゐんにもきこしめし のたまはするに ひとのおほむ-なも わがためも すきがましういとほしきに いとどやむごとなく こころぐるしきすぢにはおもひきこエたまへど まだあらはれては わざともてなしきこエたまはず
をむなも にげなきおほむ-としのほどをはづかしうおぼして こころとけたまはぬけしきなれば それにつつみたるさまにもてなして ゐんにきこしめしいれ よのなかのひともしらぬなくなりにたるを ふかうしもあらぬみこころのほどを いみじうおぼしなげきけり
かかることをききたまふにも あさがほのひめぎみは いかで ひとににじ とふかうおぼせば はかなきさまなりしおほむ-かへりなども をさをさなし さりとて ひとにくく はしたなくはもてなしたまはぬみけしきを きみも なほことなり とおぼしわたる
おほとのには かくのみさだめなきみこころを こころづきなしとおぼせど あまりつつまぬみけしきの いふかひなければにやあらむ ふかうもゑじきこエたまはず こころぐるしきさまのみここちになやみたまひて もの-こころぼそげにおぼいたり めづらしくあはれとおもひきこエたまふ たれもたれもうれしきものから ゆゆしうおぼして さまざまのおほむ-つつしみせさせたてまつりたまふ かやうなるほどに いとどみこころのいとまなくて おぼしおこたるとはなけれど とだエおほかるべし

その-ころ さいゐんもおりゐたまひて きさきばらのをむなさむのみやゐたまひぬ みかど きさきと ことにおもひきこエたまへるみやなれば すぢことになりたまふを いとくるしうおぼしたれど ことみやたちのさるべきおはせず ぎしきなど つねのかむわざなれど いかめしうののしる まつりのほど かぎりあるおほやけごとにそふことおほく みどころこよなし ひとからとみエたり
ごけいのひ かむだちめなど かずさだまりてつかうまつりたまふわざなれど おぼエことに かたちあるかぎり したがさねのいろ うへのはかまのもん むまくらまでみなととのへたり とりわきたるせんじにて だいしやうのきみもつかうまつりたまふ かねてより ものみぐるまこころづかひしけり
いちでうのおほぢ ところなく むくつけきまでさわぎたり ところどころのおほむ-さじき こころごころにしつくしたるしつらひ ひとのそでぐちさへいみじきみものなり
おほとのには かやうのおほむ-ありきもをさをさしたまはぬに みここちさへなやましければ おぼしかけざりけるを わかきひとびと
いでや おのが-どちひき-しのびてみはべらむこそ はエなかるべけれ おほよそびとだに けふのものみには だいしやうどのをこそは あやしきやまがつさへみたてまつらむとすなれ とほきくにぐにより めこをひき-ぐしつつもまうでくなるを ごらんぜぬは いとあまりもはべるかな
といふを おほみやきこしめして
みここちもよろしきひまなり さぶらふひとびともさうざうしげなめり
とて にはかにめぐらしおほせたまひて みたまふ
ひたけゆきて ぎしきもわざとならぬさまにていでたまへり ひまもなうたちわたりたるに よそほしうひき-つづきてたちわづらふ よきにようばうぐるまおほくて ざふざふのひとなきひまをおもひさだめて みなさし-のけさするなかに あむじろのすこしなれたるが したすだれのさまなどよしばめるに いたうひき-いりて ほのかなるそでぐち ものすそ かざみなど もののいろ いときよらにて ことさらにやつれたるけはひしるくみゆるくるま ふたつあり
これは さらに さやうにさし-のけなどすべきみくるまにもあらず
と くちごはくて てふれさせず いづかたにも わかきもの-どもゑひすぎ たち-さわぎたるほどのことは えしたためあへず おとなおとなしきごぜんのひとびとは かくな などいへど えとどめあへず
さいぐうのおほむ-ははみやすむどころ もの-おぼしみだるるなぐさめにもやと しのびていでたまへるなりけり つれなしつくれど おのづからみしりぬ
さばかりにては さないはせそ
だいしやうどのをぞ がうけにはおもひきこゆらむ
などいふを そのおほむ-かたのひともまじれば いとほしとみながら よういせむもわづらはしければ しらずがほをつくる
つひに みくるま-どもたてつづけつれば ひとだまひのおくにおしやられて ものもみエず こころやましきをばさるものにて かかるやつれをそれとしられぬるが いみじうねたきこと かぎりなし しぢなどもみなおし-をられて すずろなるくるまのどうにうち-かけたれば またなうひとわろくくやしう なにに きつらむとおもふにかひなし ものもみでかへらむとしたまへど とほりいでむもひまなきに
ことなりぬ
といへば さすがに つらきひとのおまへわたりのまたるるも こころよわしや ささのくまにだにあらねばにや つれなくすぎたまふにつけても なかなかみこころづくしなり
げに つねよりもこのみととのへたるくるま-どもの われもわれもとのりこぼれたるしたすだれのすきま-どもも さらぬかほなれど ほほゑみつつしりめにとどめたまふもあり おほとののは しるければ まめだちてわたりたまふ おほむ-とものひとびとうち-かしこまり こころばへありつつわたるを おし-けたれたるありさま こよなうおぼさる
かげをのみみたらしがはのつれなきに
みのうきほどぞいとどしらるる
と なみだのこぼるるを ひとのみるもはしたなけれど めもあやなるおほむ-さま かたちの いとどしういでばエをみざらましかば とおぼさる
ほどほどにつけて さうぞく ひとのありさま いみじくととのへたりとみゆるなかにも かむだちめはいとことなるを ひとところのおほむ-ひかりにはおし-けたれためり だいしやうのおほむ-かりのずいじんに てんじやうのぞうなどのすることはつねのことにもあらず めづらしきぎやうがうなどのをりのわざなるを けふはうこんのくらうどのぞうつかうまつれり さらぬみずいじん-どもも かたち すがた まばゆくととのへて よにもて-かしづかれたまへるさま きくさもなびかぬはあるまじげなり
つぼさうぞくなどいふすがたにて にようばうのいやしからぬや またあまなどのよをそむきけるなども たふれまどひつつ ものみにいでたるも れいは あながちなりや あなにく とみゆるに けふはことわりに くちうち-すげみて かみきこめたるあやしのもの-どもの てをつくりて ひたひにあてつつみたてまつりあげたるも をこがましげなるしづのをまで おのがかほのならむさまをばしらでゑみさかエたり なにともみいれたまふまじき えせずりやうのむすめなどさへ こころのかぎりつくしたるくるま-どもにのり さまことさらびこころげさうしたるなむ をかしきやうやうのみものなりける
まして ここかしこにうち-しのびてかよひたまふところどころは ひとしれずのみかずならぬなげきまさるも おほかり
しきぶきやうのみや さじきにてぞみたまひける
いとまばゆきまでねびゆくひとのかたちかな かみなどはめもこそとめたまへ
と ゆゆしくおぼしたり ひめぎみは としごろきこエわたりたまふみこころばへのよのひとににぬを
なのめならむにてだにあり まして かうしも いかで
とみこころとまりけり いとどちかくてみエむまではおぼしよらず わかきひとびとは ききにくきまでめできこエあへり
まつりのひは おほとのにはものみたまはず だいしやうのきみ かのみくるまのところあらそひを まねびきこゆるひとありければ いといとほしううしとおぼして
なほ あたらおもりかにおはするひとの ものになさけおくれ すくすくしきところつきたまへるあまりに みづからはさしもおぼさざりけめども かかるなからひはなさけかはすべきものともおぼいたらぬおほむ-おきてにしたがひて つぎつぎよからぬひとのせさせたるならむかし みやすむどころは こころばせのいとはづかしく よしありておはするものを いかにおぼしうむじにけむ
と いとほしくて まうでたまへりけれど さいぐうのまだもとのみやにおはしませば さかきのはばかりにことつけて こころやすくもたいめんしたまはず ことわりとはおぼしながら なぞや かくかたみにそばそばしからでおはせかしと うち-つぶやかれたまふ

けふは にでうのゐんにはなれおはして まつりみにいでたまふ にしのたいにわたりたまひて これみつにくるまのことおほせたり
にようばういでたつや
とのたまひて ひめぎみのいとうつくしげにつくろひたてておはするを うち-ゑみてみたてまつりたまふ
きみは いざたまへ もろともにみむよ
とて みぐしのつねよりもきよらにみゆるを かきなでたまひて
ひさしうそぎたまはざめるをけふは よきひならむかし
とて こよみのはかせめして ときとはせなどしたまふほどに
まづ にようばういでね
とて わらはのすがた-どものをかしげなるをごらんず いとらうたげなるかみ-どものすそ はなやかにそぎわたして うきもんのうへのはかまにかかれるほど けざやかにみゆ
きみのみぐしは われそがむ とて うたて ところせうもあるかな いかにおひやらむとすらむ
と そぎわづらひたまふ
いとながきひとも ひたひがみは すこしみじかうぞあめるを むげにおくれたるすぢのなきや あまりなさけなからむ
とて そぎはてて ちひろといはひきこエたまふを せうなごん あはれにかたじけなしとみたてまつる
はかりなきちひろのそこのみるぶさの
おひゆくすゑはわれのみぞみむ
ときこエたまへば
ちひろともいかでかしらむさだめなく
みちひるしほののどけからぬに
と ものにかきつけておはするさま らうらうじきものから わかうをかしきを めでたしとおぼす
けふも ところもなくたちにけり むまばのおとどのほどにたてわづらひて
かむだちめのくるま-どもおほくて もの-さわがしげなるわたりかな
と やすらひたまふに よろしきをむなぐるまの いたうのりこぼれたるより あふぎさし-いでて ひとをまねきよせて
ここにやはたたせたまはぬ ところさりきこエむ
ときこエたり いかなるすきものならむ とおぼされて ところもげによきわたりなれば ひきよせさせたまひて
いかでえたまへるところぞと ねたさになむ
とのたまへば よしあるあふぎのつまををりて
はかなしやひとのかざせるあふひゆゑ
かみのゆるしのけふをまちける
しめのうちには
とあるてをおぼしいづれば かのないしのすけなりけり あさましう ふりがたくもいまめくかなと にくさに はしたなう
かざしけるこころぞあだにおもほゆる
やそうぢびとになべてあふひを
をむなは つらしとおもひきこエけり
くやしくもかざしけるかななのみして
ひとだのめなるくさばばかりを
ときこゆ ひととあひのりて すだれをだにあげたまはぬを こころやましうおもふひとおほかり
ひとひのおほむ-ありさまのうるはしかりしに けふうち-みだれてありきたまふかし たれならむ のりならぶひと けしうはあらじはやと おしはかりきこゆ いどましからぬ かざしあらそひかなと さうざうしくおぼせど かやうにいとおもなからぬひとはた ひとあひのりたまへるにつつまれて はかなきおほむ-いらへも こころやすくきこエむも まばゆしかし

みやすむどころは ものをおぼしみだるること としごろよりもおほくそひにけり つらきかたにおもひはてたまへど いまはとて ふりはなれくだりたまひなむは いとこころぼそかりぬべく よのひとぎきもひとわらへにならむこと とおぼす さりとてたち-とまるべくおぼしなるには かくこよなきさまにみなおもひくたすべかめるも やすからず つりするあまのうけなれやと おきふしおぼしわづらふけにや みここちもうきたるやうにおぼされて なやましうしたまふ
だいしやうどのには くだりたまはむことを もて-はなれてあるまじきこと なども さまたげきこエたまはず
かずならぬみを みまうくおぼしすてむもことわりなれど いまはなほ いふかひなきにても ごらんじはてむや あさからぬにはあらむ
と きこエかかづらひたまへば さだめかねたまへるみこころもやなぐさむと たちいでたまへりしみそぎがはのあらかりしせに いとど よろづいとうくおぼしいれたり
おほとのには おほむ-もののけめきて いたうわづらひたまへば たれもたれもおぼしなげくに おほむ-ありきなどびんなきころなれば にでうのゐんにもときどきぞわたりたまふ さはいへど やむごとなきかたは ことにおもひきこエたまへるひとの めづらしきことさへそひたまへるおほむ-なやみなれば こころぐるしうおぼしなげきて みすほふやなにやなど わがおほむ-かたにて おほくおこなはせたまふ
もののけ いきすだまなどいふものおほくいできて さまざまのなのりするなかに ひとにさらにうつらず ただみづからのおほむ-みにつとそひたるさまにて ことにおどろおどろしうわづらはしきこゆることもなけれど また かたときはなるるをりもなきものひとつあり いみじきげんざ-どもにもしたがはず しふねきけしき おぼろけのものにあらずとみエたり
だいしやうのきみのおほむ-かよひどころ ここかしことおぼしあつるに
このみやすむどころ にでうのきみなどばかりこそは おしなべてのさまにはおぼしたらざめれば うらみのこころもふかからめ
とささめきて ものなどとはせたまへど さしてきこエあつることもなし もののけとても わざとふかきおほむ-かたきときこゆるもなし すぎにけるおほむ-めのとだつひと もしは おやのおほむ-かたにつけつつつたはりたるものの よわめにいできたるなど むねむねしからずぞ みだれあらはるる ただつくづくと ねをのみなきたまひて をりをりはむねをせきあげつつ いみじうたへがたげにまどふわざをしたまへば いかにおはすべきにかと ゆゆしうかなしくおぼしあわてたり
ゐんよりも おほむ-とぶらひひまなく おほむ-いのりのことまでおぼしよらせたまふさまのかたじけなきにつけても いとどをしげなるひとのおほむ-みなり
よのなかあまねくをしみきこゆるをききたまふにも みやすむどころはただならずおぼさる としごろはいとかくしもあらざりしおほむ-いどみごころを はかなかりしところのくるまあらそひに ひとのみこころのうごきにけるを かのとのには さまでもおぼしよらざりけり

かかるおほむ-ものおもひのみだれに みここち なほれいならずのみおぼさるれば ほかにわたりたまひて みすほふなどせさせたまふ だいしやうどのききたまひて いかなるみここちにかと いとほしう おぼしおこしてわたりたまへり
れいならぬたびどころなれば いたうしのびたまふ こころよりほかなるおこたりなど つみゆるされぬべくきこエつづけたまひて なやみたまふひとのおほむ-ありさまも うれへきこエたまふ
みづからはさしもおもひいれはべらねど おや-たちのいとことことしうおもひまどはるるがこころぐるしさに かかるほどをみすぐさむとてなむ よろづをおぼしのどめたるみこころならば いとうれしうなむ
など かたらひきこエたまふ つねよりもこころぐるしげなるみけしきを ことわりに あはれにみたてまつりたまふ
うちとけぬあさぼらけに いでたまふおほむ-さまのをかしきにも なほふりはなれなむことはおぼしかへさる
やむごとなきかたに いとどこころざしそひたまふべきこともいできにたれば ひとつかたにおぼししづまりたまひなむを かやうにまちきこエつつあらむも こころのみつきぬべきこと
なかなかものおもひのおどろかさるるここちしたまふに おほむ-ふみばかりぞ くれつかたある
ひごろ すこしおこたるさまなりつるここちの にはかにいといたうくるしげにはべるを えひき-よかでなむ
とあるを れいのことつけと みたまふものから
そでぬるるこひぢとかつはしりながら
おりたつたごのみづからぞうき
やまのゐのみづもことわりに
とぞある おほむ-ては なほここらのひとのなかにすぐれたりかし とみたまひつつ いかにぞやもあるよかな こころもかたちも とりどりにすつべくもなく またおもひさだむべきもなきを くるしうおぼさる おほむ-かへり いとくらうなりにたれど
そでのみぬるるや いかに ふかからぬおほむ-ことになむ
あさみにやひとはおりたつわがかたは
みもそぼつまでふかきこひぢを
おぼろけにてや このおほむ-かへりを みづからきこエさせぬ
などあり

おほとのには おほむ-もののけいたうおこりて いみじうわづらひたまふ このおほむ-いきすだま こ-ちちおとどのごりやうなどいふものあり とききたまふにつけて おぼしつづくれば
みひとつのうきなげきよりほかに ひとをあしかれなどおもふこころもなけれど もの-おもひにあくがるなるたましひは さもやあらむ
とおぼししらるることもあり
としごろ よろづにおもひのこすことなくすぐしつれど かうしもくだけぬを はかなきことのをりに ひとのおもひけち なきものにもてなすさまなりしみそぎののち ひとふしにおぼしうかれにしこころ しづまりがたうおぼさるるけにや すこしうち-まどろみたまふゆめには かのひめぎみとおぼしきひとの いときよらにてあるところにいきて とかくひき-まさぐり うつつにもにず たけくいかきひたぶるこころいできて うち-かなぐるなどみエたまふこと たびかさなりにけり
あな こころうや げに みをすててや いにけむと うつしごころならずおぼエたまふをりをりもあれば さならぬことだに ひとのおほむ-ためには よさまのことをしもいひいでぬよなれば ましてこれは いとよういひなしつべきたよりなり とおぼすに いとなだたしう
ひたすらよになくなりて のちにうらみのこすはよのつねのことなり それだに ひとのうへにては つみふかうゆゆしきを うつつのわがみながら さるうとましきことをいひつけらるるすくせのうきこと すべて つれなきひとにいかでこころもかけきこエじ
とおぼしかへせど おもふもものをなり

さいぐうは こぞうちにいりたまふべかりしを さまざまさはることありて このあきいりたまふ ながつきには やがてののみやにうつろひたまふべければ ふたたびのおほむ-はらへのいそぎ とりかさねてあるべきに ただあやしうほけほけしうて つくづくとふしなやみたまふを みやびと いみじきだいじにて おほむ-いのりなど さまざまつかうまつる
おどろおどろしきさまにはあらず そこはかとなくて つきひをすぐしたまふ だいしやうどのも つねに とぶらひきこエたまへど まさるかたのいたうわづらひたまへば みこころのいとまなげなり
まださるべきほどにもあらずと みなひともたゆみたまへるに にはかにみけしきありて なやみたまへば いとどしきおほむ-いのり かずをつくしてせさせたまへれど れいのしふねきおほむ-もののけひとつ さらにうごかず やむごとなきげんじや-ども めづらかなりともて-なやむ さすがに いみじうてうぜられて こころくるしげになきわびて
すこしゆるべたまへや だいしやうにきこゆべきことあり とのたまふ
さればよ あるやうあらむ
とて ちかきみきちやうのもとにいれたてまつりたり むげにかぎりのさまにものしたまふを きこエおかまほしきこともおはするにやとて おとどもみやもすこししりぞきたまへり かぢのそう-ども こゑしづめてほけきやうをよみたる いみじうたふとし
みきちやうのかたびらひきあげてみたてまつりたまへば いとをかしげにて おほむ-はらはいみじうたかうてふしたまへるさま よそびとだに みたてまつらむにこころみだれぬべし ましてをしうかなしうおぼす ことわりなり しろきおほむ-ぞに いろあひいとはなやかにて みぐしのいとながうこちたきを ひき-ゆひてうち-そへたるも かうてこそ らうたげになまめきたるかたそひてをかしかりけれ とみゆ みてをとらへて
あな いみじ こころうきめをみせたまふかな
とて ものもきこエたまはずなきたまへば れいはいとわづらはしうはづかしげなるおほむ-まみを いとたゆげにみあげて うち-まもりきこエたまふに なみだのこぼるるさまをみたまふは いかがあはれのあさからむ
あまりいたうなきたまへば こころぐるしきおや-たちのおほむ-ことをおぼし また かくみたまふにつけて くちをしうおぼエたまふにや とおぼして
なにごとも いとかうなおぼしいれそ さりともけしうはおはせじ いかなりとも かならずあふせあなれば たいめんはありなむ おとど みやなども ふかきちぎりあるなかは めぐりてもたエざなれば あひみるほどありなむとおぼせ
と なぐさめたまふに
いで あらずや みのうへのいとくるしきを しばしやすめたまへときこエむとてなむ かくまゐりこむともさらにおもはぬを ものおもふひとのたましひは げにあくがるるものになむありける
と なつかしげにいひて
なげきわびそらにみだるるわがたまを
むすびとどめよしたがへのつま
とのたまふこゑ けはひ そのひとにもあらず かはりたまへり いとあやし とおぼしめぐらすに ただ かのみやすむどころなりけり あさましう ひとのとかくいふを よからぬもの-どものいひいづることも ききにくくおぼして のたまひけつを めにみすみす よには かかることこそありけれと うとましうなりぬ あな こころう とおぼされて
かくのたまへど たれとこそしらね たしかにのたまへ
とのたまへば ただそれなるおほむ-ありさまに あさましとはよのつねなり ひとびとちかうまゐるも かたはらいたうおぼさる

すこしおほむ-こゑもしづまりたまへれば ひまおはするにやとて みやのおほむ-ゆもて-よせたまへるに かき-おこされたまひて ほどなくむまれたまひぬ うれしとおぼすことかぎりなきに ひとにかりうつしたまへるおほむ-もののけ-ども ねたがりまどふけはひ いとものさはがしうて のちのこと またいとこころもとなし
いふかぎりなきぐわん-どもたてさせたまふけにや たひらかにことなりはてぬれば やまのざす なにくれやむごとなきそう-ども したりがほにあせおし-のごひつつ いそぎまかでぬ
おほくのひとのこころをつくしつるひごろのなごり すこしうち-やすみて いまはさりとも とおぼす みすほふなどは またまたはじめそへさせたまへど まづは きようあり めづらしきおほむ-かしづきに みなひとゆるべり
ゐんをはじめたてまつりて みこ-たち かむだちめ のこるなきうぶやしなひ-どもの めづらかにいかめしきを よ-ごとにみののしる をとこにてさへおはすれば そのほどのさほふ にぎははしくめでたし
かのみやすむどころは かかるおほむ-ありさまをききたまひても ただならず かねては いとあやふくきこエしを たひらかにもはたと うち-おぼしけり
あやしう われにもあらぬみここちをおぼしつづくるに おほむ-ぞなども ただけしのかにしみかへりたるあやしさに おほむ-ゆするまゐり おほむ-ぞきかへなどしたまひて こころみたまへど なほおなじやうにのみあれば わがみながらだにうとましうおぼさるるに まして ひとのいひおもはむことなど ひとにのたまふべきことならねば こころひとつにおぼしなげくに いとどみこころがはりもまさりゆく
だいしやうどのは ここちすこしのどめたまひて あさましかりしほどのとはずがたりも こころうくおぼしいでられつつ いとほどへにけるもこころぐるしう またけぢかうみたてまつらむには いかにぞや うたておぼゆべきを ひとのおほむ-ためいとほしう よろづにおぼして おほむ-ふみばかりぞありける
いたうわづらひたまひしひとのおほむ-なごりゆゆしう こころゆるびなげに たれもおぼしたれば ことわりにて おほむ-ありきもなし なほいとなやましげにのみしたまへば れいのさまにてもまだたいめんしたまはず わかぎみのいとゆゆしきまでみエたまふおほむ-ありさまを いまから いとさまことにもて-かしづききこエたまふさま おろかならず ことあひたるここちして おとどもうれしういみじとおもひきこエたまへるに ただ このみここちおこたりはてたまはぬを こころもとなくおぼせど さばかりいみじかりしなごりにこそは とおぼして いかでかは さのみはこころをもまどはしたまはむ
わかぎみのおほむ-まみのうつくしさなどの とうぐうにいみじうにたてまつりたまへるを みたてまつりたまひても まづ こひしうおもひいでられさせたまふに しのびがたくて まゐりたまはむとて
うちなどにもあまりひさしうまゐりはべらねば いぶせさに けふなむうひだちしはべるを すこしけぢかきほどにてきこエさせばや あまりおぼつかなきみこころのへだてかな
と うらみきこエたまへれば
げに ただひとへにえんにのみあるべきおほむ-なかにもあらぬを いたうおとろへたまへりといひながら ものごしにてなどあべきかは
とて ふしたまへるところに おましちかうまゐりたれば いりてものなどきこエたまふ
おほむ-いらへ ときどききこエたまふも なほいとよわげなり されど むげになきひととおもひきこエしおほむ-ありさまをおぼしいづれば ゆめのここちして ゆゆしかりしほどのこと-どもなどきこエたまふついでにも かのむげにいきもたエたるやうにおはせしが ひきかへし つぶつぶとのたまひしこと-どもおぼしいづるに こころうければ
いさや きこエまほしきこといとおほかれど まだいとたゆげにおぼしためればこそ
とて おほむ-ゆまゐれ などさへ あつかひきこエたまふを いつならひたまひけむと ひとびとあはれがりきこゆ
いとをかしげなるひとの いたうよわりそこなはれて あるかなきかのけしきにてふしたまへるさま いとらうたげにこころぐるしげなり みぐしのみだれたるすぢもなく はらはらとかかれるまくらのほど ありがたきまでみゆれば としごろ なにごとをあかぬことありておもひつらむと あやしきまでうち-まもられたまふ
ゐんなどにまゐりて いととうまかでなむ かやうにて おぼつかなからずみたてまつらば うれしかるべきを みやのつとおはするに ここちなくやとつつみてすぐしつるもくるしきを なほやうやうこころづよくおぼしなして れいのおましどころにこそ あまりわかくもてなしたまへば かたへは かくもものしたまふぞ
など きこエおきたまひて いときよげにうち-さうぞきていでたまふを つねよりはめとどめて みいだしてふしたまへり

あきのつかさめしあるべきさだめにて おほとのもまゐりたまへば きみたちもいたはりのぞみたまふこと-どもありて とののおほむ-あたりはなれたまはねば みなひき-つづきいでたまひぬ
とののうち ひとずくなにしめやかなるほどに にはかにれいのおほむ-むねをせきあげて いといたうまどひたまふ うちにおほむ-せうそこきこエたまふほどもなく たエいりたまひぬ あしをそらにて たれもたれも まかでたまひぬれば ぢもくのよなりけれど かくわりなきおほむ-さはりなれば みなことやぶれたるやうなり
ののしりさわぐほど よなかばかりなれば やまのざす なにくれのそうづ-たちも えさうじあへたまはず いまはさりとも とおもひたゆみたりつるに あさましければ とののうちのひと ものにぞあたる ところどころのおほむ-とぶらひのつかひなど たち-こみたれど えきこエつかず ゆすりみちて いみじきみこころまどひ-ども いとおそろしきまでみエたまふ
おほむ-もののけのたびたびとり-いれたてまつりしをおぼして おほむ-まくらなどもさながら ふつか みかみたてまつりたまへど やうやうかはりたまふこと-どものあれば かぎり とおぼしはつるほど たれもたれもいといみじ
だいしやうどのは かなしきことに ことをそへて よのなかをいとうきものにおぼししみぬれば ただならぬおほむ-あたりのとぶらひ-どもも こころうしとのみぞ なべておぼさるる ゐんに おぼしなげき とぶらひきこエさせたまふさま かへりておもだたしげなるを うれしきせもまじりて おとどはおほむ-なみだのいとまなし
ひとのまうすにしたがひて いかめしきこと-どもを いきやかへりたまふと さまざまにのこることなく かつそこなはれたまふこと-どものあるをみるみるも つきせずおぼし-まどへど かひなくてひごろになれば いかがはせむとて とりべのにゐてたてまつるほど いみじげなること おほかり

こなたかなたのおほむ-おくりのひと-ども てらでらのねんぶつそうなど そこらひろきのにところもなし ゐんをばさらにもまうさず きさいのみや とうぐうなどの おほむ-つかひ さらぬところどころのもまゐりちがひて あかずいみじきおほむ-とぶらひをきこエたまふ おとどはえたちあがりたまはず
かかるよはひのすゑに わかくさかりのこにおくれたてまつりて もごよふこと
とはぢなきたまふを ここらのひとかなしうみたてまつる
よもすがらいみじうののしりつるぎしきなれど いともはかなきおほむ-かばねばかりをおほむ-なごりにて あかつきふかくかへりたまふ
つねのことなれど ひとひとりか あまたしもみたまはぬことなればにや たぐひなくおぼしこがれたり はちぐわちにじふよにちのありあけなれば そらもけしきもあはれすくなからぬに おとどのやみにくれまどひたまへるさまをみたまふも ことわりにいみじければ そらのみながめられたまひて
のぼりぬるけぶりはそれとわかねども
なべてくもゐのあはれなるかな

とのにおはしつきて つゆまどろまれたまはず としごろのおほむ-ありさまをおぼしいでつつ
などて つひにはおのづからみなほしたまひてむと のどかにおもひて なほざりのすさびにつけても つらしとおぼエられたてまつりたまひけむ よをへて うとくはづかしきものにおもひてすぎはてたまひぬる
など くやしきことおほく おぼしつづけらるれど かひなし にばめるおほむ-ぞたてまつれるも ゆめのここちして われさきだたましかば ふかくぞそめたまはましと おぼすさへ
かぎりあればうすずみごろもあさけれど
なみだぞそでをふちとなしける
とて ねんずしたまへるさま いとどなまめかしさまさりて きやうしのびやかによみたまひつつ ほふかいざんまいふげんだいしとうち-のたまへる おこなひなれたるほふしよりはけなり わかぎみをみたてまつりたまふにも なににしのぶのと いとどつゆけけれど かかるかたみさへなからましかばと おぼしなぐさむ
みやはしづみいりて そのままにおきあがりたまはず あやふげにみエたまふを またおぼしさわぎて おほむ-いのりなどせさせたまふ
はかなうすぎゆけば おほむ-わざのいそぎなどせさせたまふも おぼしかけざりしことなれば つきせずいみじうなむ なのめにかたほなるをだに ひとのおやはいかがおもふめる ましてことわりなり また たぐひおはせぬをだに さうざうしくおぼしつるに そでのうへのたまのくだけたりけむよりも あさましげなり
だいしやうのきみは にでうのゐんにだに あからさまにもわたりたまはず あはれにこころふかうおもひなげきて おこなひをまめにしたまひつつ あかしくらしたまふ ところどころには おほむ-ふみばかりぞたてまつりたまふ
かのみやすむどころは さいぐうはさゑもんのつかさにいりたまひにければ いとどいつくしきおほむ-きよまはりにことつけて きこエもかよひたまはず うしとおもひ-しみにしよも なべていとはしうなりたまひて かかるほだしだにそはざらましかば ねがはしきさまにもなりなまし とおぼすには まづたいのひめぎみの さうざうしくてものしたまふらむありさまぞ ふとおぼしやらるる
よるは みちやうのうちにひとりふしたまふに とのゐのひとびとはちかうめぐりてさぶらへど かたはらさびしくて ときしもあれとねざめがちなるに こゑすぐれたるかぎりえりさぶらはせたまふねんぶつの あかつきがたなど しのびがたし
ふかきあきのあはれまさりゆくかぜのおと みにしみけるかなと ならはぬおほむ-ひとりねにあかしかねたまへるあさぼらけのきりわたれるに きくのけしきばめるえだに こきあをにびのかみなるふみつけて さし-おきていにけり いまめかしうもとて みたまへば みやすむどころのおほむ-てなり
きこエぬほどは おぼししるらむや
ひとのよをあはれときくもつゆけきに
おくるるそでをおもひこそやれ
ただいまのそらにおもひたまへあまりてなむ
とあり つねよりもいうにもかいたまへるかなと さすがにおきがたうみたまふものから つれなのおほむ-とぶらひや とこころ-うし さりとて かき-たエおとなうきこエざらむもいとほしく ひとのおほむ-なのくちぬべきことをおぼしみだる
すぎにしひとは とてもかくても さるべきにこそはものしたまひけめ なににさることを さださだとけざやかにみききけむ とくやしきは わがみこころながら なほえおぼしなほすまじきなめりかし
さいぐうのおほむ-きよまはりもわづらはしくや など ひさしうおもひわづらひたまへど わざとあるおほむ-かへりなくは なさけなくや とて むらさきのにばめるかみに
こよなうほどへはべりにけるを おもひたまへおこたらずながら つつましきほどは さらば おぼししるらむやとてなむ
とまるみもきエしもおなじつゆのよに
こころおくらむほどぞはかなき
かつはおぼしけちてよかし ごらんぜずもやとて たれにも
ときこエたまへり
さとにおはするほどなりければ しのびてみたまひて ほのめかしたまへるけしきを こころのおににしるくみたまひて さればよ とおぼすも いといみじ
なほ いとかぎりなきみのうさなりけり かやうなるきこエありて ゐんにもいかにおぼさむ こ-ぜんばうの おなじきおほむ-はらからといふなかにも いみじうおもひ-かはしきこエさせたまひて このさいぐうのおほむ-ことをも ねむごろにきこエつけさせたまひしかば そのおほむ-かはりにも やがてみたてまつりあつかはむ など つねにのたまはせて やがてうちずみしたまへと たびたびきこエさせたまひしをだに いとあるまじきこと とおもひはなれにしを かくこころよりほかにわかわかしきもの-おもひをして つひにうきなをさへながしはてつべきこと
と おぼしみだるるに なほれいのさまにもおはせず
さるは おほかたのよにつけて こころにくくよしあるきこエありて むかしよりなだかくものしたまへば ののみやのおほむ-うつろひのほどにも をかしういまめきたることおほくしなして てんじやうびと-どものこのましきなどは あさゆふのつゆわけありくを その-ころのやくになむする などききたまひても だいしやうのきみは ことわりぞかし ゆゑはあくまでつきたまへるものを もし よのなかにあきはててくだりたまひなば さうざうしくもあるべきかなと さすがにおぼされけり

おほむ-ほふじなどすぎぬれど しやうにちまでは なほこもりおはす ならはぬおほむ-つれづれを こころぐるしがりたまひて さむゐのちゆうじやうは つねにまゐりたまひつつ よのなかのおほむ-ものがたりなど まめやかなるも またれいのみだりがはしきことをもきこエいでつつ なぐさめきこエたまふに かのないしぞ うち-わらひたまふくさはひにはなるめる だいしやうのきみは
あな いとほしや おばおとどのうへ ないたうかろめたまひそ
といさめたまふものから つねにをかしとおぼしたり
かのいざよひの さやかならざりしあきのことなど さらぬも さまざまのすきごと-どもを かたみにくまなくいひあらはしたまふ はてはては あはれなるよをいひいひて うち-なきなどもしたまひけり
しぐれうち-して ものあはれなるゆふつかた ちゆうじやうのきみ にびいろのなほし さしぬき うすらかにころもがへして いとををしうあざやかに こころはづかしきさましてまゐりたまへり
きみは にしのつまのかうらんにおし-かかりて しもがれのせんさいみたまふほどなりけり かぜあららかにふき しぐれさとしたるほど なみだもあらそふここちして
あめとなりくもとやなりにけむ いまはしらず
と うち-ひとりごちて つらづゑつきたまへるおほむ-さま をむなにては みすててなくならむたましひかならずとまりなむかしと いろめかしきここちに うち-まもられつつ ちかうつい-ゐたまへれば しどけなくうち-みだれたまへるさまながら ひもばかりをさしなほしたまふ
これは いますこしこまやかなるなつのおほむ-なほしに くれなゐのつややかなるひき-かさねて やつれたまへるしも みてもあかぬここちぞする
ちゆうじやうも いとあはれなるまみにながめたまへり
あめとなりしぐるるそらのうきぐもを
いづれのかたとわきてながめむ
ゆくへなしや
と ひとりごとのやうなるを
みしひとのあめとなりにしくもゐさへ
いとどしぐれにかき-くらすころ
とのたまふみけしきも あさからぬほどしるくみゆれば
あやしう としごろはいとしもあらぬみこころざしを ゐんなど ゐたちてのたまはせ おとどのおほむ-もてなしもこころぐるしう おほみやのおほむ-かたざまに もて-はなるまじきなど かたがたにさし-あひたれば えしもふり-すてたまはで ものうげなるみけしきながら ありへたまふなめりかしと いとほしうみゆるをりをりありつるを まことに やむごとなくおもきかたは ことにおもひきこエたまひけるなめり
とみしるに いよいよくちをしうおぼゆ よろづにつけてひかりうせぬるここちして くんじいたかりけり
かれたるしたくさのなかに りんだう なでしこなどの さきいでたるををらせたまひて ちゆうじやうのたちたまひぬるのちに わかぎみのおほむ-めのとのさいしやうのきみして
くさがれのまがきにのこるなでしこを
わかれしあきのかたみとぞみる
にほひおとりてやごらんぜらるらむ
ときこエたまへり げになにごころなきおほむ-ゑみがほぞ いみじううつくしき みやは ふくかぜにつけてだに このはよりけにもろきおほむ-なみだは まして とりあへたまはず
いまもみてなかなかそでをくたすかな
かきほあれにしやまとなでしこ
なほ いみじうつれづれなれば あさがほのみやに けふのあはれは さりともみしりたまふらむ とおしはからるるみこころばへなれば くらきほどなれど きこエたまふ たエまとほけれど さのものとなりにたるおほむ-ふみなれば とがなくてごらんぜさす そらのいろしたるからのかみに 

わきてこのくれこそそではつゆけけれ
ものおもふあきはあまたへぬれど
いつもしぐれは
とあり おほむ-てなどのこころとどめてかきたまへる つねよりもみどころありて すぐしがたきほどなり とひともきこエ みづからもおぼされければ
おほうちやまを おもひやりきこエながら えやは とて
あきぎりにたち-おくれぬとききしより
しぐるるそらもいかがとぞおもふ
とのみ ほのかなるすみつきにて おもひなしこころにくし
なにごとにつけても みまさりはかたきよなめるをつらきひとしもこそと あはれにおぼエたまふみこころざまなる
つれなながら さるべきをりをりのあはれをすぐしたまはぬ これこそ かたみになさけもみはつべきわざなれ なほ ゆゑづきよしづきて ひとめにみゆばかりなるは あまりのなんもいできけり たいのひめぎみを さはおほしたてじ とおぼす つれづれにてこひしとおもふらむかしと わするるをりなけれど ただめおやなきこを おきたらむここちして みぬほど うしろめたく いかがおもふらむ とおぼエぬぞ こころやすきわざなりける
くれはてぬれば おほとなぶらちかくまゐらせたまひて さるべきかぎいりのひとびと おまへにてものがたりなどせさせたまふ
ちうなごんのきみといふは としごろしのびおぼししかど このおほむ-おもひのほどは なかなかさやうなるすぢにもかけたまはず あはれなるみこころかな とみたてまつる おほかたにはなつかしううち-かたらひたまひて
かう このひごろ ありしよりけに たれもたれもまぎるるかたなく みなれみなれて えしもつねにかからずは こひしからじや いみじきことをばさるものにて ただうち-おもひめぐらすこそ たへがたきことおほかりけれ
とのたまへば いとどみななきて
いふかひなきおほむ-ことは ただかき-くらすここちしはべるは さるものにて なごりなきさまにあくがれはてさせたまはむほど おもひたまふるこそ
と きこエもやらず あはれとみわたしたまひて
なごりなくは いかがは こころあさくもとりなしたまふかな こころながきひとだにあらば みはてたまひなむものを いのちこそはかなけれ
とて ひをうち-ながめたまへるまみの うち-ぬれたまへるほどぞ めでたき
とりわきてらうたくしたまひしちひさきわらはの おや-どももなく いとこころぼそげにおもへる ことわりにみたまひて
あてきは いまはわれをこそはおもふべきひとなめれ
とのたまへば いみじうなく ほどなきあこめ ひとよりはくろうそめて くろきかざみ くわんざうのはかまなどきたるも をかしきすがたなり
むかしをわすれざらむひとは つれづれをしのびても をさなきひとをみすてず ものしたまへ みしよのなごりなく ひとびとさへかれなば たづきなさもまさりぬべくなむ
など みなこころながかるべきこと-どもをのたまへど いでや いとどまちどほにぞなりたまはむ とおもふに いとどこころぼそし
おほとのは ひとびとに きはぎはほどおきつつ はかなきもて-あそびもの-ども また まことにかのおほむ-かたみなるべきものなど わざとならぬさまにとりなしつつ みなくばらせたまひけり

きみは かくてのみも いかでかはつくづくとすぐしたまはむとて ゐんへまゐりたまふ みくるまさし-いでて ごぜんなどまゐりあつまるほど をりしりがほなるしぐれうち-そそきて このはさそふかぜ あわたたしうふき-はらひたるに おまへにさぶらふひとびと ものいとこころぼそくて すこしひまありつるそで-どもうるひわたりぬ
よさりは やがてにでうのゐんにとまりたまふべしとて さぶらひのひとびとも かしこにてまちきこエむとなるべし おのおのたち-いづるに けふにしもとぢむまじきことなれど またなくもの-がなし
おとどもみやも けふのけしきに またかなしさあらためておぼさる みやのおまへにおほむ-せうそこきこエたまへり
ゐんにおぼつかながりのたまはするにより けふなむまゐりはべる あからさまにたち-いではべるにつけても けふまでながらへはべりにけるよと みだりごこちのみうごきてなむ きこエさせむもなかなかにはべるべければ そなたにもまゐりはべらぬ
とあれば いとどしくみやは めもみエたまはず しづみいりて おほむ-かへりもきこエたまはず
おとどぞ やがてわたりたまへる いとたへがたげにおぼして おほむ-そでもひき-はなちたまはず みたてまつるひとびともいとかなし
だいしやうのきみは よをおぼしつづくること いとさまざまにて なきたまふさま あはれにこころふかきものから いとさまよくなまめきたまへり おとど ひさしうためらひたまひて
よはひのつもるには さしもあるまじきことにつけてだに なみだもろなるわざにはべるを まして ひるよなうおもひたまへまどはれはべるこころを えのどめはべらねば ひとめも いとみだりがはしう こころよわきさまにはべるべければ ゐんなどにもまゐりはべらぬなり ことのついでには さやうにおもむけそうせさせたまへ いくばくもはべるまじきおイのすゑに うち-すてられたるが つらうもはべるかな
と せめておもひしづめてのたまふけしき いとわりなし きみも たびたびはなうち-かみて
おくれさきだつほどのさだめなさは よのさがとみたまへしりながら さし-あたりておぼエはべるこころまどひは たぐひあるまじきわざとなむ ゐんにも ありさまそうしはべらむに おしはからせたまひてむ ときこエたまふ
さらば しぐれもひまなくはべるめるを くれぬほどにと そそのかしきこエたまふ
うち-みまはしたまふに みきちやうのうしろ さうじのあなたなどのあきとほりたるなどに にようばうさむじふにんばかりおしこりて こき うすきにびいろ-どもをきつつ みないみじうこころぼそげにて うち-しほたれつつゐあつまりたるを いとあはれ とみたまふ
おぼしすつまじきひともとまりたまへれば さりとも もののついでにはたちよらせたまはじやなど なぐさめはべるを ひとへにおもひやりなきにようばうなどは けふをかぎりに おぼしすてつるふるさととおもひくんじて ながくわかれぬるかなしびよりも ただときどきなれつかうまつるとしつきのなごりなかるべきなげきはべるめるなむ ことわりなる うち-とけおはしますことははべらざりつれど さりともつひにはと あいなだのめしはべりつるを げにこそ こころぼそきゆふべにはべれ
とても なきたまひぬ
いとあさはかなるひとびとのなげきにもはべるなるかな まことに いかなりともと のどかにおもひたまへつるほどは おのづからおほむ-めかるるをりもはべりつらむを なかなかいまは なにをたのみにてかはおこたりはべらむ いまごらんじてむ
とていでたまふを おとどみおくりきこエたまひて いりたまへるに おほむ-しつらひよりはじめ ありしにかはることもなけれど うつせみのむなしきここちぞしたまふ
みちやうのまへに おほむ-すずりなどうち-ちらして てならひすてたまへるをとりて めをおし-しぼりつつみたまふを わかきひとびとは かなしきなかにも ほほゑむあるべし あはれなるふること-ども からのもやまとのもかきけがしつつ さうにもまなにも さまざまめづらしきさまにかきまぜたまへり
かしこのおほむ-てや
と そらをあふぎてながめたまふ よそびとにみたてまつりなさむが をしきなるべし ふるきまくらふるきふすま たれとともにか とあるところに
なきたまぞいとどかなしきねしとこの
あくがれがたきこころならひに
また しものはなしろしとあるところに
きみなくてちりつもりぬるとこなつの
つゆうち-はらひいくよねぬらむ
ひとひのはななるべし かれてまじれり
みやにごらんぜさせたまひて
いふかひなきことをばさるものにて かかるかなしきたぐひ よになくやはと おもひなしつつ ちぎりながからで かくこころをまどはすべくてこそはありけめと かへりてはつらく さきのよをおもひやりつつなむ さましはべるを ただ ひごろにそへて こひしさのたへがたきと このだいしやうのきみの いまはとよそになりたまはむなむ あかずいみじくおもひたまへらるる ひとひ ふつかもみエたまはず かれがれにおはせしをだに あかずむねいたくおもひはべりしを あさゆふのひかりうしなひては いかでかながらふべからむ
と おほむ-こゑもえしのびあへたまはずないたまふに おまへなるおとなおとなしきひとなど いとかなしくて さとうち-なきたる そぞろ-さむきゆふべのけしきなり
わかきひとびとは ところどころにむれゐつつ おのが-どち あはれなること-どもうち-かたらひて
とののおぼしのたまはするやうに わかぎみをみたてまつりてこそは なぐさむべかめれとおもふも いとはかなきほどのおほむ-かたみにこそ
とて おのおの あからさまにまかでて まゐらむ といふもあれば かたみにわかれをしむほど おのがじしあはれなること-どもおほかり
ゐんへまゐりたまへれば
いといたうおもやせにけり さうじんにてひをふるけにや
と こころぐるしげにおぼしめして おまへにてものなどまゐらせたまひて とやかくやとおぼしあつかひきこエさせたまへるさま あはれにかたじけなし
ちゆうぐうのおほむ-かたにまゐりたまへれば ひとびと めづらしがりみたてまつる みやうぶのきみして
おもひつきせぬこと-どもを ほどふるにつけてもいかに
と おほむ-せうそこきこエたまへり
つねなきよは おほかたにもおもうたまへしりにしを めにちかくみはべりつるに いとはしきことおほくおもうたまへみだれしも たびたびのおほむ-せうそこになぐさめはべりてなむ けふまでも
とて さらぬをりだにあるみけしきとり-そへて いとこころぐるしげなり むもんのうへのおほむ-ぞに にびいろのおほむ-したがさね えいまきたまへるやつれすがた はなやかなるおほむ-よそひよりもなまめかしさまさりたまへり
とうぐうにもひさしうまゐらぬおぼつかなさなど きこエたまひて よふけてぞ まかでたまふ

にでうのゐんには かたがたはらひみがきて をとこをむな まちきこエたり じやうらう-どもみなまうのぼりて われもわれもとさうぞき けさうじたるをみるにつけても かのゐなみくんじたりつるけしき-どもぞ あはれにおもひいでられたまふ
おほむ-さうぞくたてまつりかへて にしのたいにわたりたまへり ころもがへのおほむ-しつらひ くもりなくあざやかにみエて よきわかうどわらはべの なり すがためやすくととのへて せうなごんがもてなし こころもとなきところなう こころにくし とみたまふ
ひめぎみ いとうつくしうひき-つくろひておはす
ひさしかりつるほどに いとこよなうこそおとなびたまひにけれ
とて ちひさきみきちやうひき-あげてみたてまつりたまへば うち-そばみてわらひたまへるおほむ-さま あかぬところなし
ほかげのおほむ-かたはらめ かしらつきなど ただ かのこころつくしきこゆるひとに たがふところなくなりゆくかな
とみたまふに いとうれし
ちかくよりたまひて おぼつかなかりつるほどのこと-どもなどきこエたまひて
ひごろのものがたり のどかにきこエまほしけれど いまいましうおぼエはべれば しばしことかたにやすらひて まゐりこむ いまは とだエなくみたてまつるべければ いとはしうさへやおぼされむ
と かたらひきこエたまふを せうなごんはうれしときくものから なほあやふくおもひきこゆ やむごとなきしのびどころおほうかかづらひたまへれば またわづらはしきやたち-かはりたまはむ とおもふぞ にくきこころなるや
おほむ-かたにわたりたまひて ちゆうじやうのきみといふに みあしなどまゐりすさびて おほとのごもりぬ
あしたには わかぎみのおほむ-もとにおほむ-ふみたてまつりたまふ あはれなるおほむ-かへりをみたまふにも つきせぬこと-どものみなむ
いとつれづれにながめがちなれど なにとなきおほむ-ありきも ものうくおぼしなられて おぼしもたたれず
ひめぎみの なにごともあらまほしうととのひはてて いとめでたうのみみエたまふを にげなからぬほどに はた みなしたまへれば けしきばみたることなど をりをりきこエこころみたまへど みもしりたまはぬけしきなり
つれづれなるままに ただこなたにてごうち へんつぎなどしつつ ひをくらしたまふに こころばへのらうらうじくあいぎやうづき はかなきたはぶれごとのなかにも うつくしきすぢをしいでたまへば おぼしはなちたるとしつきこそ たださるかたのらうたさのみはありつれ しのびがたくなりて こころぐるしけれど いかがありけむ ひとのけぢめみたてまつりわくべきおほむ-なかにもあらぬに をとこぎみはとくおきたまひて をむなぎみはさらにおきたまはぬあしたあり
ひとびと いかなれば かくおはしますならむ みここちのれいならずおぼさるるにや とみたてまつりなげくに きみはわたりたまふとて おほむ-すずりのはこを みちやうのうちにさし-いれておはしにけり
ひとまにからうしてかしらもたげたまへるに ひき-むすびたるふみ おほむ-まくらのもとにあり なにごころもなく ひき-あけてみたまへば
あやなくもへだてけるかなよをかさね
さすがになれしよるのころもを
と かきすさびたまへるやうなり かかるみこころおはすらむ とは かけてもおぼしよらざりしかば
などてかうこころうかりけるみこころを うらなくたのもしきものにおもひきこエけむ
と あさむしうおぼさる
ひるつかた わたりたまひて
なやましげにしたまふらむは いかなるみここちぞ けふは ごもうたで さうざうしや
とて のぞきたまへば いよいよおほむ-ぞひき-かづきてふしたまへり ひとびとはしりぞきつつさぶらへば よりたまひて
など かくいぶせきおほむ-もてなしぞ おもひのほかにこころうくこそおはしけれな ひともいかにあやしとおもふらむ
とて おほむ-ふすまをひき-やりたまへれば あせにおし-ひたして ひたひがみもいたうぬれたまへり
あな うあたて これはいとゆゆしきわざぞよ
とて よろづにこしらへきこエたまへど まことに いとつらしとおもひたまひて つゆのおほむ-いらへもしたまはず
よしよし さらにみエたてまつらじ いとはづかし
などゑんじたまひて おほむ-すずりあけてみたまへど ものもなければ わかのおほむ-ありさまやと らうたくみたてまつりたまひて ひひとひ いりゐてなぐさめきこエたまへど とけがたきみけしき いとどらうたげなり

そのよさり ゐのこもちひまゐらせたり かかるおほむ-おもひのほどなれば ことことしきさまにはあらで こなたばかりに をかしげなるひわりごなどばかりを いろいろにてまゐれるをみたまひて きみ みなみのかたにいでたまひて これみつをめして
このもちひ かうかずかずにところせきさまにはあらで あすのくれにまゐらせよ けふはいまいましきひなりけり
と うち-ほほゑみてのたまふみけしきを こころときものにて ふと-おもひよりぬ これみつ たしかにもうけたまはらで
げに あいぎやうのはじめは ひえりしてきこしめすべきことにこそ さても ねのこはいくつかつかうまつらすべうはべらむ
と まめだちてまうせば
みつがひとつかにてもあらむかし
とのたまふに こころえはてて たちぬ もの-なれのさまや ときみはおぼす ひとにもいはで てづからといふばかり さとにてぞ つくりゐたりける
きみは こしらへわびたまひて いまはじめぬすみもてきたらむひとのここちするも いとをかしくて としごろあはれとおもひきこエつるは かたはしにもあらざりけり ひとのこころこそうたてあるものはあれ いまはひとよもへだてむことのわりなかるべきこと とおぼさる
のたまひしもちひ しのびて いたうよふかしてもてまゐれり せうなごんはおとなしくて はづかしくやおぼさむと おもひやりふかくこころしらひて むすめのべんといふをよびいでて
これ しのびてまゐらせたまへ
とて かうごのはこをひとつ さし-いれたり
たしかに おほむ-まくらがみにまゐらすべきいはひのものにはべる あな かしこ あだにな
といへば あやしとおもへど
あだなることは まだならはぬものを
とて とれば
まことに いまはさるもじいませたまへよ よもまじりはべらじ
といふ わかきひとにて けしきもえふかくおもひよらねば もてまゐりて おほむ-まくらがみのみきちやうよりさし-いれたるを きみぞ れいのきこエしらせたまふらむかし
ひとはえしらぬに つとめて このはこをまかでさせたまへるにぞ したしきかぎりのひとびと おもひあはすること-どもありける おほむ-さら-どもなど いつのまにかしいでけむ けそくいときよらにして もちひのさまも ことさらび いとをかしうととのへたり
せうなごんは いと かうしもや とこそおもひきこエさせつれ あはれにかたじけなく おぼしいたらぬことなきみこころばへを まづうち-なかれぬ
さても うちうちにのたまはせよな かのひとも いかにおもひつらむ
と ささめきあへり
かくてのちは うちにもゐんにも あからさまにまゐりたまへるほどだに しづこころなく おもかげにこひしければ あやしのこころやと われながらおぼさる かよひたまひしところどころよりは うらめしげにおどろかしきこエたまひなどすれば いとほしとおぼすもあれど にひたまくらのこころぐるしくて よをやへだてむと おぼしわづらはるれば いともの-うくて なやましげにのみもてなしたまひて
よのなかのいとうくおぼゆるほどすぐしてなむ ひとにもみエたてまつるべき
とのみいらへたまひつつ すぐしたまふ
いまぎさきは みくしげどのなほこのだいしやうにのみこころつけたまへるを
げにはた かくやむごとなかりつるかたもうせたまひぬめるを さてもあらむに などかくちをしからむ
など おとどのたまふに いとにくしと おもひきこエたまひて
みやづかへも をさをさしくだにしなしたまへらば などかあしからむ
と まゐらせたてまつらむことをおぼしはげむ
きみも おしなべてのさまにはおぼエざりしを くちをしとはおぼせど ただいまはことざまにわくるみこころもなくて
なにかは かばかりみじかかめるよに かくておもひさだまりなむ ひとのうらみもおふまじかりけり
と いとどあやふくおぼしこりにたり
かのみやすむどころは いといとほしけれど まことのよるべとたのみきこエむには かならずこころおかれぬべし としごろのやうにてみすぐしたまはば さるべきをりふしにものきこエあはするひとにてはあらむ など さすがに ことのほかにはおぼしはなたず
このひめぎみを いままでよひともそのひとともしりきこエぬも ものげなきやうなり ちちみやにしらせきこエてむと おもほしなりて おほむ-もぎのこと ひとにあまねくはのたまはねど なべてならぬさまにおぼし-まうくるおほむ-よういなど いとありがたけれど をむなぎみは こよなううとみきこエたまひて としごろよろづにたのみきこエて まつはしきこエけるこそ あさましきこころなりけれと くやしうのみおぼして さやかにもみあはせたてまつりたまはず きこエたはぶれたまふも くるしうわりなきものにおぼし-むすぼほれて ありしにもあらずなりたまへるおほむ-ありさまを をかしうもいとほしうもおぼされて
としごろ おもひきこエしほいなく なれはまさらぬみけしきの こころうきことと うらみきこエたまふほどに としもかへりぬ

ついたちのひは れいの ゐんにまゐりたまひてぞ うち とうぐうなどにもまゐりたまふ それよりおほとのにまかでたまへり おとど あたらしきとしともいはず むかしのおほむ-こと-どもきこエいでたまひて さうざうしくかなしとおぼすに いとどかくさへわたりたまへるにつけて ねんじかへしたまへど たへがたうおぼしたり
おほむ-としのくははるけにや ものものしきけさへそひたまひて ありしよりけに きよらにみエたまふ たち-いでて おほむ-かたにいりたまへれば ひとびともめづらしうみたてまつりて しのびあへず
わかぎみみたてまつりたまへば こよなうおよすけて わらひ-がちにおはするも あはれなり まみ くちつき ただとうぐうのおほむ-おなじさまなれば ひともこそみたてまつりとがむれ とみたまふ
おほむ-しつらひなどもかはらず みぞかけのおほむ-さうぞくなど れいのやうにしかけられたるに をむなのがならばぬこそ はエなくさうざうしくはエなけれ
みやのおほむ-せうそこにて
けふは いみじくおもひたまへしのぶるを かくわたらせたまへるになむ なかなか
などきこエたまひて
むかしにならひはべりにけるおほむ-よそひも つきごろは いとどなみだにきりふたがりて いろあひなくごらんぜられはべらむとおもひたまふれど けふばかりは なほやつれさせたまへ
とて いみじくしつくしたまへるもの-ども またかさねてたてまつれたまへり かならずけふたてまつるべき とおぼしけるおほむ-したがさねは いろもおりざまも よのつねならず こころことなるを かひなくやはとて きがへたまふ こざらましかば くちをしうおぼさましと こころぐるし おほむ-かへりに
はるやきぬるとも まづごらんぜられになむ まゐりはべりつれど おもひたまへいでらるることおほくて えきこエさせはべらず
あまたとしけふあらためしいろごろも
きてはなみだぞふるここちする
えこそおもひたまへしづめね
ときこエたまへり おほむ-かへり
あたらしきとしともいはずふるものは
ふりぬるひとのなみだなりけり
おろかなるべきことにぞあらぬや

さいぐうのおほむ-くだり ちかうなりゆくままに みやすむどころ もの-こころぼそくおもほす やむごとなくわづらはしきものにおぼエたまへりしおほいどの-の-きみもうせたまひてのち さりともとよひともきこエあつかひ みやのうちにもこころときめきせしを そののちしも かき-たエ あさましきおほむ-もてなしをみたまふに まことにうしとおぼすことこそありけめと しりはてたまひぬれば よろづのあはれをおぼしすてて ひたみちにいで-たちたまふ
おやそひてくだりたまふれいもことになけれど いとみはなち-がたきおほむ-ありさまなるにことつけて うきよをゆきはなれむとおぼすに だいしやう-の-きみ さすがに いまはとかけ-はなれたまひなむも くちをしくおぼされて おほむ-せうそこばかりは あはれなるさまにて たび-たびかよふ たいめんしたまはむことをば いまさらにあるまじきことと をむな-ぎみもおぼす ひとはこころづきなしと おもひ-おきたまふこともあらむに われは いますこしおもひみだるることのまさるべきを あいなしと こころづよくおぼすなるべし
もとのとのには あからさまにわたりたまふをり-をりあれど いたうしのびたまへば だいしやう-どの えしりたまはず たはやすくみ-こころにまかせて まうでたまふべきおほむ-すみかにはたあらねば おぼつかなくてつきひもへだたりぬるに ゐん-の-うへ おどろ-おどろしきおほむ-なやみにはあらで れいならず とき-どきなやませたまへば いとどみ-こころのいとまなけれど つらきものにおもひはてたまひなむも いとほしく ひとぎきなさけなくやとおぼしおこして ののみやにまうでたまふ

ながつきなぬかばかりなれば むげにけふあすとおぼすに をむな-がたもこころあわたたしけれど たちながらと たびたびおほむ-せうそこありければ いでや とはおぼしわづらひながら いとあまりうもれいたきを ものごしばかりのたいめんはと ひとしれずまちきこエたまひけり
はるけきのべをわけいりたまふより いとものあはれなり あきのはな みなおとろへつつ あさぢがはらもかれがれなるむしのねに まつかぜ すごくふきあはせて そのことともききわかれぬほどに もののね-どもたエだエきこエたる いとえんなり
むつましきごぜん じふよ-にんばかり みずいじん ことことしきすがたならで いたうしのびたまへれど ことにひき-つくろひたまへるおほむ-ようい いとめでたくみエたまへば おほむ-ともなるすきもの-ども ところからさへみにしみておもへり みこころにも などて いままでたちならさざりつらむと すぎぬるかた くやしうおぼさる
もの-はかなげなるこしばがきをおほがきにて いたや-どもあたり-あたりいとかりそめなり くろきのとりゐ-ども さすがにかうがうしうみわたされて わづらはしきけしきなるに かむづかさのもの-ども ここかしこにうち-しはぶきて おのが-どち ものうち-いひたるけはひなども ほかにはさまかはりてみゆ ひたきやかすかにひかりて ひとけすくなく しめじめとして ここにものおもはしきひとの つきひをへだてたまへらむほどをおぼし-やるに いといみじうあはれにこころぐるし
きたのたいのさるべきところにたちかくれたまひて おほむ-せうそこきこエたまふに あそびはみなやめて こころ-にくきけはひ あまたきこゆ
なにくれのひとづてのおほむ-せうそこばかりにて みづからはたいめんしたまふべきさまにもあらねば いとものし とおぼして
かうやうのありきも いまはつきなきほどになりにてはべるを おもほししらば かうしめのほかにはもてなしたまはで いぶせうはべることをも あきらめはべりにしがな
と まめやかにきこエたまへば ひとびと
げに いとかたはらいたう
たちわづらはせたまふに いとほしう
など あつかひきこゆれば いさや ここのひとめもみぐるしう かのおぼさむことも わかわかしう いでゐむが いまさらにつつましきこと とおぼすに いともの-うけれど なさけなうもてなさむにもたけからねば とかくうち-なげき やすらひて ゐざりいでたまへるおほむ-けはひ いとこころにくし
こなたは すのこばかりのゆるされははべりや
とて のぼりゐたまへり
はなやかにさし-いでたるゆふづくよに うち-ふるまひたまへるさま にほひ にるものなくめでたし つきごろのつもりを つきづきしうきこエたまはむも まばゆきほどになりにければ さかきをいささかをりてもたまへりけるを さしいれて
かはらぬいろをしるべにてこそ いがきもこエはべりにけれ さもこころうく
ときこエたまへば
かみがきはしるしのすぎもなきものを
いかにまがへてをれるさかきぞ
ときこエたまへば
をとめごがあたりとおもへばさかきばの
かをなつかしみとめてこそをれ
おほかたのけはひわづらはしけれど みすばかりはひき-きて なげしにおしかかりてゐたまへり
こころにまかせてみたてまつりつべく ひともしたひざまにおぼしたりつるとしつきは のどかなりつるみこころおごりに さしもおぼされざりき
また こころのうちに いかにぞや きずありておもひきこエたまひにしのち はた あはれもさめつつ かくおほむ-なかもへだたりぬるを めづらしきおほむ-たいめんのむかしおぼエたるに あはれと おぼしみだるることかぎりなし きしかた ゆくさき おぼしつづけられて こころよわくなきたまひぬ
をむなは さしもみエじとおぼしつつむめれど えしのびたまはぬみけしきを いよいよこころぐるしう なほおぼしとまるべきさまにぞ きこエたまふめる
つきもいりぬるにや あはれなるそらをながめつつ うらみきこエたまふに ここらおもひあつめたまへるつらさもきエぬべし やうやう いまはと おもひはなれたまへるに さればよと なかなかこころうごきて おぼしみだる
てんじやうのわか-きむだちなどうちつれて とかくたちわづらふなるにはのたたずまひも げにえんなるかたに うけばりたるありさまなり おもほしのこすことなきおほむ-なからひに きこエかはしたまふこと-ども まねびやらむかたなし
やうやうあけゆくそらのけしき ことさらにつくりいでたらむやうなり
あかつきのわかれはいつもつゆけきを
こはよにしらぬあきのそらかな
いで-がてに おほむ-てをとらへてやすらひたまへる いみじうなつかし
かぜ いとひややかにふきて まつむしのなきからしたるこゑも をりしりがほなるを さしておもふことなきだに ききすぐしがたげなるに まして わりなきみこころまどひ-どもになかなか こともゆかぬにや
おほかたのあきのわかれもかなしきに
なくねなそへそのべのまつむし
くやしきことおほかれど かひなければ あけゆくそらもはしたなうて いでたまふ みちのほどいとつゆけし
をむなも えこころづよからず なごりあはれにてながめたまふ ほの-みたてまつりたまへるつきかげのおほむ-かたち なほとまれるにほひなど わかきひとびとはみにしめて あやまちもしつべく めできこゆ
いかばかりのみちにてか かかるおほむ-ありさまをみすてては わかれきこエむ
と あいなくなみだぐみあへり

おほむ-ふみ つねよりもこまやかなるは おぼしなびくばかりなれど またうち-かへし さだめ-かねたまふべきことならねば いとかひなし
をとこは さしもおぼさぬことをだに なさけのためにはよくいひつづけたまふべかめれば まして おしなべてのつらにはおもひきこエたまはざりしおほむ-なかの かくてそむきたまひなむとするを くちをしうもいとほしうも おぼしなやむべし
たびのおほむ-さうぞくよりはじめ ひとびとのまで なにくれのみてうどなど いかめしうめづらしきさまにて とぶらひきこエたまへど なにともおぼされず あはあはしうこころうきなをのみながして あさましきみのありさまを いまはじめたらむやうに ほどちかくなるままに おきふしなげきたまふ
さいぐうは わかきみここちに ふぢやうなりつるおほむ-いでたちの かくさだまりゆくを うれし とのみおぼしたり よひとは れいなきことと もどきもあはれがりも さまざまにきこゆべし なにごとも ひとにもどきあつかはれぬきははやすげなり なかなかよにぬけいでぬるひとのおほむ-あたりは ところせきことおほくなむ

じふろく-にち かつらがはにて おほむ-はらへしたまふ つねのぎしきにまさりて ちやうぶそうしなど さらぬかむだちめも やむごとなく おぼエあるをえらせたまへり ゐんのみこころよせもあればなるべし いでたまふほどに だいしやう-どのよりれいのつきせぬこと-どもきこエたまへり かけまくもかしこきおまへにてと ゆふにつけて
なるかみだにこそ
やしまもるくに-つ-みかみもこころあらば
あかぬわかれのなかをことわれ
おもうたまふるに あかぬここちしはべるかな
とあり いとさわがしきほどなれど おほむ-かへりあり みやのおほむをば によべたうしてかかせたまへり
くに-つ-かみそらにことわるなかならば
なほざりごとをまづやたださむ
だいしやうは おほむ-ありさまゆかしうて うちにもまゐらまほしくおぼせど うち-すてられてみおくらむも ひとわろきここちしたまへば おぼしとまりて つれづれにながめゐたまへり
みやのおほむ-かへりのおとなおとなしきを ほほゑみてみゐたまへり おほむ-としのほどよりは をかしうもおはすべきかなと ただならず かうやうにれいにたがへるわづらはしさに かならずこころかかるおほむ-くせにて いとようみたてまつりつべかりしいはけなきおほむ-ほどを みずなりぬるこそねたけれ よのなかさだめなければ たいめんするやうもありなむかし などおぼす

こころにくくよしあるおほむ-けはひなれば ものみぐるまおほかるひなり さるのときにうちにまゐりたまふ
みやすむどころ みこしにのりたまへるにつけても ちち-おとどのかぎりなきすぢにおぼしこころざして いつきたてまつりたまひしありさま かはりて すゑのよにうちをみたまふにも もののみつきせず あはれにおぼさる じふろくにてこ-みやにまゐりたまひて にじふにておくれたてまつりたまふ さむじふにてぞ けふまたここのへをみたまひける
そのかみをけふはかけじとしのぶれど
こころのうちにものぞかなしき
さいぐうは じふしにぞなりたまひける いとうつくしうおはするさまを うるはしうしたてたてまつりたまへるぞ いとゆゆしきまでみエたまふを みかど みこころうごきて わかれのくしたてまつりたまふほど いとあはれにて しほたれさせたまひぬ
いでたまふをまちたてまつるとて はしやうにたてつづけたるいだしぐるま-どものそでぐち いろあひも めなれぬさまに こころにくきけしきなれば てんじやうびと-どもも わたくしのわかれをしむおほかり
くらういでたまひて にでうよりとうゐん-の-おほぢををれたまふほど にでう-の-ゐんのまへなれば だいしやう-の-きみ いとあはれにおぼされて さかきにさして
ふりすててけふはゆくともすずかがは
やそせのなみにそではぬれじや
ときこエたまへれど いとくらう もの-さわがしきほどなれば またのひ せきのあなたよりぞ おほむ-かへしある
すずかがはやそせのなみにぬれぬれず
いせまでたれかおもひおこせむ
ことそぎてかきたまへるしも おほむ-ていとよしよししくなまめきたるに あはれなるけをすこしそへたまへらましかば とおぼす
きりいたうふりて ただならぬあさぼらけに うち-ながめてひとりごちおはす
ゆくかたをながめもやらむこのあきは
あふさかやまをきりなへだてそ
にしのたいにもわたりたまはで ひとやりならず ものさびしげにながめくらしたまふ まして たびのそらは いかにみこころづくしなることおほかりけむ

ゐんのおほむ-なやみ かむなづきになりては いとおもくおはします よのなかにをしみきこエぬひとなし うちにも おぼしなげきてぎやうがうあり よわきみここちにも とうぐうのおほむ-ことを かへすがへすきこエさせたまひて つぎにはだいしやうのおほむ-こと
はべりつるよにかはらず だいせうのことをへだてず なにごともおほむ-うしろみとおぼせ よはひのほどよりは よをまつりごたむにも をさをさはばかりあるまじうなむ みたまふる かならず よのなかたもつべきさうあるひとなり さるによりて わづらはしさに みこにもなさず ただうどにて おほやけのおほむ-うしろみをせさせむと おもひたまへしなり そのこころたがへさせたまふな
と あはれなるおほむ-ゆいごん-どもおほかりけれど をむなのまねぶべきことにしあらねば このかたはしだにかたはらいたし
みかども いとかなしとおぼして さらにたがへきこエさすまじきよしを かへすがへすきこエさせたまふ おほむ-かたちも いときよらにねびまさらせたまへるを うれしくたのもしくみたてまつらせたまふ かぎりあれば いそぎかへらせたまふにも なかなかなることおほくなむ
とうぐうも ひとたびにとおぼしめしけれど もの-さわがしきにより ひをかへて わたらせたまへり おほむ-としのほどよりは おとなびうつくしきおほむ-さまにて こひしとおもひきこエさせたまひけるつもりに なにごころもなくうれしとおぼし みたてまつりたまふみけしき いとあはれなり
ちゆうぐうは なみだにしづみたまへるを みたてまつらせたまふも さまざまみこころみだれておぼしめさる よろづのことをきこエしらせたまへど いともの-はかなきおほむ-ほどなれば うしろめたくかなしとみたてまつらせたまふ
だいしやうにも おほやけにつかうまつりたまふべきみこころづかひ このみやのおほむ-うしろみしたまふべきことを かへすがへすのたまはす
よふけてぞかへらせたまふ のこるひとなくつかうまつりてののしるさま ぎやうがうにおとるけぢめなし あかぬほどにてかへらせたまふを いみじうおぼしめす

おほきさきも まゐりたまはむとするを ちゆうぐうのかくそひおはするに みこころおかれて おぼしやすらふほどに おどろおどろしきさまにもおはしまさで かくれさせたまひぬ あしをそらに おもひまどふひとおほかり
みくらゐをさらせたまふといふばかりにこそあれ よのまつりごとをしづめさせたまへることも わがみよのおなじことにておはしまいつるを みかどはいとわかうおはします おほぢ-おとど いときふにさがなくおはして そのおほむ-ままになりなむよを いかならむと かむだちめ てんじやうびと みなおもひなげく
ちゆうぐう だいしやう-どのなどは ましてすぐれて ものもおぼしわかれず のちのちのおほむ-わざなど けうじつかうまつりたまふさまも そこらのみこたちのおほむ-なかにすぐれたまへるを ことわりながら いとあはれに よひともみたてまつる ふぢのおほむ-ぞにやつれたまへるにつけても かぎりなくきよらにこころぐるしげなり こぞ ことしとうち-つづき かかることをみたまふに よもいとあぢきなうおぼさるれど かかるついでにも まづおぼしたたるることはあれど また さまざまのおほむ-ほだしおほかり
おほむ-なななぬかまでは にようご みやすむどころ-たち みな ゐんにつどひたまへりつるを すぎぬれば ちりぢりにまかでたまふ しはすのはつかなれば おほかたのよのなかとぢむるそらのけしきにつけても ましてはるるよなき ちゆうぐうのみ-こころのうちなり おほきさきのみ-こころもしりたまへれば こころにまかせたまへらむよの はしたなくすみうからむをおぼすよりも なれきこエたまへるとしごろのおほむ-ありさまを おもひいできこエたまはぬときのまなきに かくてもおはしますまじう みなほかほかへといでたまふほどに かなしきことかぎりなし
みやは さむでう-の-みやにわたりたまふ おほむ-むかへにひやうぶきやう-の-みやまゐりたまへり ゆきうち-ちり かぜはげしうて ゐんのうち やうやうひとめかれゆきて しめやかなるに だいしやう-どの こなたにまゐりたまひて ふるきおほむ-ものがたtりきこエたまふ おまへのごえふのゆきにしをれて したばかれたるをみたまひて みこ
かげひろみたのみしまつやかれにけむ
したばちりゆくとしのくれかな
なにばかりのことにもあらぬに をりから ものあはれにて だいしやうのおほむ-そで いたうぬれぬ いけのひまなうこほれるに
さエわたるいけのかがみのさやけさに
みなれしかげをみぬぞかなしき
と おぼすままに あまりわかわかしうぞあるや わう-みやうぶ
としくれていはゐのみづもこほりとぢ
みしひとかげのあせもゆくかな
そのついでに いとおほかれど さのみかきつづくべきことかは
わたらせたまふぎしき かはらねど おもひなしにあはれにて ふるきみやは かへりてたびごこちしたまふにも おほむ-さとずみたエたるとしつきのほど おぼしめぐらさるべし

としかへりぬれど よのなかいまめかしきことなくしづかなり ましてだいしやう-どのは ものうくてこもりゐたまへり ぢもくのころなど ゐんのおほむ-ときをばさらにもいはず としごろおとるけぢめなくて みかどのわたり ところなくたちこみたりしむま くるまうすらぎて とのゐもののふくろをさをさみエず したしきけいし-どもばかり ことにいそぐことなげにてあるをみたまふにも いまよりは かくこそは とおもひやられて もの-すさまじくなむ
みくしげ-どのは きさらぎに ないし-の-かみになりたまひぬ ゐんのおほむ-おもひにやがてあまになりたまへる かはりなりけり やむごとなくもてなし ひとがらもいとよくおはすれば あまたまゐりあつまりたまふなかにも すぐれてときめきたまふ きさきは さと-がちにおはしまいて まゐりたまふときのみつぼねにはむめつぼをしたれば こうきでんにはかむ-の-きみすみたまふ とうくわでんのむもれたりつるに はればれしうなりて にようばうなどもかずしらずつどひまゐりて いまめかしうはなやぎたまへど みこころのうちは おもひのほかなりしこと-どもをわすれがたくなげきたまふ いとしのびてかよはしたまふことは なほおなじさまなるべし もののきこエもあらばいかならむ とおぼしながら れいのおほむ-くせなれば いましもみこころざしまさるべかめり
ゐんのおはしましつるよこそはばかりたまひつれ きさきのみこころいちはやくて かたがたおぼしつめたること-どものむくひせむと おぼすべかめり ことにふれて はしたなきことのみいでくれば かかるべきこととはおぼししかど みしりたまはぬよのうさに たちまふべくもおぼされず
ひだり-の-おほいどのも すさまじきここちしたまひて ことにうちにもまゐりたまはず こ-ひめぎみを ひき-よきてこのだいしやう-の-きみにきこえつけたまひしみこころを きさきはおぼしおきて よろしうもおもひきこエたまはず おとどのおほむ-なかも もとよりそばそばしうおはするに こ-ゐんのみよにはわがままにおはせしを ときうつりて したりがほにおはするを あぢきなしとおぼしたる ことわりなり
だいしやうは ありしにかはらずわたりかよひたまひて さぶらひしひとびとをも なかなかにこまかにおぼしおきて わかぎみをかしづきおもひきこエたまへること かぎりなければ あはれにありがたきみこころと いとどいたつききこエたまふこと-ども おなじさまなり かぎりなきおほむ-おぼエの あまりもの-さわがしきまで いとまなげにみエたまひしを かよひたまひしところどころも かたがたにたエたまふこと-どもあり かるがるしきおほむ-しのびありきも あいなうおぼしなりて ことにしたまはねば いとのどやかに いましもあらまほしきおほむ-ありさまなり
にしのたい-の-ひめぎみのおほむ-さいはひを よひともめできこゆ せうなごんなども ひとしれず こ-あまうへのおほむ-いのりのしるし とみたてまつる ちち-みこもおもふさまにきこエかはしたまふ むかひばらの かぎりなくとおぼすは はかばかしうもえあらぬに ねたげなることおほくて ままははのきたのかたは やすからずおぼすべし ものがたりにことさらにつくりいでたるやうなるおほむ-ありさまなり
さいゐんは おほむ-ぶくにておりゐたまひにしかば あさがほ-の-ひめぎみは かはりにゐたまひにき かも-の-いつきには そんわうのゐたまふれい おほくもあらざりけれど さるべきをむなみこやおはせざりけむ だいしやう-の-きみ としつきふれど なほみこころはなれたまはざりつるを かうすぢことになりたまひぬれば くちをしくとおぼす ちゆうじやうにおとづれたまふことも おなじことにて おほむ-ふみなどはたエざるべし むかしにかはるおほむ-ありさまなどをば ことになにともおぼしたらず かやうのはかなしごと-どもを まぎるることなきままに こなたかなたとおぼしなやめり

みかどは ゐんのおほむ-ゆいごんたがへず あはれにおぼしたれど わかうおはしますうちにも みこころなよびたるかたにすぎて つよきところおはしまさぬなるべし はは-ぎさき おほぢ-おとどとりどりしたまふことは えそむかせたまはず よのまつりごと みこころにかなはぬやうなり
わづらはしさのみまされど かむ-の-きみは ひとしれぬみこころしかよへば わりなくてと おぼつかなくはあらず ごだんのみしゆほふのはじめにて つつしみおはしますひまをうかがひて れいの ゆめのやうにきこエたまふ かの むかしおぼエたるほそどののつぼねに ちゆうなごん-の-きみ まぎらはしていれたてまつる ひとめもしげきころなれば つねよりもはしぢかなる そら-おそろしうおぼゆ
あさゆふにみたてまつるひとだに あかぬおほむ-さまなれば まして めづらしきほどにのみあるおほむ-たいめんの いかでかはおろかならむ をむなのおほむ-さまも げにぞめでたきおほむさかりなる おもりかなるかたは いかがあらむ をかしうなまめきわかびたるここちして みまほしきおほむ-けはひなり
ほどなくあけゆくにや とおぼゆるに ただここにしも
とのゐまうし さぶらふ
と こわづくるなり また このわたりにかくろへたるこのゑづかさぞあるべき はらぎたなきかたへのをしへおこするぞかしと だいしやうはききたまふ をかしきものから わづらはし
ここかしこたづねありきて
とらひとつ
とまうすなり をむなぎみ
こころからかたがたそでをぬらすかな
あくとをしふるこゑにつけても
とのたまふさま はかなだちて いとをかし
なげきつつわがよはかくてすぐせとや
むねのあくべきときぞともなく
しづごころなくて いでたまひぬ
よぶかきあかつきづくよの えもいはずきりわたれるに いといたうやつれて ふるまひなしたまへるしも にるものなきおほむ-ありさまにて しようきやうでんのおほむ-せうとのとう-せうしやう ふぢつぼよりいでて つきのすこしくまあるたてじとみのもとにたてりけるを しらですぎたまひけむこそいとほしけれ もどききこゆるやうもありなむかし
かやうのことにつけても もて-はなれつれなきひとのみこころを かつはめでたしとおもひきこエたまふものから わがこころのひくかたにては なほつらうこころうしとおぼエたまふをりおほかり

うちにまゐりたまはむことは うひうひしく ところせくおぼしなりて とうぐうをみたてまつりたまはぬを おぼつかなくおもほエたまふ また たのもしきひともものしたまはねば ただこのだいしやう-の-きみをぞ よろづにたのみきこエたまへるに なほ このにくきみこころのやまぬに ともすればおほむ-むねをつぶしたまひつつ いささかもけしきをごらんじしらずなりにしをおもふだに いとおそろしきに いまさらにまた さることのきこエありて わがみはさるものにて とうぐうのおほむ-ためにかならずよからぬこといできなむ とおぼすに いとおそろしければ おほむ-いのりをさへせさせて このことおもひやませたてまつらむと おぼしいたらぬことなくのがれたまふを いかなるをりにかありけむ あさましうて ちかづきまゐりたまへり こころふかくたばかりたまひけむことを しるひとなかりければ ゆめのやうにぞありける
まねぶべきやうなくきこエつづけたまへど みや いとこよなくもて-はなれきこエたまひて はてはては おほむ-むねをいたうなやみたまへば ちかうさぶらひつるみやうぶ べんなどぞ あさましうみたてまつりあつかふ をとこは うし つらし とおもひきこエたまふこと かぎりなきに きしかたゆくさき かきくらすここちして うつしごころうせにければ あけはてにけれど いでたまはずなりぬ
おほむ-なやみにおどろきて ひとびとちかうまゐりて しげうまがへば われにもあらで ぬりごめにおし-いれられておはす おほむ-ぞ-どもかくしもたるひとのここち-ども いとむつかし みやは ものをいとわびし とおぼしけるに おほむ-けあがりて なほなやましうせさせたまふ ひやうぶきやう-の-みや だいぶなどまゐりて
そうめせ
などさわぐを だいしやう いとわびしうききおはす からうして くれゆくほどにぞおこたりたまへる
かくこもりゐたまへらむとはおぼしもかけず ひとびとも またみこころまどはさじとて かくなむともまうさぬなるべし ひるのおましにゐざりいでておはします よろしうおぼさるるなめりとて みやもまかでたまひなどして おまへひとずくなになりぬ れいもけぢかくならさせたまふひとすくなければ ここかしこのもののうしろなどにぞさぶらふ みやうぶ-の-きみなどは
いかにたばかりて いだしたてまつらむ こよひさへ おほむ-けあがらせたまはむ いとほしう
など うち-ささめきあつかふ
きみは ぬりごめのとのほそめにあきたるをやをらおしあけて みびやうぶのはさまにつたひいりたまひぬ めづらしくうれしきにも なみだおちてみたてまつりたまふ
なほ いとくるしうこそあれ よやつきぬらむ
とて とのかたをみいだしたまへるかたはらめ いひしらずなまめかしうみゆ おほむ-くだものをだに とてまゐりすゑたり はこのふたなどにも なつかしきさまにてあれど みいれたまはず よのなかをいたうおぼしなやめるけしきにて のどかにながめいりたまへる いみじうらうたげなり かむざし かしらつき みぐしのかかりたるさま かぎりなきにほはしさなど ただ かのたい-の-ひめぎみにたがふところなし としごろ すこしおもひわすれたまへりつるを あさましきまでおぼエたまへるかな とみたまふままに すこしもの-おもひのはるけどころあるここちしたまふ
けだかうはづかしげなるさまなども さらにことびとともおもひわきがたきを なほ かぎりなくむかしよりおもひしめきこエてしこころのおもひなしにや さまことに いみじうねびまさりたまひにけるかなと たぐひなくおぼエたまふに こころまどひして やをらみちやうのうちにかかづらひいりて おほむ-ぞのつまをひき-ならしたまふ けはひしるく さとにほひたるに あさましうむくつけうおぼされて やがてひれふしたまへり みだにむきたまへかし とこころやましうつらうて ひきよせたまへるに おほむ-ぞをすべしおきて ゐざりのきたまふに こころにもあらず みぐしのとりそへられたりければ いとこころうく すくせのほど おぼししられて いみじ とおぼしたり
をとこも ここらよをもて-しづめたまふみこころみなみだれて うつしざまにもあらず よろづのことをなくなくうらみきこエたまへど まことにこころづきなし とおぼして いらへもきこエたまはず ただ
ここちの いとなやましきを かからぬをりもあらば きこエてむ
とのたまへど つきせぬみこころのほどをいひつづけたまふ
さすがに いみじとききたまふふしもまじるらむ あらざりしことにはあらねど あらためて いとくちをしうおぼさるれば なつかしきものから いとようのたまひのがれて こよひもあけゆく
せめてしたがひきこエざらむもかたじけなく こころはづかしきおほむ-けはひなれば
ただ かばかりにても ときどき いみじきうれへをだに はるけはべりぬべくは なにのおほけなきこころもはべらじ
など たゆめきこエたまふべし なのめなることだに かやうなるなからひは あはれなることもそふなるを まして たぐひなげなり
あけはつれば ふたりして いみじきこと-どもをきこエ みやは なかばはなきやうなるみけしきのこころぐるしければ
よのなかにありときこしめされむも いとはづかしければ やがてうせはべりなむも また このよならぬつみとなりはべりぬべきこと
などきこエたまふも むくつけきまでおぼしいれり
あふことのかたきをけふにかぎらずは
いまいくよをかなげきつつへむ
おほむ-ほだしにもこそ
ときこエたまへば さすがに うち-なげきたまひて
ながきよのうらみをひとにのこしても
かつはこころをあだとしらなむ
はかなくいひなさせたまへるさまの いふよしなきここちすれど ひとのおぼさむところも わがおほむ-ためもくるしければ われにもあらで いでたまひぬ

いづこをおもてにてかは またもみエたてまつらむ いとほしとおぼししるばかり とおぼして おほむ-ふみもきこエたまはず うち-たエて うち とうぐうにもまゐりたまはず こもりおはして おきふし いみじかりけるひとのみこころかなと ひとわろくこひしうかなしきに こころだましひもうせにけるにや なやましうさへおぼさる もの-こころぼそく なぞや よにふればうさこそまされと おぼしたつには このをむなぎみのいとらうたげにて あはれにうち-たのみきこエたまへるを ふりすてむこと いとかたし
みやも そのなごり れいにもおはしまさず かうことさらめきてこもりゐ おとづれたまはぬを みやうぶなどはいとほしがりきこゆ みやも とうぐうのおほむ-ためをおぼすには みこころおきたまはむこと いとほしく よをあぢきなきものにおもひなりたまはば ひたみちにおぼしたつこともやと さすがにくるしうおぼさるべし
かかることたエずは いとどしきよに うきなさへもりいでなむ おほきさきの あるまじきことにのたまふなるくらゐをもさりなむと やうやうおぼしなる ゐんのおぼしのたまはせしさまの なのめならざりしをおぼしいづるにも よろづのこと ありしにもあらず かはりゆくよにこそあめれ せきふじんのみけむめのやうにはあらずとも かならず ひとわらへなることは ありぬべきみにこそあめれ など よのうとましく すぐしがたうおぼさるれば そむきなむことをおぼしとるに とうぐう みたてまつらでおもがはりせむこと あはれにおぼさるれば しのびやかにてまゐりたまへり
だいしやう-の-きみは さらぬことだに おぼしよらぬことなくつかうまつりたまふを みここちなやましきにことつけて おほむ-おくりにもまゐりたまはず おほかたのおほむ-とぶらひは おなじやうなれど むげに おぼしくしにけると こころしる-どちは いとほしがりきこゆ
みやは いみじううつくしうおとなびたまひて めづらしううれしとおぼして むつれきこエたまふを かなしとみたてまつりたまふにも おぼしたつすぢはいとかたけれど うちわたりをみたまふにつけても よのありさま あはれにはかなく うつりかはることのみおほかり
おほきさきのみこころもいとわづらはしくて かくいでいりたまふにも はしたなく ことにふれてくるしければ みやのおほむ-ためにもあやふくゆゆしう よろづにつけておもほしみだれて
ごらんぜで ひさしからむほどに かたちのことざまにてうたてげにかはりてはべらば いかがおぼさるべき
ときこエたまへば おほむ-かほうち-まもりたまひて
しきぶがやうにや いかでか さはなりたまはむ
と ゑみてのたまふ いふかひなくあはれにて
それは おイてはべればみにくきぞ さはあらで かみはそれよりもみじかくて くろききぬなどをきて よゐのそうのやうになりはべらむとすれば みたてまつらむことも いとどひさしかるべきぞ
とて なきたまへば まめだちて
ひさしうおはせぬは こひしきものを
とて なみだのおつれば はづかしとおぼして さすがにそむきたまへる みぐしはゆらゆらときよらにて まみのなつかしげににほひたまへるさま おとなびたまふままに ただかのおほむ-かほをぬぎすべたまへり おほむ-はのすこしくちて くちのうちくろみて ゑみたまへるかをりうつくしきは をむなにてみたてまつらまほしうきよらなり いと かうしもおぼエたまへるこそ こころうけれと たまのきずにおぼさるるも よのわづらはしさの そら-おそろしうおぼエたまふなりけり

だいしやう-の-きみは みやをいとこひしうおもひきこエたまへど あさましきみこころのほどを ときどきは おもひ-しるさまにもみせたてまつらむと ねんじつつすぐしたまふに ひとわろく つれづれにおぼさるれば あきののもみたまひがてら うりんゐんにまうでたまへり
こ-はは-みやすむどころのおほむ-せうとのりしのこもりたまへるばうにて ほふもんなどよみ おこなひせむ とおぼして に さむ-にちおはするに あはれなることおほかり
もみぢやうやういろづきわたりて あきのののいとなまめきたるなどみたまひて ふるさともわすれぬべくおぼさる ほふしばらの ざえあるかぎりめしいでて ろんぎせさせて きこしめさせたまふ ところからに いとどよのなかのつねなさをおぼしあかしても なほ うきひとしもぞと おぼしいでらるるおしあけがたのつきかげに ほふしばらのあかたてまつるとて からからとならしつつ きくのはな こきうすきもみぢなど をりちらしたるも はかなげなれど
このかたのいとなみは このよもつれづれならず のちのよはた たのもしげなり さも あぢきなきみをもて-なやむかな
など おぼしつづけたまふ りしの いとたふときこゑにて
ねんぶつしゆじやうせふしゆふしや
と うち-のべておこなひたまへるは いとうらやましければ なぞや とおぼしなるに まづ ひめぎみのこころにかかりておもひいでられたまふぞ いとわろきこころなるや
れいならぬひかずも おぼつかなくのみおぼさるれば おほむ-ふみばかりぞ しげうきこエたまふめる
ゆきはなれぬべしやと こころみはべるみちなれど つれづれもなぐさめがたう こころぼそさまさりてなむ ききさしたることありて やすらひはべるほど いかに
など みちのくにがみにうち-とけかきたまへるさへぞ めでたき
あさぢふのつゆのやどりにきみをおきて
よものあらしぞしづごころなき
など こまやかなるに をむなぎみもうち-なきたまひぬ おほむ-かへし しろきしきしに
かぜふけばまづぞみだるるいろかはる
あさぢがつゆにかかるささがに
とのみありて おほむ-てはいとをかしうのみなりまさるものかなと ひとりごちて うつくしとほほゑみたまふ
つねにかきかはしたまへば わがおほむ-てにいとよくにて いますこしなまめかしう をむなしきところかきそへたまねり なにごとにつけても けしうはあらずおほしたてたりかし とおもほす

ふきかふかぜもちかきほどにて さいゐんにもきこエたまひけり ちゆうじやう-の-きみに
かく たびのそらになむ ものおもひにあくがれにけるを おぼししるにもあらじかし
など うらみたまひて おまへには
かけまくはかしこけれどもそのかみの
あきおもほゆるゆふだすきかな
むかしをいまに とおもひたまふるもかひなく とりかへされむもののやうに
と なれなれしげに からのあさみどりのかみに さかきにゆふつけなど かうがうしうしなしてまゐらせたまふ
おほむ-かへり ちゆうじやう
まぎるることなくて きしかたのことをおもひたまへいづるつれづれのままには おもひやりきこエさすることおほくはべれど かひなくのみなむ
と すこしこころとどめておほかり おまへのは ゆふのかたはしに
そのかみやいかがはありしゆふだすき
こころにかけてしのぶらむゆゑ
ちかきよに
とぞある
おほむ-て こまやかにはあらねど らうらうじう さうなどをかしうなりにけり まして あさがほもねびまさりたまへらむかし とおもほゆるも ただならず おそろしや
あはれ このころぞかし ののみやのあはれなりしこと とおぼしいでて あやしう やうのものと かみうらめしうおぼさるるおほむ-くせの みぐるしきぞかし わりなうおぼさば さもありぬべかりしとしごろは のどかにすぐいたまひて いまはくやしうおぼさるべかめるも あやしきみこころなりや
ゐんも かくなべてならぬみこころばへをみしりきこエたまへれば たまさかなるおほむ-かへりなどは えしももて-はなれきこエたまふまじかめり すこしあいなきことなりかし

ろくじふ-くわんといふふみ よみたまひ おぼつかなきところどころとかせなどしておはしますを やまでらには いみじきひかりおこなひいだしたてまつれりと ほとけのおほむ-めんぼくありと あやしのほふしばらまでよろこびあへり しめやかにて よのなかをおもほしつづくるに かへらむこともものうかりぬべけれど ひとひとりのおほむ-ことおぼしやるがほだしなれば ひさしうもえおはしまさで てらにもみずきやういかめしうせさせたまふ あるべきかぎり かみしものそう-ども そのわたりのやまがつまでものたび たふときことのかぎりをつくしていでたまふ みたてまつりおくるとて このもかのもに あやしきしはふるひ-どももあつまりてゐて なみだをおとしつつみたてまつる くろきみくるまのうちにて ふぢのおほむ-たもとにやつれたまへれば ことにみエたまはねど ほのかなるおほむ-ありさまを よになくおもひきこゆべかめり

をむなぎみは ひごろのほどに ねびまさりたまへるここちして いといたうしづまりたまひて よのなかいかがあらむとおもへるけしきの こころぐるしうあはれにおぼエたまへば あいなきこころのさまざまみだるるやしるからむ いろかはるとありしもらうたうおぼエて つねよりことにかたらひきこエたまふ
やまづとにもたせたまへりしもみぢ おまへのにごらんじくらぶれば ことにそめましけるつゆのこころもみすぐしがたう おぼつかなさも ひとわるきまでおぼエたまへば ただおほかたにてみやにまゐらせたまふ みやうぶのもとに
いらせたまひにけるを めづらしきこととうけたまはるに みやのあひだのこと おぼつかなくなりはべりにければ しづごころなくおもひたまへながら おこなひもつとめむなど おもひたちはべりしひかずを こころならずやとてなむ ひごろになりはべりにける もみぢは ひとりみはべるに にしきくらうおもひたまふればなむ をりよくてごらんぜさせたまへ
などあり
げに いみじきえだ-どもなれば おほむ-めとまるに れいの いささかなるものありけり ひとびとみたてまつるに おほむ-かほのいろもうつろひて
なほ かかるこころのたエたまはぬこそ いとうとましけれ あたらおもひやりふかうものしたまふひとの ゆくりなく かうやうなること をりをりまぜたまふを ひともあやしとみるらむかし
と こころづきなくおぼされて かめにささせて ひさしのはしらのもとにおしやらせたまひつ

おほかたのこと-ども みやのおほむ-ことにふれたることなどをば うち-たのめるさまに すくよかなるおほむ-かへりばかりきこエたまへるを さもこころかしこく つきせずもと うらめしうはみたまへど なにごともうしろみきこエならひたまひにたれば ひとあやしと みとがめもこそすれ とおぼして まかでたまふべきひ まゐりたまへり
まづ うちのおほむ-かたにまゐりたまへれば のどやかにおはしますほどにて むかしいまのおほむ-ものがたりきこエたまふ おほむ-かたちも ゐんにいとようにたてまつりたまひて いますこしなまめかしきけそひて なつかしうなごやかにぞおはします かたみにあはれとみたてまつりたまふ
かむ-の-きみのおほむ-ことも なほたエぬさまにきこしめし けしきごらんずるをりもあれど
なにかは いまはじめたることならばこそあらめ さもこころかはさむに にげなかるまじきひとのあはひなりかし
とぞおぼしなして とがめさせたまはざりける
よろづのおほむ-ものがたり ふみのみちのおぼつかなくおぼさるること-どもなど とはせたまひて また すきずきしきうたがたりなども かたみにきこエかはさせたまふついでに かのさいぐうのくだりたまひしひのこと かたちのをかしくおはせしなど かたらせたまふに われもうちとけて ののみやのあはれなりしあけぼのもみなきこエいでたまひてけり
はつかのつき やうやうさし-いでて をかしきほどなるに
あそびなども せまほしきほどかな
とのたまはす
ちゆうぐうの こよひ まかでたまふなる とぶらひにものしはべらむ ゐんののたまはせおくことはべりしかば また うしろみつかうまつるひともはべらざめるに とうぐうのおほむ-ゆかり いとほしうおもひたまへられはべりて
とそうしたまふ
とうぐうをば いまのみこになしてなど のたまはせおきしかば とりわきてこころざしものすれど ことにさしわきたるさまにも なにごとをかはとてこそ としのほどよりも おほむ-てなどのわざとかしこうこそものしたまふべけれ なにごとにも はかばかしからぬみづからのおもておこしになむ
と のたまはすれば
おほかた したまふわざなど いとさとくおとなびたるさまにものしたまへど まだ いとかたなりに
など そのおほむ-ありさまもそうしたまひて まかでたまふに おほみやのおほむ-せうとのとう-だいなごんのこの とう-の-べんといふが よにあひ はなやかなるわかうどにて おもふことなきなるべし いもうとのれいけいでんのおほむ-かたにゆくに だいしやうのおほむ-さきをしのびやかにおへば しばしたちとまりて
はくこうひをつらぬけり たいしをぢたり
と いとゆるるかにうち-じゆじたるを だいしやう いとまばゆしとききたまへど とがむべきことかは きさきのみけしきは いとおそろしう わづらはしげにのみきこゆるを かうしたしきひとびとも けしきだちいふべかめること-どももあるに わづらはしうおぼされけれど つれなうのみもてなしたまへり

おまへにさぶらひて いままで ふかしはべりにける
と きこエたまふ
つきのはなやかなるに むかし かうやうなるをりは おほむ-あそびせさせたまひて いまめかしうもてなさせたまひし など おぼしいづるに おなじみかきのうちながら かはれることおほくかなし
ここのへにきりやへだつるくものうへの
つきをはるかにおもひやるかな
と みやうぶして きこエつたへたまふ ほどなければ おほむ-けはひも ほのかなれど なつかしうきこゆるに つらさもわすられて まづなみだぞおつる
つきかげはみしよのあきにかはらぬを
へだつるきりのつらくもあるかな
かすみもひとのとか むかしもはべりけることにや
などきこエたまふ
みやは とうぐうをあかずおもひきこエたまひて よろづのことをきこエさせたまへど ふかうもおぼしいれたらぬを いとうしろめたくおもひきこエたまふ れいは いととくおほとのごもるを いでたまふまではおきたらむ とおぼすなるべし うらめしげにおぼしたれど さすがに えしたひきこエたまはぬを いとあはれと みたてまつりたまふ

だいしやう とう-の-べんのずじつることをおもふに みこころのおにに よのなかわづらはしうおぼエたまひて かむ-の-きみにもおとづれきこエたまはで ひさしうなりにけり
はつしぐれ いつしかとけしきだつに いかがおぼしけむ かれより
こがらしのふくにつけつつまちしまに
おぼつかなさのころもへにけり
ときこエたまへり をりもあはれに あながちにしのびかきたまへらむみこころばへも にくからねば おほむ-つかひとどめさせて からのかみ-どもいれさせたまへるみづしあけさせたまひて なべてならぬをえりいでつつ ふでなどもこころことにひきつくろひたまへるけしき えんなるを おまへなるひとびと たればかりならむ とつきしろふ
きこエさせても かひなきものごりにこそ むげにくづほれにけれ みのみものうきほどに
あひみずてしのぶるころのなみだをも
なべてのそらのしぐれとやみる
こころのかよふならば いかにながめのそらももの-わすれしはべらむ
など こまやかになりにけり
かうやうにおどろかしきこゆるたぐひおほかめれど なさけなからずうち-かへりごちたまひて みこころにはふかうしまざるべし

ちゆうぐうは ゐんのおほむ-はてのことにうち-つづき みはこうのいそぎをさまざまにこころづかひせさせたまひけり
しもつきのついたちごろ みこきなるに ゆきいたうふりたり だいしやうどのよりみやにきこエたまふ
わかれにしけふはくれどもみしひとに
ゆきあふほどをいつとたのまむ
いづこにも けふはもの-がなしうおぼさるるほどにて おほむ-かへりあり
ながらふるほどはうけれどゆきめぐり
けふはそのよにあふここちして
ことにつくろひてもあらぬおほむ-かきざまなれど あてにけだかきはおもひなしなるべし すぢかはりいまめかしうはあらねど ひとにはことにかかせたまへり けふは このおほむ-こともおもひけちて あはれなるゆきのしづくにぬれぬれおこなひたまふ

しはすのとをよかばかり ちゆうぐうのみはかうなり いみじうたふとし ひびにくやうぜさせたまふみきやうよりはじめ たまのぢく らのへうし ぢすのかざりも よになきさまにととのへさせたまへり さらぬことのきよらだに よのつねならずおはしませば ましてことわりなり ほとけのおほむ-かざり はなづくエのおほひなどまで まことのごくらくおもひやらる
はじめのひは せんだいのごれう つぎのひは ははきさきのおほむ-ため またのひは ゐんのごれう ごくわんのひなれば かむだちめなども よのつつましさをえしもはばかりたまはで いとあまたまゐりたまへり けふのかうじは こころことにえらせたまへれば たきぎこるほどよりうち-はじめ おなじういふことのはも いみじうたふとし みこ-たちも さまざまのほうもちささげてめぐりたまふに だいしやうどののおほむ-よういなど なほにるものなし つねにおなじことのやうなれど みたてまつるたびごとに めづらしからむをば いかがはせむ

はてのひ わがおほむ-ことをけちぐわんにて よをそむきたまふよし ほとけにまうさせたまふに みなひとびとおどろきたまひぬ ひやうぶきやう-の-みや だいしやうのみこころもうごきて あさましとおぼす
みこは なかばのほどにたちて いりたまひぬ こころづようおぼしたつさまのたまひて はつるほどに やま-の-ざすめして いむことうけたまふべきよし のたまはす おほむ-をぢのよかは-の-そうづ ちかうまゐりたまひて みぐしおろしたまふほどに みやのうちゆすりて ゆゆしうなきみちたり なにとなきおイおとろへたるひとだに いまはとよをそむくほどは あやしうあはれなるわざを まして かねてのみけしきにもいだしたまはざりつることなれば みこもいみじうなきたまふ
まゐりたまへるひとびとも おほかたのことのさまも あはれにたふとければ みな そでぬらしてぞかへりたまひける
こ-ゐんのみこ-たちは むかしのおほむ-ありさまをおぼしいづるに いとど あはれにかなしうおぼされて みな とぶらひきこエたまふ だいしやうは たちとまりたまひて きこエいでたまふべきかたもなく くれまどひておぼさるれど などか さしもと ひとみたてまつるべければ みこなどいでたまひぬるのちにぞ おまへにまゐりたまへる
やうやうひとしづまりて にようばう-ども はなうち-かみつつ ところどころにむれゐたり つきはくまなきに ゆきのひかりあひたるにはのありさまも むかしのことおもひやらるるに いとたへがたうおぼさるれど いとようおぼししづめて
いかやうにおぼしたたせたまひて かうにはかには
ときこエたまふ
いまはじめて おもひたまふることにもあらぬを もの-さわがしきやうなりつれば こころみだれぬべく
など れいの みやうぶしてきこエたまふ
みすのうちのけはひ そこらつどひさぶらふひとのきぬのおとなひ しめやかにふるまひなして うち-みじろきつつ かなしげさのなぐさめがたげにもりきこゆるけしき ことわりに いみじとききたまふ
かぜ はげしうふきふぶきて みすのうちのにほひ いともの-ふかきくろぼうにしみて みやうがうのけぶりもほのかなり だいしやうのおほむ-にほひさへかをりあひ めでたく ごくらくおもひやらるるよのさまなり
とうぐうのおほむ-つかひもまゐれり のたまひしさま おもひいできこエさせたまふにぞ みこころづよさもたへがたくて おほむ-かへりもきこエさせやらせたまはねば だいしやうぞ ことくはへきこエたまひける
たれもたれも あるかぎりこころをさまらぬほどなれば おぼすこと-どもも えうち-いでたまはず
つきのすむくもゐをかけてしたふとも
このよのやみになほやまどはむ
とおもひたまへらるるこそ かひなく おぼしたたせたまへるうらめしさは かぎりなう
とばかりきこエたまひて ひとびとちかうさぶらへば さまざまみだるるこころのうちをだに えきこエあらはしたまはず いぶせし
おほふかたのうきにつけてはいとへども
いつかこのよをそむきはつべき
かつ にごりつつ
など かたへはおほむ-つかひのこころしらひなるべし あはれのみつきせねば むねくるしうてまかでたまひぬ

とのにても わがおほむ-かたにひとりうち-ふしたまひて おほむ-めもあはず よのなかいとはしうおぼさるるにも とうぐうのおほむ-ことのみぞこころぐるしき
ははみやをだにおほやけがたざまにと おぼしおきしを よのうさにたへず かくなりたまひにたれば もとのみくらゐにてもえおはせじ われさへみたてまつりすてては など おぼしあかすことかぎりなし
いまは かかるかたざまのみてうど-どもをこそは とおぼせば としのうちにと いそがせたまふ みやうぶ-の-きみもおほむ-ともになりにければ それもこころふかうとぶらひたまふ くはしういひつづけむに ことことしきさまなれば もらしてけるなめり さるは かうやうのをりこそ をかしきうたなどいでくるやうもあれ さうざうしや
まゐりたまふも いまはつつましさうすらぎて おほむ-みづからきこエたまふをりもありけり おもひしめてしことは さらにみこころにはなれねど まして あるまじきことなりかし

としもかはりぬれば うちわたりはなやかに ないえん たふかなどききたまふも もののみあはれにて おほむ-おこなひしめやかにしたまひつつ のちのよのことをのみおぼすに たのもしく むつかりしこと はなれておもほさる つねのおほむ-ねんずだうをばさるものにて ことにたてられたるみだうの にしのたいのみなみにあたりて すこしはなれたるにわたらせたまひて とりわきたるおほむ-おこなひせさせたまふ
だいしやう まゐりたまへり あらたまるしるしもなく みやのうちのどかに ひとめまれにて みやづかさ-どものしたしきばかり うち-うなだれて みなしにやあらむ くしいたげにおもへり
あをむまばかりぞ なほひき-かへぬものにて にようばうなどのみける ところせうまゐりつどひたまひしかむだちめなど みちをよきつつひき-すぎて むかひのおほいどのにつどひたまふを かかるべきことなれど あはれにおぼさるるに せんにんにもかへつべきおほむ-さまにて ふかうたづねまゐりたまへるをみるに あいなくなみだぐまる
まらうとも いともの-あはれなるけしきに うち-みまはしたまひて とみにものものたまはず さまかはれるおほむ-すまひに みすのはし みきちやうもあをにびにて ひまひまよりほの-みエたるうすにび くちなしのそでぐちなど なかなかなまめかしう おくゆかしうおもひやられたまふ とけわたるいけのうすごほり きしのやなぎのけしきばかりは ときをわすれぬ など さまざまながめられたまひて むべもこころあると しのびやかにうち-ずじたまへる またなうなまめかし
ながめかるあまのすみかとみるからに
まづしほたるるまつ-が-うらしま
ときこエたまへば おくふかうもあらず みなほとけにゆづりきこエたまへるおましどころなれば すこしけぢかきここちして
ありしよのなごりだになきうらしまに
たちよるなみのめづらしきかな
とのたまふも ほの-きこゆれば しのぶれど なみだほろほろとこぼれたまひぬ よをおもひすましたるあまぎみ-たちのみるらむも はしたなければ ことずくなにていでたまひぬ
さも たぐひなくねびまさりたまふかな
こころもとなきところなくよにさかエ ときにあひたまひしときは さるひとつものにて なににつけてかよをおぼししらむと おしはかられたまひしを
いまはいといたうおぼししづめて はかなきことにつけても もの-あはれなるけしきさへそはせたまへるは あいなうこころぐるしうもあるかな
など おイしらへるひとびと うち-なきつつ めできこゆ みやもおぼしいづることおほかり

つかさめしのころ このみやのひとは たまはるべきつかさもえず おほかたのだうりにても みやのおほむ-たまはりにても かならずあるべきかかいなどをだにせずなどして なげくたぐひいとおほかり かくても いつしかとおほむ-くらゐをさり みふなどのとまるべきにもあらぬを ことつけてかはることおほかり みなかねておぼしすててしよなれど みやびと-どもも よりどころなげにかなしとおもへるけしき-どもにつけてぞ みこころうごくをりをりあれど わがみをなきになしても とうぐうのみよをたひらかにおはしまさば とのみおぼしつつ おほむ-おこなひたゆみなくつとめさせたまふ
ひとしれずあやふくゆゆしうおもひきこエさせたまふことしあれば われにそのつみをかろめて ゆるしたまへと ほとけをねんじきこエたまふに よろづをなぐさめたまふ
だいしやうも しかみたてまつりたまひて ことわりにおぼす このとののひと-どもも またおなじきさまに からきことのみあれば よのなかはしたなくおぼされて こもりおはす
ひだり-の-おとども おほやけわたくしひき-かへたるよのありさまに ものうくおぼして ちじのへうたてまつりたまふを みかどは こ-ゐんのやむごとなくおもきおほむ-うしろみとおぼして ながきよのかためときこエおきたまひしおほむ-ゆいごんをおぼしめすに すてがたきものにおもひきこエたまへるに かひなきことと たびたびもちゐさせたまはねど せめてかへさひまうしたまひて こもりゐたまひぬ
いまは いとどひとぞうのみ かへすがへすさかエたまふこと かぎりなし よのおもしとものしたまへるおとどの かくよをのがれたまへば おほやけもこころぼそうおぼされ よのひとも こころあるかぎりはなげきけり
みこ-どもは いづれともなくひとがらめやすくよにもちゐられて ここちよげにものしたまひしを こよなうしづまりて さむゐ-の-ちゆうじやうなども よをおもひしづめるさま こよなし かのし-の-きみをも なほ かれがれにうち-かよひつつ めざましうもてなされたれば こころとけたるおほむ-むこのうちにもいれたまはず おもひしれとにや このたびのつかさめしにももれぬれど いとしもおもひいれず
だいしやうどの かうしづかにておはするに よははかなきものとみエぬるを ましてことわり とおぼしなして つねにまゐりかよひたまひつつ がくもんをもあそびをももろともにしたまふ
いにしへも ものぐるほしきまで いどみきこエたまひしをおぼしいでて かたみにいまもはかなきことにつけつつ さすがにいどみたまへり
はるあきのみどきやうをばさるものにて りんじにも さまざまたふときこと-どもをせさせたまひなどして また いたづらにいとまありげなるはかせ-どもめしあつめて ふみつくり ゐんふたぎなどやうのすさびわざ-どもをもしなど こころをやりて みやづかへをもをさをさしたまはず みこころにまかせてうち-あそびておはするを よのなかには わづらはしきこと-どもやうやういひいづるひとびとあるべし

なつのあめ のどかにふりて つれづれなるころ ちゆうじやう さるべきしふ-どもあまたもたせてまゐりたまへり とのにも ふどのあけさせたまひて まだひらかぬみづし-どもの めづらしきこしふのゆゑなからぬ すこしえりいでさせたまひて そのみちのひとびと わざとはあらねどあまためしたり てんじやうびともだいがくのも いとおほうつどひて ひだりみぎにこまどりにかたわかせたまへり かけもの-どもなど いとになくて いどみあへり
ふたぎもて-ゆくままに かたきゐんのもじ-どもいとおほくて おぼエあるはかせ-どもなどのまどふところどころを ときどきうち-のたまふさま いとこよなきおほむ-ざえのほどなり
いかで かうしもたらひたまひけむ
なほさるべきにて よろづのこと ひとにすぐれたまへるなりけり
と めできこゆ つひに みぎまけにけり
ふつかばかりありて ちゆうじやうまけわざしたまへり ことことしうはあらで なまめきたるひわりご-ども かけものなどさまざまにて けふもれいのひとびと おほくめして ふみなどつくらせたまふ
はしのもとのさうび けしきばかりさきて はるあきのはなざかりよりもしめやかにをかしきほどなるに うちとけあそびたまふ
ちゆうじやう-の-みこの ことしはじめててんじやうする やつ ここのつばかりにて こゑいとおもしろく しやうのふえふきなどするを うつくしびもて-あそびたまふ し-の-きみばらのじらうなりけり よのひとのおもへるよせおもくて おぼエことにかしづけり こころばへもかどかどしう かたちもをかしくて おほむ-あそびのすこしみだれゆくほどに たかさごをいだしてうたふ いとうつくし だいしやう-の-きみ おほむ-ぞぬぎてかづけたまふ
れいよりは うち-みだれたまへるおほむ-かほのにほひ にるものなくみゆ うすもののなほし ひとへをきたまへるに すきたまへるはだつき ましていみじうみゆるを としおイたるはかせ-どもなど とほくみたてまつりて なみだおとしつつゐたり あはましものを さゆりばのとうたふとぢめに ちゆうじやう おほむ-かはらけまゐりたまふ
それもがとけさひらけたるはつはなに
おとらぬきみがにほひをぞみる
ほほゑみて とりたまふ
ときならでけささくはなはなつのあめに
しをれにけらしにほふほどなく
おとろへにたるものを
と うち-さうどきて らうがはしくきこしめしなすを とがめいでつつ しひきこエたまふ
おほかめりしこと-どもも かうやうなるをりのまほならぬこと かずかずにかきつくる ここちなきわざとか つらゆきがいさめ たうるるかたにて むつかしければ とどめつ みな このおほむ-ことをほめたるすぢにのみ やまとのもからのもつくりつづけたり わがみここちにも いたうおぼしおごりて
ぶんわうのこ ぶわうのおとうと
と うち-ずじたまへるおほむ-なのりさへぞ げにめでたき せいわうのなにとか のたまはむとすらむ そればかりや またこころもとなからむ
ひやうぶきやう-の-みやもつねにわたりたまひつつ おほむ-あそびなども をかしうおはするみやなれば いまめかしきおほむ-あそび-どもなり

その-ころ かむ-の-きみまかでたまへり わらはやみにひさしうなやみたまひて まじなひなどもこころやすくせむとてなりけり すほふなどはじめて おこたりたまひぬれば たれもたれも うれしうおぼすに れいの めづらしきひまなるをと きこエかはしたまひて わりなきさまにて よなよなたいめんしたまふ
いとさかりに にぎははしきけはひしたまへるひとの すこしうち-なやみて やせやせになりたまへるほど いとをかしげなり
きさい-の-みやもひとところにおはするころなれば けはひいとおそろしけれど かかることしもまさるおほむ-くせなれば いとしのびて たびかさなりゆけば けしきみるひとびともあるべかめれど わづらはしうて みやには さなむとけいせず
おとど はたおもひかけたまはぬに あめにはかにおどろおどろしうふりて かみいたうなりさわぐあかつきに とののきむだち みやづかさなどたち-さわぎて こなたかなたのひとめしげく にようばう-どももおぢまどひて ちかうつどひまゐるに いとわりなく いでたまはむかたなくて あけはてぬ
みちやうのめぐりにも ひとびとしげくなみゐたれば いとむねつぶらはしくおぼさる こころしりのひとふたりばかり こころをまどはす
かみなりやみ あめすこしをやみぬるほどに おとどわたりたまひて まづ みやのおほむ-かたにおはしけるを むらさめのまぎれにてえしりたまはぬに かろらかにふとはひいりたまひて みすひきあげたまふままに
いかにぞや いとうたてありつるよのさまに おもひやりきこエながら まゐりこでなむ ちゆうじやう みや-の-すけなど さぶらひつうあ
など のたまふけはひの したどにあはつけきを だいしやうは もののまぎれにも ひだり-の-おとどのおほむ-ありさま ふと おぼし-くらべられて たとしへなうぞ ほほゑまれたまふ げに いりはててものたまへかしな
かむ-の-きみ いとわびしうおぼされて やをらゐざりいでたまふに おもてのいたうあかみたるを なほなやましうおぼさるるにや とみたまひて
など みけしきのれいならぬ もののけなどのむつかしきを すほふのべさすべかりけり
とのたまふに うすふたあゐなるおびの おほむ-ぞにまつはれてひきいでられたるをみつけたまひて あやしとおぼすに またたたむがみのてならひなどしたる みきちやうのもとにおちたり これはいかなるもの-どもぞと みこころおどろかれて
かれは たれがぞ けしきことなるもののさまかな たまへ それとりてたがぞとみはべらむ
とのたまふにぞ うち-みかへりて われもみつけたまへる まぎらはすべきかたもなければ いかがはいらへきこエたまはむ われにもあらでおはするを こながらもはづかしとおぼすらむかしと さばかりのひとは おぼしはばかるべきぞかし されど いときふに のどめたるところおはせぬおとどの おぼしもまはさずなりて たたうがみをとりたまふままに きちやうよりみいれたまへるに いといたうなよびて つつましからずそひふしたるをとこもあり いまぞ やをらかほひき-かくして とかうまぎらはす あさましう めざましうこころやましけれど ひたおもてには いかでかあらはしたまはむ めもくるるここちすれば このたたむがみをとりて しんでんにわたりたまひぬ

かむ-の-きみは われかのここちして しぬべくおぼさる だいしやうどのも いとほしう つひにようなきふるまひのつもりて ひとのもどきをおはむとすること とおぼせど おむなぎみのこころぐるしきみけしきを とかくなぐさめきこエたまふ

おとどは おもひのままに こめたるところおはせぬほんじやうに いとどおイのおほむ-ひがみさへそひたまふに これはなにごとにかはとどこほりたまはむ ゆくゆくと みやにもうれへきこエたまふ
かうかうのことなむはべる このたたむがみは うだいしやうのみてなり むかしも こころゆるされでありそめにけることなれど ひとがらによろづのつみをゆるして さてもみむと いひはべりしをりは こころもとどめず めざましげにもてなされにしかば やすからずおもひたまへしかど さるべきにこそはとて よにけがれたりとも おぼしすつまじきをたのみにて かくほいのごとくたてまつりながら なほ そのはばかりありて うけばりたるにようごなどもいはせたまはぬをだに あかずくちをしうおもひたまふるに また かかることさへはべりければ さらにいとこころうくなむおもひなりはべりぬる をとこのれいとはいひながら だいしやうもいとけしからぬみこころなりけり さいゐんをもなほきこエをかしつつ しのびにおほむ-ふみかよはしなどして けしきあることなど ひとのかたりはべりしをも よのためのみにもあらず わがためもよかるまじきことなれば よもさるおもひ-やりなきわざ しいでられじとなむ ときのいうそくとあめのしたをなびかしたまへるさま ことなめれば だいしやうのみこころを うたがひはべらざりつる
など のたまふに みやは いとどしきみこころなれば いとものしきみけしきにて
みかどときこゆれど むかしよりみなひとおもひおとしきこエて ちじ-の-おとども またなくかしづくひとつむすめを このかみのばうにておはするにはたてまつらで おとうとのげんじにて いときなきがげんぷくのそひぶしにとりわき また このきみをもみやづかへにとこころざしてはべりしに をこがましかりしありさまなりしを たれもたれもあやしとやはおぼしたりし みな かのみかたにこそみこころよせはべるめりしを そのほいたがふさまにてこそは かくてもさぶらひたまふめれど いとほしさに いかでさるかたにても ひとにおとらぬさまにもてなしきこエむ さばかりねたげなりしひとのみるところもあり などこそはおもひはべりつれど しのびてわがこころのいるかたに なびきたまふにこそははべらめ さいゐんのおほむ-ことは ましてさもあらむ なにごとにつけても おほやけのおほむ-かたにうしろやすからずみゆるは とうぐうのみよ こころよせことなるひとなれば ことわりになむあめる
と すくすくしうのたまひつづくるに さすがにいとほしう など きこエつることぞと おぼさるれば
さはれ しばし このこともらしはべらじ うちにもそうせさせたまふな かくのごと つみはべりとも おぼしすつまじきをたのみにて あまエてはべるなるべし うちうちにせいしのたまはむに ききはべらずは そのつみに ただみづからあたりはべらむ
など きこエなほしたまへど ことにみけしきもなほらず
かく ひとところにおはしてひまもなきに つつむところなく さていりものせらるらむは ことさらにかろめろうぜらるるにこそは とおぼしなすに いとどいみじうめざましく このついでに さるべきこと-どもかまへいでむに よきたよりなりと おぼしめぐらすべし

ひとしれぬ みこころづからのもの-おもはしさは いつとなきことなめれど かくおほかたのよにつけてさへ わづらはしうおぼしみだるることのみまされば もの-こころぼそく よのなかなべていとはしうおぼしならるるに さすがなることおほかり
れいけいでんときこエしは みや-たちもおはせず ゐんかくれさせたまひてのち いよいよあはれなるおほむ-ありさまを ただこのだいしやうどののみこころにもてかくされて すぐしたまふなるべし
おほむ-おとうとのさむ-の-きみ うちわたりにてはかなうほのめきたまひしなごりの れいのみこころなれば さすがにわすれもはてたまはず わざとももてなしたまはぬに ひとのみこころをのみつくしはてたまふべかめるをも このごろのこることなくおぼしみだるるよのあはれのくさはひには おもひいでたまふには しのびがたくて さみだれのそらめづらしくはれたるくもまにわたりたまふ

なにばかりのおほむ-よそひなく うち-やつして ごぜんなどもなく しのびて なかがはのほどおほしすぐるに ささやかなるいへの こだちなどよしばめるに よくなることを あづまにしらべて かきあはせ にぎははしくひきなすなり
おほむ-みみとまりて かどぢかなるところなれば すこしさしいでてみいれたまへば おほきなるかつらのきのおひかぜに まつりのころおぼしいでられて そこはかとなくけはひをかしきを ただひとめみたまひしやどりなり とみたまふ ただならず ほどへにける おぼめかしくやと つつましけれど すぎがてにやすらひたまふ をりしも ほととぎすなきてわたる もよほしきこエがほなれば み-くるまおし-かへさせて れいの これみついれたまふ
をちかへりえぞしのばれぬほととぎす
ほの-かたらひしやどのかきねに
しんでんとおぼしきやのにしのつまにひとびとゐたり さきざきもききしこゑなれば こわづくりけしきとりて おほむ-せうそこきこゆ わかやかなるけしき-どもして おぼめくなるべし
ほととぎすこととふこゑはそれなれど
あなおぼつかなさみだれのそら
ことさらたどるとみれば
よしよし うゑしかきねも
とていづるを ひとしれぬこころには ねたうもあはれにもおもひけり
さも つつむべきことぞかし ことわりにもあれば さすがなり かやうのきはに つくし-の-ごせちが らうたげなりしはや
と まづおぼしいづ
いかなるにつけても みこころのいとまなくくるしげなり としつきをへても なほかやうに みしあたり なさけすぐしたまはぬにしも なかなか あまたのひとのものおもひぐさなり

かのほいのところは おぼしやりつるもしるく ひとめなく しづかにておはするありさまをみたまふも いとあはれなり まづ にようごのおほむ-かたにて むかしのおほむ-ものがたりなどきこエたまふに よふけにけり
はつかのつきさしいづるほどに いとどこだかきかげ-どもこぐらくみエわたりて ちかきたちばなのかをりなつかしくにほひて にようごのおほむ-けはひ ねびにたれど あくまでよういあり あてにらうたげなり
すぐれてはなやかなるおほむ-おぼエこそなかりしかど むつましうなつかしきかたにはおぼしたりしものを
など おもひいできこエたまふにつけても むかしのことかき-つらねおぼされて うち-なきたまふ
ほととぎす ありつるかきねのにや おなじこゑにうち-なく したひきにけるよと おぼさるるほども えんなりかし いかにしりてか など しのびやかにうち-ずんじたまふ
たちばなのかをなつかしみほととぎす
はなちるさとをたづねてぞとふ

いにしへのわすれがたきなぐさめには なほまゐりはべりぬべかりけり こよなうこそ まぎるることも かずそふこともはべりけれ おほかたのよにしたがふものなれば むかしがたりもかきくづすべきひとすくなうなりゆくを まして つれづれもまぎれなくおぼさるらむ
ときこエたまふに いとさらなるよなれど ものをいとあはれにおぼしつづけたるみけしきのあさからぬも ひとのおほむ-さまからにや おほくあはれぞそひにける
ひとめなくあれたるやどはたちばなの
はなこそのきのつまとなりけれ
とばかりのたまへる さはいへど ひとにはいとことなりけりと おぼしくらべらる

にしおもてには わざとなく しのびやかにうち-ふるまひたまひて のぞきたまへるも めづらしきにそへて よにめなれぬおほむ-さまなれば つらさもわすれぬべし なにやかやと れいの なつかしくかたらひたまふも おぼさぬことにあらざるべし
かりにもみたまふかぎりは おしなべてのきはにはあらず さまざまにつけて いふかひなしとおぼさるるはなければにや にくげなく われもひともなさけをかはしつつ すぐしたまふなりけり それをあいなしとおもふひとは とにかくにかはるも ことわりの よのさがと おもひなしたまふ ありつるかきねも さやうにて ありさまかはりにたるあたりなりけり

よのなか いとわづらはしく はしたなきことのみまされば せめてしらずがほにありへても これよりまさることもや とおぼしなりぬ
かのすまは むかしこそひとのすみかなどもありけれ いまは いとさとはなれこころすごくて あまのいへだにまれに などききたまへど ひとしげく ひたたけたらむすまひは いとほいなかるべし さりとて みやことほざからむも ふるさとおぼつかなかるべきを ひとわるくぞおぼしみだるる
よろづのこと きしかたゆくすゑ おもひつづけたまふに かなしきこといとさまざまなり うきものとおもひすてつるよも いまはとすみはなれなむことをおぼすには いとすてがたきことおほかるなかにも ひめぎみの あけくれにそへては おもひなげきたまへるさまの こころぐるしうあはれなるを ゆきめぐりても またあひみむことをかならずと おぼさむにてだに なほひとひふつかのほど よそよそにあかしくらすをりをりだに おぼつかなきものにおぼエ をむなぎみもこころぼそうのみおもひたまへるを いくとせそのほどとかぎりあるみちにもあらず あふをかぎりにへだたりゆかむも さだめなきよに やがてわかるべきかどでにもやと いみじうおぼエたまへば しのびてもろともにもやと おぼしよるをりあれど さるこころぼそからむうみづらの なみかぜよりほかにたちまじるひともなからむに かくらうたきおほむ-さまにて ひき-ぐしたまへらむも いとつきなく わがこころにも なかなか ものおもひのつまなるべきを などおぼしかへすを をむなぎみは いみじからむみちにも おくれきこエずだにあらばと おもむけて うらめしげにおぼいたり
かのはなちるさとにも おはしかよふことこそまれなれ こころぼそくあはれなるおほむ-ありさまを このおほむ-かげにかくれてものしたまへば おぼしなげきたるさまも いとことわりなり なほざりにても ほのかにみたてまつりかよひたまひしところどころ ひとしれぬこころをくだきたまふひとぞおほかりける
にふだう-の-みやよりも もののきこエや またいかがとりなさむと わがおほむ-ためつつましけれど しのびつつおほむ-とぶらひつねにあり むかし かやうにあひおぼし あはれをもみせたまはましかばと うち-おもひいでたまふにも さも さまざまに こころをのみつくすべかりけるひとのおほむ-ちぎりかなと つらくおもひきこエたまふ

やよひはつかあまりのほどになむ みやこをはなれたまひける ひとにいつとしもしらせたまはず ただいとちかうつかうまつりなれたるかぎり しち はちにんばかりおほむ-ともにて いとかすかにいでたちたまふ さるべきところどころに おほむ-ふみばかりうち-しのびたまひしにも あはれとしのばるばかりつくいたまへるは みどころもありぬべかりしかど そのをりの ここちのまぎれに はかばかしうもききおかずなりにけり
ふつか みかかねて よにかくれて おほいどのにわたりたまへり あむじろぐるまのうち-やつれたるにて をむなぐるまのやうにてかくろへいりたまふも いとあはれに ゆめとのみみゆ おほむ-かた いとさびしげにうち-あれたるここちして わかぎみのおほむ-めのと-ども むかしさぶらひしひとのなかに まかでちらぬかぎり かくわたりたまへるをめづらしがりきこエて まうのぼりつどひてみたてまつるにつけても ことにもの-ふかからぬわかきひとびとさへ よのつねなさおもひしられて なみだにくれたり
わかぎみはいとうつくしうて されはしりおはしたり
ひさしきほどに わすれぬこそ あはれなれ
とて ひざにすゑたまへるみけしき しのびがたげなり
おとど こなたにわたりたまひて たいめんしたまへり
つれづれにこもらせたまへらむほど なにとはべらぬむかしものがたりも まゐりて きこエさせむとおもうたまへれど みのやまひおもきにより おほやけにもつかうまつらず くらゐをもかへしたてまつりてはべるに わたくしざまにはこしのべてなむと もののきこエひがひがしかるべきを いまはよのなかはばかるべきみにもはべらねど いちはやきよのいとおそろしうはべるなり かかるおほむ-ことをみたまふるにつけて いのちながきはこころうくおもうたまへらるるよのすゑにもはべるかな あめのしたをさかさまになしても おもうたまへよらざりしおほむ-ありさまをみたまふれば よろづいとあぢきなくなむ
ときこエたまひて いたうしほたれたまふ
とあることも かかることも さきのよのむくイにこそはべるなれば いひもてゆけば ただ みづからのおこたりになむはべる さして かく くわんさくをとられず あさはかなることにかかづらひてだに おほやけのかしこまりなるひとの うつしざまにてよのなかにありふるは とがおもきわざにひとのくににもしはべるなるを とほくはなちつかはすべきさだめなどもはべるなるは さまことなるつみにあたるべきにこそはべるなれ にごりなきこころにまかせて つれなくすぐしはべらむも いとはばかりおほく これよりおほきなるはぢにのぞまぬさきに よをのがれなむとおもうたまへたちぬる
など こまやかにきこエたまふ
むかしのおほむ-ものがたり ゐんのおほむ-こと おぼしのたまはせしみこころばへなどきこエいでたまひて おほむ-なほしのそでもえひき-はなちたまはぬに きみも えこころ-づよくもてなしたまはず わかぎみのなにごころなくまぎれありきて これかれになれきこエたまふを いみじとおぼいたり
すぎはべりにしひとを よにおもうたまへわするるよなくのみ いまにかなしびはべるを このおほむ-ことになむ もしはべるよならましかば いかやうにおもひなげきはべらまし よくぞみじかくて かかるゆめをみずなりにけると おもうたまへなぐさめはべり をさなくものしたまふが かくよはひすぎぬるなかにとまりたまひて なづさひきこエぬつきひやへだたりたまはむとおもひたまふるをなむ よろづのことよりも かなしうはべる いにしへのひとも まことにをかしあるにてしも かかることにあたらざりけり なほさるべきにて ひとのみかどにもかかるたぐひおほうはべりけり されど いひいづるふしありてこそ さることもはべりけれ とざまかうざまに おもひたまへよらむかたなくなむ
など おほくのおほむ-ものがたりきこエたまふ
さむゐ-の-ちゆうじやうもまゐりあひたまひて おほみきなど まゐりたまふに よふけぬれば とまりたまひて ひとびとおまへにさぶらはせたまひて ものがたりなどせさせたまふ ひとよりはこよなうしのびおぼすちゆうなごん-の-きみ いへばえにかなしうおもへるさまを ひとしれずあはれとおぼす ひとみなしづまりぬるに とりわきてかたらひたまふ これによりとまりたまへるなるべし
あけぬれば よぶかういでたまふに ありあけのつきいとをかし はなのき-どもやうやうさかりすぎて わづかなるこかげの いとしろきにはにうすくきりわたりたる そこはかとなくかすみあひて あきのよのあはれにおほくたち-まされり すみのかうらんにおし-かかりて とばかり ながめたまふ

ちゆうなごん-の-きみ みたてまつりおくらむとにや つまどおし-あけてゐたり
またたいめんあらむことこそ おもへばいとかたけれ かかりけるよをしらで こころやすくもありぬべかりしつきごろ さしもいそがで へだてしよ
などのたまへば ものもきこエずなく
わかぎみのおほむ-めのとのさいしやう-の-きみして みやのおまへよりおほむ-せうそこきこエたまへり
みづからきこエまほしきを かきくらすみだりごこちためらひはべるほどに いとよぶかういでさせたまふなるも さまかはりたるここちのみしはべるかな こころぐるしきひとのいぎたなきほどは しばしもやすらはせたまはで
ときこエたまへれば うち-なきたまひて
とりべやまもエしけぶりもまがふやと
あまのしほやくうらみにぞゆく
おほむ-かへりともなくうち-ずじたまひて
あかつきのわかれは かうのみやこころづくしなる おもひしりたまへるひともあらむかし
とのたまへば
いつとなく わかれといふもじこそうたてはべるなるなかにも けさはなほたぐひあるまじうおもうたまへらるるほどかな
と はなごゑにて げにあさからずおもへり
きこエさせまほしきことも かへすがへすおもうたまへながら ただにむすぼほれはべるほど おしはからせたまへ いぎたなきひとは みたまへむにつけても なかなか うきよのがれがたうおもうたまへられぬべければ こころづようおもうたまへなして いそぎまかではべり
ときこエたまふ
いでたまふほどを ひとびとのぞきてみたてまつる
いりがたのつきいとあかきに いとどなまめかしうきよらにて ものをおぼいたるさま とら おほかみだになきぬべし まして いはけなくおはせしほどよりみたてまつりそめてしひとびとなれば たとしへなきおほむ-ありさまをいみじとおもふ
まことや おほむ-かへり
なきひとのわかれやいとどへだたらむ
けぶりとなりしくもゐならでは
とり-そへて あはれのみつきせず いでたまひぬるなごり ゆゆしきまでなきあへり

とのにおはしたれば わがおほむ-かたのひとびとも まどろまざりけるけしきにて ところどころにむれゐて あさましとのみよをおもへるけしきなり さぶらひには したしうつかまつるかぎりは おほむ-ともにまゐるべきこころまうけして わたくしのわかれをしむほどにや ひともなし さらぬひとは とぶらひまゐるもおもきとがめあり わづらはしきことまされば ところせくつどひしむま くるまのかたもなく さびしきに よはうきものなりけりと おぼししらる
だいばんなども かたへはちりばみて たたみ ところどころひき-かへしたり みるほどだにかかり ましていかにあれゆかむ とおぼす
にしのたいにわたりたまへれば みかうしもまゐらで ながめあかしたまひければ すのこなどに わかきわらはべところどころにふして いまぞおきさわぐ とのゐすがた-どもをかしうてゐるをみたまふにも こころぼそう としつきへば かかるひとびとも えしもありはてでや ゆきちらむ など さしもあるまじきことさへ おほむ-めのみとまりけり
よべは しかしかしてよふけにしかばなむ れいのおもはずなるさまにやおぼしなしつる かくてはべるほどだにおほむ-めかれずとおもふを かくよをはなるるきはには こころぐるしきことのおのづからおほかりける ひたやごもりにてやは つねなきよに ひとにもなさけなきものとこころおかれはてむと いとほしうてなむ
ときこエたまへば
かかるよをみるよりほかに おもはずなることは なにごとにか
とばかりのたまひて いみじとおぼしいれたるさま ひとよりことなるを ことわりぞかし ちち-みこ いとおろかにもとよりおぼしつきにけるに まして よのきこエをわづらはしがりて おとづれきこエたまはず おほむ-とぶらひにだにわたりたまはぬを ひとのみるらむこともはづかしく なかなかしられたてまつらでやみなましを ままははのきたのかたなどの
にはかなりしさいはひのあわたたしさ あな ゆゆしや おもふひと かたがたにつけてわかれたまふひとかな
とのたまひけるを さるたよりありてもりききたまふにも いみじうこころうければ これよりもたエておとづれきこエたまはず またたのもしきひともなく げにぞ あはれなるおほむ-ありさまなる
なほよにゆるされがたうて としつきをへば いはほのなかにもむかへたてまつらむ ただいまは ひとぎきのいとつきなかるべきなり おほやけにかしこまりきこゆるひとは あきらかなるつきひのかげをだにみず やすらかにみをふるまふことも いとつみおもかなり あやまちなけれど さるべきにこそかかることもあらめとおもふに ましておもふひとぐするは れいなきことなるを ひたおもむきにものぐるほしきよにて たちまさることもありなむ
などきこエしらせたまふ
ひたくるまでおほとのごもれり そち-の-みや さむゐ-の-ちゆうじやうなどおはしたり たいめんしたまはむとて おほむ-なほしなどたてまつる
くらゐなきひとは
とて むもんのなほし なかなか いとなつかしきをきたまひて うち-やつれたまへる いとめでたし おほむ-びんかきたまふとて きやうだいによりたまへるに おもやせたまへるかげの われながらいとあてにきよらなれば
こよなうこそ おとろへにけれ このかげのやうにややせてはべる あはれなるわざかな
とのたまへば をむなぎみ なみだひとめうけて みおこせたまへる いとしのびがたし
みはかくてさすらへぬともきみがあたり
さらぬかがみのかげははなれじ
と きこエたまへば
わかれてもかげだにとまるものならば
かがみをみてもなぐさめてまし
はしらがくれにゐかくれて なみだをまぎらはしたまへるさま なほ ここらみるなかにたぐひなかりけりと おぼししらるるひとのおほむ-ありさまなり
みこは あはれなるおほむ-ものがたりきこエたまひて くるるほどにかへりたまひぬ

はなちるさとのこころぼそげにおぼして つねにきこエたまふもことわりにて かのひとも いまひとたびみずは つらしとやおもはむ とおぼせば そのよは またいでたまふものから いとものうくて いたうふかしておはしたれば にようご
かくかずまへたまひて たちよらせたまへること
と よろこびきこエたまふさま かきつづけむもうるさし
いといみじうこころぼそきおほむ-ありさま ただおほむ-かげにかくれてすぐいたまへるとしつき いとどあれまさらむほどおぼしやられて とののうち いとかすかなり
つきおぼろにさし-いでて いけひろく やまこぶかきわたり こころぼそげにみゆるにも すみはなれたらむいはほのなか おぼしやらる
にしおもては かうしもわたりたまはずやと うち-くしておぼしけるに あはれそへたるつきかげの なまめかしうしめやかなるに うち-ふるまひたまへるにほひ にるものなくて いとしのびやかにいりたまへば すこしゐざりいでて やがてつきをみておはす またここにおほむ-ものがたりのほどに あけがたちかうなりにけり
みじかよのほどや かばかりのたいめんも またはえしもやとおもふこそ ことなしにてすぐしつるとしごろもくやしう きしかたゆくさきのためしになるべきみにて なにとなくこころのどまるよなくこそありけれ
と すぎにしかたのこと-どものたまひて とりもしばしばなけば よにつつみていそぎいでたまふ れいの つきのいりはつるほど よそへられて あはれなり をむなぎみのこきおほむ-ぞにうつりて げに ぬるるがほなれば
つきかげのやどれるそではせばくとも
とめてもみばやあかぬひかりを
いみじとおぼいたるが こころぐるしければ かつはなぐさめきこエたまふ
ゆきめぐりつひにすむべきつきかげの
しばしくもらむそらなながめそ
おもへば はかなしや ただ しらぬなみだのみこそ こころをくらすものなれ
などのたまひて あけぐれのほどにいでたまひぬ

よろづのこと-どもしたためさせたまふ したしうつかまつり よになびかぬかぎりのひとびと とののこととり-おこなふべきかみしも さだめおかせたまふ おほむ-ともにしたひきこゆるかぎりは またえりいでたまへり
かのやまざとのおほむ-すみかのぐは えさらずとり-つかひたまふべきもの-ども ことさらよそひもなくことそぎて さるべきふみ-どもぶんしゆなどいりたるはこ さてはきんひとつぞもたせたまふ ところせきみてうど はなやかなるおほむ-よそひなど さらにぐしたまはず あやしのやまがつめきてもてなしたまふ
さぶらふひとびとよりはじめ よろづのこと みなにしのたいにきこエわたしたまふ りやうじたまふみさう みまきよりはじめて さるべきところどころ けんなど みなたてまつりおきたまふ それよりほかのみくらまち をさめどのなどいふことまで せうなごんをはかばかしきものにみおきたまへれば したしきけいし-どもぐして しろしめすべきさま-どものたまひあづく
わがおほむ-かたのなかつかさ ちゆうじやうなどやうのひとびと つれなきおほむ-もてなしながら みたてまつるほどこそなぐさめつれ なにごとにつけてか とおもへども
いのちありてこのよにまたかへるやうもあらむを まちつけむとおもはむひとは こなたにさぶらへ
とのたまひて かみしも みなまうのぼらせたまふ
わかぎみのおほむ-めのと-たち はなちるさとなども をかしきさまのはさるものにて まめまめしきすぢにおぼしよらぬことなし
ないし-の-かみのおほむ-もとに わりなくしてきこエたまふ
とはせたまはぬも ことわりにおもひたまへながら いまはと よをおもひはつるほどのうさもつらさも たぐひなきことにこそはべりけれ
あふせなきなみだのかはにしづみしや
ながるるみをのはじめなりけむ
とおもひたまへいづるのみなむ つみのがれがたうはべりける
みちのほどもあやふければ こまかにはきこエたまはず
をむな いといみじうおぼエたまひて しのびたまへど おほむ-そでよりあまるもところせうなむ
なみだがはうかぶみなはもきエぬべし
ながれてのちのせをもまたずて
なくなくみだれかきたまへるおほむ-て いとをかしげなり いまひとたびたいめんなくやとおぼすは なほくちをしけれど おぼしかへして うしとおぼしなすゆかりおほうて おぼろけならずしのびたまへば いとあながちにもきこエたまはずなりぬ

あすとて くれには ゐんのみはかをがみたてまつりたまふとて きたやまへまうでたまふ あかつきかけていづるころなれば まづ にふだう-の-みやにまうでたまふ ちかきみすのまへにおましまゐりて おほむ-みづからきこエさせたまふ とうぐうのおほむ-ことをいみじううしろめたきものにおもひきこエたまふ
かたみにこころふかき-どちのおほむ-ものがたりは よろづあはれまさりけむかし なつかしうめでたきおほむ-けはひのむかしにかはらぬに つらかりしみこころばへも かすめきこエさせまほしけれど いまさらにうたてとおぼさるべし わがみこころにも なかなかいまひときはみだれまさりぬべければ ねんじかへして ただ
かくおもひかけぬつみにあたりはべるも おもうたまへあはすることのひとふしになむ そらもおそろしうはべる をしげなきみはなきになしても みやのみよにだに ことなくおはしまさば
とのみきこエたまふぞ ことわりなるや
みやも みなおぼししらるることにしあれば みこころのみうごきて きこエやりたまはず だいしやう よろづのことかき-あつめおぼしつづけて なきたまへるけしき いとつきせずなまめきたり
みやまにまゐりはべるを おほむ-ことつてや
ときこエたまふに とみにものもきこエたまはず わりなくためらひたまふみけしきなり
みしはなくあるはかなしきよのはてを
そむきしかひもなくなくぞふる
いみじきみこころまどひ-どもに おぼしあつむること-どもも えぞつづけさせたまはぬ
わかれしにかなしきことはつきにしを
またぞこのよのうさはまされる

つきまちいでていでたまふ おほむ-ともにただご ろくにんばかり しもびともむつましきかぎりして おほむ-むまにてぞおはする さらなることなれど ありしよのおほむ-ありきにことなり みないとかなしうおもふなり なかに かのみそぎのひ かりのみずいじんにてつかうまつりしうこん-の-ぞうのくらうど うべきかうぶりもほどすぎつるを つひにみふだけづられ つかさもとられて はしたなければ おほむ-ともにまゐるうちなり
かものしものみやしろを かれとみわたすほど ふとおもひいでられて おりて おほむ-むまのくちをとる
ひきつれてあふひかざししそのかみを
おもへばつらしかものみづがき
といふを げに いかにおもふらむ ひとよりけにはなやかなりしものを とおぼすも こくろぐるし
きみも おほむ-むまよりおりたまひて みやしろのかたをがみたまふ かみにまかりまうしたまふ
うきよをばいまぞわかるるとどまらむ
なをばただすのかみにまかせて
とのたまふさま もの-めでするわかきひとにて みにしみてあはれにめでたしとみたてまつる
みやまにまうでたまひて おはしまししおほむ-ありさま ただめのまへのやうにおぼしいでらる かぎりなきにても よになくなりぬるひとぞ いはむかたなくくちをしきわざなりける よろづのことをなくなくまうしたまひても そのことわりをあらはにうけたまはりたまはねば さばかりおぼしのたまはせしさまざまのおほむ-ゆいごんは いづちかきエうせにけむと いふかひなし
みはかは みちのくさしげくなりて わけいりたまふほど いとどつゆけきに つきもかくれて もりのこだち こぶかくこころすごし かへりいでむかたもなきここちして をがみたまふに ありしおほむ-おもかげ さやかにみエたまへる そぞろさむきほどなり
なきかげやいかがみるらむよそへつつ
ながむるつきもくもがくれぬる

あけはつるほどにかへりたまひて とうぐうにもおほむ-せうそこきこエたまふ わうみやうぶをおほむ-かはりにてさぶらはせたまへば そのつぼねに とて
けふなむ みやこはなれはべる またまゐりはべらずなりぬるなむ あまたのうれへにまさりておもうたまへられはべる よろづおしはかりけいしたまへ
いつかまたはるのみやこのはなをみむ
ときうしなへるやまがつにして
さくらのちりすきたるえだにつけたまへり かくなむ とごらんぜさすれば をさなきみここちにもまめだちておはします
おほむ-かへりいかがものしたまふらむ
とけいすれば
しばしみぬだにこひしきものを とほくはましていかに といへかし
とのたまはす もの-はかなのおほむ-かへりやと あはれにみたてまつる あぢきなきことにみこころをくだきたまひしむかしのこと をりをりのおほむ-ありさま おもひ-つづけらるるにも もの-おもひなくてわれもひともすぐいたまひつべかりけるよを こころとおぼしなげきけるをくやしう わがこころひとつにかからむことのやうにぞおぼゆる おほむ-かへりは
さらにきこエさせやりはべらず おまへにはけいしはべりぬ こころぼそげにおぼしめしたるみけしきもいみじくなむ
と そこはかとなく こころのみだれけるなるべし
さきてとくちるはうけれどゆくはるは
はなのみやこをたち-かへりみよ
ときしあらば
ときこエて なごりもあはれなるものがたりをしつつ ひとみやのうち しのびてなきあへり
ひとめもみたてまつれるひとは かくおぼしくづほれぬるおほむ-ありさまを なげきをしみきこエぬひとなし まして つねにまゐりなれたりしは しりおよびたまふまじきをさめ みかはやうどまで ありがたきおほむ-かへりみのしたなりつるを しばしにても みたてまつらぬほどやへむと おもひなげきけり
おほかたのよのひとも たれかはよろしくおもひきこエむ ななつになりたまひしこのかた みかどのおまへによるひるさぶらひたまひて そうしたまふことのならぬはなかりしかば このおほむ-いたはりにかからぬひとなく おほむ-とくをよろこばぬやはありし やむごとなきかむだちめ べんくわんなどのなかにもおほかり それよりしもはかずしらぬを おもひしらぬにはあらねど さしあたりて いちはやきよをおもひはばかりて まゐりよるもなし よゆすりてをしみきこエ したにおほやけをそしり うらみたてまつれど みをすててとぶらひまゐらむにも なにのかひかは とおもふにや かかるをりはひとわろく うらめしきひとおほく よのなかはあぢきなきものかな とのみ よろづにつけておぼす

そのひは をむなぎみにおほむ-ものがたりのどかにきこエくらしたまひて れいの よぶかくいでたまふ かりのおほむ-ぞなど たびのおほむ-よそひ いたくやつしたまひて
つきいでにけりな なほすこしいでて みだにおくりたまへかし いかにきこゆべきことおほくつもりにけりとおぼエむとすらむ ひとひ ふつかたまさかにへだたるをりだに あやしういぶせきここちするものを
とて みすまきあげて はしにいざなひきこエたまへば をむなぎみ なきしづみたまへるを ためらひて ゐざりいでたまへる つきかげに いみじうをかしげにてゐたまへり わがみかくてはかなきよをわかれなば いかなるさまにさすらへたまはむと うしろめたくかなしけれど おぼしいりたるに いとどしかるべければ
いけるよのわかれをしらでちぎりつつ
いのちをひとにかぎりけるかな
はかなし
など あさはかにきこエなしたまへば
をしからぬいのちにかへてめのまへの
わかれをしばしとどめてしがな
げに さぞおぼさるらむと いとみすてがたけれど あけはてなば はしたなかるべきにより いそぎいでたまひぬ
みちすがら おもかげにつとそひて むねもふたがりながら おほむ-ふねにのりたまひぬ ひながきころなれば おひかぜさへそひて まださるのときばかりに かのうらにつきたまひぬ かりそめのみちにても かかるたびをならひたまはぬここちに こころぼそさもをかしさもめづらかなり おほエどのといひけるところは いたうあれて まつばかりぞしるしなる
からくにになをのこしけるひとよりも
ゆくへしられぬいへゐをやせむ
なぎさによるなみのかつかへるをみたまひて うらやましくもと うち-ずじたまへるさま さるよのふることなれど めづらしうききなされ かなしとのみおほむ-とものひとびとおもへり うち-かへりみたまへるに こしかたのやまはかすみはるかにて まことにさむぜんりのほかのここちするに かいのしづくもたへがたし
ふるさとをみねのかすみはへだつれど
ながむるそらはおなじくもゐか
つらからぬものなくなむ

おはすべきところは ゆきひら-の-ちゆうなごんの もしほたれつつわびけるいへゐちかきわたりなりけり うみづらはややいりて あはれにすごげなるやまなかなり
かきのさまよりはじめて めづらかにみたまふ かやや-ども あしふけるらうめくやなど をかしうしつらひなしたり ところにつけたるおほむ-すまひ やうかはりて かからぬをりならば をかしうもありなましと むかしのみこころのすさびおぼしいづ
ちかきところどころのみさうのつかさめして さるべきこと-どもなど よしきよ-の-あそむ したしきけいしにて おほせおこなふもあはれなり ときのまに いとみどころありてしなさせたまふ みづふかうやりなし うゑき-どもなどして いまはとしづまりたまふここち うつつならず くに-の-かみもしたしきとのびとなれば しのびてこころよせつかうまつる かかるたびどころともなう ひとさわがしけれども はかばかしうものをものたまひあはすべきひとしなければ しらぬくにのここちして いとむもれいたく いかでとしつきをすぐさまし とおぼしやらる

やうやうことしづまりゆくに ながあめのころになりて きやうのこともおぼしやらるるに こひしきひとおほく をむなぎみのおぼしたりしさま とうぐうのおほむ-こと わかぎみのなにごころもなくまぎれたまひしなどをはじめ ここかしこおもひやりきこエたまふ
きやうへひといだしたてたまふ にでうのゐんへたてまつりたまふと にふだう-の-みやのとは かきもやりたまはず くらされたまへり みやには
まつしまのあまのとまやもいかならむ
すまのうらびとしほたるるころ
いつとはべらぬなかにも きしかたゆくさきかきくらし みぎはまさりてなむ
ないし-の-かみのおほむ-もとに れいの ちゆうなごん-の-きみのわたくしごとのやうにて なかなるに
つれづれとすぎにしかたのおもひたまへいでらるるにつけても
こりずまのうらのみるめのゆかしきを
しほやくあまやいかがおもはむ
さまざまかきつくしたまふことのは おもひやるべし
おほいどのにも さいしやう-の-めのとにも つかうまつるべきことなどかきつかはす
きやうには このおほむ-ふみ ところどころにみたまひつつ みこころみだれたまふひとびとのみおほかり にでうのゐん-の-きみは そのままにおきもあがりたまはず つきせぬさまにおぼしこがるれば さぶらふひとびともこしらへわびつつ こころぼそうおもひあへり
もて-ならしたまひしみてうど-ども ひきならしたまひしおほむ-こと ぬぎすてたまひつるおほむ-ぞのにほひなどにつけても いまはとよになからむひとのやうにのみおぼしたれば かつはゆゆしうて せうなごんは そうづにおほむ-いのりのことなどきこゆ ふたかたにみしゆほふなどせさせたまふ かつは おぼしなげくみこころしづめたまひて おもひなきよにあらせたてまつりたまへと こころぐるしきままにいのりまうしたまふ
たびのおほむ-とのゐものなど てうじてたてまつりたまふ かとりのおほむ-なほし さしぬき さまかはりたるここちするもいみじきに さらぬかがみとのたまひしおもかげの げにみにそひたまへるもかひなし
いでいりたまひしかた よりゐたまひしまきばしらなどをみたまふにも むねのみふたがりて ものをとかうおもひ-めぐらし よにしほじみぬるよはひのひとだにあり まして なれむつびきこエ ちちははにもなりておほしたてならはしたまへれば こひしうおもひきこエたまへる ことわりなり ひたすらよになくなりなむは いはむかたなくて やうやうわすれぐさもおひやすらむ きくほどはちかけれど いつまでとかぎりあるおほむ-わかれにもあらで おぼすにつきせずなむ
にふだう-の-みやにも とうぐうのおほむ-ことによりおぼし-なげくさま いとさらなり おほむ-すくせのほどをおぼすには いかがあさくおぼされむ としごろはただもののきこエなどのつつましさに すこしなさけあるけしきみせば それにつけてひとのとがめいづることもこそ とのみ ひとへにおぼし-しのびつつ あはれをもおほうごらんじすぐし すくすくしうもてなしたまひしを かばかりうきよのひとごとなれど かけてもこのかたにはいひいづることなくてやみぬるばかりの ひとのおほむ-おもむけも あながちなりしこころのひくかたにまかせず かつはめやすくもて-かくしつるぞかし あはれにこひしうも いかがおぼしいでざらむ おほむ-かへりも すこしこまやかにて
このころは いとど
しほたるることをやくにてまつしまに
としふるあまもなげきをぞつむ
かむ-の-きみのおほむ-かへりには
うらにたくあまだにつつむこひなれば
くゆるけぶりよゆくかたぞなき
さらなること-どもは えなむ
とばかり いささかかきて ちゆうなごん-の-きみのなかにあり おぼしなげくさまなど いみじういひたり あはれとおもひきこエたまふふしぶしもあれば うち-なかれたまひぬ
ひめぎみのおほむ-ふみは こころことにこまかなりしおほむ-かへりなれば あはれなることおほくて
うらびとのしほくむそでにくらべみよ
なみぢへだつるよるのころもを
もののいろ したまへるさまなど いときよらなり なにごともらうらうじうものしたまふを おもふさまにて いまはことごとにこころあわたたしう ゆきかかづらふかたもなく しめやかにてあるべきものを とおぼすに いみじうくちをしう よるひるおもかげにおぼエて たへがたうおもひいでられたまへば なほしのびてやむかへまし とおぼす またうち-かへし なぞや かくうきよに つみをだにうしなはむ とおぼせば やがてみさうじんにて あけくれおこなひておはす
おほとの-の-わかぎみのおほむ-ことなどあるにも いとかなしけれど おのづからあひみてむ たのもしきひとびとものしたまへば うしろめたうはあらずと おぼしなさるるは なかなか このみちのまどはれぬにやあらむ

まことや さわがしかりしほどのまぎれにもらしてけり かのいせのみやへもおほむ-つかひありけり かれよりも ふりはへたづねまゐれり あさからぬこと-どもかきたまへり ことのは ふでづかひなどは ひとよりことになまめかしく いたりふかうみエたり
なほうつつとはおもひたまへられぬおほむ-すまひをうけたまはるも あけぬよのこころまどひかとなむ さりとも としつきへだてたまはじと おもひやりきこエさするにも つみふかきみのみこそ またきこエさせむこともはるかなるべけれ
うきめかるいせをのあまをおもひやれ
もしほたるてふすまのうらにて
よろづにおもひたまへみだるるよのありさまも なほいかになりはつべきにか
とおほかり
いせしまやしほひのかたにあさりても
いふかひなきはわがみなりけり
ものをあはれとおぼしけるままに うち-おきうち-おきかきたまへる しろきからのかみ し ごまいばかりをまきつづけて すみつきなどみどころあり
あはれにおもひきこエしひとを ひとふしうしとおもひきこエしこころあやまりに かのみやすむどころもおもひうんじてわかれたまひにし とおぼせば いまにいとほしうかたじけなきものにおもひきこエたまふ をりからのおほむ-ふみ いとあはれなれば おほむ-つかひさへむつましうて ふつか みかすゑさせたまひて かしこのものがたりなどせさせてきこしめす
わかやかにけしきあるさぶらひのひとなりけり かくあはれなるおほむ-すまひなれば かやうのひともおのづからもの-とほからで ほの-みたてまつるおほむ-さま かたちを いみじうめでたし となみだおとしをりけり おほむ-かへりかきたまふ ことのは おもひ-やるべし
かくよをはなるべきみと おもひたまへましかば おなじくはしたひきこエましものを などなむ つれづれと こころぼそきままに
いせびとのなみのうへこぐをぶねにも
うきめはからでのらましものを
あまがつむなげきのなかにしほたれて
いつまですまのうらにながめむ
きこエさせむことの いつともはべらぬこそ つきせぬここちしはべれ
などぞありける かやうに いづこにもおぼつかなからずきこエかはしたまふ
はなちるさとも かなしとおぼしけるままにかきあつめたまへるみこころごころみたまふ をかしきもめなれぬここちして いづれもうち-みつつなぐさめたまへど もの-おもひのもよほしぐさなめり
あれまさるのきのしのぶをながめつつ
しげくもつゆのかかるそでかな
とあるを げに むぐらよりほかのうしろみもなきさまにておはすらむ とおぼしやりて ながあめについぢところどころくづれてなむ とききたまへば きやうのけいしのもとにおほせつかはして ちかきくにぐにのみさうのものなどもよほさせて つかうまつるべきよしのたまはす

かむ-の-きみは ひとわらへにいみじうおぼしくづほるるを おとどいとかなしうしたまふきみにて せちに みやにもうちにもそうしたまひければ かぎりあるにようご みやすむどころにもおはせず おほやけざまのみやづかへ とおぼしなほり また かのにくかりしゆゑこそ いかめしきこともいでこしか ゆるされたまひて まゐりたまふべきにつけても なほこころにしみにしかたぞ あはれにおぼエたまける
ふづきになりてまゐりたまふ いみじかりしおほむ-おもひのなごりなれば ひとのそしりもしろしめされず れいの うへにつとさぶらはせたまひて よろづにうらみ かつはあはれにちぎらせたまふ
おほむ-さまかたちもいとなまめかしうきよらなれど おもひいづることのみおほかるこころのうちぞ かたじけなき おほむ-あそびのついでに
そのひとのなきこそ いとさうざうしけれ いかにましてさおもふひとおほからむ なにごともひかりなきここちするかな とのたまはせて ゐんのおぼしのたまはせしみこころをたがへつるかな つみうらむかし
とて なみだぐませたまふに えねんじたまはず
よのなかこそ あるにつけてもあぢきなきものなりけれ とおもひしるままに ひさしくよにあらむものとなむ さらにおもはぬ さもなりなむに いあかがおぼさるべき ちかきほどのわかれにおもひおとされむこそ ねたけれ いけるよにとは げに よからぬひとのいひおきけむ
と いとなつかしきおほむ-さまにて ものをまことにあはれとおぼしいりてのたまはするにつけて ほろほろとこぼれいづれば
さりや いづれにおつるにか
とのたまはす
いままでみこ-たちのなきこそ さうざうしけれ とうぐうをゐんののたまはせしさまにおもへど よからぬこと-どもいでくめれば こころぐるしう
など よをみこころのほかにまつりごちなしたまふひとびとのあるに わかきみこころの つよきところなきほどにて いとほしとおぼしたることもおほかり

すまには いとどこころづくしのあきかぜに うみはすこしとほけれど ゆきひら-の-ちゆうなごんの せきふきこゆるといひけむうらなみ よるよるはげにいとちかくきこエて またなくあはれなるものは かかるところのあきなりけり
おまへにいとひとずくなにて うち-やすみわたれるに ひとりめをさまして まくらをそばだててよものあらしをききたまふに なみただここもとにたちくるここちして なみだおつともおぼエぬに まくらうくばかりになりにけり きんをすこしかき-ならしたまへるが われながらいとすごうきこゆれば ひき-さしたまひて
こひわびてなくねにまがふうらなみは
おもふかたよりかぜやふくらむ
とうたひたまへるに ひとびとおどろきて めでたうおぼゆるに しのばれで あいなうおきゐつつ はなをしのびやかにかみわたす
げに いかにおもふらむ わがみひとつにより おや はらから かたときたち-はなれがたく ほどにつけつつおもふらむいへをわかれて かくまどひあへる とおぼすに いみじくて いとかくおもひしづむさまを こころぼそしとおもふらむ とおぼせば ひるはなにくれとうち-のたまひまぎらはし つれづれなるままに いろいろのかみをつぎつつ てならひをしたまひ めづらしきさまなるからのあやなどに さまざまのゑ-どもをかきすさびたまへるびやうぶのおもて-どもなど いとめでたくみどころあり
ひとびとのかたりきこエしうみやまのありさまを はるかにおぼしやりしを おほむ-めにちかくては げに およばぬいそのたたずまひ になくかきあつめたまへり
このころのじやうずにすめるちエだ つねのりなどをめして つくりゑつかうまつらせばや
と こころもとながりあへり なつかしうめでたきおほむ-さまに よのものおもひわすれて ちかうなれつかうまつるをうれしきことにて し ごにんばかりぞ つとさぶらひける
せんさいのはな いろいろさきみだれ おもしろきゆふぐれに うみみやらるるらうにいでたまひて たたずみたまふさまの ゆゆしうきよらなること ところからは ましてこのよのものとみエたまはず しろきあやのなよよかなる しをんいろなどたてまつりて こまやかなるおほむ-なほし おびしどけなくうち-みだれたまへるおほむ-さまにて
さかむにぶつのでし
となのりて ゆるるかによみたまへる またよにしらずきこゆ
おきよりふね-どものうたひののしりてこぎゆくなどもきこゆ ほのかに ただちひさきとりのうかべるとみやらるるも こころぼそげなるに かりのつらねてなくこゑ かぢのおとにまがへるを うち-ながめたまひて なみだこぼるるをかき-はらひたまへるおほむ-てつき くろきおほむ-ずずにはエたまへる ふるさとのをむなこひしきひとびと こころみななぐさみにけり
はつかりはこひしきひとのつらなれや
たびのそらとぶこゑのかなしき
とのたまへば よしきよ
かき-つらねむかしのことぞおもほゆる
かりはそのよのともならねども
みんぶ-の-たいふ
こころからとこよをすててなくかりを
くものよそにもおもひけるかな
さきのうこん-の-じよう
とこよいでてたびのそらなるかりがねも
つらにおくれぬほどぞなぐさむ
ともまどはしては いかにはべらまし
といふ おやのひたちになりて くだりしにもさそはれで まゐれるなりけり したにはおもひくだくべかめれど ほこりかにもてなして つれなきさまにしありく

つきのいとはなやかにさし-いでたるに こよひはじふごやなりけり とおぼしいでて てんじやうのおほむ-あそびこひしく ところどころながめたまふらむかし とおもひやりたまふにつけても つきのかほのみまもられたまふ
じせんりのほかこじんのこころ
とずじたまへる れいのなみだもとどめられず にふだう-の-みやの きりやへだつるとのたまはせしほど いはむかたなくこひしく をりをりのことおもひいでたまふに よよと なかれたまふ
よふけはべりぬ
ときこゆれど なほいりたまはず
みるほどぞしばしなぐさめむめぐりあはむ
つきのみやこははるかなれども
そのよ うへのいとなつかしうむかしものがたりなどしたまひしおほむ-さまの ゐんににたてまつりたまへりしも こひしくおもひいできこエたまひて
おんしのぎよいはいまここにあり
とずじつついりたまひぬ おほむ-ぞはまことにみをはなたず かたはらにおきたまへり
うしとのみひとへにものはおもほエで
ひだりみぎにもぬるるそでかな

その-ころ だいにはのぼりける いかめしくるいひろく むすめがちにてところせかりければ きたのかたはふねにてのぼる うらづたひにせうえうしつつくるに ほかよりもおもしろきわたりなれば こころとまるに だいしやうかくておはす ときけば あいなう すいたるわかきむすめ-たちは ふねのうちさへはづかしう こころげさうせらる まして ごせち-の-きみは つなでひき-すぐるもくちをしきに きんのこゑ かぜにつきて はるかにきこゆるに ところのさま ひとのおほむ-ほど もののねのこころぼそさ とり-あつめ こころあるかぎりみななきにけり
そち おほむ-せうそこきこエたり
いとはるかなるほどよりまかりのぼりては まづいつしかさぶらひて みやこのおほむ-ものがたりもとこそ おもひたまへはべりつれ おもひのほかに かくておはしましけるおほむ-やどをまかりすぎはべる かたじけなうかなしうもはべるかな あひしりてはべるひとびと さるべきこれかれ まできむかひてあまたはべれば ところせさをおもひたまへはばかりはべること-どもはべりて えさぶらはぬこと ことさらにまゐりはべらむ
などきこエたり このちくぜん-の-かみぞまゐれる このとのの くらうどになしかへりみたまひしひとなれば いともかなし いみじとおもへども またみるひとびとのあれば きこエをおもひて しばしもえたちとまらず
みやこはなれてのち むかししたしかりしひとびと あひみることかたうのみなりにたるに かくわざとたちよりものしたること
とのたまふ おほむ-かへりもさやうになむ
かみ なくなくかへりて おはするおほむ-ありさまかたる そちよりはじめ むかへのひとびと まがまがしうなきみちたり ごせちは とかくしてきこエたり
ことのねにひき-とめらるるつなでなは
たゆたふこころきみしるらめや
すきずきしさもひとな とがめそ
ときこエたり ほほゑみてみたまふ いとはづかしげなり
こころありてひきてのつなのたゆたはば
うち-すぎましやすまのうらなみ
いさりせむとはおもはざりしはや
とあり むまやのをさにくしとらするひともありけるを まして おち-とまりぬべくなむおぼエける

みやこには つきひすぐるままに みかどをはじめたてまつりて こひきこゆるをりふしおほかり とうぐうは まして つねにおぼしいでつつしのびてなきたまふ みたてまつるおほむ-めのと ましてみやうぶ-の-きみは いみじうあはれにみたてまつる
にふだう-の-みやは とうぐうのおほむ-ことをゆゆしうのみおぼししに だいしやうもかくさすらへたまひぬるを いみじうおぼしなげかる
おほむ-はらからのみこ-たち むつましうきこエたまひしかむだちめなど はじめつかたはとぶらひきこエたまふなどありき あはれなるふみをつくりかはし それにつけても よのなかにのみめでられたまへば きさいのみやきこしめして いみじうのたまひけり
おほやけのかうじなるひとは こころにまかせてこのよのあぢはひをだにしることかたうこそあなれ おもしろきいへゐして よのなかをそしりもどきて かのしかをむまといひけむひとのひがめるやうについしようする
など あしきこと-どもきこエければ わづらはしとて せうそこきこエたまふひとなし
にでう-の-ゐんのひめぎみは ほどふるままに おぼしなぐさむをりなし ひむがしのたいにさぶらひしひとびとも みなわたりまゐりしはじめは などかさしもあらむ とおもひしかど みたてまつりなるるままに なつかしうをかしきおほむ-ありさま まめやかなるみこころばへも おもひやりふかうあはれなれば まかでちるもなし なべてならぬきはのひとびとには ほの-みエなどしたまふ そこらのなかにすぐれたるみこころざしもことわりなりけり とみたてまつる

かのおほむ-すまひには ひさしくなるままに えねんじすぐすまじうおぼエたまへど わがみだにあさましきすくせとおぼゆるすまひに いかでかは うち-ぐしては つきなからむさまをおもひ-かへしたまふ ところにつけて よろづのことさまかはり みたまへしらぬしもびとのうへをも みたまひならはぬみここちに めざましうかたじけなう みづからおぼさる けぶりのいとちかくときどきたちくるを これやあまのしほやくならむ とおぼしわたるは おはしますうしろのやまに しばといふものふすぶるなりけり めづらかにて
やまがつのいほりにたけるしばしばも
こととひこなむこふるさとびと
ふゆになりてゆきふりあれたるころ そらのけしきもことにすごくながめたまひて きんをひき-すさびたまひて よしきよにうたはせ たいふ よこぶえふきて あそびたまふ こころとどめてあはれなるてなどひきたまへるに こともののこゑ-どもはやめて なみだをのごひあへり
むかし このくににつかはしけむをむなをおぼしやりて ましていかなりけむ このよにわがおもひきこゆるひとなどをさやうにはなちやりたらむこと などおもふも あらむことのやうにゆゆしうて
しもののちのゆめ
とずじたまふ
つきいとあかうさしいりて はかなきたびのおましどころ おくまでくまなし ゆかのうへによぶかきそらもみゆ いりがたのつきかげ すごくみゆるに
ただこれにしにゆくなり
と ひとりごちたまて
いづかたのくもぢにわれもまよひなむ
つきのみるらむこともはづかし
とひとりごちたまひて れいのまどろまれぬあかつきのそらに ちどりいとあはれになく
ともちどりもろごゑになくあかつきは
ひとりねざめのとこもたのもし
またおきたるひともなければ かへすがへすひとりごちてふしたまへり
よぶかくみてうづまゐり おほむ-ねんずなどしたまふも めづらしきことのやうに めでたうのみおぼエたまへば えみたてまつりすてず いへにあからさまにもえいでざりけり

あかしのうらは ただはひわたるほどなれば よしきよ-の-あそむ かのにふだうのむすめをおもひいでて ふみなどやりけれど かへりこともせず ちちにふだうぞ
きこゆべきことなむ あからさまにたいめんもがな
といひけれど うけひかざらむものゆゑ ゆきかかりて むなしくかへらむうしろでもをこなるべしと くんじいたうていかず
よにしらずこころたかくおもへるに くにのうちはかみのゆかりのみこそはかしこきことにすめれど ひがめるこころはさらにさもおもはでとしつきをへけるに このきみかくておはすとききて ははぎみにかたらふやう
きりつぼ-の-かういのおほむ-はらの げんじのひかるきみこそ おほやけのおほむ-かしこまりにて すまのうらにものしたまふなれ あこのおほむ-すくせにて おぼエぬことのあるなり いかでかかるついでに このきみにをたてまつらむ
といふ はは
あな かたはや きやうのひとのかたるをきけば やむごとなきみめ-ども いとおほくもちたまひて そのあまり しのびしのびみかどのみめさへあやまちたまひて かくもさわがれたまふなるひとは まさにかくあやしきやまがつを こころとどめたまひてむや
といふ はらだちて
えしりたまはじ おもふこころことなり さるこころしたまへ ついでして ここにもおはしまさせむ
と こころをやりていふもかたくなしくみゆ まばゆきまでしつらひかしづきけり ははぎみ
などか めでたくとも もののはじめに つみにあたりてながされておはしたらむひとをしもおもひかけむ さてもこころをとどめたまふべくはこそあらめ たはぶれにてもあるまじきことなり
といふを いといたくつぶやく
つみにあたることは もろこしにもわがみかどにも かくよにすぐれ なにごともひとにことになりぬるひとの かならずあることなり いかにものしたまふきみぞ こ-はは-みやすむどころは おのがをぢにものしたまひしあぜち-の-だいなごんのおほむ-むすめなり いとかうさくなるなをとりて みやづかへにいだしたまへりしに こくわうすぐれてときめかしたまふこと ならびなかりけるほどに ひとのそねみおもくてうせたまひにしかど このきみのとまりたまへる いとめでたしかし をむなはこころたかくつかふべきものなり おのれ かかるゐなかびとなりとて おぼしすてじ
などいひゐたり
このむすめ すぐれたるかたちならねど なつかしうあてはかに こころばせあるさまなどぞ げに やむごとなきひとにおとるまじかりける みのありさまを くちをしきものにおもひしりて
たかきひとは われをなにのかずにもおぼさじ ほどにつけたるよをばさらにみじ いのちながくて おもふひとびとにおくれなば あまにもなりなむ うみのそこにもいりなむ
などぞおもひける
ちちぎみ ところせくおもひかしづきて としにふたたび すみよしにまうでさせけり かみのおほむ-しるしをぞ ひとしれずたのみおもひける

すまには としかへりて ひながくつれづれなるに うゑしわかぎのさくらほのかにさきそめて そらのけしきうららかなるに よろづのことおぼしいでられて うち-なきたまふをりおほかり
きさらぎのはつかあまり いにしとし きやうをわかれしとき こころぐるしかりしひとびとのおほむ-ありさまなど いとこひしく なでんのさくら さかりになりぬらむ ひととせのはなのえんに ゐんのみけしき うち-の-うへのいときよらになまめいて わがつくれるくをずじたまひしも おもひいできこエたまふ
いつとなくおほみやびとのこひしきに
さくらかざししけふもきにけり
いとつれづれなるに おほいどののさむゐ-の-ちゆうじやうは いまはさいしやうになりて ひとがらのいとよければ ときよのおぼエおもくてものしたまへど よのなかあはれにあぢきなく もののをりごとにこひしくおぼエたまへば ことのきこエありてつみにあたるともいかがはせむ とおぼしなして にはかにまうでたまふ
うち-みるより めづらしううれしきにも ひとつなみだぞこぼれける
すまひたまへるさま いはむかたなくからめいたり ところのさま ゑにかきたらむやうなるに たけあめるかきしわたして いしのはし まつのはしら おろそかなるものから めづらかにをかし
やまがつめきて ゆるしいろのきがちなるに あをにびのかりぎぬ さしぬき うち-やつれて ことさらにいなかびもてなしたまへるしも いみじう みるにゑまれてきよらなり
とりつかひたまへるてうども かりそめにしなして おましどころもあらはにみいれらる ご すぐろくばん てうど たぎのぐなど ゐなかわざにしなして ねんずのぐ おこなひつとめたまひけりとみエたり ものまゐれるなど ことさらところにつけ きようありてしなしたり
あま-どもあさりして かひつものもてまゐれるを めしいでてごらんず うらにとしふるさまなどとはせたまふに さまざまやすげなきみのうれへをまうす そこはかとなくさへづるも こころのゆくへはおなじこと なにかことなると あはれにみたまふ おほむ-ぞ-どもなどかづけさせたまふを いけるかひありとおもへり おほむ-むま-どもちかうたてて みやりなるくらかなにぞなるいねとりいでてかふなど めづらしうみたまふ
あすかゐすこしうたひて つきごろのおほむ-ものがたり なきみわらひみ
わかぎみのなにともよをおぼさでものしたまふかなしさを おとどのあけくれにつけておぼしなげく
などかたりたまふに たへがたくおぼしたり つきすべくもあらねば なかなかかたはしもえまねばず
よもすがらまどろまず ふみつくりあかしたまふ さいひながらも もののきこエをつつみて いそぎかへりたまふ いとなかなかなり おほむ-かはらけまゐりて
ゑひのかなしびなみだそそくはるのさかづきのうち
と もろごゑにずじたまふ おほむ-とものひともなみだをながす おのがじし はつかなるわかれをしむべかめり
あさぼらけのそらにかりつれてわたる あるじ-の-きみ
ふるさとをいづれのはるかゆきてみむ
うらやましきはかへるかりがね
さいしやう さらにたちいでむここちせで
あかなくにかりのとこよをたちわかれ
はなのみやこにみちやまどはむ
さるべきみやこのつとなど よしあるさまにてあり あるじ-の-きみ かくかたじけなきおほむ-おくりにとて くろこまたてまつりたまふ
ゆゆしうおぼされぬべけれど かぜにあたりては いばエぬべければなむ
とまうしたまふ よにありがたげなるおほむ-むまのさまなり
かたみにしのびたまへ
とて いみじきふえのなありけるなどばかり ひととがめつべきことは かたみにえしたまはず
ひやうやうさしあがりて こころあわたたしければ かへりみのみしつついでたまふを みおくりたまふけしき いとなかなかなり
いつまたたいめんは
とまうしたまふに あるじ
くもちかくとびかふたづもそらにみよ
われははるひのくもりなきみぞ
かつはたのまれながら かくなりぬるひと むかしのかしこきひとだに はかばかしうよにまたまじらふことかたくはべりければ なにか みやこのさかひをまたみむとなむおもひはべらぬ
などのたまふ さいしやう
たづかなきくもゐにひとりねをぞなく
つばさならべしともをこひつつ
かたじけなくなれきこエはべりて いとしもとくやしうおもひたまへらるるをりおほく
など しめやかにもあらでかへりたまひぬるなごり いとどかなしうながめくらしたまふ

やよひのついたちにいできたるみのひ
けふなむ かくおぼすことあるひとは みそぎしたまふべき
と なま-さかしきひとのきこゆれば うみづらもゆかしうていでたまふ いとおろそかに ぜんじやうばかりをひきめぐらして このくににかよひけるおみやうじめして はらへせさせたまふ ふねにことことしきひとかたのせてながすをみたまふに よそへられて
しらざりしおほうみのはらにながれきて
ひとかたにやはものはかなしき
とて ゐたまへるおほむ-さま さるはれにいでて いふよしなくみエたまふ
うみのおもてうらうらとなぎわたりて ゆくへもしらぬに こしかたゆくさきおぼしつづけられて
やほよろづかみもあはれとおもふらむ
をかせるつみのそれとなければ
とのたまふに にはかにかぜふきいでて そらもかき-くれぬ おほむ-はらへもしはてず たち-さわぎたり ひぢかさあめとかふりきて いとあわたたしけrば みなかへりたまはむとするに かさもとりあへず さるこころもなきに よろづふきちらし またなきかぜなり なみいといかめしうたちて ひとびとのあしをそらなり うみのおもては ふすまをはりたらむやうにひかりみちて かみなりひらめく おちかかるここちして からうしてたどりきて
かかるめはみずもあるかな
かぜなどはふくも けしきづきてこそあれ あさましうめづらかなり
とまどふに なほやまずなりみちて あめのあしあたるところ とほりぬべく はらめきおつ かくてよはつきぬるにやと こころぼそくおもひまどふに きみは のどやかにきやううち-ずじておはす
くれぬれば かみすこしなりやみて かぜぞ よるもふく
おほくたてつるぐわんのちからなるべし
いましばし かくあらば なみにひかれていりぬべかりけり
たかしほといふものになむ とりあへずひとそこなはるるとはきけど いと かかることは まだしらず
といひあへり
あかつきがた みなうち-やすみたり きみもいささかねいりたまへれば そのさまともみエぬひときて
など みやよりめしあるにはまゐりたまはぬ
とて たどりありくとみるに おどろきて さは うみのなかのりうわうの いといたうもの-めでするものにて みいれたるなりけり とおぼすに いともの-むつかしう このすまひたへがたくおぼしなりぬ

なほあめかぜやまず かみなりしづまらで ひごろになりぬ いとどもの-わびしきこと かずしらず きしかたゆくさき かなしきおほむ-ありさまに こころづようしもえおぼしなさず いかにせまし かかりとて みやこにかへらむことも まだよにゆるされもなくては ひとわらはれなることこそまさらめ なほ これよりふかきやまをもとめてや あとたエなまし とおぼすにも なみかぜにさわがれてなど ひとのいひつたへむこと のちのよまで いとかろがろしきなやながしはてむ とおぼしみだる
ゆめにも ただおなじさまなるもののみきつつ まつはしきこゆとみたまふ くもまなくて あけくるるひかずにそへて きやうのかたもいとどおぼつかなく かくながらみをはふらかしつるにやと こころぼそうおぼせど かしらさし-いづべくもあらぬそらのみだれに いでたちまゐるひともなし
にでうのゐんよりぞ あながちにあやしきすがたにて そほちまゐれる みちかひにてだに ひとかなにぞとだにごらんじわくべくもあらず まづおひはらひつべきしづのをの むつましうあはれにおぼさるるも われながらかたじけなく くしにけるこころのほどおもひしらる おほむ-ふみに
あさましくをやみなきころのけしきに いとどそらさへとづるここちして ながめやるかたなくなむ
うらかぜやいかにふくらむおもひやる
そでうち-ぬらしなみまなきころ
あはれにかなしきこと-どもかきあつめたまへり いとどみぎはまさりぬべく かき-くらすここちしたまふ
きやうにも このあめかぜ あやしきもののさとしなりとて にんわうゑなどおこなはるべしとなむきこエはべりし うちにまゐりたまふかむだちめなども すべてみちとぢて まつりごともたエてなむはべる
など はかばかしうもあらず かたくなしうかたりなせど きやうのかたのこととおぼせばいぶかしうて おまへにめしいでて とはせたまふ
ただ れいのあめのをやみなくふりて かぜはときどきふきいでて ひごろになりはべるを れいならぬことにおどろきはべるなり いとかく ちのそことほるばかりのひふり いかづちのしづまらぬことははべらざりき
など いみじきさまにおどろきをぢてをるかほのいとからきにも こころぼそさまさりける

かくしつつよはつきぬべきにや とおぼさるるに そのまたのひのあかつきより かぜいみじうふき しほたかうみちて なみのおとあらきこと いはほもやまものこるまじきけしきなり かみのなりひらめくさま さらにいはむかたなくて おちかかりぬ とおぼゆるに あるかぎりさかしきひとなし
われはいかなるつみををかして かくかなしきめをみるらむ ちちははにもあひみず かなしきめこのかほをもみで しぬべきこと
となげく きみはみこころをしづめて なにばかりのあやまちにてか このなぎさにいのちをばきはめむと つようおぼしなせど いともの-さわがしければ いろいろのみてぐらささげさせたまひて
すみよし-の-かみ ちかきさかひをしづめまもりたまふ まことにあとをたれたまふかみならば たすけたまへ
と おほくのだいぐわんをたてたまふ おのおのみづからのいのちをば さるものにて かかるおほむ-みのまたなきれいにしづみたまひぬべきことのいみじうかなしき こころをおこして すこしものおぼゆるかぎりは みにかへてこのおほむ-みひとつをすくひたてまつらむと とよみて もろごゑにほとけ かみをねんじたてまつる
ていわうのふかきみやにやしなはれたまひて いろいろのたのしみにおごりたまひしかど ふかきおほむ-うつくしみ おほやしまにあまねく しづめるともがらをこそおほくうかべたまひしか いま なにのむくイにか ここらよこさまなるなみかぜにはおぼほれたまはむ あめつち ことわりたまへ つみなくてつみにあたり つかさ くらゐをとられ いへをはなれ さかひをさりて あけくれやすきそらなく なげきたまふに かくかなしきめをさへみ いのちつきなむとするは さきのよのむくイか このよのをかしか かみ ほとけ あきらかにましまさば このうれへやすめたまへ
と みやしろのかたをむきて さまざまのぐわんをたてたまふ
また うみのなかのりうわう よろづのかみ-たちにぐわんをたてさせたまふに いよいよなりとどろきて おはしますにつづきたるらうにおちかかりぬ ほのほもエあがりて らうはやけぬ こころたましひなくて あるかぎりまどふ うしろのかたなるおほひどのとおぼしきやにうつしたてまつりて かみしもとなくたち-こみて いとらうがはしくなきとよむこゑ いかづちにもおとらず そらはすみをすりたるやうにて ひもくれにけり

やうやうかぜなほり あめのあししめり ほしのひかりもみゆるに このおましどころのいとめづらかなるも いとかたじけなくて しんでんにかへしうつしたてまつらむとするに
やけのこりたるかたもうとましげに そこらのひとのふみとどろかしまどへるに みすなどもみなふきちらしてけり
よをあかしてこそは
とたどりあへるに きみはおほむ-ねんずしたまひて おぼしめぐらすに いとこころあわたたし
つきさし-いでて しほのちかくみちきけるあともあらはに なごりなほよせかへるなみあらきを しばのとおしあけて ながめおはします ちかきせかいに もののこころをしり きしかたゆくさきのことうち-おぼエ とやかくやとはかばかしうさとるひともなし あやしきあま-どもなどの たかきひとおはするところとて あつまりまゐりて ききもしりたまはぬこと-どもをさへづりあへるも いとめづらかなれど えおひもはらはず
このかぜ いましばしやまざらましかば しほのぼりてのこるところなからまし かみのたすけおろかならざりけり
といふをききたまふも いとこころぼそしといへばおろかなり
うみにますかみのたすけにかからずは
しほのやほあひにさすらへなまし
ひねもすにいりもみつるかみのさわぎに さこそいへ いたうこうじたまひにければ こころにもあらずうち-まどろみたまふ かたじけなきおましどころなれば ただよりゐたまへるに こ-ゐん ただおはしまししさまながらたちたまひて
など かくあやしきところにものするぞ
とて おほむ-てをとりてひきたてたまふ
すみよし-の-かみのみちびきたまふままには はやふなでして このうらをさりね
とのたまはす いとうれしくて
かしこきみかげにわかれたてまつりにしこなた さまざまかなしきことのみおほくはべれば いまはこのなぎさにみをやすてはべりなまし
ときこエたまへば
いとあるまじきこと これは ただいささかなるもののむくイなり われは くらゐにありしとき あやまつことなかりしかど おのづからをかしありければ そのつみををふるほどいとまなくて このよをかへりみざりつれど いみじきうれへにしづむをみるに たへがたくて うみにいり なぎさにのぼり いたくこうじにたれど かかるついでにうちにそうすべきことのあるによりなむ いそぎのぼりぬる
とて たちさりたまひぬ
あかずかなしくて おほむ-ともにまゐりなむ となきいりたまひて みあげたまへれば ひともなく つきのかほのみきらきらとして ゆめのここちもせず おほむ-けはひとまれるここちして そらのくもあはれにたなびけり
としごろ ゆめのうちにもみたてまつらで こひしうおぼつかなきおほむ-さまを ほのかなれど さだかにみたてまつりつるのみ おもかげにおぼエたまひて われかくかなしびをきはめ いのちつきなむとしつるを たすけにかけりたまへると あはれにおぼすに よくぞかかるさわぎもありけると なごりたのもしう うれしうおぼエたまふこと かぎりなし
むねつとふたがりて なかなかなるみこころまどひに うつつのかなしきこともうち-わすれ ゆめにもおほむ-いらへをいますこしきこエずなりぬること といぶせさに またやみエたまふと ことさらにねいりたまへど さらにおほむ-めもあはで あかつきがたになりにけり

なぎさにちひさやかなるふねよせて ひとに さむにんばかり このたびのおほむ-やどりをさしてまゐる なにびとならむととへば
あかしのうらより さきのかみしぼちの みふねよそひてまゐれるなり げん-せうなごん さぶらひたまはば たいめんして ことのこころとりまうさむ
といふ よしきよ おどろきて
にふだうは かのくにのとくいにて としごろあひかたらひはべりつれど わたくしに いささかあひうらむることはべりて ことなるせうそこをだにかよはさで ひさしうなりはべりぬるを なみのまぎれに いかなることかあらむ
と おぼめく きみの おほむ-ゆめなどもおぼしあはすることもありて はやあへ とのたまへば ふねにいきてあひたり さばかりはげしかりつるなみかぜに いつのまにかふなでしつらむと こころえがたくおもへり
いぬるついたちのひ ゆめにさまことなるもののつげしらすることはべりしかば しんじがたきこととおもうたまへしかど じふさむにちにあらたなるしるしみせむ ふねよそひまうけて かならず あめかぜやまば このうらにをよせよと かねてしめすことのはべりしかば こころみにふねのよそひをまうけてまちはべりしに いかめしきあめ かぜ いかづちのおどろかしはべりつれば ひとのみかどにも ゆめをしんじてくにをたすくるたぐひおほうはべりけるを もちゐさせたまはぬまでも このいましめのひをすぐさず このよしをつげまうしはべらむとて ふねいだしはべりつるに あやしきかぜほそうふきて このうらにつきはべること まことにかみのしるべたがはずなむ ここにも もししろしめすことやはべりつらむ とてなむ いとはばかりおほくはべれど このよし まうしたまへ
といふ よしきよ しのびやかにつたへまうす
きみ おぼしまはすに ゆめうつつさまざましづかならず さとしのやうなること-どもを きしかたゆくすゑおぼしあはせて
よのひとのききつたへむのちのそしりもやすからざるべきをはばかりて まことのかみのたすけにもあらむを そむくものならば またこれよりまさりて ひとわらはれなるめをやみむ うつつざまのひとのこころだになほくるし はかなきことをもつつみて われよりよはひまさり もしはくらゐたかく ときよのよせいまひときはまさるひとには なびきしたがひて そのこころむけをたどるべきものなりけり しりぞきてとがなしとこそ むかし さかしきひともいひおきけれ げに かくいのちをきはめ よにまたなきめのかぎりをみつくしつ さらにのちのあとのなをはぶくとても たけきこともあらじ ゆめのなかにもちち-みかどのおほむ-をしへありつれば またなにごとかうたがはむ
とおぼして おほむ-かへりのたまふ
しらぬせかいに めづらしきうれへのかぎりみつれど みやこのかたよりとて こととひおこするひともなし ただゆくへなきそらのつきひのひかりばかりを ふるさとのともとながめはべるに うれしきつりぶねをなむ かのうらに しづやかにかくろふべきくまはべりなむや
とのたまふ かぎりなくよろこび かしこまりまうす
ともあれかくもあれ よのあけはてぬさきにおほむ-ふねにたてまつれ
とて れいのしたしきかぎり し ごにんばかりして たてまつりぬ
れいのかぜいできて とぶやうにあかしにつきたまひぬ ただはひわたるほどにかたときのまといへど なほあやしきまでみゆるかぜのこころなり

はまのさま げにいとこころことなり ひとしげうみゆるのみなむ おほむ-ねがひにそむきける にふだうのりやうじめたるところどころ うみのつらにもやまがくれにも ときどきにつけて きようをさかすべきなぎさのとまや おこなひをしてのちのよのことをおもひすましつべきやまみづのつらに いかめしきだうをたててさむまいをおこなひ このよのまうけに あきのたのみをかりをさめ のこりのよはひつむべきいねのくらまち-どもなど をりをり ところにつけたるみどころありてしあつめたり
たかしほにおぢて このころ むすめなどはをかべのやどにうつしてすませければ このはまのたちにこころやすくおはします
ふねよりおほむ-くるまにたてまつりうつるほど ひやうやうさし-あがりて ほのかにみたてまつるより おイわすれ よはひのぶるここちして ゑみさかエて まづすみよし-の-かみを かつがつをがみたてまつる つきひのひかりをてにえたてまつりたるここちして いとなみつかうまつること ことわりなり
ところのさまをばさらにもいはず つくりなしたるこころばへ こだち たていし せんさいなどのありさま えもいはぬいりえのみづなど ゑにかかば こころのいたりすくなからむゑしはかきおよぶまじとみゆ つきごろのおほむ-すまひよりは こよなくあきらかに なつかしき おほむ-しつらひなど えならずして すまひけるさまなど げにみやこのやむごとなきところどころにことならず えんにまばゆきさまは まさりざまにぞみゆる

すこしみこころしづまりては きやうのおほむ-ふみ-どもきこエたまふ まゐれりしつかひは いまは
いみじきみちにいでたちてかなしきめをみる
となきしづみて あのすまにとまりたるをめして みにあまれるもの-どもおほくたまひてつかはす むつましきおほむ-いのりのし-ども さるべきところどころには このほどのおほむ-ありさま くはしくいひつかはすべし
にふだう-の-みやばかりには めづらかにてよみがへるさまなどきこエたまふ にでう-の-ゐんのあはれなりしほどのおほむ-かへりは かきもやりたまはず うち-おきうち-おき おし-のごひつつきこエたまふみけしき なほことなり
かへすがへすいみじきめのかぎりをつくしはてつるありさまなれば いまはとよをおもひはなるるこころのみまさりはべれど かがみをみてもとのたまひしおもかげのはなるるよなきを かくおぼつかなながらやと ここらかなしきさまざまのうれはしさは さしおかれて
はるかにもおもひやるかなしらざりし
うらよりをちにうらづたひして
ゆめのうちなるここちのみして さめはてぬほど いかにひがことおほからむ
と げに そこはかとなくかきみだりたまへるしもぞ いとみまほしきそばめなるを いとこよなきみこころざしのほどと ひとびとみたてまつる
おのおの ふるさとにこころぼそげなることづてすべかめり
をやみなかりしそらのけしき なごりなくすみわたりて あさりするあま-どもほこらしげなり すまはいとこころぼそく あまのいはやもまれなりしを ひとしげきいとひはしたまひしかど ここはまた さまことにあはれなることおほくて よろづにおぼしなぐさまる

あかし-の-にふだう おこなひつとめたるさま いみじうおもひすましたるを ただこのむすめひとりをもて-わづらひたるけしき いとかたはらいたきまで ときどきもらしうれへきこゆ みここちにも をかしとききおきたまひしひとなれば かくおぼエなくてめぐりおはしたるも さるべきちぎりあるにや とおぼしながら なほ かうみをしづめたるほどは おこなひよりほかのことはおもはじ みやこのひとも ただなるよりは いひしにたがふとおぼさむも こころはづかしうおぼさるれば けしき-だちたまふことなし ことにふれて こころばせ ありさま なべてならずもありけるかなと ゆかしうおぼされぬにしもあらず
ここにはかしこまりて みづからもをさをさまゐらず ものへだたりたるしものやにさぶらふ さるは あけくれみたてまつらまほしう あかずおもひきこエて おもふこころをかなへむと ほとけ かみをいよいよねんじたてまつる
としはろくじふばかりになりたれど いときよげにあらまほしう おこなひさらぼひて ひとのほどのあてはかなればにやあらむ うち-ひがみほれぼれしきことはあれど いにしへのことをもしりて もの-きたなからず よしづきたることもまじれれば むかしものがたりなどせさせてききたまふに すこしつれづれのまぎれなり
としごろ おほやけわたくしおほむ-いとまなくて さしもききおきたまはぬよのふること-どもくづしいでて かかるところをもひとをも みざらましかば さうざうしくや とまで きようありとおぼすこともまじる
かうはなれきこゆれど いとけだかうこころはづかしきおほむ-ありさまに さこそいひしか つつましうなりて わがおもふことはこころのままにもえうち-いできこエぬを こころもとなう くちをしと ははぎみといひあはせてなげく
さうじみは おしなべてのひとだに めやすきはみエぬせかいに よにはかかるひともおはしけり とみたてまつりしにつけて みのほどしられて いとはるかにぞおもひきこエける おや-たちのかくおもひあつかふをきくにも にげなきことかな とおもふに ただなるよりはものあはれなり

しぐわちになりぬ ころもがへのおほむ-さうぞく みちやうのかたびらなど よしあるさまにしいでつつ よろづにつかうまつりいとなむを いとほしう すずろなりとおぼせど ひとざまのあくまでおもひあがりたるさまのあてなるに おぼしゆるしてみたまふ
きやうよりも うち-しきりたるおほむ-とぶらひ-ども たゆみなくおほかり のどやかなるゆふづくよに うみのうへくもりなくみエわたれるも すみなれたまひしふるさとのいけみづ おもひまがへられたまふに いはむかたなくこひしきこと いづかたとなくゆくへなきここちしたまひて ただめのまへにみやらるるはあはぢしまなりけり
あはと はるかになどのたまひて
あはとみるあはぢのしまのあはれさへ
のこるくまなくすめるよのつき
ひさしうてふれたまはぬきんを ふくろよりとりいでたまひて はかなくかき-ならしたまへるおほむ-さまを みたてまつるひともやすからず あはれにかなしうおもひあへり
くわうりやうといふてを あるかぎりひきすましたまへるに かのをかべのいへも まつのひびきなみのおとにあひて こころばせあるわかうどはみにしみておもふべかめり なにともききわくまじきこのもかのものしはふるひと-どもも すずろはしくて はまかぜをひきありく

にふだうもえたへで くやうほふたゆみて いそぎまゐれり
さらに そむきにしよのなかもとりかへしおもひいでぬべくはべり のちのよにねがひはべるところのありさまも おもうたまへやらるるよのさまかな
となく-なく めできこゆ
わがみこころにも をりをりのおほむ-あそび そのひとかのひとのことふえ もしはこゑのいでしさまに ときどきにつけて よにめでられたまひしありさま みかどよりはじめたてまつりて もて-かしづきあがめたてまつりたまひしを ひとのうへもわがおほむ-みのありさまも おぼしいでられて ゆめのここちしたまふままに かき-ならしたまへるこゑも こころすごくきこゆ
ふるひとはなみだもとどめあへず をかべに びわ しやうのこととりにやりて にふだう びわのほふしになりて いとをかしうめづらしきてひとつふたつひきたり
しやうのおほむ-ことまゐりたれば すこしひきたまふも さまざまいみじうのみおもひきこエたり いと さしもきこエぬもののねだに をりからこそはまさるものなるを はるばるともののとどこほりなきうみづらなるに なかなか はるあきのはなもみぢのさかりなるよりは ただそこはかとなうしげれるかげ-ども なまめかしきに くひなのうち-たたきたるは たがかどさしてと あはれにおぼゆ
ねもいとになういづること-どもを いとなつかしうひき-ならしたるも みこころとまりて
これは をむなのなつかしきさまにてしどけなうひきたるこそ をかしけれ
と おほかたにのたまふを にふだうはあいなくうち-ゑみて
あそばすよりなつかしきさまなるは いづこのかはべらむ なにがし えんぎのおほむ-てよりひきつたへたること しだいになむなりはべりぬるを かうつたなきみにて このよのことはすてわすれはべりぬるを もののせちにいぶせきをりをりは かき-ならしはべりしを あやしう まねぶもののはべるこそ じねんにかのせんだいわうのおほむ-てにかよひてはべれ やまぶしのひがみみに まつかぜをききわたしはべるにやあらむ いかで これもしのびてきこしめさせてしがな
ときこゆるままに うち-わななきて なみだおとすべかめり
きみ
ことをことともききたまふまじかりけるあたりに ねたきわざかな
とて おしやりたまふに
あやしう むかしよりしやうは をむななむひきとるものなりける さがのおほむ-つたへにて をむな-ご-の-みや さるよのなかのじやうずにものしたまひけるを そのおほむ-すぢにて とり-たててつたふるひとなし すべて ただいまになをとれるひとびと かき-なでのこころやりばかりにのみあるを ここにかうひきこめたまへりける いときようありけることかな いかでかは きくべき
とのたまふ
きこしめさむには なにのはばかりかはべらむ おまへにめしても あきうどのなかにてだにこそ ふることききはやすひとは はべりけれ びわなむ まことのねをひきしづむるひと いにしへもかたうはべりしを をさをさとどこほることなうなつかしきてなど すぢことになむ いかでたどるにかはべらむ あらきなみのこゑにまじるは かなしくもおもうたまへられながら かき-つむるもの-なげかしさ まぎるるをりをりもはべり
などすきゐたれば をかしとおぼして しやうのこととりかへてたまはせたり
げに いとすぐしてかい-ひきたり いまのよにきこエぬすぢひきつけて てづかひいといたうからめき ゆのねふかうすましたり いせのうみならねど きよきなぎさにかひやひろはむなど こゑよきひとにうたはせて われもときどきひやうしとりて こゑうち-そへたまふを ことひきさしつつ めできこゆ おほむ-くだものなど めづらしきさまにてまゐらせ ひとびとにさけしひそしなどして おのづからものわすれしぬべきよのさまなり

いたくふけゆくままに はまかぜすずしうて つきもいりがたになるままに すみまさり おほむ-ものがたりのこりなくきこエて このうらにすみはじめしほどのこころづかひ のちのよをつとむるさま かき-くづしきこエて このむすめのありさま とはずがたりにきこゆ をかしきものの さすがにあはれとききたまふふしもあり
いととりまうしがたきことなれど わがきみ かうおぼエなきせかいに かりにても うつろひおはしましたるは もしとしごろおイほふしのいのりまうしはべるかみほとけのあはれびおはしまして しばしのほど みこころをもなやましたてまつるにやとなむおもうたまふる
そのゆゑは すみよし-の-かみをたのみはじめたてまつりて このじふはちねんになりはべりぬ めのわらはいときなうはべりしより おもふこころはべりて としごとのはるあきごとに かならずかのみやしろにまゐることなむはべる ひるよるのろくじのつとめに みづからのはちすのうへのねがひをば さるものにて ただこのひとをたかきほいかなへたまへと なむねんじはべる
さきのよのちぎりつたなくてこそ かくくちをしきやまがつとなりはべりけめ おや だいじんのくらゐをたもちたまへりき みづからかくゐなかのたみとなりにてはべり つぎつぎ さのみおとりまからば なにのみにかなりはべらむと かなしくおもひはべるを これは むまれしときよりたのむところなむはべる いかにしてみやこのたかきひとにたてまつらむとおもふこころ ふかきにより ほどほどにつけて あまたのひとのそねみをおひ みのためからきめをみるをりをりもおほくはべれど さらにくるしみとおもひはべらず いのちのかぎりはせばきころもにもはぐくみはべりなむ かくながらみすてはべりなば なみのなかにもまじりうせね となむおきてはべる
など すべてまねぶべくもあらぬこと-どもを うち-なきうち-なききこゆ
きみも ものをさまざまおぼしつづくるをりからは うち-なみだぐみつつきこしめす
よこさまのつみにあたりて おもひかけぬせかいにただよふも なにのつみにかとおぼつかなくおもひつる こよひのおほむ-ものがたりにききあはすれば げにあさからぬさきのよのちぎりにこそはと あはれになむ などかは かくさだかにおもひしりたまひけることを いままではつげたまはざりつらむ みやこはなれしときより よのつねなきもあぢきなう おこなひよりほかのことなくてつきひをふるに こころもみなくづほれにけり かかるひとものしたまふとは ほの-ききながら いたづらびとをばゆゆしきものにこそおもひすてたまふらめと おもひくしつるを さらばみちびきたまふべきにこそあなれ こころぼそきひとりねのなぐさめにも
などのたまふを かぎりなくうれしとおもへり
ひとりねはきみもしりぬやつれづれと
おもひあかしのうらさびしさを
ましてとしつきおもひたまへわたるいぶせさを おしはからせたまへ
ときこゆるけはひ うち-わななきたれど さすがにゆゑなからず
されど うらなれたまへらむひとは とて
たびごろもうらがなしさにあかしかね
くさのまくらはゆめもむすばず
と うち-みだれたまへるおほむ-さまは いとぞあいぎやうづき いふよしなきおほむ-けはひなる かずしらぬこと-どもきこエつくしたれど うるさしや ひがこと-どもにかきなしたれば いとど をこにかたくなしきにふだうのこころばへも あらはれぬべかめり

おもふこと かつがつかなひぬるここちして すずしうおもひゐたるに またのひのひるつかた をかべにおほむ-ふみつかはす こころはづかしきさまなめるも なかなか かかるもののくまにぞ おもひのほかなることもこもるべかめると こころづかひしたまひて こまのくるみいろのかみに えならずひき-つくろひて
をちこちもしらぬくもゐにながめわび
かすめしやどのこずゑをぞとふ
おもふには
とばかりやありけむ
にふだうも ひとしれずまちきこゆとて かのいへにきゐたりけるもしるければ おほむ-つかひいとまばゆきまでゑはす
おほむ-かへり いとひさし うちにいりてそそのかせど むすめはさらにきかず はづかしげなるおほむ-ふみのさまに さし-いでむてつきも はづかしうつつまし ひとのおほむ-ほど わがみのほどおもふに こよなくて ここちあしとてよりふしぬ
いひわびて にふだうぞかく
いとかしこきは ゐなかびてはべるたもとに つつみあまりぬるにや さらにみたまへも およびはべらぬかしこさになむ さるは
ながむらむおなじくもゐをながむるは
おもひもおなじおもひなるらむ
となむみたまふる いとすきずきしや
ときこエたり みちのくがみに いたうふるめきたれど かきざまよしばみたり げにも すきたるかなと めざましうみたまふ おほむ-つかひに なべてならぬたまもなどかづけたり
またのひ
せんじがきは みしらずなむ とて
いぶせくもこころにものをなやむかな
やよやいかにととふひともなみ
いひがたみ
と このたびは いといたうなよびたるうすやうに いとうつくしげにかきたまへり わかきひとのめでざらむも いとあまりむもれいたからむ めでたしとはみれど なずらひならぬみのほどの いみじうかひなければ なかなか よにあるものと たづねしりたまふにつけて なみだぐまれて さらにれいのどうなきを せめていはれて あさからずしめたるむらさきのかみに すみつきこくうすくまぎらはして
おもふらむこころのほどややよいかに
まだみぬひとのききかなやまむ
てのさま かきたるさまなど やむごとなきひとにいたうおとるまじう じやうずめきたり
きやうのことおぼエて をかしとみたまへど うちしきりてつかはさむも ひとめつつましければ ふつか みかへだてつつ つれづれなるゆふぐれ もしは もの-あはれなるあけぼのなどやうにまぎらはして をりをり おなじこころにみしりぬべきほどおしはかりて かきかはしたまふに にげなからず
こころふかうおもひ-あがりたるけしきも みではやまじとおぼすものから よしきよがらうじていひしけしきもめざましう としごろこころつけてあらむを めのまへにおもひたがへむもいとほしうおぼしめぐらされて ひとすすみまゐらば さるかたにても まぎらはしてむ とおぼせど をむなはた なかなかやむごとなききはのひとよりも いたうおもひあがりて ねたげにもてなしきこエたれば こころくらべにてぞすぎける
きやうのことを かくせきへだたりては いよいよおぼつかなくおもひきこエたまひて いかにせまし たはぶれにくくもあるかな しのびてやむかへたてまつりてましと おぼしよわるをりをりあれど さりとも かくてやは としをかさねむと いまさらにひとわろきことをばと おぼししづめたり

そのとし おほやけに もののさとししきりて もの-さわがしきことおほかり やよひのじふさむにち かみなりひらめき あめかぜさわがしきよる みかどのおほむ-ゆめに ゐん-の-みかど おまへのみはしのもとにたたせたまひて みけしきいとあしうて にらみきこエさせたまふを かしこまりておはします きこエさせたまふこともおほかり げんじのおほむ-ことなりけむかし
いとおそろしう いとほしとおぼして きさきにきこエさせたまひければ
あめなどふり そらみだれたるよるは おもひなしなることはさぞはべる かろがろしきやうに おぼしおどろくまじきこと
ときこエたまふ
にらみたまひしに めみあはせたまふとみしけにや おほむ-めわづらいたまひて たへがたうなやみたまふ おほむ-つつしみ うちにもみやにもかぎりなくせさせたまふ
おほきおとどうせたまひぬ ことわりのおほむ-よはひなれど つぎつぎにおのづからさわがしきことあるに おほみやもそこはかとなうわづらひたまひて ほどふればよわりたまふやうなる うちにおぼしなげくこと さまざまなり
なほ このげんじ-の-きみ まことにをかしなきにてかくしづむならば かならずこのむくイありなむとなむおぼエはべる いまは なほもとのくらゐをもたまひてむ
とたびたびおぼしのたまふを
よのもどき かろがろしきやうなるべし つみにおぢてみやこをさりしひとを さむねんをだにすぐさずゆるされむことは よのひともいかがいひつたへはべらむ
など きさきかたくいさめたまふに おぼしはばかるほどにつきひかさなりて おほむ-なやみ-ども さまざまにおもりまさらせたまふ

あかしには れいの あき はまかぜのことなるに ひとりねもまめやかにもの-わびしうて にふだうにもをりをりかたらはせたまふ
とかくまぎらはして こちまゐらせよ
とのたまひて わたりたまはむことをばあるまじうおぼしたるを さうじみはた さらにおもひたつべくもあらず
いとくちをしききはのゐなかびとこそ かりにくだりたるひとのうちとけごとにつきて さやうにかろらかにかたらふわざもすなれ ひとかずにもおぼされざらむものゆゑ われはいみじきものおもひをやそへむ かくおよびなきこころをおもへるおやたちも よごもりてすぐすとしつきこそ あいなだのみに ゆくすゑこころにくくおもふらめ なかなかなるこころをやつくさむ とおもひて ただこのうらにおはせむほど かかるおほむ-ふみばかりをきこエかはさむこそ おろかならね としごろおとにのみききて いつかはさるひとのおほむ-ありさまをほのかにもみたてまつらむなど おもひかけざりしおほむ-すまひにて まほならねどほのかにもみたてまつり よになきものとききつたへしおほむ-ことのねをもかぜにつけてきき あけくれのおほむ-ありさまおぼつかなからで かくまでよにあるものとおぼしたづぬるなどこそ かかるあまのなかにくちぬるみにあまることなれ
などおもふに いよいよはづかしうて つゆもけぢかきことはおもひよらず
おやたちは ここらのとしごろのいのりのかなふべきをおもひながら
ゆくりかにみせたてまつりて おぼしかずまへざらむとき いかなるなげきをかせむ
とおもひやるに ゆゆしくて
めでたきひとときこゆとも つらういみじうもあるべきかな めにもみエぬほとけ かみをたのみたてまつりて ひとのみこころをも すくせをもしらで
など うち-かへしおもひみだれたり きみは
このころのなみのおとに かのもののねをきかばや さらずは かひなくこそ
など つねはのたまふ

しのびてよろしきひみて ははぎみのとかくおもひわづらふをききいれず でし-どもなどにだにしらせず こころひとつにたちゐ かかやくばかりしつらひて じふさむにちのつきのはなやかにさし-いでたるに ただあたらよのときこエたり
きみは すきのさまや とおぼせど おほむ-なほしたてまつりひき-つくろひて よふかしていでたまふ みくるまはになくつくりたれど ところせしとて おほむ-むまにていでたまふ これみつなどばかりをさぶらはせたまふ ややとほくいるところなりけり みちのほども よものうらうらみわたしたまひて おもふどちみまほしきいりえのつきかげにも まづこひしきひとのおほむ-ことをおもひいできこエたまふに やがてむまひき-すぎて おもむきぬべくおぼす
あきのよのつきげのこまよわがこふる
くもゐをかけれときのまもみむ
と うち-ひとりごたれたまふ
つくれるさま こぶかく いたきところまさりて みどころあるすまひなり うみのつらはいかめしうおもしろく これはこころぼそくすみたるさま ここにゐて おもひのこすことはあらじと おぼしやらるるに もの-あはれなり さむまいだうちかくて かねのこゑ まつかぜにひびきあひて もの-かなしう いはにおひたるまつのねざしも こころばへあるさまなり せんさい-どもにむしのこゑをつくしたり ここかしこのありさまなどごらんず むすめすませたるかたは こころことにみがきて つきいれたるまきのとぐち けしきばかりおし-あけたり
うち-やすらひ なにかとのたまふにも かうまではみエたてまつらじ とふかうおもふに もの-なげかしうて うちとけぬこころざまを こよなうもひとめきたるかな さしもあるまじききはのひとだに かばかりいひよりぬれば こころづようしもあらずならひたりしを いとかくやつれたるに あなづらはしきにや とねたう さまざまにおぼしなやめり なさけなうおしたたむも ことのさまにたがへり こころくらべにまけむこそ ひとわろけれ など みだれうらみたまふさま げにものおもひしらむひとにこそみせまほしけれ
ちかききちやうのひもに さうのことのひき-ならされたるも けはひしどけなく うちとけながらかき-まさぐりけるほどみエてをかしければ
この ききならしたることをさへや
など よろづにのたまふ
むつごとをかたりあはせむひともがな
うきよのゆめもなかばさむやと
あけぬよにやがてまどへるこころには
いづれをゆめとわきてかたらむ
ほのかなるけはひ いせ-の-みやすむどころにいとようおぼエたり なにごころもなくうちとけてゐたりけるを かうものおぼエぬに いとわりなくて ちかかりけるざうしのうちにいりて いかでかためけるにか いとつよきを しひてもおしたちたまはぬさまなり されど さのみもいかでかあらむ
ひとざま いとあてに そびエて こころはづかしきけはひぞしたる かうあながちなりけるちぎりをおぼすにも あさからずあはれなり みこころざしの ちかまさりするなるべし つねはいとはしきよるのながさも とくあけぬるここちすれば ひとにしられじ とおぼすも こころあわたたしうて こまかにかたらひおきて いでたまひぬ
おほむ-ふみ いとしのびてぞけふはある あいなきみこころのおになりや ここにも かかることいかでもらさじとつつみて おほむ-つかひことことしうももてなさぬを むねいたくおもへり
かくてのちは しのびつつときどきおはす ほどもすこしはなれたるに おのづからものいひさがなきあまのこもやたちまじらむ とおぼしはばかるほどを さればよ とおもひなげきたるを げに いかならむと にふだうもごくらくのねがひをばわすれて ただこのみけしきをまつことにはす いまさらにこころをみだるも いといとほしげなり

にでう-の-きみの かぜのつてにももりききたまはむことは たはぶれにても こころのへだてありけると おもひうとまれたてまつらむ こころぐるしうはづかしうおぼさるるも あながちなるみこころざしのほどなりかし かかるかたのことをば さすがに こころとどめてうらみたまへりしをりをり などて あやなきすさびごとにつけても さおもはれたてまつりけむ など とりかへさまほしう ひとのありさまをみたまふにつけても こひしさのなぐさむかたなければ れいよりもおほむ-ふみこまやかにかきたまひて
まことや われながらこころよりほかなるなほざりごとにて うとまれたてまつりしふしぶしを おもひ-いづるさへむねいたきに また あやしうもの-はかなきゆめをこそみはべりしか かうきこゆるとはずがたりに へだてなきこころのほどはおぼしあはせよ ちかひしことも などかきて
なにごとにつけても
しほしほとまづぞなかるるかりそめの
みるめはあまのすさびなれども
とあるおほむ-かへり なにごころなくらうたげにかきて
しのびかねたるおほむ-ゆめがたりにつけても おもひ-あはせらるることおほかるを
うらなくもおもひけるかなちぎりしを
まつよりなみはこエじものぞと
おいらかなるものから ただならずかすめたまへるを いとあはれに うち-おきがたくみたまひて なごりひさしう しのびのたびねもしたまはず

をむな おもひしもしるきに いまぞまことにみもなげつべきここちする
ゆくすゑみじかげなるおやばかりをたのもしきものにて いつのよにひとなみなみになるべきみとおもはざりしかど ただそこはかとなくて すぐしつるとしつきは なにごとをかこころをもなやましけむ かういみじうもの-おもはしきよにこそありけれ
と かねておしはかりおもひしよりも よろづにかなしけれど なだらかにもてなして にくからぬさまにみエたてまつる
あはれとはつきひにそへておぼしませど やむごとなきかたの おぼつかなくてとしつきをすぐしたまひ ただならずうち-おもひおこせたまふらむが いとくるしければ ひとりふし-がちにてすぐしたまふ
ゑをさまざまかきあつめて おもふこと-どもをかきつけ かへりこときくべきさまにしなしたまへり みむひとのこころにしみぬべきもののさまなり いかでか そらにかよふみこころならむ にでう-の-きみも もの-あはれになぐさむかたなくおぼエたまふをりをり おなじやうにゑをかきあつめたまひつつ やがてわがおほむ-ありさま にきのやうにかきたまへり いかなるべきおほむ-さま-どもにかあらむ 

としかはりぬ うちにおほむ-くすりのことありて よのなかさまざまにののしる たうだい-の-みこは うだいじんのむすめ しようきやうでん-の-にようごのおほむ-はらにをとこみこむまれたまへる ふたつになりたまへば いといはけなし とうぐうにこそはゆづりきこエたまはめ おほやけのおほむ-うしろみをし よをまつりごつべきひとをおぼしめぐらすに このげんじのかくしづみたまふこと いとあたらしうあるまじきことなれば つひにきさきのおほむ-いさめをそむきて ゆるされたまふべきさだめいできぬ
こぞより きさきもおほむ-もののけなやみたまひ さまざまのもののさとししきり さわがしきを いみじきおほむ-つつしみ-どもをしたまふしるしにや よろしうおはしましけるおほむ-めのなやみさへ このころおもくならせたまひて もの-こころぼそくおぼされければ しちがwちにじふよにちのほどに またかさねて きやうへかへりたまふべきせんじくだる
つひのこととおもひしかど よのつねなきにつけても いかになりはつべきにか となげきたまふを かうにはかなれば うれしきにそへても また このうらをいまはとおもひはなれむことをおぼしなげくに にふだう さるべきこととおもひながら うち-きくよりむねふたがりておぼゆれど おもひのごとさかエたまはばこそは わがおもひのかなふにはあらめ など おもひなほす

その-ころは よがれなくかたらひたまふ ろくぐわちばかりよりこころぐるしきけしきありてなやみけり かくわかれたまふべきほどなれば あやにくなるにやありけむ ありしよりもあはれにおぼして あやしうものおもふべきみにもありけるかな とおぼしみだる
をむなは さらにもいはずおもひしづみたり いとことわりなりや おもひのほかにかなしきみちにいでたちたまひしかど つひにはゆきめぐりきなむと かつはおぼしなぐさめき
このたびはうれしきかたのおほむ-いでたちの またやはかへりみるべき とおぼすに あはれなり
さぶらふひとびと ほどほどにつけてはよろこびおもふ きやうよりもおほむ-むかへにひとびとまゐり ここちよげなるを あるじのにふだう なみだにくれて つきもたちぬ
ほどさへあはれなるそらのけしきに なぞや こころづからいまもむかしも すずろなることにてみをはふらかすらむと さまざまにおぼしみだれたるを こころしれるひとびとは
あなにく れいのおほむ-くせぞ
と みたてまつりむつかるめり
つきごろは つゆひとにけしきみせず ときどきはひまぎれなどしたまへるつれなさを
このころ あやにくに なかなかの ひとのこころづくしにか
と つきじろふ せうなごん しるべしてきこエいでしはじめのことなど ささめきあへるを ただならずおもへり

あさてばかりになりて れいのやうにいたくもふかさでわたりたまへり さやかにもまだみたまはぬかたちなど いとよしよししう けだかきさまして めざましうもありけるかなと みすてがたくくちをしうおぼさる さるべきさまにしてむかへむ とおぼしなりぬ さやうにぞかたらひなぐさめたまふ
をとこのおほむ-かたち ありさまはた さらにもいはず としごろのおほむ-おこなひにいたくおもやせたまへるしも いふかたなくめでたきおほむ-ありさまにて こころぐるしげなるけしきにうち-なみだぐみつつ あはれふかくちぎりたまへるは ただかばかりを さいはひにても などかやまざらむ とまでぞみゆめれど めでたきにしも わがみのほどをおもふも つきせず なみのこゑ あきのかぜには なほひびきことなり しほやくけぶりかすかになびきて とり-あつめたるところのさまなり
このたびはたち-わかるとももしほやく
けぶりはおなじかたになびかむ
とのたまへば
かき-つめてあまのたくものおもひにも
いまはかひなきうらみだにせじ
あはれにうち-なきて ことずくななるものから さるべきふしのおほむ-いらへなどあさからずきこゆ この つねにゆかしがりたまふもののねなど さらにきかせたてまつらざりつるを いみじううらみたまふ
さらば かたみにもしのぶばかりのひとことをだに
とのたまひて きやうよりもておはしたりしきんのおほむ-こととりにつかはして こころことなるしらべをほのかにかき-ならしたまへる ふかきよるのすめるは たとへむかたなし
にふだう えたへでさうのこととりてさし-いれたり みづからも いとどなみださへそそのかされて とどむべきかたなきに さそはるるなるべし しのびやかにしらべたるほど いとじやうずめきたり にふだう-の-みやのおほむ-ことのねを ただいまのまたなきものにおもひきこエたるは いまめかしう あなめでたと きくひとのこころゆきて かたちさへおもひやらるることは げに いとかぎりなきおほむ-ことのねなり
これはあくまでひき-すまし こころにくくねたきねぞまされる このみこころにだに はじめてあはれになつかしう まだみみなれたまはぬてなど こころやましきほどにひきさしつつ あかずおぼさるるにも つきごろ などしひても ききならさざりつらむと くやしうおぼさる こころのかぎりゆくさきのちぎりをのみしたまふ
きんは またかきあはするまでのかたみに
とのたまふ をむな
なほざりにたのめおくめるひとことを
つきせぬねにやかけてしのばむ
いふともなきくちすさびを うらみたまひて
あふまでのかたみにちぎるなかのをの
しらべはことにかはらざらなむ
このねたがはぬさきにかならずあひみむ
とたのめたまふめり されど ただわかれむほどのわりなさをおもひむせたるも いとことわりなり

たちたまふあかつきは よぶかくいでたまひて おほむ-むかへのひとびともさわがしければ こころもそらなれど ひとまをはからひて
うち-すててたつもかなしきうらなみの
なごりいかにとおもひやるかな
おほむ-かへり
としへつるとまやもあれてうきなみの
かへるかたにやみをたぐへまし
と うち-おもひけるままなるをみたまふに しのびたまへど ほろほろとこぼれぬ こころしらぬひとびとは
なほかかるおほむ-すまひなれど としごろといふばかりなれたまへるを いまはとおぼすは さもあることぞかし
などみたてまつる
よしきよなどは おろかならずおぼすめりかしと にくくぞおもふ
うれしきにも げに けふをかぎりに このなぎさをわかるることなどあはれがりて くちぐちしほたれいひあへること-どもあめり されど なにかはとてなむ
にふだう けふのおほむ-まうけ いといかめしうつかうまつれり ひとびと しものしなまで たびのさうぞくめづらしきさまなり いつのまにかしあへけむとみエたり おほむ-よそひはいふべくもあらず みぞびつあまたかけさぶらはす まことのみやこのつとにしつべきおほむ-おくりもの-ども ゆゑづきて おもひよらぬくまなし けふたてまつるべきかりのおほむ-さうぞくに
よるなみにたち-かさねたるたびごろも
しほどけしとやひとのいとはむ
とあるをごらんじつけて さわがしけれど
かたみにぞかふべかりけるあふことの
ひかずへだてむなかのころもを
とて こころざしあるをとて たてまつりかふ おほむ-みになれたるどもをつかはす げに いまひとへしのばれたまふべきことをそふるかたみなめり えならぬおほむ-ぞににほひのうつりたるを いかがひとのこころにもしめざらむ
にふだう
いまはとよをはなれはべりにしみなれども けふのおほむ-おくりにつかうまつらぬこと
などまうして かひをつくるもいとほしながら わかきひとはわらひぬべし
よをうみにここらしほじむみとなりて
なほこのきしをえこそはなれね
こころのやみは いとどまどひぬべくはべれば さかひまでだに ときこエて
すきずきしきさまなれど おぼしいでさせたまふをりはべらば
など みけしきたまはる いみじうものをあはれとおぼして ところどころうち-あかみたまへるおほむ-まみのわたりなど いはむかたなくみエたまふ
おもひすてがたきすぢもあめれば いまいととくみなほしたまひてむ ただこのすみかこそみすてがたけれ いかがすべき とて
みやこいでしはるのなげきにおとらめや
としふるうらをわかれぬるあき
とて おし-のごひたまへるに いとどものおぼエず しほたれまさる たちゐもあさましうよろぼふ

さうじみのここち たとふべきかたなくて かうしもひとにみエじとおもひ-しづむれど みのうきをもとにて わりなきことなれど うち-すてたまへるうらみのやるかたなきに たけきこととは ただなみだにしづめり ははぎみもなぐさめわびては
なにに かくこころづくしなることをおもひ-そめけむ すべて ひがひがしきひとにしたがひけるこころのおこたりぞ
といふ
あなかまや おぼしすつまじきこともものしたまふめれば さりとも おぼすところあらむ おもひなぐさめて おほむ-ゆなどをだにまゐれ あな ゆゆしや
とて かたすみによりゐたり めのと ははぎみなど ひがめるこころをいひあはせつつ
いつしか いかでおもふさまにてみたてまつらむと としつきをたのみすぐし いまや おもひかなふとこそたのみきこエつれ こころぐるしきことをも もののはじめにみるかな
となげくをみるにも いとほしければ いとどほけられて ひるはひひとひ いをのみねくらし よるはすくよかにおきゐて ずずのゆくへもしらずなりにけり とて ておし-すりてあふぎゐたり
でし-どもにあはめられて つきよにいでてぎやうだうするものは やりみづにたふれいりにけり よしあるいはのかたそばにこしもつきそこなひて やみふしたるほどになむ すこしもの-まぎれける

きみは なにはのかたにわたりておほむ-はらへしたまひて すみよしにも たひらかにて いろいろのぐわんはたしまうすべきよし おほむ-つかひしてまうさせたまふ にはかにところせうて みづからはこのたびえまうでたまはず ことなるおほむ-せうエうなどなくて いそぎいりたまひぬ
にでうのゐんにおはしましつきて みやこのひとも おほむ-とものひとも ゆめのここちしてゆきあひ よろこびなき-どもゆゆしきまでたち-さわぎたり
をむなぎみも かひなきものにおぼしすてつるいのち うれしうおぼさるらむかし いとうつくしげにねびととのほりて おほむ-ものおもひのほどに ところせかりしみぐしのすこしへがれたるしも いみじうめでたきを いまはかくてみるべきぞかしと みこころおちゐるにつけては また かのあかずわかれしひとのおもへりしさま こころぐるしうおぼしやらる なほよとともに かかるかたにてみこころのいとまぞなきや
そのひとのこと-どもなどきこエいでたまへり おぼしいでたるみけしきあさからずみゆるを ただならずやみたてまつりたまふらむ わざとならず みをばおもはずなど ほのめかしたまふぞ をかしうらうたくおもひきこエたまふ かつ みるにだにあかぬおほむ-さまを いかでへだてつるとしつきぞと あさましきまでおもほすに とりかへし よのなかもいとうらめしうなむ
ほどもなく もとのおほむ-くらゐあらたまりて かずよりほかのごん-の-だいなごんになりたまふ つぎつぎのひとも さるべきかぎりはもとのつかさかへしたまはり よにゆるさるるほど かれたりしきのはるにあへるここちして いとめでたげなり

めしありて うちにまゐりたまふ おまへにさぶらひたまふに ねびまさりて いかで さるもの-むつかしきすまひにとしへたまひつらむ とみたてまつる にようばうなどの ゐんのおほむ-ときさぶらひて おイしらへる-どもは かなしくて いまさらになきさわぎめできこゆ
うへも はづかしうさへおぼしめされて おほむ-よそひなどことにひき-つくろひていでおはします みここち れいならで ひごろへさせたまひければ いたうおとろへさせたまへるを きのふけふぞ すこしよろしうおぼされける おほむ-ものがたりしめやかにありて よるにいりぬ
じふごやのつきおもしろうしづかなるに むかしのこと かき-つくしおぼしいでられて しほたれさせたまふ もの-こころぼそくおぼさるるなるべし
あそびなどもせず むかしききしもののねなどもきかで ひさしうなりにけるかな
とのたまはするに
わたつみにしなエうらぶれひるのこの
あしたたざりしとしはへにけり
ときこエたまへり いとあはれにこころはづかしうおぼされて
みやばしらめぐりあひけるときしあれば
わかれしはるのうらみのこすな
いとなまめかしきおほむ-ありさまなり
ゐんのおほむ-ために はかうおこなはるべきこと まづいそがせたまふ とうぐうをみたてまつりたまふに こよなくおよすけさせたまひて めづらしうおぼしよろこびたるを かぎりなくあはれとみたてまつりたまふ おほむ-ざえもこよなくまさらせたまひて よをたもたせたまはむに はばかりあるまじく かしこくみエさせたまふ
にふだう-の-みやにも みこころすこししづめて おほむ-たいめんのほどにも あはれなること-どもあらむかし

まことや かのあかしには かへるなみにおほむ-ふみつかはす ひき-かくしてこまやかにかきたまふめり
なみのよるよるいかに
なげきつつあかしのうらにあさぎりの
たつやとひとをおもひやるかな
かのそちのむすめごせち あいなく ひとしれぬもの-おもひさめぬるここちして まくなぎつくらせて さし-おかせけり
すまのうらにこころをよせしふなびとの
やがてくたせるそでをみせばや
てなどこよなくまさりにけりと みおほせたまひて つかはす
かへりてはかことやせましよせたりし
なごりにそでのひがたかりしを
あかずをかしとおぼししなごりなれば おどろかされたまひて いとどおぼしいづれど このころは さやうのおほむ-ふるまひ さらにつつみたまふめり
はなちるさとなどにも ただおほむ-せうそこなどばかりにて おぼつかなく なかなかうらめしげなり

さやかにみエたまひしゆめののちは ゐん-の-みかどのおほむ-ことをこころにかけきこエたまひて いかで かのしづみたまふらむつみ すくひたてまつることをせむと おぼしなげきけるを かくかへりたまひては そのおほむ-いそぎしたまふ かむなづきにみ-はかうしたまふ よのひとなびきつかうまつること むかしのやうなり
おほきさき おほむ-なやみおもくおはしますうちにも つひにこのひとをえけたずなりなむことと こころやみおぼしけれど みかどはゐんのご-ゆいごんをおもひきこエたまふ もののむくイありぬべくおぼしけるを なほしたてたまひて みここちすずしくなむおぼしける ときどきおこりなやませたまひしおほむ-めも さはやぎたまひぬれど おほかたよにえながくあるまじう こころぼそきこと とのみ ひさしからぬことをおぼしつつ つねにめしありて げんじ-の-きみはまゐりたまふ よのなかのことなども へだてなくのたまはせつつ おほむ-ほいのやうなれば おほかたのよのひとも あいなく うれしきことによろこびきこエける

おりゐなむのみこころづかひちかくなりぬるも ないし-の-かみ こころぼそげにおもひなげきたまひつる いとあはれにおぼされけり
おとどうせたまひ おほみやもたのもしげなくのみあついたまへるに わがよのこりすくなきここちするになむ いといとほしう なごりなきさまにてとまりたまはむとすらむ むかしより ひとにはおもひおとしたまへれど みづからのこころざしのまたなきならひに ただおほむ-ことのみなむ あはれにおぼエける たちまさるひと またおほむ-ほいありてみたまふとも おろかならぬこころざしはしも なずらはざらむとおもふさへこそ こころぐるしけれ
とて うち-なきたまふ
をむなぎみ かほはいとあかくにほひて こぼるばかりのおほむ-あいぎやうにて なみだもこぼれぬるを よろづのつみわすれて あはれにらうたしとごらんぜらる
などか みこをだにもたまへるまじき くちをしうもあるかな ちぎりふかきひとのためには いまみいでたまひてむとおもふも くちをしや かぎりあれば ただうどにてぞみたまはむかし
など ゆくすゑのことをさへのたまはするに いとはづかしうもかなしうもおぼエたまふ おほむ-かたちなど なまめかしうきよらにて かぎりなきみこころざしのとしつきにそふやうにもてなさせたまふに めでたきひとなれど さしもおもひたまへらざりしけしき こころばへなど ものおもひしられたまふままに などて わがこころのわかくいはけなきにまかせて さるさわぎをさへひきいでて わがなをばさらにもいはず ひとのおほむ-ためさへ などおぼしいづるに いとうきおほむ-みなり

あくるとしのきさらぎに とうぐうのご-げんぶくのことあり じふいちになりたまへど ほどよりおほきに おとなしうきよらにて ただげんじ-の-だいなごんのおほむ-かほをふたつにうつしたらむやうにみエたまふ いとまばゆきまでひかりあひたまへるを よひとめでたきものにきこゆれど ははみや いみじうかたはらいたきことに あいなくみこころをつくしたまふ
うちにも めでたしとみたてまつりたまひて よのなかゆづりきこエたまふべきことなど なつかしうきこエしらせたまふ
おなじつきのにじふよにち み-くにゆづりのことにはかなれば おほきさきおぼしあわてたり
かひなきさまながらも こころのどかにごらんぜらるべきことをおもふなり
とぞ きこエなぐさめたまひける
ばうにはそきやうでん-の-みこゐたまひぬ よのなかあらたまりて ひきかへいまめかしきこと-どもおほかり げんじ-の-だいなごん ないだいじんになりたまひぬ かずさだまりて くつろぐところもなかりければ くははりたまふなりけり
やがてよのまつりごとをしたまふべきなれど さやうのことしげきそくにはたへずなむ とて ちじ-の-おとど せtしやうしたまふべきよし ゆづりきこエたまふ
やまひによりて くらゐをかへしたてまつりてしを いよいよおイのつもりそひて さかしきことはべらじ
と うけひきまうしたまはず ひとのくににも ことうつりよのなかさだまらぬをりは ふかきやまにあとをたエたるひとだにも をさまれるよには しろかみもはぢずいでつかへけるをこそ まことのひじりにはしけれ やまひにしづみて かへしまうしたまひけるくらゐを よのなかかはりてまたあらためたまはむに さらにとがあるまじう おほやけ わたくしさだめらる さるためしもありければ すまひはてたまはで だいじやうだいじんになりたまふ おほむ-としもろくじふさむにぞなりたまふ
よのなかすさまじきにより かつはこもりゐたまひしを とりかへしはなやぎたまへば みこ-どもなどしづむやうにものしたまへるを みなうかびたまふ とりわきて さいしやう-の-ちゆうじやう ごん-の-ちゆうなごんになりたまふ かのし-の-きみのおほむ-はらのひめぎみ じふにになりたまふを うちにまゐらせむとかしづきたまふ かのたかさごうたひしきみも かうぶりせさせて いとおもふさまなり はらばらにみこ-どもいとあまたつぎつぎにおひいでつつ にぎははしげなるを げんじ-の-おとどはうらやみたまふ
おほとのばらのわかぎみ ひとよりことにうつくしうて うち とうぐうのてんじやうしたまふ こ-ひめぎみのうせたまひにしなげきを みや おとど またさらにあらためておぼしなげく されど おはせぬなごりも ただこのおとどのおほむ-ひかりに よろづもてなされたまひて としごろ おぼししづみつるなごりなきまでさかエたまふ なほむかしにみこころばへかはらず をりふしごとにわたりたまひなどしつつ わかぎみのおほむ-めのと-たち さらぬひとびとも としごろのほどまかでちらざりけるは みなさるべきことにふれつつ よすがつけむことをおぼしおきつるに さいはひびとおほくなりぬべし
にでうのゐんにも おなじごとまちきこエけるひとを あはれなるものにおぼして としごろのむねあくばかりとおぼせば ちゆうじやう なかつかさやうのひとびとには ほどほどにつけつつなさけみエたまふに おほむ-いとまなくて ほかありきもしたまはず
にでうのゐんのひむがしなるみや ゐんのご-しよぶんなりしを になくあらためつくらせたまふ はなちるさとなどやうのこころぐるしきひとびとすませむ など おぼしあててつくろはせたまふ

まことや かのあかしに こころぐるしげなりしことはいかにと おぼしわするるときなければ おほやけ わたくしいそがしきまぎれに えおぼすままにもとぶらひたまはざりけるを やよひのついたちのほど このころや とおぼしやるに ひとしれずあはれにて おほむ-つかひありけり とくかへりまゐりて 

じふろくにちになむ をむなにて たひらかにものしたまふ
とつげきこゆ めづらしきさまにてさへあなるをおぼすに おろかならず などて きやうにむかへて かかることをもせさせざりけむと くちをいうおぼさる
すくエうに
みこさむにん みかど きさきかならずならびてむまれたまふべし なかのおとりは だいじやうだいじんにてくらゐをきわむべし
と かむがへまうしたりしこと さして かなふなめり おほかた かみなきくらゐにのぼり よをまつりごちたまふべきこと さばかりかしこかりしあまたのさうにん-どものきこエあつめたるを としごろはよのわづらはしさにみなおぼしけちつるを たうだいのかくくらゐにかなひたまひぬることを おもひのごとうれしとおぼす みづからも もて-はなれたまへるすぢは さらにあるまじきこと とおぼす
あまたのみこ-たちのなかに すぐれてらうたきものにおぼしたりしかど ただうどにおぼしおきてけるみこころをおもふに すくせとほかりけり うちのかくておはしますを あらはにひとのしることならねど さうにんのことむなしからず
と みこころのうちにおぼしけり いま ゆくすゑのあらましごとをおぼすに
すみよし-の-かみのしるべ まことにかのひともよになべてならぬすくせにて ひがひがしきおやもおよびなきこころをつかふにやありけむ さるにては かしこきすぢにもなるべきひとの あやしきせかいにてむまれたらむは いとほしうかたじけなくもあるべきかな このほどすぐしてむかへてむ
とおぼして ひむがしのゐんいそぎつくらすべきよし もよほしおほせたまふ

さるところに はかばかしきひとしもありがたからむをおぼして こ-ゐんにさぶらひしせんじのむすめ くないきやう-の-さいしやうにてなくなりにしひとのこなりしを ははなどもうせて かすかなるよにへけるが はかなきさまにてこうみたりと きこしめしつけたるを しるたよりありて ことのついでにまねびきこエけるひとめして さるべきさまにのたまひちぎる
まだわかく なにごころもなきひとにて あけくれひとしれぬあばらやに ながむるこころぼそさなれば ふかうもおもひたどらず このおほむ-あたりのことをひとへにめでたうおもひきこエて まゐるべきよしまうさせたり いとあはれにかつはおぼして いだしたてたまふ
もののついでに いみじうしのびまぎれておはしまいたり さはきこエながら いかにせましとおもひみだれけるを いとかたじけなきに よろづおもひなぐさめて
ただ のたまはせむままに
ときこゆ よろしきひなりければ いそがしたてたまひて
あやしう おもひやりなきやうなれど おもふさまことなることにてなむ みづからもおぼエぬすまひにむすぼほれたりしためしおもひよそへて しばしねんじたまへ
など ことのありやうくはしうかたらひたまふ
うへのみやづかへときどきせしかば みたまふをりもありしを いたうおとろへにけり いへのさまもいひしらずあれまどひて さすがに おほきなるところの こだちなどうとましげに いかですぐしつらむ とみゆ ひとのさま わかやかにをかしければ ごらんじはなたれず とかくたはぶれたまひて
とりかへしつべきここちこそすれ いかに
とのたまふにつけても げに おなじうは おほむ-みちかうもつかうまつりなれば うきみもなぐさみなまし とみたてまつる
かねてよりへだてぬなかとならはねど
わかれはをしきものにぞありける
したひやしなまし
とのたまへば うち-わらひて
うちつけのわかれををしむかことにて
おもはむかたにしたひやはせぬ
なれてきこゆるを いたしとおぼす

くるまにてぞきやうのほどはゆきはなれける いとしたしきひとさし-そへたまひて ゆめもらすまじく くちがためたまひてつかはす みはかし さるべきものなど ところせきまでおぼしやらぬくまなし めのとにも ありがたうこまやかなるおほむ-いたはりのほど あさからず
にふだうのおもひかしづきおもふらむありさま おもひ-やるも ほほゑまれたまふことおほく また あはれにこころぐるしうも ただこのことのみこころにかかるも あさからぬにこそは おほむ-ふみにも おろかにもてなしおもふまじと かへすがへすいましめたまへり
いつしかもそでうち-かけむをとめごが
よをへてなづるいはのおひさき
つ-の-くにまではふねにて それよりあなたはむまにて いそぎいきつきぬ
にふだうまちとり よろこびかしこまりきこゆること かぎりなし そなたにむきておがみきこエて ありがたきみこころばへをおもふに いよいよいたはしう おそろしきまでおもふ
ちごのいとゆゆしきまでうつくしうおはすること たぐひなし げに かしこきみこころにかしづききこエむとおぼしたるは むべなりけり とみたてまつるに あやしきみちにいでたちて ゆめのここちしつるなげきもさめにけり いとうつくしうらうたうおぼエて あつかひきこゆ
こもち-の-きみも つきごろものをのみおもひしづみて いとどよわれるここちに いきたらむともおぼエざりつるを このおほむ-おきての すこしものおもひなぐさめらるるにぞ かしらもたげて おほむ-つかひにもになきさまのこころざしをつくす とくまゐりなむといそぎくるしがれば おもふこと-どもすこしきこエつづけて
ひとりしてなづるはそでのほどなきに
おほふばかりのかげをしぞまつ
ときこエたり あやしきまでみこころにかかり ゆかしうおぼさる

をむなぎみには ことにあらはしてをさをさきこエたまはぬを ききあはせたまふこともこそ とおぼして
さこそあなれ あやしうねぢけたるわざなりや さもおはせなむとおもふあたりには こころもとなくて おもひのほかに くちをしくなむ をむなにてあなれば いとこそものしけれ たづねしらでもありぬべきことなれど さはえおもひすつまじきわざなりけり よびにやりてみせたてまつらむ にくみたまふなよ
ときこエたまへば おもてうち-あかみて
あやしう つねにかやうなるすぢのたまひつくるこころのほどこそ われながらうとましけれ もの-にくみは いつならふべきにか
とゑんじたまへば いとよくうち-ゑみて
そよ たがならはしにかあらむ おもはずにぞみエたまふや ひとのこころよりほかなるおもひやりごとして もの-ゑんじなどしたまふよ おもへばかなし
とて はてはてはなみだぐみたまふ としごろあかずかなしとおもひきこエたまひしみこころのうち-ども をりをりのおほむ-ふみのかよひなどおぼしいづるには よろづのこと すさびにこそあれ とおもひけたれたまふ
このひとを かうまでおもひやりこととふは なほおもふやうのはべるぞ まだきにきこエば またひがこころえたまふべければ
とのたまひさして
ひとがらのをかしかりしも ところからにや めづらしうおぼエきかし
などかたりきこエたまふ
あはれなりしゆふべのけぶり いひしことなど まほならねど そのよのかたちほの-みし ことのねのなまめきたりしも すべてみこころとまれるさまにのたまひいづるにも
われはまたなくこそかなしとおもひなげきしか すさびにても こころをわけたまひけむよ
と ただならず おもひつづけたまひて われは われと うち-そむきながめて あはれなりしよのありさま など ひとりごとのやうにうち-なげきて
おもふどちなびくかたにはあらずとも
われぞけぶりにさきだちなまし
なにとか こころうや
たれによりよをうみやまにゆきめぐり
たエぬなみだにうきしづむみぞ
いでや いかでかみエたてまつらむ いのちこそかなひがたかべいものなめれ はかなきことにて ひとにこころおかれじとおもふも ただひとつゆゑぞや
とて さうのおほむ-ことひきよせて かきあはせすさびたまひて そそのかしきこエたまへど かの すぐれたりけむもねたきにや てもふれたまはず いとおほどかにうつくしう たをやぎたまへるものから さすがにしふねきところつきて もの-ゑんじしたまへるが なかなかあいぎやうづきてはらだちなしたまふを をかしうみどころありとおぼす

ごぐわちのいつかにぞ いかにはあたるらむと ひとしれずかぞへたまひて ゆかしうあはれにおぼしやる なにごとも いかにかひあるさまにもてなし うれしからまし くちをしのわざや さるところにしも こころぐるしきさまにて いできたるよ とおぼす をとこぎみならましかば かうしもみこころにかけたまふまじきを かたじけなういとほしう わがおほむ-すくせも このおほむ-ことにつけてぞかたほなりけり とおぼさるる
おほむ-つかひいだしたてたまふ
かならずそのひたがへずまかりつけ
とのたまへば いつかにいきつきぬ おぼしやることも ありがたうめでたきさまにて まめまめしきおほむ-とぶらひもあり
うみまつやときぞともなきかげにゐて
なにのあやめもいかにわくらむ
こころのあくがるるまでなむ なほ かくてはえすぐすまじきを おもひたちたまひね さりとも うしろめたきことはよも
とかいたまへり
にふだう れいの よろこびなきしてゐたり かかるをりは いけるかひもつくりいでたる ことわりなりとみゆ
ここにも よろづところせきまでおもひ-まうけたりけれど このおほむ-つかひなくは やみのよにてこそくれぬべかりけれ めのとも このをむなぎみのあはれにおもふやうなるを かたらひびとにて よのなぐさめにしけり をさをさおとらぬひとも るいにふれてむかへとりてあらすれど こよなくおとろへたるみやづかへびとなどの いはほのなかたづぬるがおちとまれるなどこそあれ これは こよなうこめきおもひあがれり
ききどころあるよのものがたりなどして おとど-の-きみのおほむ-ありさま よにかしづかれたまへるおほむ-おぼエのほども をむなごこちにまかせてかぎりなくかたりつくせば げに かくおぼしいづばかりのなごりとどめたるみも いとたけくやうやうおもひなりけり おほむ-ふみももろともにみて こころのうちに
あはれ かうこそおもひのほかに めでたきすくせはありけれ うきものはわがみこそありけれ
と おもひつづけらるれど めのとのことはいかに など こまかにとぶらはせたまへるも かたじけなく なにごともなぐさめけり
おほむ-かへりには
かずならぬみしまがくれになくたづを
けふもいかにととふひとぞなき
よろづにおもうたまへむすぼほるるありさまを かくたまさかのおほむ-なぐさめにかけはべるいのちのほども はかなくなむ げに うしろやすくおもうたまへおくわざもがな
とまめやかにきこエたり

うち-かへしみたまひつつ あはれと ながやかにひとりごちたまふを をむなぎみ しりめにみおこせて
うらよりをちにこぐふねの
と しのびやかにひとりごちながめたまふを
まことは かくまでとりなしたまふよ こは ただ かばかりのあはれぞや ところのさまなど うち-おもひやるときどき きしかたのことわすれがたきひとりごとを ようこそききすぐいたまはね
など うらみきこエたまひて うはづつみばかりをみせたてまつらせたまふ ふでなどのいとゆゑづきて やむごとなきひとくるしげなるを かかればなめりと おぼす

かく このみこころとりたまふほどに はなちるさとなどをかれはてたまひぬるこそ いとほしけれ おほやけごともしげく ところせきおほむ-みに おぼしはばかるにそへても めづらしくおほむ-めおどろくことのなきほど おもひ-しづめたまふなめり
さみだれつれづれなるころ おほやけわたくしもの-しづかなるに おぼしおこしてわたりたまへり よそながらも あけくれにつけて よろづにおぼしやりとぶらひきこエたまふをたのみにて すぐいたまふところなれば いまめかしうこころにくきさまに そばみうらみたまふべきならねば こころやすげなり としごろに いよいよあれまさり すごげにておはす
にようご-の-きみにおほむ-ものがたりきこエたまひて にしのつまどによふかしてたちよりたまへり つきおぼろにさし-いりて いとどえんなるおほむ-ふるまひ つきもせずみエたまふ いとどつつましけれど はしちかううち-ながめたまひけるさまながら のどやかにてものしたまふけはひ いとめやすし くひなのいとちかうなきたるを
くひなだにおどろかさずはいかにして
あれたるやどにつきをいれまし
と いとなつかしう いひけちたまへるぞ
とりどりにすてがたきよかな かかるこそ なかなかみもくるしけれ
とおぼす
おしなべてたたくくひなにおどろかば
うはのそらなるつきもこそいれ
うしろめたう
とは なほことにきこエたまへど あだあだしきすぢなど うたがはしきみこころばへにはあらず としごろ まちすぐしきこエたまへるも さらにおろかにはおぼされざりけり そらなながめそと たのめきこエたまひしをりのことも のたまひいでて
などて たぐひあらじと いみじうものをおもひしづみけむ うきみからは おなじなげかしさにこそ
とのたまへるもおイらかにらうたげなり れいの いづこのおほむ-ことのはにかあらむ つきせずぞかたらひなぐさめきこエたまふ

かやうのついでにも ごせちをおぼしわすれず またみてしがなと こころにかけたまへれど いとかたきことにて えまぎれたまはず
をむな ものおもひたエぬを おやはよろづにおもひいふこともあれど よにへむことをおもひたエたり
こころやすきとのづくりしては かやうのひとつどへても おもふさまにかしづきたまふべきひともいでものしたまはば さるひとのうしろみにも とおぼす
かのゐんのつくりざま なかなかみどころおほく いまめいたり よしあるずりやうなどをえりて あてあてにもよほしたまふ
ないしのかむ-の-きみ なほえおもひはなちきこエたまはず こりずまにたちかへり みこころばへもあれど をむなは うきにこりたまひて むかしのやうにもあひしらひきこエたまはず なかなか ところせう さうざうしうよのなか おぼさる

ゐんはのどやかにおぼしなりて ときどきにつけて をかしきおほむ-あそびなど このましげにておはします にようご かうい みなれいのごとさぶらひたまへど とうぐうのおほむ-ははにようごのみぞ とりたててときめきたまふこともなく かむ-の-きみのおほむ-おぼエにおしけたれたまへりしを かくひきかへ めでたきおほむ-さいはひにて はなれいでてみやにそひたてまつりたまへる
このおとどのおほむ-とのゐどころは むかしのしげいしやなり なしつぼにとうぐうはおはしませば ちかどなりのみこころよせに なにごともきこエかよひて みやをもうしろみたてまつりたまふ
にふだう-きさいのみや みくらゐをまたあらためたまふべきならねば だいじやう-てんわうになずらへて みぶたまはらせたまふ ゐんじ-どもなりて さまことにいつくし おほむ-おこなひ くどくのことを つねのいとなみにておはします としごろ よにはばかりていでいりもかたく みたてまつりたまはぬなげきをいぶせくおぼしけるに おぼすさまにて まゐりまかでたまふもいとめでたければ おほきさきは うきものはよなりけり とおぼしなげく
おとどはことにふれて いとかづかしげにつかまつり こころよせきこエたまふも なかなかいとほしげなるを ひともやすからず きこエけり

ひやうぶきやう-の-みこ としごろのみこころばへのつらくおもはずにて ただよのきこエをのみおぼしはばかりたまひしことを おとどはうきものにおぼしおきて むかしのやうにもむつびきこエたまはず
なべてのよには あまねくめでたきみこころなれど このおほむ-あたりは なかなかなさけなきふしも うち-まぜたまふを にふだう-の-みやは いとほしうほいなきことにみたてまつりたまへり
よのなかのこと ただなかばをわけて おほきおとど このおとどのおほむ-ままなり
ごん-ちゆうなごんのおほむ-むすめ そのとしのはちぐわちにまゐらせたまふ おほぢ-どのゐたちて ぎしきなどいとあらまほし
ひやうぶきやう-の-みやのなか-の-きみも さやうにこころざしてかしづきたまふなだかきを おとどは ひとよりまさりたまへとしもおぼさずなむありける いかがしたまはむとすらむ 

そのあき すみよしにまうでたまふ ぐわん-どもはたしたまふべければ いかめしきおほむ-ありきにて よのなかゆすりて かむだちめ てんじやうびと われもわれもとつかうまつりたまふ
をりしも かのあかし-の-ひと としごとのれいのことにてまうづるを こぞことしはさはることありて おこたりける かしこまりとり-かさねて おもひたちけり
ふねにてまうでたり きしにさし-つくるほど みれば ののしりてまうでたまふひとのけはひ なぎさにみちて いつくしきかむだからをもて-つづけたり がくにん とをつらなど さうぞくをととのへ かたちをえらびたり
たがまうでたまへるぞ
ととふめれば
ないだいじんどののおほむ-ぐわんはたしにまうでたまふを しらぬひともありけり
とて はかなきほどのげすだに ここちよげにうち-わらふ
げに あさましう つきひもこそあれ なかなか このおほむ-ありさまをはるかにみるも みのほどくちをしうおぼゆ さすがに かけはなれたてまつらぬすくせながら かくくちをしききはのものだに ものおもひなげにて つかうまつるをいろふしにおもひたるに なにのつみふかきみにて こころにかけておぼつかなうおもひきこエつつ かかりけるおほむ-ひびきをもしらで たちいでつらむ
などおもひつづくるに いとかなしうて ひとしれずしほたれけり

まつばらのふかみどりなるに はなもみぢをこきちらしたるとみゆるうへのきぬの こきうすき かずしらず ろくゐのなかにもくらうどはあをいろしるくみエて かのかものみづがきうらみしうこん-の-じようもゆげひになりて ことごとしげなるずいじんぐしたるくらうどなり
よしきよもおなじすけにて ひとよりことにものおもひなきけしきにて おどろおどろしきあかぎぬすがた いときよげなり
すべてみしひとびと ひきかへはなやかに なにごとおもふらむとみエて うち-ちりたるに わかやかなるかむだちめ てんじやうびとの われもわれもとおもひいどみ むまくらなどまでかざりをととのへみがきたまへるは いみじきものに ゐなかびともおもへり
おほむ-くるまをはるかにみやれば なかなか こころやましくて こひしきおほむ-かげをもえみたてまつらず かはら-の-おとどのおほむ-れいをまねびて わらはずいじんをたまはりたまひける いとをかしげにさうぞき みづらゆひて むらさきすそごのもとゆひなまめかしう たけすがたととのひ うつくしげにてじふにん さまことにいまめかしうみゆ
おほとのばらのわかぎみ かぎりなくかしづきたてて むまぞひ わらはのほど みなつくりあはせて やうかへてさうぞきわけたり
くもゐはるかにめでたくみゆるにつけても わかぎみのかずならぬさまにてものしたまふを いみじとおもふ いよいよみやしろのかたををがみきこゆ
くに-の-かみまゐりて おほむ-まうけ れいのおとどなどのまゐりたまふよりは ことによになくつかうまつりけむかし
いとはしたなければ
たち-まじり かずならぬみの いささかのことせむに かみもみいれ かずまへたまふべきにもあらず かへらむにもなかぞらなり けふはなにはにふねさしとめて はらへをだにせむ
とて こぎわたりぬ

きみは ゆめにもしりたまはず よひとよ いろいろのことをせさせたまふ まことに かみのよろこびたまふべきことを しつくして きしかたのおほむ-ぐわんにもうち-そへ ありがたきまで あそびののしりあかしたまふ
これみつやうのひとは こころのうちにかみのおほむ-とくをあはれにめでたしとおもふ あからさまにたちいでたまへるに さぶらひて きこエいでたり
すみよしのまつこそものはかなしけれ
かみよのことをかけておもへば
げに とおぼし-いでて
あらかりしなみのまよひにすみよしの
かみをばかけてわすれやはする
しるしありな
とのたまふも いとめでたし

かのあかしのふね このひびきにおされて すぎぬることもきこゆれば しらざりけるよと あはれにおぼす かみのおほむ-しるべをおぼしいづるも おろかならねば いささかなるせうそこをだにして こころなぐさめばや なかなかにおもふらむかし とおぼす
みやしろたちたまて ところどころにせうエうをつくしたまふ なにはのおほむ-はらへ ななせによそほしうつかまつる ほりえのわたりをごらんじて
いまはたおなじなにはなる
と みこころにもあらで うち-じゆじたまへるを おほむ-くるまのもとちかきこれみつ うけたまはりやしつらむ さるめしもやと れいにならひてふところにまうけたるつかみじかきふでなど おほむ-くるまとどむるところにてたてまつれり をかしとおぼして たたうがみに
みをつくしこふるしるしにここまでも
めぐりあひけるえにはふかしな
とて たまへれば かしこのこころしれるしもびとしてやりけり こまなめて うち-すぎたまふにも こころのみうごくに つゆばかりなれど いとあはれにかたじけなくおぼエて うち-なきぬ
かずならでなにはのこともかひなきに
などみをつくしおもひそめけむ
たみの-の-しまにみそぎつかうまつる おほむ-はらへのものにつけてたてまつる ひくれがたになりゆく
ゆふしほみちきて いりえのたづもこゑをしまぬほどのあはれなるをりからなればにや ひとめもつつまず あひみまほしくさへおぼさる
つゆけさのむかしににたるたびごろも
たみの-の-しまのなにはかくれず
みちのままに かひあるせうエうあそびののしりたまへど みこころにはなほかかりておぼしやる あそび-どものつどひまゐれる かむだちめときこゆれど わかやかにことこのましげなるは みな めとどめたまふべかめり されど いでや をかしきことも もののあはれも ひとからこそあべけれ なのめなることをだに すこしあはきかたによりぬるは こころとどむるたよりなきものを とおぼすに おのがこころをやりて よしめきあへるもうとましうおぼしけり

かのひとは すぐしきこエて またのひぞよろしかりければ みてぐらたてまつる ほどにつけたるぐわん-どもなど かつがつはたしける また なかなかものおもひそはりて あけくれ くちをしきみをおもひなげく
いまやきやうにおはしつくらむとおもふひかずもへず おほむ-つかひあり このころのほどにむかへむことをぞのたまへる
いとたのもしげに かずまへのたまふめれど いさや また しまこぎはなれ なかぞらにこころぼそきことやあらむ
と おもひわづらふ
にふだうも さていだしはなたむは いとうしろめたう さりとて かくうづもれすぐさむをおもはむも なかなかきしかたのとしごろよりも こころづくしなり よろづにつつましう おもひたちがたきことをきこゆ

まことや かのさいぐうもかはりたまひにしかば みやすむどころのぼりたまひてのち かはらぬさまになにごともとぶらひきこエたまふことは ありがたきまで なさけをつくしたまへど むかしだにつれなかりしみこころばへの なかなかならむなごりはみじと おもひはなちたまへれば わたりたまひなどすることはことになし
あながちにうごかしきこエたまひても わがこころながらしりがたく とかくかかづらはむおほむ-ありきなども ところせうおぼしなりにたれば しひたるさまにも おはせず
さいぐうをぞ いかにねびなりたまひぬらむ とゆかしうおもひきこエたまふ
なほ かのろくでうのふるみやをいとよくすりしつくろひたりければ みやびかにてすみたまひけり よしづきたまへること ふりがたくて よきにようばうなどおほく すいたるひとのつどひどころにて もの-さびしきやうなれど こころやれるさむにてへたまふほどに にはかにおもくわづらひたまひて もののいとこころぼそくおぼされければ つみふかきところほとりにとしへつるも いみじうおぼして あまになりたまひぬ
おとど ききたまひて かけかけしきすぢにはあらねど なほさるかたのものをもきこエあはせ ひとにおもひきこエつるを かくおぼしなりにけるがくちをしうおぼエたまへば おどろきながらわたりたまへり あかずあはれなるおほむ-とぶらひきこエたまふ
ちかきおほむ-まくらがみにおましよそひて けふそくにおしかかりて おほむ-かへりなどきこエたまふも いたうよわりたまへるけはひなれば たエぬこころざしのほどは えみエたてまつらでやと くちをしうて いみじうないたまふ

かくまでもおぼしとどめたりけるを をむなも よろづにあはれにおぼして さいぐうのおほむ-ことをぞきこエたまふ
こころぼそくてとまりたまはむを かならず ことにふれてかずまへきこエたまへ またみゆづるひともなく たぐひなきおほむ-ありさまになむ かひなきみながらも いましばしよのなかをおもひのどむるほどは とざまかうざまにものをおぼししるまで みたてまつらむことこそおもひたまへつれ
とても きエいりつつないたまふ
かかるおほむ-ことなくてだに おもひはなちきこエさすべきにもあらぬを まして こころのおよばむにしたがひては なにごともうしろみきこエむとなむおもうたまふる さらに うしろめたくなおもひきこエたまひそ
などきこエたまへば
いとかたきこと まことにうち-たのむべきおやなどにて みゆづるひとだに めおやにはなれぬるは いとあはれなることにこそはべるめれ まして おもほしひとめかさむにつけても あぢきなきかたやうち-まじり ひとにこころもおかれたまはむ うたてあるおもひやりごとなれど かけてさやうのよづいたるすぢにおぼしよるな うきみをつみはべるにも をむなは おもひのほかにてものおもひそふるものになむはべりければ いかでさるかたをもて-はなれて みたてまつらむとおもうたまふる
などきこエたまへば あいなくものたまふかな とおぼせど
としごろに よろづおもうたまへしりにたるものを むかしのすきごころのなごりありがほにのたまひなすもほいなくなむ よし おのづから
とて とはくらうなり うちはおほとのあぶらのほのかにものよりとほりてみゆるを もしもや とおぼして やをらみきちやうのほころびよりみたまへば こころもとなきほどのほかげに みぐしいとをかしげにはなやかにそぎて よりゐたまへる ゑにかきたらむさまして いみじうあはれなり ちやうのひむがしおもてにそひふしたまへるぞ みやならむかし みきちやうのしどけなくひきやられたるより おほむ-めとどめてみとほしたまへれば つらづゑつきて いともの-がなしとおぼいたるさまなり はつかなれど いとうつくしげならむとみゆ
みぐしのかかりたるほど かしらつき けはひ あてにけだかきものから ひちちかにあいぎやうづきたまへるけはひ しるくみエたまへば こころもとなくゆかしきにも さばかりのたまふものをと おぼしかへす
いとくるしさまさりはべる かたじけなきを はやわたらせたまひね
とて ひとにかき-ふせられたまふ
ちかくまゐりきたるしるしに よろしうおぼさればうれしかるべきを こころぐるしきわざかな いかにおぼさるるぞ
とて のぞきたまふけしきなれば
いとおそろしげにはべるや みだりごこちのいとかくかぎりなるをりしもわたらせたまへるは まことにあさからずなむ おもひはべることを すこしきこエさせつれば さりともと たのもしくなむ
ときこエさせたまふ
かかるおほむ-ゆいごんのつらにおぼしけるも いとどあはれになむ こ-ゐんのみこ-たち あまたものしたまへど したしくむつびおもほすも をさをさなきを うへのおなじみこ-たちのうちにかずまへきこエたまひしかば さこそはたのみきこエはべらめ すこしおとなしきほどになりぬるよはひながら あつかふひともなければ さうざうしきを
などきこエて かへりたまひぬ おほむ-とぶらひ いますこしたち-まさりて しばしばきこエたまふ

なぬか やうかありてうせたまひにけり あへなうおぼさるるに よもいとはかなくて もの-こころぼそくおぼされて うちへもまゐりたまはず とかくのおほむ-ことなどおきてさせたまふ またたのもしきひともことにおはせざりけり ふるきさいぐうのみやづかさなど つかうまつりなれたるぞ わづかにこと-どもさだめける
おほむ-みづからもわたりたまへり みやにおほむ-せうそこきこエたまふ
なにごともおぼエはべらでなむ
と によべたうして きこエたまへり
きこエさせ のたまひおきしこともはべしを いまは へだてなきさまにおぼされば うれしくなむ
ときこエたまひて ひとびとめしいでて あるべきこと-どもおほせたまふ いとたのもしげに としごろのみこころばへ とりかへしつべうみゆ いといかめしう とののひとびと かずもなうつかうまつらせたまへり あはれにうち-ながめつつ おほむ-さうじんにて みすおろしこめておこなはせたまふ
みやには つねにとぶらひきこエたまふ やうやうみこころしづまりたまひては みづからおほむ-かへりなどきこエたまふ つつましうおぼしたれど おほむ-めのとなど かたじけなしと そそのかしきこゆるなりけり
ゆき みぞれ かき-みだれあるるひ いかに みやのありさま かすかにながめたまふらむ とおもひやりきこエたまひて おほむ-つかひたてまつれたまへり
ただいまのそらを いかにごらんずらむ
ふりみだれひまなきそらになきひとの
あまかけるらむやどぞかなしき
そらいろのかみの くもらはしきにかいたまへり わかきひとのおほむ-めにとどまるばかりと こころしてつくろひたまへる いとめもあやなり
みやは いときこエにくくしたまへど これかれ
ひとづてには いとびんなきこと
とせめきこゆれば にびいろのかみの いとかうばしうえんなるに すみつきなどまぎらはして
きエがてにふるぞかなしきかき-くらし
わがみそれともおもほエぬよに
つつましげなるかきざま いとおほどかに おほむ-てすぐれてはあらねど らうたげにあてはかなるすぢにみゆ

くだりたまひしほどより なほあらずおぼしたりしを いまはこころにかけて ともかくもきこエよりぬべきぞかし とおぼすには れいの ひきかへし
いとほしくこそ こ-みやすむどころの いとうしろめたげにこころおきたまひしを ことわりなれど よのなかのひとも さやうにおもひよりぬべきことなるを ひきたがへ こころきよくてあつかひきこエむ うへのいますこしものおぼししるよはひにならせたまひなば うちずみせさせたてまつりて さうざうしきに かしづきぐさにこそ とおぼしなる
いとまめやかにねむごろにきこエたまひて さるべきをりをりはわたりなどしたまふ
かたじけなくとも むかしのおほむ-なごりにおぼしなずらへて けどほからずもてなさせたまはばなむ ほいなるここちすべき
などきこエたまへど わりなくもの-はぢをしたまふおくまりたるひとざまにて ほのかにもおほむ-こゑなどきかせたてまつらむは いとよになくめづらかなることとおぼしたれば ひとびともきこエわづらひて かかるみこころざまをうれへきこエあへり
によべたう ないしなどいふひとびと あるは はなれたてまつらぬわかむどほりなどにて こころばせあるひとびとおほかるべし この ひとしれずおもふかたのまじらひをせさせたてまつらむに ひとにおとりたまふまじかめり いかでさやかに おほむ-かたちをみてしがな
とおぼすも うち-とくべきおほむ-おやごころにはあらずやありけむ
わがみこころもさだめがたければ かくおもふといふことも ひとにももらしたまはず おほむ-わざなどのおほむ-ことをもとりわきてせさせたまへば ありがたきみこころを みやびともよろこびあへり
はかなくすぐるつきひにそへて いとどさびしく こころぼそきことのみまさるに さぶらふひとびとも やうやうあかれゆきなどして しもつかたのきやうごくわたりなれば ひとけ-どほく やまでらのいりあひのこゑごゑにそへても ねなきがちにてぞ すぐしたまふ おなじきおほむ-おやときこエしなかにも かたときのまもたち-はなれたてまつりたまはで ならはしたてまつりたまひて さいぐうにもおやそひてくだりたまふことは れいなきことなるを あながちにいざなひきこエたまひしみこころに かぎりあるみちにては たぐひきこエたまはずなりにしを ひるよなうおぼしなげきたり
さぶらふひとびと たかきもいやしきもあまたあり されど おとどの
おほむ-めのと-たちだに こころにまかせたること ひきいだしつかうまつるな
など おやがりまうしたまへば いとはづかしきおほむ-ありさまに びんなきこときこしめしつけられじ といひおもひつつ はかなきことのなさけも さらにつくらず

ゐんにも かのくだりたまひしだいごくでんのいつかしかりしぎしきに ゆゆしきまでみエたまひしおほむ-かたちを わすれがたうおぼしおきければ
まゐりたまひて さいゐんなど おほむ-はらからのみやみやおはしますたぐひにて さぶらひたまへ
と みやすむどころにもきこエたまひき されど やむごとなきひとびとさぶらひたまふに かずかずなるおほむ-うしろみもなくてや とおぼしつつみ うへは いとあつしうおはしますもおそろしう またもの-おもひやくはへたまはむと はばかりすぐしたまひしを いまは ましてたれかはつかうまつらむと ひとびとおもひたるを ねむごろにゐんにはおぼしのたまはせけり
おとど ききたまひて ゐんよりみけしきあらむを ひきたがへ よこどりたまはむを かたじけなきこと とおぼすに ひとのおほむ-ありさまのいとらうたげに みはなたむはまたくちをしうて にふだう-の-みやにぞきこエたまひける
かうかうのことをなむ おもうたまへわづらふに はは-みやすむどころ いとおもおもしくこころふかきさまにものしはべりしを あぢきなきすきごころにまかせて さるまじきなをもながし うきものにおもひおかれはべりにしをなむ よにいとほしくおもひたまふる このよにて そのうらみのこころとけずすぎはべりにしを いまはとなりてのきはに このさいぐうのおほむ-ことをなむ ものせられしかば さもききおき こころにものこすまじうこそは さすがにみおきたまひけめ とおもひたまふるにも しのびがたう おほかたのよにつけてだに こころぐるしきことはみききすぐされぬわざにはべるを いかで なきかげにても かのうらみわするばかり とおもひたまふるを うちにも さこそおとなびさせたまへど いときなきおほむ-よはひにおはしますを すこしもののこころしるひとはさぶらはれてもよくやとおもひたまふるを おほむ-さだめに
などきこエたまへば
いとようおぼしよりけるを ゐんにも おぼさむことは げにかたじけなう いとほしかるべけれど かのおほむ-ゆいごんをかこちて しらずがほにまゐらせたてまつりたまへかし いまはた さやうのこと わざともおぼしとどめず おほむ-おこなひがちになりたまひて かうきこエたまふを ふかうしもおぼしとがめじとおもひたまふる
さらば みけしきありて かずまへさせたまはば もよほしばかりのことをそふるになしはべらむ とざまかうざまに おもひたまへのこすことなきに かくまでさばかりのこころがまへも まねびはべるに よひとやいかにとこそ はばかりはべれ
などきこエたまてのちには げに しらぬやうにて ここにわたしたてまつりてむ
とおぼす
をむなぎみにも しかなむおもひかたらひきこエて
すぐいたまはむに いとよきほどなるあはひならむ
と きこエしらせたまへば うれしきことにおぼして おほむ-わたりのことをいそぎたまふ

にふだう-の-みや ひやうぶきやう-の-みやの ひめぎみをいつしかとかしづきさわぎたまふめるを おとどのひまあるなかにて いかがもてなしたまはむと こころぐるしくおぼす
ごん-ちゆうなごんのおほむ-むすめは こうきでん-の-にようごときこゆ おほとののみこにて いとよそほしうもて-かしづきたまふ うへもよきおほむ-あそびがたきにおぼいたり
みやのなか-の-きみもおなじほどにおはすれば うたてひひなあそびのここちすべきを おとなしきおほむ-うしろみは いとうれしかべいこと
とおぼしのたまひて さるみけしききこエたまひつつ おとどのよろづにおぼしいたらぬことなく おほやけがたのおほむ-うしろみはさらにもいはず あけくれにつけて こまかなるみこころばへの いとあはれにみエたまふを たのもしきものにおもひきこエたまひて いとあつしくのみおはしませば まゐりなどしたまひても こころやすくさぶらひたまふこともかたきを すこしおとなびて そひさぶらはむおほむ-うしろみは かならずあるべきことなりけり

もしほたれつつわびたまひしころほひ みやこにも さまざまにおぼしなげくひとおほかりしを さても わがおほむ-みのよりどころあるは ひとかたのおもひこそくるしげなりしか にでう-の-うへなども のどやかにて たびのおほむ-すみかをもおぼつかなからず きこエかよひたまひつつ くらゐをさりたまへるかりのおほむ-よそひをも たけのこのよのうきふしを ときどきにつけてあつかひきこエたまふに なぐさめたまひけむ なかなか そのかずとひとにもしられず たち-わかれたまひしほどのおほむ-ありさまをも よそのことにおもひ-やりたまふひとびとの したのこころくだきたまふたぐひおほかり
ひたちのみや-の-きみは ちち-みこのうせたまひにしなごりに またおもひあつかふひともなきおほむ-みにて いみじうこころぼそげなりしを おもひかけぬおほむ-ことのいできて とぶらひきこエたまふことたエざりしを いかめしきおほむ-いきほひにこそ ことにもあらず はかなきほどのおほむ-なさけばかりとおぼしたりしかど まちうけたまふたもとのせばきに おほぞらのほしのひかりをたらひのみづにうつしたるここちしてすぐしたまひしほどに かかるよのさわぎいできて なべてのようくおぼしみだれしまぎれに わざとふかからぬかたのこころざしはうち-わすれたるやうにて とほくおはしましにしのち ふりはへてしもえたづねきこエたまはず そのなごりに しばしは なくなくもすぐしたまひしを としつきふるままに あはれにさびしきおほむ-ありさまなり
ふるきをむなばらなどは
いでや いとくちをしきおほむ-すくせなりけり おぼエずかみほとけのあらはれたまへらむやうなりしみ-こころばへに かかるよすがもひとはいでおはするものなりけりと ありがたうみたてまつりしを おほかたのよのことといひながら またたのむかたなきおほむ-ありさまこそ かなしけれ
と つぶやきなげく さるかたにありつきたりしあなたのとしごろは いふかひなきさびしさにめなれてすぐしたまふを なかなかすこしよづきてならひにけるとしつきに いとたへがたくおもひなげくべし すこしも さてありぬべきひとびとは おのづからまゐりつきて ありしを みなつぎつぎにしたがひていきちりぬ をむなばらのいのちたへぬもありて つきひにしたがひては かみしもひとかずすくなくなりゆく

もとよりあれたりしみやのうち いとどきつねのすみかになりて うとましう けどほきこだちに ふくろふのこゑをあさゆふにみみならしつつ ひとげにこそ さやうのものもせかれてかげかくしけれ こだまなど けしからぬもの-ども ところえて やうやうかたちをあらはし もの-わびしきことのみかずしらぬに まれまれのこりてさぶらふひとは
なほ いとわりなし このずりやう-どもの おもしろきいへづくりこのむが このみやのこだちをこころにつけて はなちたまはせてむやと ほとりにつきて あないしまうさするを さやうにせさせたまひて いとかう もの-おそろしからぬおほむ-すまひに おぼしうつろはなむ たち-とまりさぶらふひとも いとたへがたし
などきこゆれど
あな いみじや ひとのききおもはむこともあり いけるよに しかなごりなきわざ いかがせむ かくおそろしげにあれはてぬれど おやのおほむ-かげとまりたるここちするふるきすみかとおもふに なぐさみてこそあれ
と うち-なきつつ おぼしもかけず
おほむ-でうど-どもを いとこたいになれたるが むかしやうにてうるはしきを なま-もののゆゑしらむとおもへるひと さるものえうじて わざとそのひとかのひとにせさせたまへるとたづねききて あないするも おのづからかかるまづしきあたりとおもひあなづりていひくるを れいのをむなばら
いかがはせむ そこそはよのつねのこと
とて とり-まぎらはしつつ めにちかきけふあすのみぐるしさをつくろはむとするときもあるを いみじういさめたまひて
みよとおもひたまひてこそ しおかせたまひけめ などてか かろがろしきひとのいへのかざりとはなさむ なきひとのおほむ-ほいたがはむが あはれなること
とのたまひて さるわざはせさせたまはず

はかなきことにても みとぶらひきこゆるひとはなきおほむ-みなり ただ おほむ-せうとのぜんじ-の-きみばかりぞ まれにもきやうにいでたまふときは さし-のぞきたまへど それも よになきふるめきびとにて おなじきほふしといふなかにも たづきなく このよをはなれたるひじりにものしたまひて しげきくさ よもぎをだに かきはらはむものともおもひよりたまはず
かかるままに あさぢはにはのおももみエず しげきよもぎはのきをあらそひておひのぼる むぐらはにしひむがしのみかどをとぢこめたるぞたのもしけれど くづれがちなるめぐりのかきをむま うしなどのふみならしたるみちにて はるなつになれば はなちかふあげまきのこころさへぞ めざましき
はづき のわきあらかりしとし らう-どももたふれふし しものや-どもの はかなきいたぶきなりしなどは ほねのみわづかにのこりて たち-とまるげすだになし けぶりたエて あはれにいみじきことおほかり
ぬすびとなどいふひたぶるごころあるものも おもひやりのさびしければにや このみやをばふようのものにふみすぎて よりこざりければ かくいみじきのら やぶなれども さすがにしんでんのうちばかりは ありしおほむ-しつらひかはらず つややかにかい-はきなどするひともなし ちりはつもれど まぎるることなきうるはしきおほむ-すまひにて あかしくらしたまふ

はかなきふるうた ものがたりなどやうのすさびごとにてこそ つれづれをもまぎらはし かかるすまひをもおもひなぐさむるわざなめれ さやうのことにもこころ-おそくものしたまふ わざとこのましからねど おのづからまたいそぐことなきほどは おなじこころなるふみかよはしなどうち-してこそ わかきひとはきくさにつけてもこころをなぐさめたまふべけれど おやのもて-かしづきたまひしみこころおきてのままに よのなかをつつましきものにおぼして まれにもことかよひたまふべきおほむ-あたりをも さらになれたまはず ふりにたるみづしあけて からもり はこや-の-とじ かぐやひめ-の-ものがたりのゑにかきたるをぞ ときどきのまさぐりものにしたまふ
ふるうたとても をかしきやうにえりいで だいをもよみびとをもあらはしこころえたるこそみどころもありけれ うるはしきかみやがみ みちのくにがみなどのふくだめるに ふること-どものめなれたるなどは いとすさまじげなるを せめてながめたまふをりをりは ひき-ひろげたまふ いまのよのひとのすめる きやううち-よみ おこなひなどいふことは いとはづかしくしたまひて みたてまつるひともなけれど ずずなどとりよせたまはず かやうにうるはしくぞものしたまひける

じじゆうなどいひしおほむ-めのとごのみこそ としごろあくがれはてぬものにてさぶらひつれど かよひまゐりしさいゐんうせたまひなどして いとたへがたくこころぼそきに このひめぎみのはは-きたのかたのはらから よにおちぶれてずりやうのきたのかたになりたまへるありけり
むすめ-どもかしづきて よろしきわかうど-どもも むげにしらぬところよりは おや-どももまうでかよひしを とおもひて ときどきいきかよふ このひめぎみは かくひとうときおほむ-くせなれば むつましくもいひかよひたまはず
おのれをばおとしめたまひて おもてぶせにおぼしたりしかば ひめぎみのおほむ-ありさまのこころぐるしげなるも えとぶらひきこエず
など なま-にくげなることば-どもいひきかせつつ ときどききこエけり
もとよりありつきたるさやうのなみなみのひとは なかなかよきひとのまねにこころをつくろひ おもひあがるもおほかるを やむごとなきすぢながらも かうまでおつべきすくせありければにや こころすこしなほなほしきおほむ-をばにぞありける
わがかくおとりのさまにて あなづらはしくおもはれたりしを いかで かかるよのすゑに このきみを わがむすめ-どものつかひびとになしてしがな こころばせなどのふるびたるかたこそあれ いとうしろやすきうしろみならむ とおもひて
ときどきここにわたらせたまひて おほむ-ことのねもうけたまはらまほしがるひとなむはべる
ときこエけり このじじゆうも つねにいひもよほせど ひとにいどむこころにはあらで ただこちたきおほむ-ものづつみなれば さもむつびたまはぬを ねたしとなむおもひける
かかるほどに かのいへあるじ だいにになりぬ むすめ-どもあるべきさまにみおきて くだりなむとす このきみを なほもいざなはむのこころふかくて
はるかに かくまかりなむとするに こころ-ぼそきおほむ-ありさまの つねにしもとぶらひきこエねど ちかきたのみはべりつるほどこそあれ いとあはれにうしろめたくなむ
など ことよがるを さらにうけひきたまはねば
あな にく ことことしや こころひとつにおぼしあがるとも さるやぶはらにとしへたまふひとを だいしやうどのも やむごとなくしもおもひきこエたまはじ
など ゑんじうけひけり

さるほどに げによのなかにゆるされたまひて みやこにかへりたまふと あめのしたのよろこびにてたち-さわぐ われもいかで ひとよりさきに ふかきこころざしをごらんぜられむとのみ おもひきほふをとこ をむなにつけて たかきをもくだれるをも ひとのこころばへをみたまふに あはれにおぼししること さまざまなり かやうに あわたたしきほどに さらにおもひいでたまふけしきみエでつきひへぬ
いまはかぎりなりけり としごろ あらぬさまなるおほむ-さまを かなしういみじきことをおもひながらも もエいづるはるにあひたまはなむとねんじわたりつれど たびしかはらなどまでよろこびおもふなる おほむ-くらゐあらたまりなどするを よそにのみきくべきなりけり かなしかりしをりのうれはしさは ただわがみひとつのためになれるとおぼエし かひなきよかなと こころくだけて つらくかなしければ ひとしれずねをのみなきたまふ
だいに-の-きたのかた
さればよ まさに かくたづきなく ひとわろきおほむ-ありさまを かずまへたまふひとはありなむや ほとけ ひじりも つみかろきをこそみちびきよくしたまふなれ かかるおほむ-ありさまにて たけくよをおぼし みや うへなどのおはせしときのままにならひたまへる みこころおごりの いとほしきこと
と いとどをこがましげにおもひて
なほ おもほしたちね よのうきときは みエぬやまぢをこそはたづぬなれ ゐなかなどは むつかしきものとおぼしやるらめど ひたぶるにひとわろげには よも もてなしきこエじ
など いとよくいへば むげにくんじにたるをむなばら
さもなびきたまはなむ たけきこともあるまじきおほむ-みを いかにおぼして かくたてたるみこころならむ
と もどきつぶやく
じじゆうも かのだいにのをひ-だつひと かたらひつきて とどむべくもあらざりければ こころよりほかにいでたちて
みたてまつりおかむが いとこころぐるしきを
とて そそのかしきこゆれど なほ かくかけはなれてひさしうなりたまひぬるひとにたのみをかけたまふ みこころのうちに さりとも ありへても おぼしいづるついであらじやは あはれにこころふかきちぎりをしたまひしに わがみはうくて かくわすられたるにこそあれ かぜのつてにても われかくいみじきありさまをききつけたまはば かならずとぶらひいでたまひてむと としごろおぼしければ おほかたのおほむ-いへゐも ありしよりけにあさましけれど わがこころもて はかなきみでうど-どもなどもとりうしなはせたまはず こころづよくおなじさまにてねんじすごしたまふなりけり
ねなきがちに いとどおぼししづみたるは ただやまびとのあかきこのみひとつをかほにはなたぬとみエたまふ おほむ-そばめなどは おぼろけのひとのみたてまつりゆるすべきにもあらずかし くはしくはきこエじ いとほしう ものいひさがなきやうなり

ふゆになりゆくままに いとど かきつかむかたなく かなしげにながめすごしたまふ かのとのには こ-ゐんのごれうのみはかう よのなかゆすりてしたまふ ことにそうなどは なべてのはめさず ざえすぐれおこなひにしみ たふときかぎりをえらせたまひければ このぜんじ-の-きみまゐりたまへりけり
かへりざまにたちよりたまひて
しかしか ごん-だいなごんどののみはかうにまゐりてはべるなり いとかしこう いけるじやうどのかざりにおとらず いかめしうおもしろきこと-どものかぎりをなむしたまひつる ぶつぼさつのへんげのみにこそものしたまふめれ いつつのにごりふかきよに などてむまれたまひけむ
といひて やがていでたまひぬ
ことずくなに よのひとににぬおほむ-あはひにて かひなきよのものがたりをだにえきこエあはせたまはず さても かばかりつたなきみのありさまを あはれにおぼつかなくてすぐしたまふは こころうのぶつぼさつやと つらうおぼゆるを げに かぎりなめりと やうやうおもひなりたまふに だいに-の-きたのかた にはかにきたり

れいはさしもむつびぬを さそひたてむのこころにて たてまつるべきおほむ-さうぞくなどてうじて よきくるまにのりて おももち けしき ほこりかにもの-おもひなげなるさまして ゆくりもなくはしりきて かどあけさするより ひとわろくさびしきこと かぎりもなし ひだりみぎのともみなよろぼひたふれにければ をのこ-どもたすけてとかくあけさわぐ いづれか このさびしきやどにもかならずわけたるあとあなるみつのみちと たどる

わづかにみなみおもてのかうしあげたるまによせたれば いとどはしたなしとおぼしたれど あさましうすすけたるきちやうさし-いでて じじゆういできたり かたちなど おとろへにけり としごろいたうつひエたれど なほもの-きよげによしあるさまして かたじけなくとも とりかへつべくみゆ
いでたちなむことをおもひながら こころぐるしきありさまのみすてたてまつりがたきを じじゆうのむかへになむまゐりきたる こころうくおぼしへだてて おほむ-みづからこそあからさまにもわたらせたまはね このひとをだにゆるさせたまへとてなむ などかうあはれげなるさまには
とて うちもなくべきぞかし されど ゆくみちにこころをやりて いとここちよげなり
こ-みやおはせしとき おのれをばおもてぶせなりとおぼしすてたりしかば うとうとしきやうになりそめにしかど としごろも なにかは やむごとなきさまにおぼしあがり だいしやうどのなどおはしましかよふおほむ-すくせのほどを かたじけなくおもひたまへられしかばなむ むつびきこエさせむも はばかることおほくて すぐしはべるを よのなかのかくさだめもなかりければ かずならぬみは なかなかこころやすくはべるものなりけり およびなくみたてまつりしおほむ-ありさまの いとかなしくこころぐるしきを ちかきほどはおこたるをりも のどかにたのもしくなむはべりけるを かくはるかにまかりなむとすれば うしろめたくあはれになむおぼエたまふ
などかたらへど こころとけてもいらへたまはず
いとうれしきことなれど よににぬさまにて なにかは かうながらこそくちもうせめとなむおもひはべる
とのみのたまへば
げに しかなむおぼさるべけれど いけるみをすて かくむくつけきすまひするたぐひはべらずやあらむ だいしやうどののつくりみがきたまはむにこそは ひきかへたまのうてなにもなりかへらめとは たのもしうははべれど ただいまは しきぶきやう-の-みやのおほむ-むすめよりほかに こころわけたまふかたもなかなり むかしよりすきずきしきみこころにて なほざりにかよひたまひけるところどころ みなおぼしはなれにたなり まして かうもの-はかなきさまにて やぶはらにすぐしたまへるひとをば こころきよくわれをたのみたまへるありさまとたづねきこエたまふこと いとかたくなむあるべき
などいひしらするを げにとおぼすも いとかなしくて つくづくとなきたまふ

されど うごくべうもあらねば よろづにいひわづらひくらして
さらば じじゆうをだに
と ひのくるるままにいそげば こころあわたたしくて なくなく
さらば まづけふは かうせめたまふおくりばかりにまうではべらむ かのきこエたまふもことわりなり また おぼしわづらふもさることにはべれば なかにみたまふるもこころぐるしくなむ
と しのびてきこゆ
このひとさへうち-すててむとするを うらめしうもあはれにもおぼせど いひとどむべきかたもなくて いとどねをのみたけきことにてものしたまふ
かたみにそへたまふべきみなれごろもも しほなれたれば としへぬるしるしみせたまふべきものなくて わがみぐしのおちたりけるをとり-あつめて かづらにしたまへるが きうさくよばかりにて いときよらなるを をかしげなるはこにいれて むかしのくのえかうのいとかうばしき ひとつぼぐしてたまふ
たゆまじきすぢをたのみしたまかづら
おもひのほかにかけはなれぬる
こ-ままの のたまひおきしこともありしかば かひなきみなりとも みはててむとこそおもひつれ うち-すてらるるもことわりなれど たれにみゆづりてかと うらめしうなむ
とて いみじうないたまふ このひとも ものもきこエやらず
ままのゆいごんは さらにもきこエさせず としごろのしのびがたきよのうさをすぐしはべりつるに かくおぼエぬみちにいざなはれて はるかにまかりあくがるること とて
たまかづらたエてもやまじゆくみちの
たむけ-の-かみもかけてちかはむ
いのちこそしりはべらね
などいふに
いづら くらうなりぬ
と つぶやかれて こころもそらにてひきいづれば かへりみのみせられける
としごろわびつつもゆきはなれざりつるひとの かくわかれぬることを いとこころぼそうおぼすに よにもちゐらるまじきおイびとさへ
いでや ことわりぞ いかでかたち-とまりたまはむ われらも えこそねんじはつまじけれ
と おのがみみにつけたるたより-どもおもひ-いでて とまるまじうおもへるを ひとわろくききおはす

しもつきばかりになれば ゆき あられがちにて ほかにはきゆるまもあるを あさひ ゆふひをふせぐよもぎむぐらのかげにふかうつもりて こし-の-しらやまおもひやらるるゆきのうちに いでいるしもびとだになくて つれづれとながめたまふ はかなきことをきこエなぐさめ なきみ-わらひみまぎらはしつるひとさへなくて よるもちりがましきみちやうのうちも かたはらさびしく もの-がなしくおぼさる
かのとのには めづらしびとに いとどもの-さわがしきおほむ-ありさまにて いとやむごとなくおぼされぬところどころには わざともえおとづれたまはず まして そのひとはまだよにやおはすらむ とばかりおぼしいづるをりもあれど たづねたまふべきみこころざしもいそがでありふるに としかはりぬ

うづきばかりに はなちるさとをおもひいできこエたまひて しのびてたい-の-うへにおほむ-いとまきこエていでたまふ ひごろふりつるなごりのあめ いますこしそそきて をかしきほどに つきさし-いでたり むかしのおほむ-ありきおぼしいでられて えんなるほどのゆふづくよに みちのほど よろづのことおぼしいでておはするに かたもなくあれたるいへの こだちしげくもりのやうなるをすぎたまふ
おほきなるまつにふぢのさきかかりて つきかげになよびたる かぜにつきてさとにほふがなつかしく そこはかとなきかをりなり たちばなにかはりてをかしければ さし-いでたまへるに やなぎもいたうしだりて ついぢもさはらねば みだれふしたり
みしここちするこだちかな とおぼすは はやう このみやなりけり いとあはれにて おし-とどめさせたまふ れいの これみつはかかるおほむ-しのびありきにおくれねば さぶらひけり めしよせて
ここは ひたち-の-みやぞかしな
しかはべる
ときこゆ
ここにありしひとは まだやながむらむ とぶらふべきを わざとものせむもところせし かかるついでに いりてせうそこせよ よくたづねいりてを うち-いでよ ひとたがへしては をこならむ
とのたまふ
ここには いとどながめまさるころにて つくづくとおはしけるに ひるねのゆめにこ-みやのみエたまひければ さめて いとなごりかなしくおぼして もりぬれたるひさしのはしつかたおし-のごはせて ここかしこのおましひき-つくろはせなどしつつ れいならずよづきたまひて
なきひとをこふるたもとのひまなきに
あれたるのきのしづくさへそふ
も こころ-ぐるしきほどになむありける

これみついりて めぐるめぐるひとのおとするかたやとみるに いささかのひとげもせず さればこそ ゆききのみちにみいるれど ひとすみげもなきものを とおもひて かへりまゐるほどに つきあかくさし-いでたるに みれば かうしふたまばかりあげて すだれうごくけしきなり わづかにみつけたるここち おそろしくさへおぼゆれど よりて こわづくれば いともの-ふりたるこゑにて まづしはぶきをさきにたてて
かれはたれぞ なにびとぞ
ととふ なのりして
じじゆう-の-きみときこエしひとに たいめんたまはらむ
といふ
それは ほかになむものしたまふ されど おぼしわくまじきをむななむはべる
といふこゑ いたうねびすぎたれど ききしおイびととききしりたり
うちには おもひもよらず かりぎぬすがたなるをとこ しのびやかにもてなし なごやかなれば みならはずなりにけるめにて もし きつねなどのへんげにや とおぼゆれど ちかうよりて
たしかになむ うけたまはらまほしき かはらぬおほむ-ありさまならば たづねきこエさせたまふべきみこころざしも たエずなむおはしますめるかし こよひもゆきすぎがてに とまらせたまへるを いかがきこエさせむ うしろやすくを
といへば をむな-どもうち-わらひて
かはらせたまふおほむ-ありさまならば かかるあさぢがはらをうつろひたまはでははべりなむや ただおしはかりてきこエさせたまへかし としへたるひとのこころにも たぐひあらじとのみ めづらかなるよをこそはみたてまつりすごしはべれ
と ややくづしいでて とはずがたりもしつべきが むつかしければ
よしよし まづ かくなむ きこエさせむ
とてまゐりぬ

などかいとひさしかりつる いかにぞ むかしのあともみエぬよもぎのしげさかな
とのたまへば
しかしかなむ たどり-よりてはべりつる じじゆうがをばのせうしやうといひはべりしおイ-びとなむ かはらぬこゑにてはべりつる
と ありさまきこゆ
いみじうあはれに
かかるしげきなかに なにごここちしてすぐしたまふらむ いままでとはざりけるよ
と わがみこころのなさけなさもおぼししらる
いかがすべき かかるしのびあるきもかたかるべきを かかるついでならでは えたちよらじ かはらぬありさまならば げにさこそはあらめと おしはからるるひとざまになむ
とはのたまひながら ふといりたまはむことなほつつましうおぼさる ゆゑあるおほむ-せうそこもいときこエまほしけれど みたまひしほどのくちおそさも まだかはらずは おほむ-つかひのたちわづらはむもいとほしう おぼしとどめつ これみつも
さらにえわけさせたまふまじき よもぎのつゆけさになむはべる つゆすこしはらはせてなむ いらせたまふべき
ときこゆれば
たづねてもわれこそとはめみちもなく
ふかきよもぎのもとのこころを
とひとりごちて なほおりたまへば おほむ-さきのつゆを むまのむちしてはらひつついれたてまつる
あまそそきも なほあきのしぐれめきてうち-そそけば
みかささぶらふ げに このしたつゆは あめにまさりて
ときこゆ おほむ-さしぬきのすそは いたうそほちぬめり むかしだにあるかなきかなりしちゆうもんなど ましてかたもなくなりて いりたまふにつけても いとむとくなるを たち-まじりみるひとなきぞこころやすかりける

ひめぎみは さりともとまちすぐしたまへるこころもしるく うれしけれど いとはづかしきおほむ-ありさまにてたいめんせむも いとつつましくおぼしたり だいに-の-きたのかたのたてまつりおきしおほむ-ぞ-どもをも こころゆかずおぼされしゆかりに みいれたまはざりけるを このひとびとの かうのおほむ-からびつにいれたりけるが いとなつかしきかしたるをたてまつりければ いかがはせむに きがへたまひて かのすすけたるみきちやうひきよせておはす
いりたまひて
としごろのへだてにも こころばかりはかはらずなむ おもひやりきこエつるを さしもおどろかいたまはぬうらめしさに いままでこころみきこエつるを すぎならぬこだちのしるさに えすぎでなむ まけきこエにける
とて かたびらをすこしかきやりたまへれば れいの いとつつましげに とみにもいらへきこエたまはず かくばかりわけいりたまへるがあさからぬに おもひ-おこしてぞ ほのかにきこエいでたまひける
かかるくさがくれにすぐしたまひけるとしつきのあはれも おろかならず またかはらぬこころならひに ひとのみこころのうちもたどりしらずながら わけいりはべりつるつゆけさなどを いかがおぼす としごろのおこたり はた なべてのよにおぼしゆるすらむ いまよりのちのみこころにかなはざらむなむ いひしにたがふつみもおふべき
など さしもおぼされぬことも なさけなさけしうきこエなしたまふこと-ども あむめり
たち-とどまりたまはむも ところのさまよりはじめ まばゆきおほむ-ありさまなれば つきづきしうのたまひすぐして いでたまひなむとす ひき-うゑしならねど まつのこだかくなりにけるとしつきのほどもあはれに ゆめのやうなるおほむ-みのありさまもおぼしつづけらる
ふぢなみのうち-すぎがたくみエつるは
まつこそやどのしるしなりけれ
かぞふれば こよなうつもりぬらむかし みやこにかはりにけることのおほかりけるも さまざまあはれになむ いま のどかにぞひなのわかれにおとろへしよのものがたりもきこエつくすべき としへたまへらむはるあきのくらしがたさなども たれにかはうれへたまはむと うらもなくおぼゆるも かつは あやしうなむ
などきこエたまへば
としをへてまつしるしなきわがやどを
はなのたよりにすぎぬばかりか
としのびやかにうち-みじろきたまへるけはひも そでのかも むかしよりはねびまさりたまへるにや とおぼさる
つきいりがたになりて にしのつまどのあきたるより さはるべきわたどの-だつやもなく のきのつまものこりなければ いとはなやかにさしいりたれば あたりあたりみゆるに むかしにかはらぬおほむ-しつらひのさまなど しのぶぐさにやつれたるうへのみるめよりは みやびかにみゆるを むかしものがたりにたふこぼちたるひともありけるをおぼしあはするに おなじさまにてとしふりにけるもあはれなり ひたぶるにものづつみしたるけはひの さすがにあてやかなるも こころにくくおぼされて さるかたにてわすれじとこころぐるしくおもひしを としごろさまざまのものおもひに ほれぼれしくてへだてつるほど つらしとおもはれつらむと いとほしくおぼす
かのはなちるさとも あざやかにいまめかしうなどははなやぎたまはぬところにて おほむ-めうつしこよなからぬに とがおほうかくれにけり

まつり ごけいなどのほど おほむ-いそぎ-どもにことつけて ひとのたてまつりたるものいろいろにおほかるを さるべきかぎりみこころくはへたまふ なかにもこのみやにはこまやかにおぼしよりて むつましきひとびとにおほせごとたまひ しもべ-どもなどつかはして よもぎはらはせ めぐりのみぐるしきに いたがきといふもの うち-かためつくろはせたまふ かうたづねいでたまへりと ききつたへむにつけても わがおほむ-ためめんぼくなければ わたりたまふことはなし おほむ-ふみいとこまやかにかきたまひて にでうのゐんちかきところをつくらせたまふを
そこになむわたしたてまつるべき よろしきわらはべなど もとめさぶらはせたまへ
など ひとびとのうへまでおぼしやりつつ とぶらひきこエたまへば かくあやしきよもぎのもとには おきどころなきまで をむなばらもそらをあふぎてなむ そなたにむきてよろこびきこエける
なげのおほむ-すさびにても おしなべたるよのつねのひとをば めとどめみみたてたまはず よにすこしこれはとおもほエ ここちにとまるふしあるあたりをたづねよりたまふものと ひとのしりたるに かくひきたがへ なにごともなのめにだにあらぬおほむ-ありさまを ものめかしいでたまふは いかなりけるみこころにかありけむ これもむかしのちぎりなめりかし

いまはかぎりと あなづりはてて さまざまにまよひちりあかれしうへしものひとびと われもわれもまゐらむとあらそひいづるひともあり こころばへなど はた むもれいたきまでよくおはするおほむ-ありさまに こころやすくならひて ことなることなきなま-ずりやうなどやうのいへにあるひとは ならはずはしたなきここちするもありて うちつけのこころみエにまゐりかへり きみは いにしへにもまさりたるおほむ-いきほひのほどにて もののおもひやりもましてそひたまひにければ こまやかにおぼしおきてたるに にほひいでて みやのうちやうやうひとめみエ きくさのはもただすごくあはれにみエなされしを やりみづかき-はらひ せんさいのもとだちもすずしうしなしなどして ことなるおぼエなきしもげいしの ことにつかへまほしきは かくみこころとどめておぼさるることなめりとみとりて みけしきたまはりつつ ついしようしつかうまつる

ふたとせばかりこのふるみやにながめたまひて ひむがしのゐんといふところになむ のちはわたしたてまつりたまひける たいめんしたまふことなどは いとかたけれど ちかきしめのほどにて おほかたにもわたりたまふに さし-のぞきなどしたまひつつ いとあなづらはしげにもてなしきこエたまはず
かのだいに-の-きたのかた のぼりておどろきおもへるさま じじゆうが うれしきものの いましばしまちきこエざりけるこころあささを はづかしうおもへるほどなどを いますこしとはずがたりもせまほしけれど いとかしらいたう うるさく ものうければなむ いままたもついであらむをりに おもひいでてきこゆべき とぞ

いよ-の-すけといひしは こ-ゐんかくれさせたまひて またのとし ひたちになりてくだりしかば かのははきぎもいざなはれにけり すまのおほむ-たびゐもはるかにききて ひとしれずおもひやりきこエぬにしもあらざりしかど つたへきこゆべきよすがだになくて つくばねのやまをふきこすかぜも うきたるここちして いささかのつたへだになくて としつきかさなりにけり かぎれることもなかりしおほむ-たびゐなれど きやうにかへりすみたまひて またのとしのあきぞ ひたちはのぼりける

せきいるひしも このとの いしやまにおほむ-ぐわんはたしにまうでたまひけり きやうより かのきい-の-かみなどいひしこども むかへにきたるひとびと このとのかくまうでたまふべし とつげければ みちのほどさわがしかりなむものぞ とて まだあかつきよりいそぎけるを をむなぐるまおほく ところせうゆるぎくるに ひたけぬ
うちいでのはまくるほどに とのは あはたやまこエたまひぬ とて ごぜんのひとびと みちもさりあへずきこみぬれば せきやまにみなおりゐて ここかしこのすぎのしたにくるま-どもかき-おろし こがくれにゐかしこまりてすぐしたてまつる くるまなど かたへはおくらかし さきにたてなどしたれど なほ るいひろくみゆ
くるまとをばかりぞ そでぐち もののいろあひなども もりいでてみエたる ゐなかびず よしありて さいぐうのおほむ-くだりなにぞやうのをりのものみぐるまおぼしいでらる とのも かくよにさかエいでたまふめづらしさに かずもなきごぜん-ども みなめとどめたり

ながつきつごもりなれば もみぢのいろいろこきまぜ しもがれのくさむらむらをかしうみエわたるに せきやより さとくづれいでたるたびすがた-どもの いろ-いろのあをのつきづきしきぬひもの くくりぞめのさまも さるかたにをかしうみゆ おほむ-くるまはすだれおろしたまひて かのむかしのこぎみ いま うゑもん-の-すけなるをめしよせて 

けふのおほむ-せきむかへは えおもひすてたまはじ
などのたまふみこころのうち いとあはれにおぼしいづることおほかれど おほぞうにてかひなし をむなも ひとしれずむかしのことわすれねば とりかへして もの-あはれなり
ゆくとくとせきとめがたきなみだをや
たエぬしみづとひとはみるらむ
えしりたまはじかし とおもふに いとかひなし

いしやまよりいでたまふおほむ-むかへにうゑもん-の-すけまゐりてぞ まかりすぎしかしこまりなどまうす むかし わらはにて いとむつましうらうたきものにしたまひしかば かうぶりなどえしまで このおほむ-とくにかくれたりしを おぼエぬよのさわぎありしころ もののきこエにはばかりて ひたちにくだりしをぞ すこしこころおきてとしごろはおぼしけれど いろにもいだしたまはず むかしのやうにこそあらねど なほしたしきいへびとのうちにはかぞへたまひけり
きい-の-かみといひしも いまはかうち-の-かみにぞなりにける そのおとうとのうこん-の-ぞうとけておほむ-ともにくだりしをぞ とりわきてなしいでたまひければ それにぞたれもおもひしりて などてすこしも よにしたがふこころをつかひけむ など おもひいでける

すけめしよせて おほむ-せうそこあり いまはおぼしわすれぬべきことを こころながくもおはするかな とおもひゐたり
ひとひは ちぎりしられしを さはおぼししりけむや
わくらばにゆきあふみちをたのみしも
なほかひなしやしほならぬうみ
せきもりの さもうらやましく めざましかりしかな
とあり
としごろのとだエも うひうひしくなりにけれど こころにはいつとなく ただいまのここちするならひになむ すきずきしう いとどにくまれむや
とて たまへれば かたじけなくてもて-いきて
なほ きこエたまへ むかしにはすこしおぼしのくことあらむとおもひたまふるに おなじやうなるみこころのなつかしさなむ いとどありがたき すさびごとぞやうなきこととおもへど えこそすくよかにきこエかへさね をむなにては まけきこエたまへらむに つみゆるされぬべし
などいふ いまは ましていとはづかしう よろづのこと うひうひしきここちすれど めづらしきにや えしのばれざりけむ
あふさかのせきやいかなるせきなれば
しげきなげきのなかをわくらむ
ゆめのやうになむ
ときこエたり あはれもつらさも わすれぬふしとおぼしおかれたるひとなれば をりをりは なほ のたまひうごかしけり

かかるほどに このひたち-の-かみ おイのつもりにや なやましくのみして もの-こころぼそかりければ こどもに ただこのきみのおほむ-ことをのみいひおきて
よろづのこと ただこのみこころにのみまかせて ありつるよにかはらでつかうまつれ
とのみ あけくれいひけり
をむなぎみ こころうきすくせありて このひとにさへおくれて いかなるさまにはふれまどふべきにかあらむ とおもひなげきたまふをみるに
いのちのかぎりあるものなれば をしみとどむべきかたもなし いかでか このひとのおほむ-ためにのこしおくたましひもがな わがこどものこころもしらぬを
と うしろめたうかなしきことに いひおもへど こころにえとどめぬものにて うせぬ

しばしこそ さのたまひしものを など なさけづくれど うはべこそあれ つらきことおほかり とあるもかかるもよのことわりなれば みひとつのうきことにて なげきあかしくらす ただ このかはち-の-かみのみぞ むかしよりすきごころありて すこしなさけがりける
あはれにのたまひおきし かずならずとも おぼしうとまでのたまはせよ
などついしようしよりて いとあさましきこころのみエければ
うきすくせあるみにて かくいきとまりて はてはては めづらしきこと-どもをききそふるかなと ひとしれずおもひしりて ひとにさなむともしらせで あまになりにけり
あるひとびと いふかひなしと おもひなげく かみも いとつらう
おのれをいとひたまふほどに のこりのおほむ-よはひはおほくものしたまふらむ いかでかすぐしたまふべき
などぞ あいなのさかしらやなどぞ はべるめる

さき-の-さいぐうのおほむ-まゐりのこと ちゆうぐうのみこころにいれてもよほしきこエたまふ こまかなるおほむ-とぶらひまで とりたてたるおほむ-うしろみもなしとおぼしやれど おほとのは ゐんにきこしめさむことをはばかりたまひて にでうのゐんにわたしたてまつらむことをも このたびはおぼしとまりて ただしらずがほにもてなしたまへれど おほかたのこと-どもは とりもちておやめききこエたまふ
ゐんはいとくちをしくおぼしめせど ひとわろければ おほむ-せうそこなどたエにたるを そのひになりて えならぬおほむ-よそひ-ども みぐしのはこ うちみだれのはこ かうごのはこ-ども よのつねならず くさぐさのおほむ-たきもの-ども くぬえかう またなきさまに ひやくぶのほかをおほくすぎにほふまで こころことにととのへさせたまへり おとどみたまひもせむにと かねてよりおぼしまうけけむ いとわざとがましかむめり
とのもわたりたまへるほどにて かくなむと によべたうごらんぜさす ただ みぐしのはこのかたつかたをみたまふに つきせずこまかになまめきて めづらしきさまなり さしぐしのはこのこころばに
わかれぢにそへしをぐしをかことにて
はるけきなかとかみやいさめし
おとど これをごらんじつけて おぼしめぐらすに いとかたじけなくいとほしくて わがみこころのならひ あやにくなるみをつみて
かのくだりたまひしほど みこころにおもほしけむこと かうとしへてかへりたまひて そのみこころざしをもとげたまふべきほどに かかるたがひめのあるを いかにおぼすらむ みくらゐをさり もの-しづかにて よをうらめしとやおぼすらむ など われになりてこころうごくべきふしかなと おぼしつづけたまふに いとほしく なににかくあながちなることをおもひはじめて こころぐるしくおもほしまやますらむ つらしとも おもひきこエしかど また なつかしうあはれなるみこころばへを など おもひみだれたまひて とばかりうち-ながめたまへり
このおほむ-かへりは いかやうにかきこエさせたまふらむ また おほむ-せうそこもいかが
など きこエたまへど いとかたはらいたければ おほむ-ふみはえひきいでず みやはなやましげにおもほして おほむ-かへりいとものうくしたまへど
きこエたまはざらむも いとなさけなく かたじけなかるべし
と ひとびとそそのかしわづらひきこゆるけはひをききたまひて
いとあるまじきおほむ-ことなり しるしばかりきこエさせたまへ
ときこエたまふも いとはづかしけれど いにしへおぼしいづるに いとなまめき きよらにて いみじうなきたまひしおほむ-さまを そこはかとなくあはれとみたてまつりたまひしおほむ-をさなごころも ただいまのこととおぼゆるに こ-みやすむどころのおほむ-ことなど かきつらねあはれにおぼされて ただかく
わかるとてはるかにいひしひとことも
かへりてものはいまぞかなしき
とばかりやありけむ おほむ-つかひのろく しなじなにたまはす おとどは おほむ-かへりをいとゆかしうおぼせど えきこエたまはず

ゐんのおほむ-ありさまは をむなにてみたてまつらまほしきを このおほむ-けはひもにげなからず いとよきおほむ-あはひなめるを うちは まだいといはけなくおはしますめるに かくひきたがへきこゆるを ひとしれず ものしとやおぼすらむ など にくきことをさへおぼしやりて むねつぶれたまへど けふになりておぼし-とどむべきことにしあらねば こと-どもあるべきさまにのたまひおきて むつましうおぼすすり-の-さいしやうをくはしくつかうまつるべくのたまひて うちにまゐりたまひぬ

うけばりたるおやざまには きこしめされじと ゐんをつつみきこエたまひて おほむ-とぶらひばかりと みせたまへり よきにようばうなどは もとよりおほかるみやなれば さとがちなりしもまゐりつどひて いとになく けはひあらまほし
あはれ おはせましかば いかにかひありて おぼし-いたづかましと むかしのみこころざまおぼしいづるに おほかたのよにつけては をしうあたらしかりしひとのおほむ-ありさまぞや さこそえあらぬものなりけれ よしありしかたは なほすぐれて もののをりごとにおもひいできこエたまふ

ちゆうぐうもうちにぞおはしましける うへは めづらしきひとまゐりたまふときこしめしければ いとうつくしうみこころづかひしておはします ほどよりはいみじうされおとなびたまへり みやも
かくはづかしきひとまゐりたまふを みこころづかひして みエたてまつらせたまへ
ときこエたまひけり
ひとしれず おとなははづかしうやあらむ とおぼしけるを いたうよふけてまうのぼりたまへり いとつつましげにおほどかにて ささやかにあエかなるけはひのしたまへれば いとをかし とおぼしけり
こうきでんには ごらんじつきたれば むつましうあはれにこころやすくおもほし これはひとざまもいたうしめり はづかしげに おとどのおほむ-もてなしもやむごとなくよそほしければ あなづりにくくおぼされて おほむ-とのゐなどはひとしくしたまへど うちとけたるおほむ-わらはあそびに ひるなどわたらせたまふことは あなたがちにおはします
ごん-ちゆうなごんは おもふこころありてきこエたまひけるに かくまゐりたまひて おほむ-むすめにきしろふさまにてさぶらひたまふを かたがたにやすからずおぼすべし

ゐんには かのくしのはこのおほむ-かへりごらんぜしにつけても みこころはなれがたかりけり
その-ころ おとどのまゐりたまへるに おほむ-ものがたりこまやかなり ことのついでに さいぐうのくだりたまひしこと さきざきものたまひいづれば きこエいでたまひて さおもふこころなむありしなどは えあらはしたまはず おとども かかるみけしきききがほにはあらで ただいかがおぼしたる とゆかしさに とかうかのおほむ-ことをのたまひいづるに あはれなるみけしき あさはかならずみゆれば いといとほしくおぼす
めでたしと おもほししみにけるおほむ-かたち いかやうなるをかしさにかと ゆかしうおもひきこエたまへど さらにえみたてまつりたまはぬを ねたうおもほす
いとおもりかにて ゆめにもいはけたるおほむ-ふるまひなどのあらばこそ おのづからほの-みエたまふついでもあらめ こころにくきおほむ-けはひのみふかさまされば みたてまつりたまふままに いとあらまほしとおもひきこエたまへり
かくすきまなくて ふたところさぶらひたまへば ひやうぶきやう-の-みや すがすがともえおもほしたたず みかど おとなびたまひなば さりとも えおもほしすてじ とぞ まちすぐしたまふ ふたところのおほむ-おぼエ-ども とりどりにいどみたまへり

うへは よろづのことに すぐれてゑをきようあるものにおぼしたり たててこのませたまへばにや になくかかせたまふ さいぐう-の-にようご いとをかしうかかせたまふべければ これにみこころうつりて わたらせたまひつつ かきかよはさせたまふ
てんじやうのわかきひとびとも このことまねぶをば みこころとどめてをかしきものにおもほしたれば まして をかしげなるひとの こころばへあるさまに まほならずかきすさび なまめかしうそひふして とかくふでうち-やすらひたまへるおほむ-さま らうたげさにみこころしみて いとしげうわたらせたまひて ありしよりけにおほむ-おもひまされるを ごん-ちゆうなごん ききたまひて あくまでかどかどしくいまめきたまへるみこころにて われひとにおとりなむや とおぼしはげみて すぐれたるじやうず-どもをめしとりて いみじくいましめて またなきさまなるゑ-どもを になきかみ-どもにかきあつめさせたまふ

ものがたりゑこそ こころばへみエて みどころあるものなれ
とて おもしろくこころばへあるかぎりをえりつつかかせたまふ れいのつきなみのゑも みなれぬさまに ことのはをかきつづけて ごらんぜさせたまふ
わざとをかしうしたれば また こなたにてもこれをごらんずるに こころやすくもとりいでたまはず いといたくひめて このおほむ-かたへもてわたらせたまふををしみ りやうじたまへば おとど ききたまひて
なほ ごん-ちゆうなごんのみこころばへのわかわかしさこそ あらたまりがたかめれ
などわらひたまふ
あながちにかくして こころやすくもごらんぜさせず なやましきこゆる いとめざましや こたいのおほむ-ゑ-どものはべる まゐらせむ
とそうしたまひて とのにふるきもあたらしきも ゑ-どもいりたるみづし-どもひらかせたまひて をむなぎみともろともに いまめかしきは それそれと えりととのへさせたまふ
ちやうごんかわうしようくんなどやうなるゑは おもしろくあはれなれど ことのいみあるは こたみはたてまつらず とえりとどめたまふ
かのたびのおほむ-にきのはこをもとりいでさせたまひて このついでにぞ をむなぎみにもみせたてまつりたまひける みこころふかくしらでいまみむひとだに すこしものおもひしらむひとは なみだをしむまじくあはれなり まいて わすれがたく そのよのゆめを おぼしさますをりなきみこころ-どもには とりかへしかなしうおぼしいでらる いままでみせたまはざりけるうらみをぞきこエたまひける
ひとりゐてなげきしよりはあまのすむ
かたをかくてぞみるべかりける
おぼつかなさは なぐさみなましものを
とのたまふ いとあはれと おぼして
うきめみしそのをりよりもけふはまた
すぎにしかたにかへるなみだか
ちゆうぐうばかりには みせたてまつるべきものなり かたはなるまじきいちでふづつ さすがにうらうあらのありさまさやかにみエたるを えりたまふついでにも かのあかしのいへゐぞ まづ いかに とおぼしやらぬときのまなき

かうゑ-どもあつめらるとききたまひて ごん-ちゆうなごん いとこころをつくして ぢく へうし ひものかざり いよいよととのへたまふ
やよひのとをかのほどなれば そらもうららかにて ひとのこころものび もの-おもしろきをりなるに うちわたりも せちゑ-どものひまなれば ただかやうのこと-どもにて おほむ-かたがたくらしたまふを おなじくは ごらんじどころもまさりぬべくてたてまつらむのみこころつきて いとわざとあつめまゐらせたまへり
こなたかなたと さまざまにおほかり ものがたりゑは こまやかになつかしさまさるめるを むめつぼ-の-おほむかたは いにしへのものがたり なだかくゆゑあるかぎり こうきでんは その-ころよにめづらしく をかしきかぎりをえりかかせたまへれば うち-みるめのいまめかしきはなやかさは いとこよなくまされり
うへのにようばうなども よしあるかぎり これは かれは などさだめあへるを このころのことにすめり

ちゆうぐうもまゐらせたまへるころにて かたがた ごらんじすてがたくおもほすことなれば おほむ-おこなひもおこたりつつごらんず このひとびとのとりどりにろんずるをきこしめして ひだりみぎとかたわかたせたまふ
むめつぼ-の-おほむかたには へい-ないしのすけ じじゆう-の-ないし せうしやう-の-みやうぶ みぎには だいに-の-ないしのすけ ちゆうじやう-の-みやうぶ ひやうゑ-の-みやうぶを ただいまはこころにくきいうそく-どもにて こころごころにあらそふくちつき-どもを をかしときこしめして まづ ものがたりのいできはじめのおやなるたけとり-の-おきなにうつほ-の-としかげをあはせてあらそふ
なよたけのよよにふりにけること をかしきふしもなけれど かぐやひめのこのよのにごりにもけがれず はるかにおもひのぼれるちぎりたかく かみよのことなめればあさはかなるをむな めおよばぬならむかし
といふ みぎは
かぐやひめののぼりけむくもゐは げに およばぬことなれば たれもしりがたし このよのちぎりはたけのなかにむすびければ くだれるひとのこととこそはみゆめれ ひとついへのうちはてらしけめど ももしきのかしこきおほむ-ひかりにはならばずなりにけり あべ-の-おほしがちぢのこがねをすてて ひねずみのおもひかたときにきエたるも いとあへなし くらもち-の-みこの まことのほうらいのふかきこころもしりながら いつはりてたまのえだにきずをつけたるをあやまち となす
ゑは こせ-の-あふみ ては き-の-つらゆきかけり かみやがみにからのきをばいして あかむらさきのへうし したんのぢく よのつねのよそひなり
としかげは はげしきなみかぜにおぼほれ しらぬくににはなたれしかど なほ さしてゆきけるかたのこころざしもかなひて つひに ひとのみかどにもわがくににも ありがたきざえのほどをひろめ なをのこしけるふるきこころをいふに ゑのさまも もろこしとひのもととをとりならべて おもしろきこと-ども なほならびなし
といふ しろきしきし あをきへうし きなるたまのぢくなり ゑは つねのり ては みちかぜなれば いまめかしうをかしげに めもかかやくまでみゆ ひだりは そのことわりなし

つぎに いせものがたりにじやうざむみをあはせて またさだめやらず これも みぎはおもしろくにぎははしく うちわたりよりうち-はじめ ちかきよのありさまをかきたるは をかしうみどころまさる
へい-ないし
いせのうみのふかきこころをたどらずて
ふりにしあととなみやけつべき
よのつねのあだことのひき-つくろひかざれるにおされて なりひらがなをやくたすべき
と あらそひかねたり みぎのすけ
くものうへにおもひのぼれるこころには
ちひろのそこもはるかにぞみる
ひやうゑ-の-おほきみのこころたかさは げにすてがたけれど ざいご-ちゆうじやうのなをば えくたさじ
とのたまはせて みや
みるめこそうらふりぬらめとしへにし
いせをのあまのなをやしづめむ
かやうのをむなごとにて みだりがはしくあらそふに ひとまきにことのはをつくして えもいひやらず ただ あさはかなるわかうど-どもは しにかへりゆかしがれど うへのも みやのもかたはしをだにえみず いといたうひめさせたまふ

おとどまゐりたまひて かくとりどりにあらそひさわぐこころばへ-ども をかしくおぼして
おなじくは おまへにて このかちまけさだめむ
と のたまひなりぬ かかることもやと かねておぼしければ なかにもことなるはえりとどめたまへるに かのすまあかしのふたまきは おぼすところありて とり-まぜさせたまへり
ちゆうなごんも そのみこころおとらず このころのよには ただかくおもしろきかみゑをととのふることを あめのしたいとなみたり
いまあらためかかむことは ほいなきことなり ただありけむかぎりをこそ
とのたまへど ちゆうなごんはひとにもみせで わりなきまどをあけて かかせたまひけるを ゐんにも かかることきかせたまひて むめつぼにおほむ-ゑ-どもたてまつらせたまへり
としのうちのせちゑ-どものおもしろくきようあるを むかしのじやうず-どものとりどりにかけるに えんぎのおほむ-てづからことのこころかかせたまへるに またわがみよのこともかかせたまへるまきに かのさいぐうのくだりたまひしひのだいごくでんのぎしき みこころにしみておぼしければ かくべきやうくはしくおほせられて きむもちがつかうまつれるが いといみじきをたてまつらせたまへり
えんにすきたるぢんのはこに おなじきこころばのさまなど いといまめかし おほむ-せうそこはただことばにて ゐんのてんじやうにさぶらふさこん-の-ちゆうじやうをおほむ-つかひにてあり かのだいごくでんのみこしよせたるところの かうがうしきに
みこそかくしめのほかなれそのかみの
こころのうちをわすれしもせず
とのみあり きこエたまはざらむも いとかたじけなければ くるしうおぼしながら むかしのおほむ-かむざしのはしをいささかをりて
しめのうちはむかしにあらぬここちして
かみよのこともいまぞこひしき
とて はなだのからのかみにつつみてまゐらせたまふ おほむ-つかひのろくなど いとなまめかし
ゐん-の-みかどごらんずるに かぎりなくあはれとおぼすにぞ ありしよをとりかへさまほしくおもほしける おとどをもつらしとおもひきこエさせたまひけむかし すぎにしかたのおほむ-むくイにやありけむ
ゐんのおほむ-ゑは きさいのみやよりつたはりて あのにようご-の-おほむかたにもおほくまゐるべし ないし-の-かむのきみも かやうのおほむ-このましさはひとにすぐれて をかしきさまにとりなしつつあつめたまふ

そのひとさだめて にはかなるやうなれど をかしきさまにはかなうしなして ひだりみぎのおほむ-ゑ-どもまゐらせたまふ にようばうのさぶらひにおましよそはせて きたみなみかたがたわかれてさぶらふ てんじやうびとは こうらうでんのすのこに おのおのこころよせつつさぶらふ
ひだりは したんのはこにすはうのけそく しきものにはむらさきぢのからのにしき うちしきはえびぞめのからのきなり わらはろくにん あかいろにさくらがさねのかざみ あこめはくれなゐにふぢがさねのおりものなり すがた よういなど なべてならずみゆ
みぎは ぢんのはこにせんかうのしたづくゑ うちしきはあをぢのこまのにしき あしゆひのくみ けそくのこころばへなど いまめかし わらは あをいろにやなぎのかざみ やまぶきがさねのあこめきたり
みな おまへにかき-たつ うへのにようばう まへしりへとさうぞきわけたり

めしありて うち-の-おとど ごん-ちゆうなごん まゐりたまふ そのひ そち-の-みやもまゐりたまへり いとよしありておはするうちに ゑをこのみたまへば おとどの したにすすめたまへるやうやあらむ ことことしきめしにはあらで てんじやうにおはするを おほせごとありて ごぜんにまゐりたまふ
このはんつかうまつりたまふ いみじう げにかきつくしたるゑ-どもあり さらにえさだめやりたまはず
れいのしきのゑも いにしへのじやうず-どものおもしろきこと-どもをえらびつつ ふでとどこほらずかきながしたるさま たとへむかたなしとみるに かみゑはかぎりありて やまみづのゆたかなるこころばへをえみせつくさぬものなれば ただふでのかざり ひとのこころにつくり-たてられて いまのあさはかなるも むかしのあとはぢなく にぎははしく あなおもしろとみゆるすぢはまさりて おほくのあらそひ-ども けふはかたがたにきようあることもおほかり
あさがれひのみさうじをあけて ちゆうぐうもおはしませば ふかうしろしめしたらむとおもふに おとどもいというにおぼエたまひて ところどころのはん-どもこころもとなきをりをりに ときどきさしいらへたまひけるほど あらまほし

さだめかねてよにいりぬ ひだりはなほかずひとつあるはてに すまのまきいできたるに ちゆうなごんのみこころ さわぎにけり あなたにもこころして はてのまきはこころことにすぐれたるをえりおきたまへるに かかるいみじきもののじやうずの こころのかぎりおもひすましてしづかにかきたまへるは たとふべきかたなし
みこよりはじめたてまつりて なみだとどめたまはず そのよに こころぐるしかなしとおもほししほどよりも おはしけむありさま みこころにおぼししこと-ども ただいまのやうにみエ ところのさま おぼつかなきうらうら いそのかくれなくかきあらはしたまへり
そうのてにかなのところどころにかきまぜて まほのくはしきにきにはあらず あはれなるうたなどもまじれる たぐひゆかし たれもことごとおもほさず さまざまのおほむ-ゑのきよう これにみなうつりはてて あはれにおもしろし よろづみなおし-ゆづりて ひだり かつになりぬ

よあけがたちかくなるほどに ものいとあはれにおぼされて おほむ-かはらけなどまゐるついでに むかしのおほむ-ものがたり-どもいできて
いはけなきほどより がくもんにこころをいれてはべりしに すこしもざえなどつきぬべくやごらんじけむ ゐんののたまはせしやう さいがくといふもの よにいとおもくするものなればにやあらむ いたうすすみぬるひとの いのち さいはひとならびぬるは いとかたきものになむ しなたかくむまれ さらでもひとにおとるまじきほどにて あながちにこのみちなふかくならひそと いさめさせたまひて ほんざいのかたがたのものをしへさせたまひしに つたなきこともなく またとりたててこのこととこころうることもはべらざりき ゑかくことのみなむ あやしくはかなきものから いかにしてかはこころゆくばかりかきてみるべきと おもふをりをりはべりしを おぼエぬやまがつになりて よものうみのふかきこころをみしに さらにおもひよらぬくまなくいたられにしかど ふでのゆくかぎりありて こころよりはことゆかずなむおもうたまへられしを ついでなくて ごらんぜさすべきならねば かうすきずきしきやうなる のちのきこエやあらむ
と みこにまうしたまへば
なにのざえも こころよりはなちてならふべきわざならねど みちみちにもののしあり まなびどころあらむは ことのふかさあささはしらねど おのづからうつさむにあとありぬべし ふでとるみちとごうつこととぞ あやしうたましひのほどみゆるを ふかきらうなくみゆるおれものも さるべきにて かきうつたぐひもいでくれど いへのこのなかには なほひとにぬけぬるひと なにごとをもこのみえけるとぞみエたる ゐんのごぜんにて みこ-たち ないしんわう いづれかは さまざまとりどりのざえならはさせたまはざりけむ そのなかにも とりたてたるみこころにいれて つたへうけとらせたまへるかひありて もんざいをばさるものにていはず さらぬことのなかには きんひかせたまふことなむいちのざえにて つぎにはよこぶえ びわ さうのことをなむ つぎつぎにならひたまへると うへもおぼしのたまはせき よのひと しかおもひきこエさせたるを ゑはなほふでのついでにすさびさせたまふあだこととこそおもひたまへしか いとかう まさなきまで いにしへのすみがきのじやうず-ども あとをくらうなしつべかめるは かへりて けしからぬわざなり
と うち-みだれてきこエたまひて ゑひなきにや ゐんのおほむ-こときこエいでて みなうち-しほれたまひぬ

はつかあまりのつきさし-いでて こなたは まださやかならねど おほかたのそらをかしきほどなるに ふむのつかさのおほむ-ことめしいでて わごん ごん-ちゆうなごんたまはりたまふ さはいへど ひとにまさりてかき-たてたまへり みこ さうのおほむ-こと おとど きん びははせうしやう-の-みやうぶつかうまつる うへびとのなかにすぐれたるをめして はうしたまはす いみじうおもしろし
あけはつるままに はなのいろもひとのおほむ-かたち-ども ほのかにみエて とりのさへづるほど ここちゆき めでたきあさぼらけなり ろく-どもは ちゆうぐうのおほむ-かたよりたまはす みこは おほむ-ぞまたかさねてたまはりたまふ

その-ころのことには このゑのさだめをしたまふ
かのうらうらのまきは ちゆうぐうにさぶらはせたまへ
ときこエさせたまひければ これがはじめ のこりのまきまきゆかしがらせたまへど
いま つぎつぎに
ときこエさせたまふ うへにもみこころゆかせたまひておぼしめしたるを うれしくみたてまつりたまふ
はかなきことにつけても かうもてなしきこエたまへば ごん-ちゆうなごんは なほ おぼエおさるべきにやと こころやましうおぼさるべかめり うへのみこころざしは もとよりおぼししみにければ なほ こまやかにおぼしめしたるさまを ひとしれずみたてまつりしりたまひてぞ たのもしく さりともとおぼされける
さるべきせちゑ-どもにも このおほむ-ときよりと すゑのひとのいひつたふべきれいをそへむ とおぼし わたくしざまのかかるはかなきおほむ-あそびも めづらしきすぢにせさせたまひて いみじきさかりのみよなり

おとどぞ なほつねなきものによをおぼして いますこしおとなびおはしますとみたてまつりて なほよをそむきなむとふかくおもほすべかめる
むかしのためしをみきくにも よはひたらで つかさくらゐたかくのぼり よにぬけぬるひとの ながくえたもたぬわざなりけり このみよには みのほどおぼエすぎにたり なかごろなきになりてしづみたりしうれへにかはりて いままでもながらふるなり いまよりのちのさかエは なほいのちうしろめたし しづかにこもりゐて のちのよのことをつとめ かつはいのちをものべむ とおもほして やまざとののどかなるをしめて みだうをつくらせたまひ ほとけきやうのいとなみそへてせさせたまふめるに すゑのきむたち おもふさまにかしづきいだしてみむとおぼしめすにぞ とくすてたまはむことは かたげなる いかにおぼしおきつるにかと いとしりがたし

ひむがしのゐんつくりたてて はなちるさとときこエし うつろはしたまふ にしのたい わたどのなどかけて まどころ けいしあんど あるべきさむにしおかせたまふ ひむがしのたいは あかし-の-おほむかたとおぼしおきてたり きたのたいは ことにひろくつくらせたまひて かりにても あはれとおぼして ゆくすゑかけてちぎりたのめたまひしひとびとつどひすむべきさまに へだてへだてしつらはせたまへるしも なつかしうみどころありてこまかなる しんでんはふたげたまはず ときどきわたりたまふおほむ-すみどころにして さるかたなるおほむ-しつらひ-どもしおかせたまへり
あかしにはおほむ-せうそこたエず いまはなほのぼりたまひぬべきことをばのたまへど をむなは なほ わがみのほどをおもひしるに
こよなくやむごとなききはのひとびとだに なかなかさてかけはなれぬおほむ-ありさまのつれなきをみつつ もの-おもひまさりぬべくきくを まして なにばかりのおぼエなりとてか さしいでまじらはむ このわかぎみのおほむ-おもてぶせに かずならぬみのほどこそあらはれめ たまさかにはひわたりたまふついでをまつことにて ひとわらへに はしたなきこと いかにあらむ
とおもひみだれても また さりとて かかるところにおひいで かずまへられたまはざらむも いとあはれなれば ひたすらにもえうらみそむかず おやたちも げに ことわり とおもひなげくに なかなか こころもつきはてぬ

むかし ははぎみのおほむ-おほぢ なかつかさ-の-みやときこエけるがらうじたまひけるところ おほゐがはのわたりにありけるを そのおほむ-のち はかばかしうあひつぐひともなくて としごろあれまどふを おもひいでて かのときよりつたはりてやどもりのやうにてあるひとをよびとりてかたらふ
よのなかをいまはとおもひはてて かかるすまひにしづみそめしかども すゑのよに おもひかけぬこといできてなむ さらにみやこのすみかもとむるを にはかにまばゆきひとなか いとはしたなく ゐなかびにけるここちもしづかなるまじきを ふるきところたづねて となむおもひよる さるべきものはあげわたさむ すりなどして かたのごとひとすみぬべくはつくろひなされなむや
といふ あづかり
このとしごろ らうずるひともものしたまはず あやしきやうになりてはべれば しもやにぞつくろひてやどりはべるを このはるのころより うち-の-おほとののつくらせたまふみだうちかくて かのわたりなむ いとけ-さわがしうなりにてはべる いかめしきみだう-どもたてて おほくのひとなむ つくりいとなみはべるめる しづかなるおほむ-ほいならば それやたがひはべらむ
なにか それも かのとののおほむ-かげに かたかけてとおもふことありて おのづから おひおひにうちのこと-どもはしてむ まづ いそぎておほかたのこと-どもをものせよ
といふ
みづかららうずるところにはべらねど またしりつたへたまふひともなければ かごかなるならひにて としごろかくろへはべりつるなり みさうのたはたけなどいふことの いたづらにあれはべりしかば こ-みんぶ-の-たいふ-の-きみにまうしたまはりて さるべきものなどたてまつりてなむ らうじつくりはべる
など そのあたりのたくはへのこと-どもをあやふげにおもひて ひげ-がちにつなしにくきかほを はななどうち-あかめつつ はちぶきいへば
さらに そのたなどやうのことは ここにしるまじ ただとしごろのやうにおもひてものせよ けんなどはここになむあれど すべてよのなかをすてたるみにて としごろともかくもたづねしらぬを そのこともいまくはしくしたためむ
などいふにも おほとののけはひをかくれば わづらはしくて そののち ものなどおほくうけとりてなむ いそぎつくりける

かやうにおもひよるらむともしりたまはで のぼらむことをもの-うがるも こころえずおぼし わかぎみの さてつくづくとものしたまふを のちのよにひとのいひつたへむ いまひときは ひとわろききずにや とおもほすに つくりいでてぞ しかしかのところをなむおもひいでたる ときこエさせける ひとにまじらはむことをくるしげにのみものするは かくおもふなりけり とこころえたまふ くちをしからぬこころのよういかな とおぼしなりぬ
これみつ-の-あそむ れいのしのぶるみちは いつとなくいろひつかうまつるひとなれば つかはして さるべきさまに ここかしこのよういなどせさせたまひけり
あたり をかしうて うみづらにかよひたるところのさまになむはべりける
ときこゆれば さやうのすまひに よしなからずはありぬべし とおぼす
つくらせたまふみだうは だいかくじのみなみにあたりて たきどののこころばへなど おとらずおもしろきてらなり
これは かはづらに えもいはぬまつかげになにのいたはりもなくたてたるしんでんのことそぎたるさまも おのづからやまざとのあはれをみせたり うちのしつらひなどまでおぼしよる

したしきひとびと いみじうしのびてくだしつかはす のがれがたくて いまはとおもふに としへつるうらをはなれなむこと あはれに にふだうのこころぼそくてひとりとまらむことをおもひみだれて よろづにかなし すべて など かく こころづくしになりはじめけむみにかと つゆのかからぬたぐひうらやましくおぼゆ
おや-たちも かかるおほむ-むかへにてのぼるさいはひ としごろねてもさめても ねがひわたりしこころざしのかなふと いとうれしけれど あひ-みですぐさむいぶせさのたへがたうかなしければ よるひるおもひほれて おなじことをのみ さらば わかぎみをばみたてまつらでは はべるべきか といふよりほかのことなし
ははぎみも いみじうあはれなり としごろだに おなじいほりにもすまずかけはなれつれば ましてたれによりてかはかけとどまらむ ただあだにうち-みるひとのあさはかなるかたらひだに みなれそなれて わかるるほどは ただならざめるを まして もて-ひがめたるかしらつき こころおきてこそたのもしげなけれど またさるかたに これこそは よをかぎるべきすみかなれと ありはてぬいのちをかぎりにおもひて ちぎりすぐしきつるを にはかにゆきはなれなむもこころぼそし
わかきひとびとの いぶせうおもひしづみつるは うれしきものから みすてがたきはまのさまを または えしもかへらじかしと よするなみにそへて そでぬれ-がちなり

あきのころほひなれば もののあはれとり-かさねたるここちして そのひとあるあかつきに あきかぜすずしくて むしのねもとりあへぬに うみのかたをみいだしてゐたるに にふだう れいの ごやよりふかうおきて はなすすりうちして おこなひいましたり いみじうこといみすれど たれもたれもいとしのびがたし
わかぎみは いともいともうつくしげに よるひかりけむたまのここちして そでよりほかにはなちきこエざりつるを みなれてまつはしたまへるこころざまなど ゆゆしきまで かく ひとにたがへるみをいまいましくおもひながら かたときみたてまつらでは いかでかすぐさむとすらむと つつみあへず
ゆくさきをはるかにいのるわかれぢに
たへぬはおイのなみだなりけり
いともゆゆしや
とて おし-のごひかくす あま-ぎみ
もろともにみやこはいできこのたびや
ひとりのなかのみちにまどはむ
とて なきたまふさま いとことわりなり ここらちぎりかはしてつもりぬるとしつきのほどをおもへば かううきたることをたのみて すてしよにかへるも おもへばはかなしや おほむ-かた
いきてまたあひみむことをいつとてか
かぎりもしらぬよをばたのまむ
おくりにだに
とせちにのたまへど かたがたにつけて えさるまじきよしをいひつつ さすがにみちのほども いとうしろめたなきけしきなり

よのなかをすてはじめしに かかるひとのくににおもひくだりはべりしこと-ども ただきみのおほむ-ためと おもふやうにあけくれのおほむ-かしづきもこころにかなふやうもやと おもひたまへたちしかど みのつたなかりけるきはのおもひしらるることおほかりしかば さらに みやこにかへりて ふるずりやうのしづめるたぐひにて まづしきいへのよもぎむぐら もとのありさまあらたむることもなきものから おほやけわたくしに をこがましきなをひろめて おやのおほむ-なきかげをはづかしめむことのいみじさになむ やがてよをすてつるかどでなりけりとひとにもしられにしを そのかたにつけては ようおもひはなちてけりとおもひはべるに きみのやうやうおとなびたまひ ものおもほししるべきにそへては など かうくちをしきせかいにてにしきをかくしきこゆらむと こころのやみはれまなくなげきわたりはべりしままに ほとけかみをたのみきこエて さりとも かうつたなきみにひかれて やまがつのいほりにはまじりたまはじ とおもふこころひとつをたのみはべりしに おもひよりがたくて うれしきこと-どもをみたてまつりそめても なかなかみのほどを とざまかうざまにかなしうなげきはべりつれど わかぎみのかういでおはしましたるおほむ-すくせのたのもしさに かかるなぎさにつきひをすぐしたまはむも いとかたじけなう ちぎりことにおぼエたまへば みたてまつらざらむこころまどひは しづめがたけれど このみはながくよをすてしこころはべり きみたちは よをてらしたまふべきひかりしるければ しばし かかるやまがつのこころをみだりたまふばかりのおほむ-ちぎりこそはありけめ てんにむまるるひとの あやしきみつのみちにかへるらむひとときにおもひなずらへて けふ ながくわかれたてまつりぬ いのちつきぬときこしめすとも のちのことおぼしいとなむな さらぬわかれに みこころうごかしたまふな といひはなつものから けぶりともならむゆふべまで わかぎみのおほむ-ことをなむ ろくじのつとめにも なほこころぎたなく うち-まぜはべりぬべき
とて これにぞ うち-ひそみぬる

おほむ-くるまは あまたつづけむもところせく かたへづつわけむもわづらはしとて おほむ-とものひとびとも あながちにかくろへしのぶれば ふねにてしのびやかにとさだめたり たつのときにふなでしたまふ むかしのひともあはれといひけるうらのあさぎりへだたりゆくままに いとものがなしくて にふだうは こころすみはつまじく あくがれながめゐたり ここらとしをへて いまさらにかへるも なほおもひつきせず あまぎみはなきたまふ

かのきしにこころよりにしあまぶねの
そむきしかたにこぎかへるかな
おほむ-かた
いくかへりゆきかふあきをすぐしつつ
うきぎにのりてわれかへるらむ
おもふかたのかぜにて かぎりけるひたがへずいりたまひぬ ひとにみとがめられじのこころもあれば みちのほどもかろらかにしなしたり

いへのさまもおもしろうて としごろへつるうみづらにおぼエたれば ところかへたるここちもせず むかしのことおもひいでられて あはれなることおほかり つくりそへたるらうなど ゆゑあるさまに みづのながれもをかしうしなしたり まだこまやかなるにはあらねども すみつかば さてもありぬべし
したしきけいしにおほせたまひて おほむ-まうけのことせさせたまひけり わたりたまはむことは とかうおぼしたばかるほどに ひごろへぬ

なかなかものおもひつづけられて すてしいへゐもこひしう つれづれなれば かのおほむ-かたみのきんをかき-ならす をりの いみじうしのびがたければ ひとはなれたるかたにうちとけてすこしひくに まつかぜはしたなくひびきあひたり あまぎみ もの-かなしげにてよりふしたまへるに おきあがりて
みをかへてひとりかへれるやまざとに
ききしににたるまつかぜぞふく
おほむ-かた
ふるさとにみしよのともをこひわびて
さへづることをたれかわくらむ

かやうにもの-はかなくてあかしくらすに おとど なかなかしづこころなくおぼさるれば ひとめをもえはばかりあへたまはで わたりたまふを をむなぎみは かくなむとたしかにしらせたてまつりたまはざりけるを れいの ききもやあはせたまふとて せうそこきこエたまふ
かつらにみるべきことはべるを いさや こころにもあらでほどへにけり とぶらはむといひしひとさへ かのわたりちかくきゐて まつなれば こころぐるしくてなむ さがののみだうにも かざりなきほとけのおほむ-とぶらひすべければ ふつか みかははべりなむ
ときこエたまふ
かつらのゐんといふところ にはかにつくらせたまふときくは そこにすゑたまへるにや とおぼすに こころづきなければ おののエさへあらためたまはむほどや まちどほにと こころゆかぬみけしきなり
れいの くらべくるしきみこころ いにしへのありさま なごりなしと よひといふなるものを なにやかやとみこころとりたまふほどに ひたけぬ

しのびやかに ごぜんうときはまぜで みこころづかひしてわたりたまひぬ たそかれどきにおはしつきたり かりのおほむ-ぞにやつれたまへりしだによにしらぬここちせしを まして さるみこころしてひき-つくろひたまへるおほむ-なほしすがた よになくなまめかしうまばゆきここちすれば おもひむすべるこころのやみもはるるやうなり
めづらしう あはれにて わかぐみをみたまふも いかがあさくおぼされむ いままでへだてけるとしつきだに あさましくくやしきまでおもほす
おほとのばらのきみをうつくしげなりと よひともて-さわぐは なほときよによれば ひとのみなすなりけり かくこそは すぐれたるひとのやまぐちはしるかりけれ
と うち-ゑみたるかほのなにごころなきが あいぎやうづき にほひたるを いみじうらうたしとおぼす
めのとの くだりしほどはおとろへたりしかたち ねびまさりて つきごろのおほむ-ものがたりなど なれきこゆるを あはれに さるしほやのかたはらにすぐしつらむことを おぼしのたまふ
ここにも いとさとはなれて わたらむこともかたきを なほ かのほいあるところにうつろひたまへ
とのたまへど
いとうひうひしき ほどすぐして
ときこゆるも ことわりなり よひとよ よろづにちぎりかたらひ あかしたまふ

つくろふべきところ ところのあづかり いまくはへたるけいしなどにおほせらる かつらのゐんにわたりたまふべしとありければ ちかきみさうのひとびと まゐりあつまりたりけるも みなたづねまゐりたり せんさい-どものをれふしたるなど つくろはせたまふ
ここかしこのたていし-どももみなまろびうせたるを なさけありてしなさば をかしかりぬべきところかな かかるところをわざとつくろふも あいなきわざなり さてもすぐしはてねば たつときものうく こころとまる くるしかりき
など きしかたのことものたまひいでて なきみわらひみ うちとけのたまへる いとめでたし
あまぎみ のぞきてみたてまつるに おイもわすれ ものおもひもはるるここちしてうち-ゑみぬ
ひむがしのわたどののしたよりいづるみづのこころばへ つくろはせたまふとて いとなまめかしきうちきすがたうちとけたまへるを いとめでたううれしとみたてまつるに あかのぐなどのあるをみたまふに おぼしいでて
あまぎみは こなたにか いとしどけなきすがたなりけりや
とて おほむ-なほしめしいでて たてまつる きちやうのもとによりたまひて
つみかろくおほしたてたまへる ひとのゆゑは おほむ-おこなひのほどあはれにこそ おもひなしきこゆれ いといたくおもひすましたまへりしおほむ-すみかをすてて うきよにかへりたまへるこころざし あさからず またかしこには いかにとまりて おもひおこせたまふらむと さまざまになむ
と いとなつかしうのたまふ
すてはべりしよを いまさらにたち-かへり おもひたまへみだるるを おしはからせたまひければ いのちながさのしるしも おもひたまへしられぬると うち-なきて あらいそかげに こころぐるしうおもひきこエさせはべりしふたばのまつも いまはたのもしきおほむ-おひさきと いはひきこエさするを あさきねざしゆゑや いかがと かたがたこころつくされはべる
などきこゆるけはひ よしなからねば むかしものがたりに みこのすみたまひけるありさまなど かたらせたまふに つくろはれたるみづのおとなひ かことがましうきこゆ
すみなれしひとはかへりてたどれども
しみづはやどのあるじがほなる
わざとはなくて いひけつさま みやびかによし とききたまふ
いさらゐははやくのこともわすれじを
もとのあるじやおもがはりせる
あはれ
と うち-ながめて たちたまふすがた にほひ よにしらず とのみおもひきこゆ

み-てらにわたりたまうて つきごとのじふし じふご つごもりのひおこなはるべきふげんかう あみだ さかのねんぶつのさむまいをばさるものにて またまたくはへおこなはせたまふべきことなど さだめおかせたまふ だうのかざり ほとけのおほむ-ぐなど めぐらしおほせらる つきのあかきにかへりたまふ
ありしよのこと おぼしいでらるる をりすぐさず かのきんのおほむ-ことさしいでたり そこはかとなくものあはれなるに えしのびたまはで かき-ならしたまふ まだしらべもかはらず ひきかへし そのをりいまのここちしたまふ
ちぎりしにかはらぬことのしらべにて
たエぬこころのほどはしりきや
をむな
かはらじとちぎりしことをたのみにて
まつのひびきにねをそへしかな
ときこエかはしたるも にげなからぬこそは みにあまりたるありさまなめれ こよなうねびまさりにけるかたち けはひ えおもほしすつまじう わかぎみ はた つきもせずまぼられたまふ
いかにせまし かくろへたるさまにておひいでむが こころぐるしうくちをしきを にでうのゐんにわたして こころのゆくかぎりもてなさば のちのおぼエもつみまぬかれなむかし
とおもほせど また おもはむこといとほしくて えうち-いでたまはで なみだぐみてみたまふ をさなきここちに すこしはぢらひたりしが やうやううちとけて ものいひわらひなどして むつれたまふを みるままに にほひまさりてうつくし いだきておはするさま みるかひありて すくせこよなしとみエたり

またのひはきやうへかへらせたまふべければ すこしおほとのごもりすぐして やがてこれよりいでたまふべきを かつらのゐんにひとびとおほくまゐりつどひて ここにもてんじやうびとあまたまゐりたり おほむ-さうぞくなどしたまひて
いとはしたなきわざかな かくみあらはさるべきくまにもあらぬを
とて さわがしきにひかれていでたまふ こころぐるしければ さりげなく まぎらはしてたち-とまりたまへるとぐちに めのと わかぎみいだきてさし-いでたり あはれなるみ-けしきに かき-なでたまひて
みでは いとくるしかりぬべきこそ いとうちつけなれ いかがすべき いとさととほしや
とのたまへば
はるかにおもひたまへたエたりつるとしごろよりも いまからのおほむ-もてなしの おぼつかなうはべらむは こころづくしに
など きこゆ わかぎみ てをさし-いでて たちたまへるをしたひたまへば つい-ゐたまひて
あやしう ものおもひたエぬみにこそありけれ しばしにてもくるしや いづら など もろともにいでては をしみたまはぬ さらばこそ ひとごこちもせめ
とのたまへば うち-わらひて をむなぎみにかくなむときこゆ
なかなかものおもひみだれてふしたれば とみにしもうごかれず あまりじやうずめかしとおぼしたり ひとびともかたはらいたがれば しぶしぶにゐざりいでて きちやうにはたかくれたるかたはらめ いみじうなまめいてよしあり たをやぎたるけはひ みこ-たちといはむにもたりぬべし
かたびらひき-やりて こまやかにかたらひたまふとて とばかりかへりみたまへるに さこそしづめつれ みおくりきこゆ
いはむかたなきさかりのおほむ-かたちなり いたうそびやぎたまへりしが すこしなりあふほどになりたまひにけるおほむ-すがたなど かくてこそものものしかりけれと おほむ-さしぬきのすそまで なまめかしうあいぎやうのこぼれいづるぞ あながちなるみなしなるべき
かの とけたりしくらうども かへりなりにけり ゆげひのじようにて ことしかうぶりえてけり むかしにあらため ここちよげにて みはかしとりによりきたり ひとかげをみつけて
きしかたのものわすれしはべらねど かしこければ えこそ うらかぜおぼエはべりつるあかつきのねざめにも おどろかしきこエさすべきよすがだになくて
と けしきばむを
やへたつやまは さらにしまがくれにもおとらざりけるを まつもむかしのと たどられつるに わすれぬひともものしたまひけるに たのもし
などいふ
こよなしや われもおもひなきにしもあらざりしを
など あさましうおぼゆれど
いま ことさらに
と うち-けざやぎて まゐりぬ

いとよそほしくさし-あゆみたまふほど かしかましうおひはらひて おほむ-くるまのしりに とう-の-ちゆうじやう ひやうゑ-の-かみのせたまふ
いとかるがるしきかくれが みあらはされぬるこそ ねたう
と いたうからがりたまふ
よべのつきに くちをしうおほむ-ともにおくれはべりにけるとおもひたまへられしかば けさ きりをわけてまゐりはべりつる やまのにしきは まだしうはべりけり のべのいろこそ さかりにはべりけれ なにがし-の-あそむの こたかにかかづらひて たちおくれはべりぬる いかがなりぬらむ
などいふ
けふは なほかつらどのに とて そなたざまにおはしましぬ にはかなるおほむ-あるじとさわぎて うかひ-どもめしたるに あまのさへづりおぼしいでらる
のにとまりぬるきむだち ことりしるしばかりひきつけさせたるをぎのエだなど つとにしてまゐれり おほみきあまたたびずんながれて かはのわたりあやふげなれば ゑひにまぎれておはしましくらしつ

おのおのぜくなどつくりわたして つきはなやかにさしいづるほどに おほみ-あそびはじまりて いといまめかし
ひきもの びは わごんばかり ふえ-どもじやうずのかぎりして をりにあひたるてうしふきたつるほど かはかぜふきあはせておもしろきに つきたかくさしあがり よろづのことすめるよのややふくるほどに てんじやうびと よたり いつたりばかりつれてまゐれり
うへにさぶらひけるを おほむ-あそびありけるついでに
けふは むイかのおほむ-ものいみあくひにて かならずまゐりたまふべきを いかなれば
とおほせられければ ここに かうとまらせたまひにけるよしきこしめして おほむ-せうそこあるなりけり おほむ-つかひは くらうど-の-べんなりけり
つきのすむかはのをちなるさとなれば
かつらのかげはのどけかるらむ
うらやましう
とあり かしこまりきこエさせたまふ
うへのおほむ-あそびよりも なほところからの すごさそへたるもののねをめでて またゑひくははりぬ ここにはまうけのものもさぶらはざりければ おほゐに
わざとならぬまうけのものや
と いひつかはしたり とりあへたるにしたがひてまゐらせたり きぬびつふたかけにてあるを おほむ-つかひのべんはとくかへりまゐれば をむなのさうぞくかづけたまふ
ひさかたのひかりにちかきなのみして
あさゆふきりもはれぬやまざと
ぎやうがうまちきこエたまふこころばへなるべし なかにおひたると うち-ずんじたまふついでに かのあはぢしまをおぼしいでて みつねがところからかとおぼめきけむことなど のたまひいでたるに ものあはれなるゑひなき-どもあるべし
めぐりきててにとるばかりさやけきや
あはぢのしまのあはとみしつき
とう-の-ちゆうじやう
うきぐもにしばしまがひしつきかげの
すみはつるよぞのどけかるべき
さ-だいべん すこしおとなびて こ-ゐんのおほむ-ときにも むつましうつかうまつりなれしひとなりけり
くものうへのすみかをすててよはのつき
いづれのたににかげかくしけむ
こころごころにあまたあめれど うるさくてなむ
けぢかううち-しづまりたるおほむ-ものがたり すこしうち-みだれて ちとせもみきかまほしきおほむ-ありさまなれば をののエもくちぬべけれど けふさへはとて いそぎかへりたまふ
もの-どもしなじなにかづけて きりのたエまにたちまじりたるも せんさいのはなにみエまがひたるいろあひなど ことにめでたし このゑづかさのなだかきとねり もののふし-どもなどさぶらふに さうざうしければ そのこまなどみだれあそびて ぬぎかけたまふいろいろ あきのにしきをかぜのふきおほふかとみゆ
ののしりてかへらせたまふひびき おほゐにはものへだててききて なごりさびしうながめたまふ おほむ-せうそこをだにせでと おとどもみ-こころにかかれり

とのにおはして とばかりうち-やすみたまふ やまざとのおほむ-ものがたりなどきこエたまふ
いとまきこエしほどすぎつれば いとくるしうこそ このすきもの-どものたづねきて いといたうしひとどめしに ひかされて けさは いとなやまし
とて おほとのごもれり れいの こころとけずみエたまへど みしらぬやうにて
なずらひならぬほどを おぼしくらぶるも わるきわざなめり われはわれとおもひなしたまへ
と をしへきこエたまふ
くれかかるほどに うちへまゐりたまふに ひき-そばめていそぎかきたまふは かしこへなめり そばめこまやかにみゆ うち-ささめきてつかはすを ごたちなど にくみきこゆ

そのよは うちにもさぶらひたまふべけれど とけざりつるみ-けしきとりに よふけぬれど まかでたまひぬ ありつるおほむ-かへりもてまゐれり えひき-かくしたまはで ごらんず ことににくかるべきふしもみエねば
これ やりかくしたまへ むつかしや かかるもののちらむも いまはつきなきほどになりにけり
とて おほむ-けふそくによりゐたまひて み-こころのうちには いとあはれにこひしうおぼしやらるれば ひをうち-ながめて ことにものものたまはず ふみはひろごりながらあれど をむなぎみ みたまはぬやうなるを
せめて みかくしたまふおほむ-まじりこそ わづらはしけれ
とて うち-ゑみたまへるおほむ-あいぎやう ところせきまでこぼれぬべし
さしよりたまひて
まことは らうたげなるものをみしかば ちぎりあさくもみエぬを さりとて ものめかさむほどもはばかりおほかるに おもひなむわづらひぬる おなじこころにおもひめぐらして み-こころにおもひさだめたまへ いかがすべき ここにてはぐくみたまひてむや ひる-の-こがよはひにもなりにけるを つみなきさまなるもおもひすてがたうこそ いはけなげなるしもつかたも まぎらはさむなどおもふを めざましとおぼさずは ひき-ゆひたまへかし
ときこエたまふ
おもはずにのみとりなしたまふみ-こころのへだてを せめてみしらず うらなくやはとてこそ いはけなからむみ-こころには いとようかなひぬべくなむ いかにうつくしきほどに
とて すこしうち-ゑみたむひぬ ちごをわりなうらうたきものにしたまふみ-こころなれば えて いだきかしづかばや とおぼす
いかにせまし むかへやせまし とおぼしみだる わたりたまふこといとかたし さがののみだうのねんぶつなどまちいでて つきにふたたびばかりのおほむ-ちぎりなめり としのわたりには たち-まさりぬべかめるを およびなきこととおもへども なほいかがもの-おもはしからぬ

ふゆになりゆくままに かはづらのすまひ いとどこころぼそさまさりて うはのそらなるここちのみしつつあかしくらすを きみも
なほ かくては えすぐさじ かの ちかきところにおもひたちね
と すすめたまへど つらきところおほくこころみはてむも のこりなきここちすべきを いかにいひてか などいふやうにおもひみだれたり
さらば このわかぎみを かくてのみは びんなきことなり おもふこころあれば かたじけなし たいにききおきて つねにゆかしがるを しばしみならはせて はかまぎのことなども ひとしれぬさまならずしなさむとなむおもふ
と まめやかにかたらひたまふ さおぼすらむ とおもひわたることなれば いとどむねつぶれぬ
あらためてやむごとなきかたにもてなされたまふとも ひとのもりきかむことは なかなかにや つくろひがたくおぼされむ
とて はなちがたくおもひたる ことわりにはあれど
うしろやすからぬかたにやなどは なうたがひたまひそ かしこには としへぬれど かかるひともなきが さうざうしくおぼゆるままに さき-の-さいぐうのおとなびものしたまふをだにこそ あながちにあつかひきこゆめれば まして かくにくみがたげなめるほどを おろかにはみはなつまじきこころばへに
など をむなぎみのおほむ-ありさまのおもふやうなることもかたりたまふ
げに いにしへは いかばかりのことにさだまりたまふべきにかと つてにもほの-きこエしみ-こころの なごりなくしづまりたまへるは おぼろけのおほむ-すくせにもあらず ひとのおほむ-ありさまも ここらのおほむ-なかにすぐれたまへるにこそは とおもひやられて かずならぬひとのならびきこゆべきおぼエにもあらぬを さすがに たちいでて ひともめざましとおぼすことやあらむ わがみは とてもかくてもおなじこと おひさきとほきひとのおほむ-うへも つひには かのみ-こころにかかるべきにこそあめれ さりとならば げにかうなにごころなきほどにやゆづりきこエまし とおもふ
また てをはなちて うしろめたからむこと つれづれもなぐさむかたなくては いかがあかしくらすべからむ なににつけてか たまさかのおほむ-たちよりもあらむ など さまざまにおもひみだるるに みのうきこと かぎりなし

あまぎみ おもひやりふかきひとにて
あぢきなし みたてまつらざらむことは いとむねいたかりぬべけれど つひにこのおほむ-ためによかるべからむことをこそおもはめ あさくおぼしてのたまふことにはあらじ ただうち-たのみきこエて わたしたてまつりたまひてよ ははがたからこそ みかどのみこもきはぎはにおはすめれ このおとど-の-きみの よにふたつなきおほむ-ありさまながら よにつかへたまふは こ-だいなごんの いまひときざみなりおとりたまひて かういばらといはれたまひし けぢめにこそはおはすめれ まして ただうどはなずらふべきことにもあらず また みこ-たち おとどのおほむ-はらといへど なほさしむかひたるおとりのところには ひともおもひおとし おやのおほむ-もてなしも えひとしからぬものなり まして これは やむごとなきおほむ-かたがたにかかるひと いでものしたまはば こよなくけたれたまひなむ ほどほどにつけて おやにもひとふしもて-かしづかれぬるひとこそ やがておとしめられぬはじめとはなれ おほむ-はかまぎのほども いみじきこころをつくすとも かかるみやまがくれにては なにのはエかあらむ ただまかせきこエたまひて もてなしきこエたまはむありさまをも ききたまへ
とをしふ
さかしきひとのこころのうら-どもにも ものとはせなどするにも なほわたりたまひてはまさるべし とのみいへば おもひ-よわりにたり
とのも しかおぼしながら おもはむところのいとほしさに しひてもえのたまはで
おほむ-はかまぎのことは いかやうにか
とのたまへるおほむ-かへりに
よろづのこと かひなきみにたぐへきこエては げにおひさきもいとほしかるべくおぼエはべるを たちまじりても いかにひとわらへにや
ときこエたるを いとどあはれにおぼす
ひなどとらせたまひて しのびやかに さるべきことなどのたまひおきてさせたまふ はなちきこエむことは なほいとあはれにおぼゆれど きみのおほむ-ためによかるべきことをこそは とねんず
めのとをもひき-わかれなむこと あけくれのもの-おもはしさ つれづれをもうち-かたらひて なぐさめならひつるに いとどたつきなきことをさへとりそへ いみじくおぼゆべきことと きみもなく
めのとも
さるべきにや おぼエぬさまにて みたてまつりそめて としごろのみ-こころばへの わすれがたうこひしうおぼエたまふべきを うち-たエきこゆることはよもはべらじ つひにはとたのみながら しばしにても よそよそに おもひのほかのまじらひしはべらむが やすからずもはべるべきかな
など うち-なきつつすぐすほどに しはすにもなりぬ

ゆき あられ-がちに こころぼそさまさりて あやしくさまざまに ものおもふべかりけるみかなと うち-なげきて つねよりもこのきみをなでつくろひつつみゐたり
ゆきかき-くらしふりつもるあした きしかたゆくすゑのこと のこらずおもひつづけて れいはことにはしぢかなるいでゐなどもせぬを みぎはのこほりなどみやりて しろききぬ-どものなよよかなるあまたきて ながめゐたるやうだい かしらつき うしろでなど かぎりなきひとときこゆとも かうこそはおはすらめ とひとびともみる おつるなみだをかきはらひて
かやうならむひ ましていかにおぼつかなからむと らうたげにうち-なげきて
ゆきふかみみやまのみちははれずとも
なほふみかよへあとたエずして
とのたまへば めのと うち-なきて
ゆきまなきよしののやまをたづねても
こころのかよふあとたエめやは
といひなぐさむ

このゆきすこしとけてわたりたまへり れいはまちきこゆるに さならむとおぼゆることにより むねうち-つぶれて ひとやりならず おぼゆ
わがこころにこそあらめ いなびきこエむをしひてやは あぢきな とおぼゆれど かるがるしきやうなりと せめておもひかへす
いとうつくしげにて まへにゐたまへるをみたまふに
おろかにはおもひがたかりけるひとのすくせかな
とおもほす このはるよりおふすみぐし あまそぎのほどにて ゆらゆらとめでたく つらつき まみのかをれるほどなど いへばさらなり よそものにおもひやらむほどのこころのやみ おしはかりたまふに いとくるしければ うちかへしのたまひあかす
なにか かくくちをしきみのほどならずだにもてなしたまはば
ときこゆるものから ねんじあへずうち-なくけはひ あはれなり
ひめぎみは なにごころもなく み-くるまにのらむことをいそぎたまふ よせたるところに ははぎみみづからいだきていでたまへり かたことの こゑはいとうつくしうて そでをとらへて のりたまへ とひくも いみじうおぼエて
すゑとほきふたばのまつにひき-わかれ
いつかこだかきかげをみるべき
えもいひやらず いみじうなけば
さりや あなくるし とおぼして
おひそめしねもふかければたけくまの
まつにこまつのちよをならべむ
のどかにを
と なぐさめたまふ さることとはおもひしづむれど えなむたへざりける めのとのせうしやうとて あてやかなるひとばかり みはかし あまがつやうのものとりてのる ひとだまひによろしきわかうど わらはなどのせて おほむ-おくりにまゐらす
みちすがら とまりつるひとのこころぐるしさを いかに つみやうらむ とおぼす

くらうおはしつきて み-くるまよするより はなやかにけはひことなるを ゐなかびたるここち-どもは はしたなくてやまじらはむ とおもひつれど にしおもてをことにしつらはせたまひて ちひさきおほむ-でうど-ども うつくしげにととのへさせたまへり めのとのつぼねには にしのわたどのの きたにあたれるをせさせたまへり
わかぎみは みちにてねたまひにけり いだきおろされて なきなどはしたまはず こなたにておほむ-くだものまゐりなどしたまへど やうやうみめぐらして ははぎみのみエぬをもとめて らうたげにうち-ひそみたまへば めのとめしいでて なぐさめまぎらはしきこエたまふ
やまざとのつれづれ まして いかに とおぼしやるはいとほしけれど あけくれおぼすさまにかしづきつつ みたまふは ものあひたるここちしたまふらむ
いかにぞや ひとのおもふべききずなきことは このわたりにいでおはせで
と くちをしくおぼさる
しばしは ひとびともとめてなきなどしたまひしかど おほかたこころやすくをかしきこころざまなれば うへにいとよくつきむつびきこエたまへれば いみじううつくしきものえたり とおぼしけり ことごとなくいだきあつかひ もてあそびきこエたまひて めのとも おのづからちかうつかうまつりなれにけり また やむごとなきひとのちある そへてまゐりたまふ
おほむ-はかまぎは なにばかりわざとおぼしいそぐことはなけれど けしきことなり おほむ-しつらひ ひひなあそびのここちしてをかしうみゆ まゐりたまへるまらうと-ども ただあけくれのけぢめしなければ あながちにめもたたざりき ただ ひめぎみのたすきひき-ゆひたまへるむねつきぞ うつくしげさそひてみエたまひつる

おほゐには つきせずこひしきにも みのおこたりをなげきそへたり さこそいひしか あまぎみもいとどなみだもろなれど かくもてかしづかれたまふをきくはうれしかりけり なにごとをか なかなかとぶらひきこエたまはむ ただおほむかたのひとびとに めのとよりはじめて よになきいろあひをおもひいそぎてぞ おくりきこエたまひける
まちどほならむも いとどさればよ とおもはむに いとほしければ としのうちにしのびてわたりたまへり
いとどさびしきすまひに あけくれのかしづきぐさをさへはなれきこエて おもふらむことのこころぐるしければ おほむ-ふみなども たエまなくつかはす
をむなぎみも いまはことにゑんじきこエたまはず うつくしきひとにつみゆるしきこエたまへり

としもかへりぬ うららかなるそらに おもふことなきおほむ-ありさまは いとどめでたく みがきあらためたるおほむ-よそひに まゐりつどひたまふめるひとの おとなしきほどのは なぬか おほむ-よろこびなどしたまふ ひきつれたまへり
わかやかなるは なにともなくここちよげにみエたまふ つぎつぎのひとも こころのうちにはおもふこともやあらむ うはべはほこりかにみゆる ころほひなりかし
ひむがしのゐんのたい-の-おほむかたも ありさまはこのましう あらまほしきさまに さぶらふひとびと わらはべのすがたなど うちとけず こころづかひしつつすぐしたまふに ちかきしるしはこよなくて のどかなるおほむ-いとまのひまなどには ふとはひわたりなどしたまへど よるたちとまりなどやうに わざとはみエたまはず
ただみ-こころざまのおイらかにこめきて かばかりのすくせなりけるみにこそあらめ とおもひなしつつ ありがたきまでうしろやすくのどかにものしたまへば をりふしのみ-こころおきてなども こなたのおほむ-ありさまにおとるけぢめこよなからずもてなしたまひて あなづりきこゆべうはあらねば おなじごと ひとまゐりつかうまつりて べたう-どももことおこたらず なかなかみだれたるところなく めやすきおほむ-ありさまなり

やまざとのつれづれをもたエずおぼしやれば おほやけわたくしもの-さわがしきほどすぐして わたりたまふとて つねよりことにうち-けさうじたまひて さくらのおほむ-なほしに えならぬおほむ-ぞひき-かさねて たきしめ さうぞきたまひて まかりまうしたまふさま くまなきゆふひに いとどしくきよらにみエたまふ をむなぎみ ただならずみたてまつりおくりたまふ
ひめぎみは いはけなくおほむ-さしぬきのすそにかかりて したひきこエたまふほどに とにもいでたまひぬべければ たちとまりて いとあはれとおぼしたり こしらへおきて あすかへりこむと くちずさびていでたまふに わたどののとぐちにまちかけて ちゆうじやう-の-きみしてきこエたまへり
ふねとむるをちかたびとのなくはこそ
あすかへりこむせなとまちみめ
いたうなれてきこゆれば いとにほひやかにほほゑみて
ゆきてみてあすもさねこむなかなかに
をちかたびとはこころおくとも
なにごとともききわかでされありきたまふひとを うへはうつくしとみたまへば をちかたびとのめざましきも こよなくおぼしゆるされにたり
いかにおもひおこすらむ われにて いみじうこひしかりぬべきさまを
と うち-まもりつつ ふところにいれて うつくしげなるおほむ-ちをくくめたまひつつ たはぶれゐたまへるおほむ-さま みどころおほかり おまへなるひとびとは
などか おなじくは
いでや
など かたらひあへり

かしこには いとのどやかに こころばせあるけはひにすみなして いへのありさまも やうはなれめづらしきに みづからのけはひなどは みるたびごとに やむごとなきひとびとなどにおとるけぢめこよなからず かたち よういあらまほしうねびまさりゆく
ただ よのつねのおぼエにかき-まぎれたらば さるたぐひなくやはとおもふべきを よににぬひがものなるおやのきこエなどこそ くるしけれ ひとのほどなどは さてもあるべきを などおぼす
はつかに あかぬほどにのみあればにや こころのどかならずたちかへりたまふもくるしくて ゆめのわたりのうきはしか とのみ うち-なげかれて さうのことのあるをひきよせて かのあかしにて さよふけたりしねも れいのおぼしいでらるれば びはをわりなくせめたまへば すこしかきあはせたる いかで かうのみひきぐしけむ とおぼさる わかぎみのおほむ-ことなど こまやかにかたりたまひつつおはす
ここは かかるところなれど かやうにたちとまりたまふをりをりあれば はかなきくだもの こはいひばかりはきこしめすときもあり ちかきみ-てら かつらどのなどにおはしましまぎらはしつつ いとまほにはみだれたまはねど また いとけざやかにはしたなく おしなべてのさまにはもてなしたまはぬなどこそは いとおぼエことにはみゆめれ
をむなも かかるみ-こころのほどをみしりきこエて すぎたりとおぼすばかりのことはしいでず また いたくひげせずなどして み-こころおきてにもて-たがふことなく いとめやすくぞありける
おぼろけにやむごとなきところにてだに かばかりもうちとけたまふことなく けだかきおほむ-もてなしをききおきたれば
ちかきほどにまじらひては なかなかめなれて ひとあなづられなること-どももぞあらまし たまさかにて かやうにふりはへたまへるこそ たけきここちすれ
とおもふべし
あかしにも さこそいひしか このみ-こころおきて ありさまをゆかしがりて おぼつかなからず ひとはかよはしつつ むねつぶるることもあり また おもだたしく うれしとおもふこともおほくなむありける

その-ころ おほき-おとどうせたまひぬ よのおもしとおはしつるひとなれば おほやけにもおぼしなげく しばし こもりたまひしほどをだに あめのしたのさわぎなりしかば まして かなしとおもふひとおほかり げんじ-の-おとども いとくちをしく よろづこと おし-ゆづりきこエてこそ いとまもありつるを ことしげくもおぼされて なげきおはす
みかどは おほむ-としよりはこよなうおとなおとなしうねびさせたまひて よのまつりごとも うしろめたくおもひきこエたまふべきにはあらねども またとりたてておほむ-うしろみしたまふべきひともなきを たれにゆづりてかは しづかなるおほむ-ほいもかなはむ とおぼすに いとあかずくちをし
のちのおほむ-わざなどにも みこ-どもむまごにすぎてなむ こまやかにとぶらひあつかひたまひける
そのとし おほかたよのなかさわがしくて おほやけざまに もののさとししげく のどかならで
あまつそらにも れいにたがへるつきひほしのひかりみエ くものたたずまひあり
とのみ よのひとおどろくことおほくて みちみちのかんがへぶみ-どもたてまつれるにも あやしくよになべてならぬこと-どもまじりたり うち-の-おとどのみなむ み-こころのうちに わづらはしくおぼししらるることありける

にふだう-きさいのみや はるのはじめよりなやみわたらせたまひて やよひには いとおもくならせたまひぬれば ぎやうがうなどあり ゐんにわかれたてまつらせたまひしほどは いといはけなくて ものふかくもおぼされざりしを いみじうおぼしなげきたるみ-けしきなれば みやもいとかなしくおぼしめさる
ことしは かならずのがるまじきとしとおもひたまへつれど おどろおどろしきここちにもはべらざりつれば いのちのかぎりしりがほにはべらむも ひとやうたて ことことしうおもはむとはばかりてなむ くどくのことなども わざとれいよりもとりわきてしもはべらずなりにける
まゐりて こころのどかにむかしのおほむ-ものがたりもなどおもひたまへながら うつしざまなるをりすくなくはべりて くちをしく いぶせくてすぎはべりぬること
と いとよわげにきこエたまふ
さむじふしちにぞおはしましける されど いとわかくさかりにおはしますさまを をしくかなしとみたてまつらせたまふ
つつしませたまふべきおほむ-としなるに はればれしからで つきごろすぎさせたまふことをだに なげきわたりはべりつるに おほむ-つつしみなどをも つねよりことにせさせたまはざりけること
と いみじうおぼしめしたり ただこのころぞ おどろきて よろづのことせさせたまふ つきごろは つねのおほむ-なやみとのみうち-たゆみたりつるを げんじ-の-おとどもふかくおぼしいりたり かぎりあれば ほどなくかへらせたまふも かなしきことおほかり
みや いとくるしうて はかばかしうものもきこエさせたまはず み-こころのうちにおぼしつづくるに たかきすくせ よのさかエもならぶひとなく こころのうちにあかずおもふこともひとにまさりけるみ とおぼししらる うへの ゆめのなかにも かかることのこころをしらせたまはぬを さすがにこころぐるしうみたてまつりたまひて これのみぞ うしろめたくむすぼほれたることに おぼしおかるべきここちしたまひける

おとどは おほやけがたざまにても かくやむごとなきひとのかぎり うち-つづきうせたまひなむことをおぼしなげく ひとしれぬあはれ はた かぎりなくて おほむ-いのりなどおぼしよらぬことなし としごろおぼしたエたりつるすぢさへ いまひとたび きこエずなりぬるが いみじくおぼさるれば ちかきみきちやうのもとによりて おほむ-ありさまなども さるべきひとびとにとひききたまへば したしきかぎりさぶらひて こまかにきこゆ
つきごろなやませたまへるみ-ここちに おほむ-おこなひをときのまもたゆませたまはずせさせたまふつもりの いとどいたうくづほれさせたまふに このころとなりては かうじなどをだに ふれさせたまはずなりにたれば たのみどころなくならせたまひにたること
と なきなげくひとびとおほかり
ゐんのおほむ-ゆいごんにかなひて うちのおほむ-うしろみつかうまつりたまふこと としごろおもひしりはべることおほかれど なににつけてかは そのこころよせことなるさまをも もらしきこエむとのみ のどかにおもひはべりけるを いまなむあはれにくちをしく
と ほのかにのたまはするも ほのぼのきこゆるに おほむ-いらへもきこエやりたまはず なきたまふさま いといみじ などかうしもこころよわきさまにと ひとめをおぼしかへせど いにしへよりのおほむ-ありさまを おほかたのよにつけても あたらしくをしきひとのおほむ-さまを こころにかなふわざならねば かけ-とどめきこエむかたなく いふかひなくおぼさるることかぎりなし
はかばかしからぬみながらも むかしよりおほむ-うしろみつかうまつるべきことを こころのいたるかぎり おろかならずおもひたまふるに おほきおとどのかくれたまひぬるをだに よのなか こころあわたたしくおもひたまへらるるに また かくおはしませば よろづにこころみだれはべりて よにはべらむことも のこりなきここちなむしはべる
などきこエたまふほどに ともしびなどのきエいるやうにてはてたまひぬれば いふかひなくかなしきことをおぼしなげく

かしこきおほむ-みのほどときこゆるなかにも み-こころばへなどの よのためしにもあまねくあはれにおはしまして がうけにことよせて ひとのうれへとあることなどもおのづからうち-まじるを いささかもさやうなることのみだれなく ひとのつかうまつることをも よのくるしみとあるべきことをば とどめたまふ
くどくのかたとても すすむるによりたまひて いかめしうめづらしうしたまふひとなども むかしのさかしきよにみなありけるを これは さやうなることなく ただもとよりのたからもの えたまふべきつかさ かうぶり みふのもののさるべきかぎりして まことにこころふかきこと-どものかぎりをしおかせたまへれば なにとわくまじきやまぶしなどまでをしみきこゆ
をさめたてまつるにも よのなかひびきて かなしとおもはぬひとなし てんじやうびとなど なべてひとついろにくろみわたりて もののはエなきはるのくれなり にでうのゐんのおまへのさくらをごらんじても はなのえんのをりなどおぼしいづ ことしばかりはと ひとりごちたまひて ひとのみとがめつべければ おほむ-ねんずだうにこもりゐたまひて ひひとひなきくらしたまふ ゆふひはなやかにさして やまぎはのこずゑあらはなるに くものうすくわたれるが にびいろなるを なにごともおほむ-めとどまらぬころなれど いとものあはれにおぼさる
いりひさすみねにたなびくうすぐもは
ものおもふそでにいろやまがへる
ひときかぬところなれば かひなし

み-わざなどもすぎて こと-どもしづまりて みかど もの-こころぼそくおぼしたり このにふだう-の-みやのおほむ-はは-ぎさきのみよよりつたはりて つぎつぎのおほむ-いのりのしにてさぶらひけるそうづ こ-みやにもいとやむごとなくしたしきものにおぼしたりしを おほやけにもおもきおほむ-おぼエにて いかめしきおほむ-ぐわん-どもおほくたてて よにかしこきひじりなりける とししちじふばかりにて いまはをはりのおこなひをせむとてこもりたるが みやのおほむ-ことによりていでたるを うちよりめしありて つねにさぶらはせたまふ
このごろは なほもとのごとくまゐりはべるべきよし おとどもすすめのたまへば
いまは よゐなど いとたへがたうおぼエはべれど おほせごとのかしこきにより ふるきこころざしをそへて
とて さぶらふに しづかなるあかつきに ひともちかくさぶらはず あるはまかでなどしぬるほどに こたいにうち-しはぶきつつ よのなかのこと-どもそうしたまふついでに
いとそうしがたく かへりてはつみにもやまかりあたらむとおもひたまへはばかるかたおほかれど しろしめさぬに つみおもくて てんげんおそろしくおもひたまへらるることを こころにむせびはべりつつ いのちをはりはべりなば なにのやくかははべらむ ほとけもこころぎたなしとやおぼしめさむ
とばかりそうして えうち-いでぬことあり

うへ なにごとならむ このよにうらみのこるべくおもふことやあらむ ほふしは ひじりといへども あるまじきよこざまのそねみふかく うたてあるものを とおぼして
いはけなかりしときより へだておもふことなきを そこには かくしのびのこされたることありけるをなむ つらくおもひぬる
とのたまはすれば
あなかしこ さらに ほとけのいさめまもりたまふしんごんのふかきみちをだに かくしとどむることなくひろめつかうまつりはべり まして こころにくまあること なにごとにかはべらむ
これはきしかたゆくさきのだいじとはべることを すぎおはしましにしゐん きさい-の-みや ただいまよをまつりごちたまふおとどのおほむ-ため すべて かへりてよからぬことにやもりいではべらむ かかるおイほふしのみには たとひうれへはべりとも なにのくイかはべらむ ぶつてんのつげあるによりてそうしはべるなり
わがきみはらまれおはしましたりしときより こ-みやのふかくおぼしなげくことありて おほむ-いのりつかうまつらせたまふゆゑなむはべりし くはしくはほふしのこころにえさとりはべらず ことのたがひめありて おとどよこさまのつみにあたりたまひしとき いよいよおぢおぼしめして かさねておほむ-いのり-どもうけたまはりはべりしを おとどもきこしめしてなむ またさらにことくはへおほせられて おほむ-くらゐにつきおはしまししまでつかうまつること-どもはべりし
そのうけたまはりしさま
とて くはしくそうするをきこしめすに あさましうめづらかにて おそろしうもかなしうも さまざまにみ-こころみだれたり
とばかり おほむ-いらへもなければ そうづ すすみそうしつるをびんなくおぼしめすにやと わづらはしくおもひて やをらかしこまりてまかづるを めしとどめて
こころにしらですぎなましかば のちのよまでのとがめあるべかりけることを いままでしのびこめられたりけるをなむ かへりてはうしろめたきこころなりとおもひぬる またこのことをしりてもらしつたふるたぐひやあらむ
とのたまはす
さらに なにがしとわう-みやうぶとよりほかのひと このことのけしきみたるはべらず さるによりなむ いとおそろしうはべる てんべんしきりにさとし よのなかしづかならぬは このけなり いときなく もののこころしろしめすまじかりつるほどこそはべりつれ やうやうおほむ-よはひたりおはしまして なにごともわきまへさせたまふべきときにいたりて とがをもしめすなり よろづのこと おやのみ-よよりはじまるにこそはべるなれ なにのつみともしろしめさぬがおそろしきにより おもひたまへけちてしことを さらにこころよりいだしはべりぬること
と なくなくきこゆるほどに あけはてぬれば まかでぬ
うへは ゆめのやうにいみじきことをきかせたまひて いろいろにおぼしみだれさせたまふ
こ-ゐんのおほむ-ためもうしろめたく おとどのかくただうどにてよにつかへたまふも あはれにかたじけなかりけること
かたがたおぼし-なやみて ひたくるまでいでさせたまはねば かくなむ とききたまひて おとどもおどろきてまゐりたまへるを ごらんずるにつけても いとどしのびがたくおぼしめされて おほむ-なみだのこぼれさせたまひぬるを
おほかたこ-みやのおほむ-ことを ひるよなくおぼしめしたるころなればなめり
とみたてまつりたまふ

そのひ しきぶきやう-の-みこうせたまひぬるよしそうするに いよいよよのなかのさわがしきことをなげきおぼしたり かかるころなれば おとどはさとにもえまかでたまはで つとさぶらひたまふ
しめやかなるおほむ-ものがたりのついでに
よはつきぬるにやあらむ もの-こころぼそくれいならぬここちなむするを あめのしたもかくのどかならぬに よろづあわたたしくなむ こ-みやのおぼさむところによりてこそ せけんのこともおもひはばかりつれ いまはこころやすきさまにてもすぐさまほしくなむ
とかたらひきこエたまふ
いとあるまじきおほむ-ことなり よのしづかならぬことは かならずまつりごとのなほく ゆがめるにもよりはべらず さかしきよにしもなむ よからぬこと-どもはべりける ひじりのみかどのよにも よこさまのみだれいでくること もろこしにもはべりける わがくににもさなむはべる まして ことわりのよはひ-どものときいたりぬるを おぼし-なげくべきことにもはべらず
など すべておほくのこと-どもをきこエたまふ かたはしまねぶも いとかたはらいたしや
つねよりもくろきおほむ-よそひに やつしたまへるおほむ-かたち たがふところなし うへも としごろおほむ-かがみにも おぼし-よることなれど きこしめししことののちは またこまかにみたてまつりたまひつつ ことにいとあはれにおぼしめさるれば いかで このことをかすめきこエばや とおぼせど さすがに はしたなくもおぼしぬべきことなれば わかきみ-ここちにつつましくて ふともえうち-いできこエたまはぬほどは ただおほかたのこと-どもを つねよりことになつかしうきこエさせたまふ
うち-かしこまりたまへるさまにて いとみ-けしきことなるを かしこきひとのおほむ-めには あやしとみたてまつりたまへど いとかく さださだときこしめしたらむとはおぼさざりけり

うへは わう-みやうぶにくはしきことは とはまほしうおぼしめせど
いまさらに しかしのびたまひけむことしりにけりと かのひとにもおもはれじ ただ おとどにいかでほのめかしとひきこエて さきざきのかかることのれいはありけりやととひきかむ
とぞおぼせど さらについでもなければ いよいよおほむ-がくもんをせさせたまひつつ さまざまのふみ-どもをごらんずるに
もろこしには あらはれてもしのびても みだりがはしきこといとおほかりけり ひのもとには さらにごらんじうるところなし たとひあらむにても かやうにしのびたらむことをば いかでかつたへしるやうのあらむとする いtせ-の-げんじ またなふごん だいじんになりてのちに さらにみこにもなり くらゐにもつきたまひつるも あまたのれいありけり ひとがらのかしこきにことよせて さもやゆづりきこエまし
など よろづにぞおぼしける

あきのつかさめしに だいじやう-だいじんになりたまふべきこと うちうちにさだめまうしたまふついでになむ みかど おぼしよするすぢのこと もらしきこエたまひけるを おとど いとまばゆく おそろしうおぼして さらにあるまじきよしをまうしかへしたまふ
こ-ゐんのみ-こころざし あまたのみこ-たちのおほむ-なかに とりわきておぼしめしながら くらゐをゆづらせたまはむことをおぼしめしよらずなりにけり なにか そのみ-こころあらためて およばぬきはにはのぼりはべらむ ただ もとのおほむ-おきてのままに おほやけにつかうまつりて いますこしのよはひかさなりはべりなば のどかなるおこなひにこもりはべりなむとおもひたまふる
と つねのおほむ-ことばにかはらずそうしたまへば いとくちをしうなむおぼしける
だいじやう-だいじんになりたまふべきさだめあれど しばし とおぼすところありて ただみ-くらゐそひて うしぐるまゆるされてまゐりまかでしたまふを みかど あかず かたじけなきものにおもひきこエたまひて なほみこになりたまふべきよしをおぼしのたまはすれど
よのなかのおほむ-うしろみしたまふべきひとなし ごん-ちゆうなごん だいなごんになりて うだいしやうかけたまへるを いまひときはあがりなむに なにごともゆづりてむ さてのちに ともかくも しづかなるさまに
とぞおぼしける なほおぼしめぐらすに
こ-みやのおほむ-ためにもいとほしう またうへのかくおぼしめしなやめるをみたてまつりたまふもかたじけなきに たれかかることをもらしそうしけむ
と あやしうおぼさる
みやうぶは みくしげどののかはりたるところにうつりて ざうしたまはりてまゐりたり おとど たいめんしたまひて
このことを もし もののついでに つゆばかりにてももらしそうしたまふことやありし
とあないしたまへど
さらに かけてもきこしめさむことを いみじきことにおぼしめして かつは つみうることにやと うへのおほむ-ためを なほおぼしめしなげきたりし
ときこゆるにも ひとかたならずこころ-ぶかくおはせしおほむ-ありさまなど つきせずこひきこエたまふ

さいぐう-の-にようごは おぼししもしるきおほむ-うしろみにて やむごとなきおほむ-おぼエなり おほむ-ようい ありさまなども おもふさまにあらまほしうみエたまへれば かたじけなきものにもて-かしづききこエたまへり
あきのころ にでうのゐんにまかでたまへり しんでんのおほむ-しつらひ いとどかかやくばかりしたまひて いまはむげのおやざまにもてなして あつかひきこエたまふ
あきのあめいとしづかにふりて おまへのせんさしのいろいろみだれたるつゆのしげさに いにしへのこと-どもかき-つづけおぼしいでられて おほむ-そでもぬれつつ にようごのおほむ-かたにわたりたまへり こまやかなるにびいろのおほむ-なほしすがたにて よのなかのさわがしきなどことつけたまひて やがておほむ-さうじんなれば ずずひき-かくして さまよくもてなしたまへる つきせずなまめかしきおほむ-ありさまにて みすのうちにいりたまひぬ

みきちやうばかりをへだてて みづからきこエたまふ
せんさい-どもこそのこりなくひもときはべりにけれ いとものすさまじきとしなるを こころやりてときしりがほなるも あはれにこそ
とて はしらによりゐたまへるゆふばエ いとめでたし むかしのおほむ-こと-ども かのののみやにたち-わづらひしあけぼのなどを きこエいでたまふ いとものあはれとおぼしたり
みやも かくればとにや すこしなきたまふけはひ いとらうたげにて うち-みじろきたまふほども あさましくやはらかになまめきておはすべかめる みたてまつらぬこそ くちをしけれと むねのうち-つぶるるぞ うたてあるや
すぎにしかた ことにおもひなやむべきこともなくてはべりぬべかりしよのなかにも なほこころから すきずきしきことにつけて ものおもひのたエずもはべりけるかな さるまじきこと-どもの こころぐるしきが あまたはべりしなかに つひにこころもとけず むすぼほれてやみぬること ふたつなむはべる
ひとつは このすぎたまひにしおほむ-ことよ あさましうのみおもひつめてやみたまひにしが ながきよのうれはしきふしとおもひたまへられしを かうまでもつかうまつり ごらんぜらるるをなむ なぐさめにおもうたまへなせど もエしけぶりの むすぼほれたまひけむは なほいぶせうこそおもひたまへらるれ
とて いまひとつはのたまひさしつ
なかごろ みのなきにしづみはべりしほど かたがたにおもひたまへしことは かたはしづつかなひにたり ひむがし-の-ゐんにものするひとの そこはかとなくて こころぐるしうおぼエわたりはべりしも おだしうおもひなりにてはべり こころばエのにくからぬなど われもひともみたまへあきらめて いとこそさはやかなれ
かくたちかへり おほやけのおほむ-うしろみつかうまつるよろこびなどは さしもこころにふかくしまず かやうなるすきがましきかたは しづめがたうのみはべるを おぼろけにおもひしのびたるおほむ-うしろみとは おぼししらせたまふらむや あはれとだにのたまはせずは いかにかひなくはべらむ
とのたまへば むつかしうて おほむ-いらへもなければ
さりや あなこころう
とて ことことにいひまぎらはしたまひつ
いまは いかでのどやかに いけるよのかぎり おもふことのこさず のちのよのつとめもこころにまかせて こもりゐなむとおもひはべるを このよのおもひいでにしつべきふしのはべらぬこそ さすがにくちをしうはべりぬべけれ かならず をさなきひとのはべる おひさきいとまちどほなりや かたじけなくとも なほ このかどひろげさせたまひて はべらずなりなむのちにも かずまへさせたまへ
などきこエたまふ
おほむ-いらへは いとおほどかなるさまに からうしてひとことばかりかすめたまへるけはひ いとなつかしげなるにききつきて しめじめとくるるまでおはす

はかばかしきかたののぞみはさるものにて としのうちゆきかはるときどきのはなもみぢ そらのけしきにつけても こころのゆくこともしはべりにしがな はるのはなのはやし あきのののさかりを とりどりにひとあらそひはべりける その-ころの げにとこころよるばかりあらはなるさだめこそはべらざなれ
もろこしには はるのはなのにしきにしくものなしといひはべめり やまと-ことのはには あきのあはれをとりたてておもへる いづれもときどきにつけてみたまふに めうつりて えこそはなとりのいろをもねをもわきまへはべらね
せばきかきねのうちなりとも そのをりのこころみしるばかり はるのはなのきをもうゑわたし あきのくさをもほりうつして いたづらなるのべのむしをもすませて ひとにごらんぜさせむとおもひたまふるを いづかたにかみ-こころよせはべるべからむ
ときこエたまふに いときこエにくきこととおぼせど むげにたエておほむ-いらへきこエたまはざらむもうたてあれば
まして いかがおもひわきはべらむ げに いつとなきなかに あやしとききしゆふべこそ はかなうきエたまひにしつゆのよすがにも おもひたまへられぬべけれ
と しどけなげにのたまひけつも いとらうたげに えしのびたまはで
きみもさはあはれをかはせひとしれず
わがみにしむるあきのゆふかぜ
しのびがたきをりをりもはべりかし
ときこエたまふに いづこのおほむ-いらへかはあらむ こころえず とおぼしたるみ-けしきなり このついでに えこめたまはで うらみきこエたまふこと-どもあるべし
いますこし ひがこともしたまひつべけれども いとうたてとおぼいたるも ことわりに わがみ-こころも わかわかしうけしからず とおぼしかへして うち-なげきたまへるさまの もの-ふかうなまめかしきも こころづきなうぞおぼしなりぬる
やをらづつひきいりたまひぬるけしきなれば
あさましうも うとませたまひぬるかな まことにこころふかきひとは かくこそあらざなれ よし いまよりは にくませたまふなよ つらからむ
とて わたりたまひぬ
うち-しめりたるおほむ-にほひのとまりたるさへ うとましくおぼさる ひとびと みかうしなどまゐりて
このおほむ-しとねのうつりが いひしらぬものかな
いかでかくとりあつめ やなぎのえだにさかせたるおほむ-ありさまならむ
ゆゆしう
ときこエあへり

たいにわたりたまひて とみにもいりたまはず いたうながめて はしちかうふしたまへり とうろとほくかけて ちかくひとびとさぶらはせたまひて ものがたりなどせさせたまふ
かうあながちなることにむねふたがるくせの なほありけるよ
と わがみながらおぼししらる
これはいとにげなきことなり おそろしうつみふかきかたはおほうまさりけめど いにしへのすきは おもひやりすくなきほどのあやまちに ほとけかみもゆるしたまひけむと おぼしさますも なほ このみちは うしろやすくふかきかたのまさりけるかな
と おぼししられたまふ
にようごは あきのあはれをしりがほにいらへきこエてけるも くやしうはづかしと み-こころひとつにもの-むつかしうて なやましげにさへしたまふを いとすくよかにつれなくて つねよりもおやがりありきたまふ
をむなぎみに
にようごの あきにこころをよせたまへりしもあはれに きみの はるのあけぼのにこころしめたまへるもことわりにこそあれ ときどきにつけたるきくさのはなによせても み-こころとまるばかりのあそびなどしてしがなと おほやけわたくしのいとなみしげきみこそふさはしからね いかでおもふことしてしがなと ただ おほむ-ため